岐阜県飛騨高山エリアへの最寄駅、高山駅を降りて数分歩くと、一際大きな建物が目に入る。
歩みを進め、エントランスから中に入ると、高い吹き抜けの天井から光が差し込み、空間全体に木の香りが広がっている。
ふと右に視線を向けるとカウンターテーブルに椅子が並び、ゆったりとくつろげそうなソファが置かれている。そして壁には高山市のマップが一面に描かれている。
今回訪れたのは、岐阜県高山市にオープンしたhotel around TAKAYAMA。「サステナブルに地域を楽しむ回遊拠点型ホテル」と位置づけられ、地域連携と環境配慮に重点を置いたサステナブルトラベルの実現を目指すホテルとして2021年7月30日に開業した。旅人が地域を存分に楽しむために、彼らが独自の視点で定義する「GOOD LOCAL(グッドローカル)」の取り組みも特徴的だ。
旅人と地域の人との出会いを紡ぐ「GOOD LOCAL」とは
「旅人と、地域のGOOD LOCALな出会いを紡ぐ」をコンセプトに掲げたhotel around TAKAYAMAを設立したのは三重県四日市に本拠地を置く株式会社グリーンズ。数多くのホテルやレストラン経営を行う同社は新たに2030年CSR宣言「環境にも人にも優しいホスピタリティあふれる企業」策定し、それを体現する施策として、同ホテルの開業に至った。
hotel around TAKAYAMAが提唱する”GOOD LOCAL”とはなにか。GOOD LOCALとは、「地元に愛され、根付き、文化を作る、地域の宝物」と定義されている。そのGOOD LOCALとの出会いのきっかけを作りだすために、同ホテルがハブとなり地域の人との繋がりや体験を提供している。
客室はファミリールーム、ツインルーム、キングルーム、クイーンルーム、ユニバーサルルームの5種類。どの部屋も木の質感が浮かび上がり、豊かな森に育まれた飛騨を感じさせるような落ち着いた雰囲気がある。
他にも、部屋の細部にまでこだわっており、地元のガラス工芸作家が作った照明器具を使用し、さらに地元美濃焼きのマグカップを備え、提供するお茶や天然水も、もちろん飛騨のものだ。
また、飛騨の森林保全に取り組む地元企業「株式会社飛騨の森でクマは踊る」とウォールアート等を手掛ける「Tokyo Dex合同会社」とのコラボにより、家具加工に適さず廃棄される飛騨の木やその端材をアップサイクルしたアートやサイン(標識)が建物内の至る所にある。
自分だけのとっておきの旅の思い出を作る「GOOD LOCAL 100」
同ホテルは、宿泊者への宿泊や食事サービスの提供だけでなく、飛騨高山に訪れる旅人とGOOD LOCALを紡ぐハブとなることが、自分たちの役割だと考えている。そこで、宿泊客のみならず、観光客も自由に出入りすることのできるホテルのエントランス脇に、飛騨高山の基本情報やタウンガイドが集約された旅行情報ステーションのエリア「GOOD LOCAL SQUARE」を設けた。
GOOD LOCAL SQUAREには「GOOD LOCAL 100」というカード型地域ガイドや、カードに乗り切らない飛騨高山の魅力を盛り込んだGOOD LOCAL MAPが壁一面に描かれている。また、エントランスエリア以外にも、館内には飛騨高山の歴史、文化風習、著名な人物などの情報も描かれており、デザインとして楽しめるだけでなく、地域についてより深く知るきっかけを提供している。
なかでも特徴的かつユニークなのはGOOD LOCAL 100。地域の人を巻き込みながら、地元の人の声と地域外からの視点を混ぜ合わせて厳選された地域の魅力が、一枚ずつイラストと説明書きを添えて100枚のカードになっている。
100枚並ぶカードの中から、それぞれの旅の目的や興味に沿ってカードを選ぶことで、自分だけのオリジナルな旅程計画を立てることができるという仕組みだ。
定番の観光地としての魅力のみならず、観光名所を生み出した魅力の源泉である歴史や、地域特有の文化や風習、地元の人が愛する地域の魅力など。地域そのものの魅力を見て、知って、食べて、体験し、それらを通じて地域の人と出会い、つながってもらいたいという想いがGOOD LOCAL 100には込められている。
また、誰かが気づいた魅力を追体験するだけでなく、旅人自身にも旅を通じて新たな魅力を発見してもらうために、白紙のカードや白紙のマップもおかれている。地域に眠るGOOD LOCALは、今後もこの場所を訪れる旅人と、この土地に暮らす人たちの交わりの中で生まれていくことだろう。
環境に配慮されたアメニティや食事
地域連携と環境配慮に重点を置いたサステナブルトラベルの実現を目指すhotel around TAKAYAMAは、GOOD LOCALを合言葉に地域連携を行う一方で、環境配慮の取り組みも抜かりない。アメニティは食用に適さない古米・砕米や麦の廃棄部分を使用して作られ、プラスチックの利用を削減。朝食はビュッフェ形式ではなく、セットで提供することにより、必要な分だけ作ることで食品ロスを削減している。
他にも、ホテルでは環境への配慮の一つとして、レンタサイクルを貸し出し、自転車を使った観光を推奨している。自転車で周ることで、高山の風を感じながら目的地に向かいつつ、道中気になった場所に気軽に立ち寄り、時には景色を眺めるために、あるいは誰かと話すために立ち止まることもできる。自分のペースで好きな範囲を巡るにはぴったりの手段といえるだろう。
「予定していなかった場所に行くことや人と出会うときが一番わくわくしました。」GOOD LOCAL 100を1から作り上げたhotel around TAKAYAMAの担当者はそう話した。目的の場所に行くだけでなく、そこに行く途中のものや人との出会いが意外と記憶に深く残ることがある。地域との関わりしろが多く用意されたhotel around TAKAYAMAを拠点に、積極的に自分の直感を信じて、自由に寄り道をしながら新たな出会いを見つける旅をしてみてはどうだろうか。
コロナ禍以前は、観光客が街にあふれかえりマスツーリズムが問題視されていた。人を誘致すればするほど、旅行客の大量輸送、宿泊、そしてそれに伴い大型施設が増えていった。結果的に観光客向けに特化した大型の施設のみが潤い、地域のお店などには焦点が当たりにくく、地域への経済効果がない例も存在していた。
それらの課題を解決すべく、コロナ禍に新たに開業した同ホテルは、地元に住む人やお店を営む人など、あらゆる人と協力し、GOOD LOCALな出会いのきっかけを創り出している。単なる観光地巡りの消費型な旅行でなく、何度も訪れたくなる出会いが生まれ、地域の人も恩恵が受けられる持続可能なツーリズムを目指している。hotel around TAKAYAMAの取り組みのように地域に寄り添った旅がますます増えていくことに期待したい。
瀧田桃子
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