2023年8月、西アフリカの国ガーナの首都アクラを訪れた。
現地に着き、一息ついてから、近くの海岸を少し歩いてみることにした。波の寄せる音が響く。
足を進めるとすぐに異様な物体が目についた。これまで一度も目にしたことのないような、モンスターにも見える物体。それは鼻を突くような刺激臭を放っていた。砂に足を取られながら、何とかそれに近づいていく。
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それは、洋服や魚網が絡まり合った不気味な塊だった。臭いに耐えながら必死にシャッターを切った。
癒しの空間であるはずのビーチに似つかわしくない物体と臭い。今でも鮮明に思い出せる。異様な光景だった。
ガーナには、先進国から「寄付」されたはずの洋服の墓場がある。
先進国から送られる「廃棄物」
首都アクラ市内には「カンタマント市場」と呼ばれる世界最大級の古着市場がある。現地の人に紹介してもらい、カンタマント市場で古着露店を営む女性に会いに行ってみることにした。
煩わしい客引きを流しながら、エネルギー溢れる市場の中を進む。市場には広さ約2畳ほどのサイズの店が所狭しと並んでいる。
道を進むと、傷の入ったバッグや皺だらけのシャツが目に入る。商品のタグには欧米やアジアで人気のファッションブランドの名前が印刷されていた。
「ここで手に入る先進国の商品は品質が高く、人気があるの。アフリカで手に入る低クオリティな服やバッグを身につけるよりも、多くの人は高品質な古着を好むのよ」と古着露店を営む彼女は語る。
彼女によれば、古着商人は毎日卸売業者から80キロほどの古着の塊を購入し、販売するそうだ。購入する前に中身をチェックすることはできない。古着の塊のうち、良品質のものはわずか30%ほどしかない。あとの30%は品質の劣る商品として販売され、残りの40%は廃棄されるという。
これらの古着は欧米諸国やアジアの国々から輸入されているものだ。「寄付」という名目で送られた服たちがガーナの港に辿り着く。
廃棄される服は近くの埋立地に運ばれる。しかし、埋立地は既に満杯で、不法にごみを海などに捨てる人も少なくないという。また、降雨や洪水によって埋立地の廃棄衣類が水路に流出し、ビーチに流れ着くことも多い。
これらの服は水路をつまらせ、海やビーチを汚し、現地の人たちの生活環境を圧迫する。さらに異物となった服は蚊の発生源ともなっており、「貧困の病」とも呼ばれるマラリアを引き起こしているのだという。
「寄付」という名目で実際には廃棄物をガーナに押し付けていることと変わりない。先進国の「善意の仮面」がこうしてアフリカの一国を圧迫しているのが現状だ。
ファストファッションのサイクルの末端がどこなのか。負債を背負っているのは誰なのか。私はこの旅を通じて痛感した。
五感を使って社会問題を「見る」
社会問題を「知る」ことは簡単だ。インターネットの情報の渦に身を投げ出せば、24時間365日情報にどっぷり浸かることができる。
記事を開き、目を通して、なんとなく頭に情報を詰め込む。でも、体がきちんと理解していない。だからこそ自分ごとになりづらいのではないか、と私は考える。
目で見て、耳で聞き、足で歩き、臭いを嗅ぎ、手で触れる。そうすることで初めて「頭で知っていること」と「体で知っていること」が重なり始める。
ガーナで見た異様な物体。波の寄せる音。足が砂にもつれる感覚。鼻がもげるような刺激臭。
私の体は全て覚えている。
安価な服を買い、すぐに捨てる罪悪感を誤魔化すために寄付をした結果、何が起こるかを頭と体で理解している。だからこそ、今後の自分の行動に責任が持てる。
もちろん、旅の目的は複数あっていい。でも、美味しいレストランを訪れる前、有名な博物館に行く前のたった1時間。ぜひその土地に関連する社会問題を感じに行ってみてほしい。
世界を少しでも良くするために。そして自分が納得感を得るために。
私はこの旅のスタイルを続けていこうと思う。
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本記事ライターは、世界中のローカルなヒトと体験に浸る世界一周旅中。
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