“エモい”旅がわたしをつなげる。四国が舞台のノスタルジック紀行

心が揺さぶられ、日々のなかで無意識に抑圧していた、切なさや恋しさが湧いてくるような、いわゆる“エモい”旅をしたくなることがある。

筆者の場合、その感情は、心の引き出しの奥にしまっていた過去のできごとを、ふと何かの拍子に思い出すことが誘因となって湧いてくる。少しノスタルジックで、ほろ苦いような甘いような感覚。

わたしが人生ではじめて四国を訪れたのは、大学3年生のときだった。瀬戸内しまなみ海道にある「しまなみ海道サイクリングロード」を数日かけて自転車でわたり切り、達成感とほんの少しの切なさを抱えて、のどかな港町をてくてくと歩いた。初めての土地なのに、とても懐かしい気持ちに包まれたのを今でも覚えている。夕日が暮れるまでに東京に帰らないといけなかったため、たった数時間の四国の滞在となってしまったことを後悔したものだ。

それからというものの、社会人となって東京の満員電車に毎日揺られ、コロナ禍で旅とは無縁になる期間を過ごし、四国への再訪のチャンスを掴みきれないでいた。そんななか、好きな写真家さん(岩倉しおりさん)が香川県在住で、彼女が切り取る写真たちの大半が四国を舞台にしていることを知ったり、友人知人が四国をじっくり旅してみることをおすすめしてくれたこともあり、次の旅こそは、四国の自然がのどかな場所に滞在しながら、いろいろな場所を巡ってみようと思うようになった。

といっても、四国は広い。愛媛、徳島、香川、高知の4県で成り立つ四国。それぞれ独特の自然の魅力に満ちていて、独自の文化や伝統が根付く。香川県は瀬戸内海に面し、穏やかな海と緑豊かな島々の景色が広がる。しまなみ海道で以前おとずれた愛媛県は四国山地が広がる山がちなエリアで、道後温泉など歴史ある温泉地がいくつもある。太平洋に面する高知県は、迫力のある波、海岸線からみるサンセットや渓谷が魅力。「生見海岸」という世界大会が行われるビーチもあり、日本各地からサーファーが集まるのだそう。そして、この春から1ヶ月間ほど滞在している徳島県は、剣山や四国山地、吉野川が美しい地域で、日本三大秘境の祖谷渓谷、鳴門(なると)、阿波踊りが有名だ。

少しノスタルジックで、エモーショナルな四国の旅。おすすめどころを本記事にてご案内いたします。

なんだか切ない父母が浜のマジックアワー

父母が浜

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せわしなく日々を過ごしていると、心の真っ白なキャンバスに、赤、黄、青、緑、黒、白、彩りさまざまな絵の具が散りばめられていく錯覚におちいることがある。喜び、悲しみ、怒り、恐れ、嫉妬。あらゆるノイズと共存しているからこそ、いったんすべてをゼロにリセットできるような、そんな瞬間を欲している自分がいる。

日本のウユニ塩湖とよばれる「父母が浜」には、心に染みついた絵の具たちを洗い流せるような光景が広がっている。香川県三豊市にある父母が浜は、水面に映り込むシルエットが鏡のように反射するため、瀬戸内の天空の鏡と呼ばれるのだとか。

日の入り前後のマジックアワーの父母が浜には、波間にただよう夕やけの彩り、遥か彼方に広がる地平線、真っ赤な夕日で染まる空を見渡せる。フィルムカメラのシャッターをぱちりと切りたくなるような、思わず切なくなる光景だ。

ちなみにビーチのすぐ目の前には絶品のハンバーガーとドーナツ屋さんもある。おひとりさまでも、大切な誰かとでも、おいしいものを少しずつ頬張りながら、父母が浜の魔法にかけられてほしい。

激流・吉野川で冒険してみる?

ラフティング 三好

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大人だって、無邪気に冒険へ繰り出したくなるときがある。
平凡な日常から抜け出し、ドキドキとわくわくを噛み締めながら、新しい体験と出会いに遭遇して、未知を既知へと変えていく非日常は魅力的だ。

徳島県三好市にある大歩危小歩危エリアは、日本一の激流・難所とされている。透明度の高い清流と手付かずの大自然がひろがり、世界中からカヌー、ラフティング愛好家が訪れる。そして、このエリアは世界でも珍しく、水量が一年を通して変わらない。そのため、どの季節にきても一期一会の自然の変化を楽しみながら、ラフティングに没頭することができるのだとか。

「わっしょーい!」
ガイドのお兄さんたちと協力しながら、迫りくる激流を突き進んでいくこの達成感は一生もの。激しくも美しい大自然のなか、透き通った川の底にみえる岩肌、清流のせせらぎと水しぶきに癒されながら冒険魂を燃やすこの瞬間はたまらない。

ちなみに、この大歩危にある岩石は結晶片岩とよばれる2億年から1億年前に深い海の底で生まれた、日本の天然記念物。数億年という気の遠くなる歳月でつくられた地球のアートを堪能しながら、吉野川の激流に挑んでみてはいかがだろうか。

一生ものの、こんぴら参りへ

Kotohira Shrine

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四国の至るところで、「お遍路さん」として知られる巡礼者たちが、遍路笠をかぶり金剛杖をつきながら歩く姿をちらほらと見かける。お遍路とは、四国の讃岐(香川県)、阿波(徳島県)、土佐(高知県)、伊予(愛媛県)にある、弘法大師(空海)ゆかりの88ヶ所の霊場を訪ねる旅だ。全てを巡ると約1400キロメートルにもなる長い道のりだそう。しかし、四国には霊場のみならず歴史ある素敵な社寺がたくさんある。
香川県、琴平町。レトロな情緒あふれるまちの中に、こんぴらさん(金刀比羅宮)はある。御本宮まで785段、奥社までは1,368段と長くつづく石段の参道が有名で、年間約300万人もの人が「こんぴら参り」に訪れるそう。

時をさかのぼって、舞台は江戸時代。庶民は旅行を禁じられていたものの、社寺へ参拝にいく旅は唯一許されていた。その中でも、三重の伊勢神宮、京都六条の東西本願寺、そして金刀比羅宮への参拝の旅は、人生の一大イベントとして庶民の憧れだったそう。なかには、飼い主の代わりに参拝する犬「こんぴらいぬ」もいて、飼い主の名前を記した木札、初穂料、旅路中の食費などをいれた袋を首から下げ、こんぴら参りに来ていたのだとか。

そして、現代のこんぴらさんの境内、石段500段目には、なんと資生堂パーラーの「神椿レストラン/カフェ」がある。香川県うまれのおいしい食材をふんだんに使い、金刀比羅宮の森が見渡せるオープンテラスで食べるパフェは絶品である。

参拝前にお腹をみたしてひと呼吸。静寂な森のなかにつづく石畳の階段をゆっくりとのぼり、奥社までの1368段、最後の一段まで登りきると、息を呑むほどの絶景が。晴天だったので瀬戸大橋まで見渡せる、四国屈指の絶景スポットだ。

そして、こんぴら参りで汗を流した後は、温泉とサウナで整うのがおすすめ。こんぴらさんのある琴平町にもいくつか温泉旅館があるのですが、車で15分ほど走らせると「琴弾廻廊」という海を臨む絶景温泉に浸ることができます。サウナの種類も豊富なので、こんぴらさんとあわせてぜひ立ち寄っていただきたい。

電車を降りたら絶景、海のそばにたたずむ無人駅

出典:海の見える駅│下灘駅

愛媛県伊予市。松山駅から普通列車におよそ1時間揺られると、海の見える駅「下灘駅」にたどり着く。かつては「日本で一番海に近い駅」として有名で、数々の映画やドラマのロケにも使われたそう。ジブリ映画「千と千尋の神隠し」の終盤、千尋とカオナシが乗る電車からの風景にそっくり。

無人駅のため、ホームには上屋とベンチのみ。日中には群青、たそがれ時には茜色に染まる空と瀬戸内海の光景が広がる。手段として使われる電車とホームを目的地にするのも、ときにはいい。

くれぐれも、絶景に見惚れて帰りの切符を買い忘れないように。

仁淀ブルーに恋して

出典:高知県 仁淀川町観光協会│仁淀川アウトドアセンター

愛媛県にそびえる西日本最高峰・石鎚山から高知県の仁淀エリアを流れて太平洋へ続く仁淀川は、全国一級河川の水質ランキングで「水質が最も良好な河川」として何度も抜擢され、日本一きれいな水の川といわれる。

この清流の美しい青色は「仁淀ブルー」と呼ばれるのだが、澄みきった水面に太陽の光がきらきらと輝き、移りゆく空の色が入り混じる光景はまるで宝石のよう。季節や場所によって藻類の生育や光の加減が変化するため、訪れるたびに違う表情をみることができる。

また、仁淀川流域にある石は、赤、青、緑、紫、茶、黒、白など本当にカラフル!こうした美しい色合いの石も仁淀川の美しさを彩る要素のひとつとなっているそう。

広い川なので、友人たちとわいわいキャンプや川遊びをしたり、夜には星空を仰いでみるのもおすすめ。

美しい景色は、確かに“映え”る。ただ映える以上に、脳裏に焼き付いて離れないその光景は、心の奥底に、自然や地域、その場にいた自分自身に対する恋しさや愛おしさを残すように思う。そんな感覚を自分に残しに、四国までノスタルジック旅に訪れてみては?

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鷹永愛美

神奈川県横浜市出身。日々旅にして、旅をすみかとするデジタルノマド。わたしはどこから来たのか、わたしは何者か、わたしはどこへ行くのか探究中のスナフキン系女子です。文章やデザインを創りながら、世界の片隅で読書、バイク、チェス、格闘技に明け暮れている今日この頃。旅暮らしの様子はこちらから。