時を感じる宿に泊まろう。伝統建築旅館情報サイト「ときやど」が手書きスケッチでおすすめする温泉旅館5選

日々疲れた体を癒しに、温泉へ。たまには贅沢して旅館にでも。

──昔から日本には、温泉文化が強く根付いています。それは旅館文化とともに、独特の文化として世界から注目を集めています。そして全国に数えきれないほどある温泉旅館の一部は、温泉文化の雰囲気に加えて伝統的な建築技術を今に伝える貴重な文化財でもあります。

そのような素晴らしい旅館が日本各地にあることは、意外に知られていません。
今回は全国の旅館から、温泉文化、旅館文化、建築文化が同時に感じられるところを数か所選んで、ご紹介します。

いにしえの雰囲気を色濃く残す伝統の温泉旅館に、出かけてみませんか。

筆者プロフィール: 吉宮 晴紀(よしみやはるき)


ときやどデータベース共同運営者、企画者。
平成11年神戸生まれ、小田原育ち。小さなころから日本中を旅行し、これまで400泊以上を宿で過ごしてきた。両親の影響で伝統建築に興味を持ち、特にじっくりと観察ができる宿泊施設に強い興味を持つ。

自ら宿泊して周る傍ら、数年間描き続けている旅館のスケッチが注目を集め、2023年10月に学芸出版社より、独特の視点で描かれたスケッチで宿建築の価値を再発見するガイドブック「一度は泊まりたい 宿建築を徹底解剖──。(仮称)」を出版する予定。Twitterアカウント「建築学生の呟き」にて発信を続けている。

伝統温泉旅館情報サイト「ときやどデータベース」について
千葉大学大学院建築学コース設備環境系研究室の吉宮晴紀、門上正樹の2人が運営する、伝統旅館やクラシックホテルを紹介する情報サイト。日本古来の美しい伝統建築を後世に伝え、コロナ禍での打撃を受けた観光業を支援したいという思いから、魅力的な宿を紹介するサイトをスタート。主に日本全国の宿マップ、各旅館の紹介記事、伝統建築に関する用語集などから構成されている。
酸ヶ湯温泉(すかゆおんせん)

日本一の積雪量を誇る場所として知られる、青森県の酸ヶ湯。
大正時代に造られたという建物が10棟ほど連なり、日本では一番大きい木造旅館のひとつ。旅館部と湯治部を合わせて約130もの客室がありますが、体育館のような総ヒバ造建築「千人風呂」はなんと160畳もの広さがあり、ゆったりと強酸性のお湯を楽しむことができます。


ちなみに江戸時代の開湯当初は「鹿湯(しかゆ)」と称したといいます。青森弁で発音すると、「すかゆ」。歴史のある温泉旅館は、名前一つとっても面白いですね。迷路のような館内を散歩しながら風呂に通いつめる、日本の湯治文化をそのまま体感してみませんか?

住所 〒030-0197 青森県青森市荒川南荒川山国有林酸湯沢50番地
電話番号 017-738-6400
アクセス <電車・バス>
青森駅下車 東口→酸ヶ湯温泉前/JRバスで約1時間10分
新青森駅下車 東口→酸ヶ湯温泉前/JRバスで約1時間20分
十和田湖休屋→酸ヶ湯温泉前/JRバスで約1時間30分
URL https://sukayu.jp/
詳細・口コミ https://www.jalan.net/yad397533/
北温泉旅館(きたおんせんりょかん)

栃木県那須高原の山あいでひっそりと湯気を立てる北温泉。そこに一軒だけ、その名も「北温泉旅館」があります。一般車の通れる道路はなく、少し離れた駐車場から歩いていくしかなく、携帯の電波も届きません。あたり一面の自然に囲まれ、人工物に囲まれた現代社会とはまるで切り離された、素晴らしい世界です。映画「テルマエ・ロマエ」のロケにも使用された「天狗の湯」や大温泉プールなど、数々のお風呂はすべてかけ流し。

そして江戸時代に建てられた「安政棟」を始め明治、大正、昭和と増築を重ねてきた館内は、さながら温泉建築の博物館です。
ちなみにこちらは宿泊した際にスケッチした、江戸時代築の松の棟の客間の見取り図。

自炊後に時間が空いたので、そのあと風呂に入る前に急いで仕上げたもの。気持ちの良い温泉に浸かり過ぎてふやけた手で絵を描くのは、実はとても難しい。外は真っ暗で何の音もしない世界が広がり、室内は電球がポツっと灯された暗めの風景を想像してほしい。

住所 〒325-0301 栃木県那須郡那須町湯本151
電話番号 0287-76-2008
アクセス <JR>那須塩原駅・黒磯駅下車、関東バスで北湯入口下車 徒歩40分。
<マイカー>東北道那須ICより30分
URL http://www.kitaonsen.com/mokuj.htm
詳細・口コミ https://www.jalan.net/yad350152/
塔ノ沢温泉 一の湯(とうのさわおんせん いちのゆ)


神奈川県箱根湯本から少し山あいに進んだところにある、塔ノ沢。国道1号線をはさむようにして、木造高層建築の旅館が建っています。中でも少し廉価な値段設定で親しみやすい旅館が、「一の湯」。明治初期に建てられ何度も増築と改装をかさねて現代に適応した雰囲気は、若者や外国人も多く呼び寄せます。

一の湯で特筆すべきは、建物の構造です。館内を歩いていても、不思議なところがたくさん見えてきます。例えば3階では、中庭というべき場所をふさぐ、真ん中のへこんだ屋根。廊下よりなぜか1mくらい高いところにあって、階段のついている扉。これらはすべて、増築の歴史から来ています。

大正11年に造られた4階大広間は、元からあった木造3層建築と土蔵をまたぐように建てられています。まったく構造の異なる建物同士をつないだため床の高さは全く違います。そのせいで不思議な穴埋めできない空間も生まれたのでしょう。全国に10数軒ある木造4階建ての旅館の中でも、複数の建物を合成して最終的に4層となったものは、ほとんど類を見ないため、実は非常に興味深い建築です。

住所 〒250-0315 神奈川県足柄下郡箱根町塔ノ沢90
電話番号 0460-85-53341
アクセス <JR>
東京~小田原(新幹線)40分 大阪~小田原(新幹線)3時間14分
          
<小田急>
新宿~箱根湯本(ロマンスカー)90分 小田原~箱根湯本(箱根登山鉄道)15分
 
<バス>
箱根湯本~上塔ノ沢5分(バス下車徒歩1分)
<マイカー>
・東京方面より
東名高速厚木ICより小田原厚木道路経由、箱根口ICから4km
・名古屋方面より
東名高速御殿場ICより乙女峠経由、箱根塔ノ沢まで約1時間。
URL https://www.ichinoyu.co.jp/honkan/
詳細・口コミ https://www.jalan.net/yad350152/
天見温泉 南天苑(あまみおんせん なんてんえん)


大阪府南部、河内長野市の山あいにある天見温泉「南天苑」。設計者は、なんと東京駅や日本銀行本店と同じ建築家の、辰野金吾。もと堺の浜寺公園にあった公衆浴場の一部で、昭和10年に移築してきたそうです。日本建築の近代化を率いる人物による設計の和風建築は珍しく、南海高野線の沿線開発による移築で偶然に戦争をくぐり抜け、いまもその姿をとどめています。

戦中の休業期間があったことも災いして移築前の建築の記録は多くありませんが、公式HPには南海電鉄に保管されていたという絵図が載っています。それによると、現在の大広間に当たる部分には玉突場、つまりビリヤード場があったそう。転用された建築は、それぞれの部屋に面白いストーリーがあります。この絵図を見ながら、館内を歩いて周るのも面白そうですね。

住所 〒586-0062 大阪府河内長野市天見158
電話番号 0721-68-8081
アクセス <電車>
JR大阪駅乗換~南海高野線難波~天見駅下車すぐ
<車>
・大阪方面:
車以外/南海高野線難波駅~天見駅下車すぐ
車/近畿自動車道もしくは阪和自動車道~美原IC~R309~R170~R371~出合いの辻交差点左折~天見駅左下すぐ
・東京方面:
車以外/JR大阪駅乗換~南海高野線難波~天見駅下車すぐ
車/東名自動車道から名阪自動車道~美原IC~R309~R170~R371~出合いの辻交差点左折~天見駅左下すぐ
               
URL http://www.e-oyu.com/
詳細・口コミ https://www.jalan.net/yad350152/
日奈久温泉 金波楼(ひなぐおんせん きんぱろう)


熊本県八代市の南部にある日奈久温泉。中でも「金波楼」は、明治末期の姿を今に伝える貴重な高級旅館です。和風建築でありながら、ところどころに建設当時らしい洋風意匠が。広々とした玄関を入ると目に入る階段も、洋館によくみられる形状の手摺がついています。


当時の洋風志向を良く残している館内ですが、やはりたくさんの改造を経てきた痕跡も見られます。例えば、館内にもかかわらず欄干が残っていたり、部屋番号が飛んでいたり。それらはすべて手を加えながら大切にされてきた、長い歴史のある建築の醍醐味なのでしょう。こちらは食事も非常に印象的なのですが、私の下手な味覚で表現せずに、皆さんに直接味わっていただきたいと思います。

住所 〒869-5134 熊本県八代市日奈久上西町336-3
電話番号 0965-38-0611
アクセス 九州自動車道・日奈久ICより2分。肥薩おれんじ鉄道・日奈久駅より徒歩12分
URL http://www.kinparo.jp/
詳細・口コミ https://www.jalan.net/yad300259/
最後に

今回は伝統建築の温泉旅館として、全国から5か所を紹介しました。
伝統や歴史は、温泉旅館のさまざまなところに現れています。温泉文化と伝統的な建築の素晴らしさ、面白さを再発見し、その場所を実際に訪れることでその世界をのぞいてみませんか。

【参照サイト】ときやどデータベース

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ときやどデータベース共同運営者、企画者。 平成11年神戸生まれ、小田原育ち。小さなころから日本中を旅行し、これまで400泊以上を宿で過ごしてきた。両親の影響で伝統建築に興味を持ち、特にじっくりと観察ができる宿泊施設に強い興味を持つ。自ら宿泊して周る傍ら、数年間描き続けている旅館のスケッチが注目を集め、来年秋ごろ出版する予定。Twitterアカウント「建築学生の呟き」にて発信を続けている。