「この国の人たちを幸せにしているのはコーヒーとアルコール、そして自然じゃないかな」
「きのこ狩りは自然と触れ合う文化の象徴とも言えるね」
北欧といえば幸福度ランキングの常連国。そんな国に移住した友人がこんなことを言っていた。
そんなことを言われてしまったら、体験してみるしかない。気づけば私は旅先のスウェーデンできのこ狩りのスケジュールを組んでいた。
きのこ狩りというセラピー
2023年10月。秋が深まり空気がひんやりとし始める季節。
私はスウェーデン第二の都市ヨーテボリを訪れた。
今回この街を訪れたのは他でもない「きのこ狩り」を体験するためだ。
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現地に暮らすスウェーデン人の友人らと合流。30分ほど車を走らせて地元の森にたどり着いた。
10月はスウェーデンにとって冬の始まりの季節。
木々に囲まれて深呼吸をすると、肺がひんやりとした空気で満たされていく。
「今年は夏に雨が降ったおかげで、きのこは豊作らしいから多分見つかると思うよ」と友人は言う。
収穫したきのこを入れるための袋を携えて、いざ森の中へと入っていく。
きのこへの期待を込めた足取りは軽く、ズンズンと足が進む。
注意深く足元を見ながら森の中を歩く。気分はまるで宝探しをしているかのようだ。
しかし、なかなか思うように簡単にきのこは見つからない。
目を皿のようにして探すこと15分、それらしいものを発見した。
友人に呼び寄せて「これは食べられる?」と聞いてみたが、答えはNO。
悲しいが、落ち込んでばかりもいられない。なにしろ今日の夕食がかかっているのだ。
30分ほど経った時、ようやく食べられるきのこが集まっている場所を発見。一つずつ丁寧にきのこを収穫していく。
左手に携えた袋が少しずつ重くなっていくのを感じる。
スーパーでは決して味わえない、なんともいえない満足感が私を包む。
魚を釣る時ともまた違う、穏やかで優しくて、それでいて少し興奮した気持ち。
「きのこ狩りはセラピーみたいなの」
「みんな学校で、採れるきのこの種類を習うんだよ」と友人は微笑む。
携帯の通知やインターホンに邪魔されない穏やかな時間。
例え1ヶ月に1度でも、簡単にこんな体験ができるなら体も心も満たされるだろうなと感じた。
自然を分かち合うための「自然享受権」
ところで、なぜ自分の土地ではない森に立ち入ってきのこを収穫することが許されているのか?
実は北欧には「自然享受権」という考え方が存在する。土地の所有者に損害を与えず、敬意を持って行動するのであれば、全ての人が土地に立ち入って自然環境を享受することができるという考え方だ。
きのこ狩りもこれに該当するため、人々は好きなように森に立ち入ってきのこを収穫して帰ることが許されている。
なんとキャンプも無料で自由に行うことが可能なのだとか。
大切な自然を国民みんなで分け合うという意識がよくあらわれている、北欧ならではの考え方だ。
「フィーカしなきゃ!」
夕方5時。きのこ狩りに明け暮れ、気づけば日がすっかり傾いていた。
どっさり採れたきのこを手に帰宅しようと駐車場に向かっていると、友人らがこんなことを言い始めた。
「ちょっと暗いけどまだ遅くないよ。フィーカしなきゃ!」
ちなみにフィーカとは「甘いものを食べながらコーヒーを飲むという、スウェーデン人の習慣」のことを指す。
もちろんコーヒーブレイクなら日本にも存在する文化だ。しかし私が驚いたのは、「現代の若者」が「まるで義務かのように」この文化を取り扱っている点だった。
湖のほとりのテーブルに着くやいなや、友人らがテキパキとリュックからポットとコップ、そしてシナモンロールを取り出す。あまりに手慣れた様子から、フィーカは「特別な日のもの」ではなく「日常の一部」であると感じ取ることができた。
みんなで談笑しながら肌寒い森の中で味わう熱々のコーヒーとシナモンロールは格別だった。
大絶品のきのこ料理
さて、狩られたきのこはどのようにしてスウェーデン人の胃袋に収まるのか。
友人の家できのこの家庭料理を見学させてもらうことにした。
まずは大量に採れたきのこの汚れを落とす作業から。実はきのこは洗うと風味や栄養が落ちてしまうらしく、土などの汚れも全てブラシなどで取り除くのだ。なかなか骨の折れる作業だ。
そして準備ができたら、温めたフライパンにきのこを投入。バターとみじん切りにしたエシャロット(友人はバナナオニオンと呼んでいた)、生クリームを加え、しばらく煮詰める。
バターをたっぷり塗ったパンにきのこをのせ、パセリをかければ完成だ。パンに乗せるだけでなく、パスタのソースとして使うのも人気があるという。
夕飯はもちろんビールと一緒に。自分で収穫したきのこはこれまでで一番美味しい味がした。
1日でコーヒー、アルコール、そして自然と北欧の人たちを幸せにしている3大要素を摂取した私は、とても幸せな気持ちで眠りについた。
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本記事ライターは、世界中のローカルなヒトと体験に浸る世界一周旅中。
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Ray
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