ギリシャの小さな港町でファームステイをしてみたら

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鶏の鳴き声で目を覚ます。
少ししっとりとした空気の中、馬のウーフォが早くも朝ごはんを探しに駆ける音が聞こえる。

ログハウスのような家の木製の窓を開けると、遠くまで波のない凪いだ地中海。
ここはバルカン半島の最南端の町。旅先での一日が始まる。

人の暮らしに魅せられるとその生活にダイブしてみたくなる。そこに生きている人の何でもない日常を自分の非日常に潜らせたくなるのだ。

そんな私が好んでする旅のスタイルが「ファームステイ」。ファームステイとは農場主の自宅にホームステイしながら、家畜の世話や農作物の収穫作業などを手伝う旅のスタイルや滞在方法のこと。日本においては「農泊」という言葉で調べると、多くの情報が出てくる。

ファームステイの魅力は、落ち着いた地方の土地のライフスタイルや文化に浸れること。
ゆったりとした時間のなか、自然と繋がる感覚を自分に還すこともできるのもいい。

「今日のごはん?そこのチャード(ビビットな色が美しいほうれん草のような葉野菜)どんだけでも持っていっていいよ。そういえば今夜は収穫のお祝いだから、後でパブにおいで」

なんてステイ先のホストとの会話から、ローカルのコミュニティでの出逢いを楽しむこともある。ただの働き手としてだけでなく、家族のようなソーシャルな繋がりをも満たしてくれるのがこの旅の好きなところでもある。

10月下旬のカラッと晴れた日、訪れたのはギリシャの小さな港町、エレア。

エレア

町から車で15分ほどの家族経営のオリーブ農園にファームステイをするため、ホストのバーバラおばさんとの待ち合わせ場所に向かった。

これが4度目のファームステイだが、やはり初めてホストと会う時は、どんな人だろう、どんな生活が待っているのだろう、と期待と不安の混ざった想像をたくさんする。

バス停で待つこと数十分、遠くからマニュアル車のクラクションを鳴らしながら、颯爽と彼女はやって来た。

自己紹介を交えながらファームまで向かっていると、おもむろに「歌は好き?」と聞かれる。どうやら毎週末、ご近所さんと音楽をする日というのがあるらしく、私がお邪魔したのはまさにその日だったのだ。彼女は、農家で、母で、音楽家で、ピアニストだった。

バーバラ

夜になると、1人、また1人と、ワインや茹で栗、ギターを片手にぽつぽつと人々がバーバラ宅のドアを鳴らした。彼女とパートナーのロベルトが手作りした石造りの家は、2階が星空を望めるオープンテラスになっていて、そこへ色々な楽器をみんなが移動させる。ギター、ピアノを始め、ルバーブと呼ばれる中央アジアの弦楽器やウクレレ、ガラス瓶と木の棒でリズムを刻むようなものまであった。

そうして準備が整ったあとに一行が歌い出したのは、ギリシャ語、ドイツ語、イタリア語、英語、スワヒリ語とウィットに飛んだナンバー。隣の席のおじさんやお姉さんと初めましてをしながら、歌詞を間違えようが、音程がずれていようが、一緒に笑って歌って、お酒を飲む、海賊たちの大宴会のような夜。

おもむろにロベルトが台所へ何かを取りに行った。音楽会のメインディッシュであるローストしたウサギ肉だ。農園で毎日愛情をこめてお世話をした鶏やウサギから、彼らはこうして命を分けてもらう。二人は日々、命を育て、命を頂き、命の循環を暮らしのなかで紡ぎながら生きているのだ。初めて食べたウサギ肉は豚肉にも似た脂の乗った筋肉質な食感だった。

「オッパ!」「オーッパ!」
どこからともなく聞こえてくるギリシャ語の掛け声。それに応えるように音楽はより大きく柔らかく、身体中に沁み渡る。「ここへ来てよかった」そう確信しながら、夜は深くなっていった。

オリーブ農家

絵本のなかのような非日常な日々にさえ、体は一瞬で慣れてしまい、自分のすぐ隣にある未知を忘れそうになってしまう。しかし、冒険は日常の一歩となりにもある。

バーバラがある時言っていた。
「What you feel and how you feel is who you are(なにを感じるか、そしてそれをどう感じるかがあなた自身だよ)」

言われた言葉、見ている景色、聴こえてくる音。
全て最後はそれぞれ、自分がどう思うかを「選んでいる」のだ。
町での何気ない会話を気に留めない雑音と思うか、誰かの知恵だと捉えるか。

忙しいというワードからすり抜けていくライフの美しさを捕まえる方法を教えて​くれた旅の記憶に生かされて。大丈夫。大きく息を吸って、体に風を通して。今日もオンリーワンの暮らしを創っていこう。

【参照サイト】全国の農山漁村の体験・宿泊がさがせる、農泊ポータルサイト
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juna

人の暮らしに魅せられた50%大学生/50%旅人。好奇心がエネルギー源。旅や日常でうけとった愛、喜び、温度を言葉で紡いでいけたら。