行かないとわからない。人と出会い、五感で感じた西表島の魅力

小さな頃から、自分の知らない土地で生活している人々に興味があった。

海外の秘境に住む人や、山奥の田舎で自給自足のような生活をしている人が登場するテレビ番組を見ながら、言い方は少し悪いが「なんでこんな不便そうな場所に、好んで住んでいるのだろう…」と思っていた。その一方で、私にはわからないその土地ならでは魅力があるのだろうなと興味深くも感じていた。

この「住んでる人にしかわからないであろうその土地の魅力」に少し触れられたと感じたのが、沖縄の八重山諸島の1つ「西表島」での滞在だ。

わずか2日間しか立ち寄らなかった西表島だが、生まれたときからその地域に住む人や、移住してきた人の声を聞いて、旅行者の筆者も西表島に住む人々の気持ちを少しだけ知れたような気がしたのだ。

なぜ、不便そうに見えるこの土地に住むのだろう?

石垣島から南に50km離れた場所にある西表島。イリオモテヤマネコをはじめとした島独自の動植物が住むこの島は、多様な生態系から「東洋のガラパゴス」と呼ばれている。

人口は2,000人を超える程度で島の規模は小さいが、ほかにはない大自然を体感しようと国内外から例年多くの観光客が足を運ぶ。その観光客のなかには、この島に魅了されて移住を決める人も少なくない。

石垣島からフェリーに乗って西表島の大原港に到着すると、ゲストハウス「しまおとや」のオーナーが車で迎えにきてくれていた。オーナーも、もともとはあちこちを飛び回るバックパッカーだったそう。旅を終え、今は夫婦でゲストハウスを運営している。

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引用元:しまおとや

「もともとは旅人だったんだけど、ゲストハウスを始めちゃうともう自由に動けないからね。旅してる人たちが羨ましいよ」と言いながらも、西表島での生活を楽しんでいるような表情が印象的だった。

西表島には、都会ほど一般企業があるわけではない。なので、ゲストハウスの運営や観光ガイドなど、観光客向けの仕事を始める移住者も多い。また、観光客だけでなくリゾートバイトで訪れる人や生態系の調査をしに訪れる大学教授など、さまざまなバックグラウンドの人が集まり長期滞在しているようだ。

正直、この場所に訪れるまで筆者は西表島に対して「離島の中の超離島」「旅行は良いけど住むのは大変そう」というイメージを持っていた。そのため、車がなければ生活が難しい、ショッピングモールもない、夜には動物が飛び出してくる「不便」に見えるこの島を、長期滞在または移住先として選ぶ人が一定数いることが当初は理解できなかった。しかし、その考えは旅を通して変わっていくことになる。

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西表島の人を通して見えた、島の魅力

西表島は主に西と東で大きくエリアが分かれていて、「しまおとや」は西表島東部の大富集落に位置する。小さな集落なので、地域の店主やツアーガイドたちはお互い顔を見知っているようだ。実際に筆者も、宿のオーナーにおすすめのガイドを教えてもらい予約した。

3月のこの時期はちょうど西表島のホタル「ヤエヤマホタル」が見られる時期だったので、ナイトツアーを予約。「地元のおっちゃんと行くナイトツアー」という、少し気になる名前のツアーだ。

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ガイドの小橋川さん / 引用元:西表島 地元のおっちゃんと行くナイトツアー

夜7時になると、「地元のおっちゃん」と名乗るガイドの小橋川さんがゲストハウスまで迎えにきてくれた。西表島で生まれ育った小橋川さんは、この島でしか出会えない動物や植物、景色との出会いを訪れる人に提供している。当日は私しか参加者がいなかったため、ゆっくりと話を聞きながらツアーを楽しむことができた。

街灯のない暗い道を車でどんどん進んでいく。途中、現地の人でもなかなか見かけない亀が道を歩いていたり、

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フクロウが休んでいたりなど、サファリパークかと思うほどいろいろな動物が目の前に現れて、西表島の大自然に圧倒された。

iriomoteshima-07 フクロウ

「さすが西表島、適当に道を歩いているだけで珍しい動物に会えるんだなぁ」と思っていたが、こうした動物との出会いも、小橋川さんが島育ちの勘で、動物のいそうなスポットを一つ一つ巡っているからこそだったようだ。フクロウに出会ったときも「今日は風が強いから、風が当たらないよう木陰に隠れていると思ったんだよ」と言っていて、「地元の人はさすがだ!」と感動したことを覚えている。

ツアー中は、車に乗りながら西表島のいろいろな話を聞かせてもらった。

長期滞在者の中には、冬の時期は西表島でサトウキビの収穫や加工をして、夏になると北海道で昆布漁をするなど、日本中を移動している人が多いこと。都会の喧騒から離れて、動物の鳴き声しか聞こえないこの島に癒しを求める人が多いこと。そして、西表島にしかない「音」がこの島の魅力であること。

車を降りて耳を澄ませてみると、いろいろな動物の鳴き声が聞こえる。筆者は「いろいろな動物」と思ったが、小橋川さんによると、これはすべてカエルの声なんだとか。カエル一つとっても、多くの種類が生息しているらしい。ここでしか聞こえない、「音」にはいつまでも聴きたくなる中毒性があった。

1日に30分ほどしか光らないというホタルにも、ちょうど出会うことができた。小橋川さんが24時間のうちのたったの30分間の時間をなぜドンピシャで当てられたのかはわからないが、きっと西表島に長年住んでいる人だけがわかる、島の温度や空気、風の流れなどを感じとっていたのかもしれない。

言葉でなく五感を通して感じた、島の魅力
iriomoteshima-09 水牛

宿で一夜を過ごし、朝起きると、またいろんな音が聞こえてきた。

風でサトウキビが揺れる音、牛や鳥、カエルの鳴き声。目覚まし時計をかけなくても、その独特な音で自然と心地よく目が覚める。

西表島には音や匂いなど五感を通さなければ得ることのできない多くの魅力があった。身体はリラックスし、鈍っていた神経が研ぎ澄まされていく。それは、インターネットやテレビの情報だけでは伝わってこない良さだった。

「なんでこんな不便そうな場所に人が住むんだろう」と思い訪れた西表島だったが、この場所に住む人は、この島にしかない五感で感じられる豊かさを知っていて、その豊かさのそばで暮らしたいがためにここでの暮らしを選択しているのだろうなと西表島を体感した後の自分はそう思っている。

住んでる人にしかわからないであろう見知らぬ土地の魅力に、少しだけ迫れた、そんな濃厚な2日間の旅だった。

ゲストハウスしまおとや
住所:沖縄県八重山郡竹富町南風見仲
公式HP:https://shimaoto.com/

地元のおっちゃんと行くナイトツアー
公式HP:https://www.iriomote-night-tour.com/
※西表島では令和2年4月から「ガイド免許制度」が導入され、 陸・河川域のツアーガイドに対し免許の取得が義務付けられました。地元のおっちゃんと行くナイトツアーは免許取得事業者です。その他、西表島にて陸・河川域のツアーに参加する際は、免許の取得有無を確認をするようにしましょう。(免許取得事業者一覧

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佐藤 ひより

フリーライター。数時間に1本しか電車が走らない田舎に生まれたこともあり、その反動で都会や海外など外の世界に興味を持つ。大学時代にインドネシア語を学び、それからバリの虜になり今ではよく通うように。海外や日本各地を旅しながらその土地の人の価値観に触れること、美しい自然を見て心が震える体験をすることが好きです。