異世界のようでどこか懐かしい秘境、ブータン

パロのお祭り

空港から一歩出ると、少しひんやりとした澄んだ空気が私を包んだ。太陽の優しい日差しのおかげで、寒さは感じない。まずは深く深呼吸をしてみる。

私が直近3週間滞在していたのは、大気汚染が酷いと言われるインド。肺いっぱいに澄んだ空気を取り入れるのは久しぶりだった。

「ブータンへようこそ」

ガイドの男性に話しかけられ、自分が憧れの国に来たことを改めて実感した。

年に1回のお祭り「パロ・ツェチュ」

空港から車に乗ること15分、街中の人で賑わうお寺の門の前にたどり着いた。どうやら、お寺の本堂までは少し歩いて向かうらしい。

ガイドのイェシェさんが「今日は年に一回のお祭りなんですよ」と教えてくれた。

お祭りと言っても騒がしく人が溢れる雰囲気ではなく、どこかのんびりとしている。

少し道を歩くと、水の透き通った綺麗な川のせせらぎや、鳥の鳴き声が耳に入ってくる。まるで絵に描いたような心地よい春の日だ。
道行く人々は老若男女問わず、ブータンの伝統衣装に身を包んでいる。襟元などの作りは和服と似た部分もあるように見えた。

本堂と見られる場所にたどり着くと、そこにはたくさんの人が集まっていた。人々が注目しているのは、本堂前で行われている伝統的な踊りだ。

器楽隊の演奏に合わせて、踊り手たちが華麗に舞う。踊りといってもその動きはゆったりとしていて、どこか地に足のついた感じがしていた。また、音楽もどっしりとした太鼓や軽やかな鈴の音など、日本でも聴き馴染みのある楽器たちの音色が耳に心地よかった。

踊りを観た後、近くのエリアを少し散歩してみる。地元の人たちはどうやら家からごはんを持ち込んで、ピクニックスタイルで家族団らんを楽しんでいるらしい。暖かな陽の光の中、芝生にシートを広げ、大家族で楽しくご飯を食べる。満面の笑みでピクニックを楽しんでいるご家族に写真を撮っていいかと尋ねると、快諾してくれた。ブータン流の祭りや休日の楽しみ方を垣間見た。

パロのお祭りを楽しむ人々
タクツァン僧院への険しい登山道

次の日、朝早くに起きてガイドと一緒に向かったのは有名なタクツァン僧院(タイガーネスト)。まだひんやりと寒い空気の中、数時間かかる登山道を歩き始めた。

「登山で大事なのは歩き続けることです。止まって休憩してしまうと疲れを感じやすくなります。ゆっくりでもいいから歩き続けましょう。老人のように登り、若者のように降りるのが理想です」

ガイドの言葉に従い、ゆっくりと、でも確実に一歩ずつ足を進める。天気はあいにくの小雨と曇り。でも、深く息を吸えば、透き通った空気と緑の青々とした匂いで肺が満たされる。気持ちがいい。

山道を登ること1時間半。足を進めていると自然と息切れが激しくなってくる。パロは、市街地でもすでに標高2500mを超える場所だ。目的地のタイガーネストに近づくと、その標高は3000m近くなる。

「はぁ、はぁ…苦しい…全然息が吸えない…もうあと5mでも進んだら肺と心臓が爆発するんじゃないか…」

信じられないほど胸が苦しい。でも目の前に見えるのは長く続く階段。とにかく深く考えず少しずつ足を進めていく。
やっとの思いで登った階段の先に見えたのは、断崖絶壁に位置する建物。それがタクツァン僧院だった。

タクツァン僧院

タクツァン僧院は、空から虎に乗った聖人が降り立ったとされる場所に建てられた寺院だ。本当にその話を信じたくなるほど、人里から離れた断崖絶壁にその寺院は位置していた。私は熱心な仏教徒ではないが、それでもタクツァン僧院はとても神聖で荘厳な場所に感じられた。

「やっと、ここまで来ることができた…」
正直、僧院の中でのことはあまり鮮明には記憶していない。
私の中では何よりも険しく苦しい山道を登り切った達成感がとても大きかった。

ご褒美のブータン流お風呂

古民家宿へ戻ると、登山で疲れ果てた私たちを待っていたのは「ブータン流のお風呂」だった。

「疲れていると思って、予約時間より早めに準備したわよ。思う存分入りなさい!」
古民家を取り仕切るおばちゃんが言う。

小雨が降りしきる中での登山。私の体はすっかり冷え切っていた。
おばちゃんの細やかな配慮が本当にありがたかった。

ブータンのお風呂は、水で満たされた浴槽に熱した石を加えて温めるスタイルだ。
石を入れる部分は壁で仕切られているため、水着ではなく全裸で浴槽に入ることができる。

ブータン流お風呂

石や水が必要なら壁をノックするのがブータン流だ。自分好みの温度に調整できるのはありがたい。

このお風呂は冷え切った身体をすっかり温めてくれた。ポカポカした気持ちと身体のまま、その晩はぐっすり眠りについた。

ブータンを旅することは、他の国に行くことと比べると少し難しい。観光業は政府によって管理されているため、観光客は必ず旅行代理店を通じてガイドとドライバーをつけなければならない。宿泊先を管理するのも代理店であり、さらに全ての旅程は政府に提出される。当然のことながら、とてもお金がかかる。

でも、それだけ熱心に観光業を管理しているおかげで、ブータンの自然はとても綺麗に保全されている。美しい里山の風景、優しい人々。あなたもブータンに行ったなら、異国ながらにどこか懐かしさを感じられる素晴らしい旅ができるだろう。

本記事ライターは、世界中のローカルなヒトと体験に浸る世界一周旅中。
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Ray

世界のヒトを深く知れば、きっとちょっぴり世界に優しくなれるはず。そんな考えから、世界中のローカルなヒトと体験に浸る旅に出発。デンマークや逗子葉山でワークとライフのバランスを探った経験あり。ヒトと同じくらいネコが好き。