滋賀県大津市、登録有形文化財の町家ゲストハウス「粋世大津」でタイムトリップする旅

粋世大津

滋賀県大津市は、1350年前、天智天皇により遷都された古都であり、日本最大の湖びわ湖に沿うように南北に広がる、豊かな自然と歴史のある町だ。

そんな大津市に、昭和8年に建てられた米穀商の建物を改修し、ゲストハウスとして旅人を迎える「粋世大津(いなせおおつ)」という宿がある。東海道最後の宿場町である大津宿の一角にひっそりとたたずんでいたこの町家は、取り壊される計画もあったものの、歴史的建造物として保存し次世代につなぐべく、宿として生まれ変わった。

床、壁、天井、外壁に至るまですべて自然素材で出来ており、建築当時と同じ材料を使って改修されている。2017年には登録有形文化財に指定された。

この日、筆者が「粋世大津」に着いたのは日没直前。一日の最後の明るさが残る空と、町家に灯るあたたかな光のコントラストに迎えられ、初めて訪れる場所だけれどもほっとする。

受付をすませ、スタッフの方から宿の説明を受け、今日泊まる部屋「晩鐘」に案内してもらう。宿の玄関から部屋に向かう途中、廊下の高い天井、太い梁、扉や棚、装飾など至る所に昭和初期が感じられ、早くもタイムトリップ気分を味わった。

歴史を感じる廊下

部屋の手前に広がる箱庭。直前まで降っていた雨に濡れた木々や岩、灯篭や筧が美しい。私はどこへ来たんだろう?という非日常感が高まる。

中庭

本日のお部屋「晩鐘」は離れになっていて、和室のリビングスペースと洋室の寝室、広めの専用風呂、洗面所、お手洗いがあり、4名まで泊まれる。和室のちゃぶ台と座椅子で、お茶を入れてほっと一息。持参した本を読んだり、旅の感想を日記に書いたり、静かに過ごすのに最適な空間。

和室

翌朝、箱庭を眺める和室で、和定食の朝食を頂き、身支度をして名残惜しくもチェックアウト。

昨夜出迎えてくれたスタッフの方に笑顔で送り出され、宿から徒歩10分のびわ湖へ向かう。この日は日曜日、宿とびわ湖の途中にある「びわ湖浜大津駅」では、現地の野菜や加工食品、お土産などを販売する「浜大津こだわり朝市」が開催中で賑わっていた。

港には、びわ湖クルーズ船「ミシガン号」が停泊中。湖畔のカフェに入り、しばし青空と湖と白く輝くミシガン号を眺める。カフェ横に隣接するのは「ビワイチサイクルステーション」。(ビワイチとは、1周約200kmのびわ湖を巡るサイクリングコースのこと)

レンタサイクルステーション

今回は1泊2日であまり長く滞在できなかったが、次回訪れる際は、ミシガン号でのクルーズや、ビワイチでのサイクリングも楽しめるといいな、と次への想いを抱きつつ、大津を後にした。

今回滞在した「粋世大津」は、大津市では初となる、古い町家を改修した宿である。歴史ある町にふさわしいこの建物を宿にすることになったきっかけや、維持することのご苦労など、宿の奥村さんにお話を伺った。

Q:登録有形文化財の町屋を宿にしようと思ったのには、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

滋賀県大津市には、びわ湖や社寺仏閣、老舗の和菓子店など優れた地域資源があるにも関わらず、地域の良さが(外国人を含め)観光客に認知されていない状況があります。また、江戸時代東海道五十三次の宿場町として栄えた「大津百町」の伝統的な町家がどんどん失われていくという状況もありました。

そこで、粋世を開業する動機として、伝統的な大津町家の保全と利活用および外国人観光客を大津に呼び込み、地域の活性化を目指したいと考えました。そして、その解決策として、地域に密着したゲストハウスを運営することにしました。

大津町家のリノベーションにより家庭的な雰囲気の中、大津のまちなかに長時間滞在できる宿泊施設を計画しました。見て、触れることのできる文化財として、粋世での滞在自体が豊かな文化体験となるよう企画運営しています。

Q : 登録有形文化財の町屋を宿として運営する大変さや魅力には、どのようなことがありますか?

リノベーションの方針として可能な限り当時の姿を残しているため、通常のホテルと比べると音が響きやすい事や冬の寒さ等、古民家であるが故の不便さをお客様に指摘される事が多くオープン当初は大変でした。(これらは事前にお客様に周知する事によって対応し改善しています。)

次世代にこの美しい町家を引き継ぐ橋渡しとなっている事に宿として利活用し運営する意義を感じています。

Q : 大津の町で、特に残したい風景や風土、生活の景色などはありますか?

最初に述べたような、江戸時代東海道五十三次の宿場町として栄えた「大津百町」の伝統的な町家ですね。

Q : おすすめの滞在方法がありましたら教えてください。

コミュニティスペースでゆっくりお庭を眺めながらコーヒーを飲みぼーっとする、など、くつろいで頂ければと思います。宿の外であれば、徒歩 5 分強の大津港でレンタサイクルを借り、びわ湖岸のサイクリングを楽しんでいただくのもおすすめです。


大津を訪れる際は、悠久の歴史に思いを馳せ、その思いを抱いたまま、歴史を感じさせてくれるゲストハウスで静かに過ごしてみてはいかがだろうか。

粋世大津
住所:滋賀県大津市長等三丁目3-33
HP:https://www.inaseotsu.com/
各種予約サイト:

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和田麻美子

趣味のハイキングを通じ、限られたモノや環境下で最大に楽しむこと、極力ごみを出さないように暮らすことを意識するようになり、Own less, waste less, enjoy more を心がける日々。旅先でハイキングをする山旅、ライブを楽しむ音楽旅を好む。