はるか昔、後鳥羽上皇や後醍醐天皇など、高貴な方々は隠岐に流された。中でも、後鳥羽上皇は生涯を閉じるまで19年間、隠岐にある海士町の地で上皇という肩書を捨てて、雄大な土地に身をゆだね島民と交流を重ねたと言い伝えられている。
「島流し」にあうも、この島で「次なる問い」に出逢う。後鳥羽上皇もその一人だった。
都市から遠く遠く離れた島では、その穏やかで静寂な時間と豊かな自然から、まっさらな自分に出会える。情報にあふれ、毎日何かに追われている私たちは、“遠さ”がもたらす価値こそ求めているモノなのかもしれない。
本土からフェリーに揺られること3時間。島根県隠岐諸島の1つ海士町に、2021年7月1日、隠岐世界ユネスコジオパークの泊まれる拠点として、「Entô(エントウ)」が誕生した。日本初の宿泊機能とジオパークの魅力を最大限に体験するための様々な機能が一緒くたんになった、本格的なジオ・ホテルだ。
隠岐諸島は、主に島前と島後の2つのエリアから構成され、Entôは島前に佇む。島前は、火山活動で作られたカルデラ地形で、絵画のような色づかい豊かな岩肌や、今にも動いて喋りそうな巨木など、地球の力強さそのものを感じることができる。
そうした壮大な自然あふれる海士町は、2013年9月、ユネスコ世界ジオパークに認定されている。隠岐特有の「大地の成り立ち」「独自の生態系」「人の営み」というテーマを掲げ、雄大なジオパークの魅力を世界中へ発信している。Entôは、「ないものはない」という新しい贅沢、新しい旅のカタチを提案。“島まるごと観光”の入り口として堂々と島を取り囲み、Entôがのある海士町 菱浦港を起点に、島の中の様々な場所・人・資源をフィールドとしている。その地で味わえるのは、地球にぽつんと浮かぶ隠岐のジオ・スケープ(=地球の風景)と、島で暮らす人々のあたたかさだ。
“島まるごと観光”と言うのだから、フロント機能も港に設置。島に到着次第、宿のチェックインを港で済ませたら、荷物を預けてすぐ思い思いのフィールドへ。
まずは、隠岐・海士町がどんな場所か、どんな人がいるか、知ると滞在が楽しくなる情報を旅のオリエンテーションで集める。出発前から滞在中、旅の後の相談は、港にある観光協会窓口でいつでも対応してくれる。島の案内人「フィールドコンシェルジュ」も見逃せない。島の人しか知らない絶景へ、今日食べた野菜の生産者のところへ、自分で辿り着けないところまでフィールドコンシェルジュが案内してくれる。
Entôは、本館と別館の2つの棟から成る。本館には、フロントやダイニングを構え、自然の大地から生まれる恵みの湯「天然温泉」も設けられている。別館には、海を間近に、部屋のどこにいてもジオパークの雄大な風景を存分に味わえる客室がある。隠岐のジオ・スケープの只中でくつろぎ眠ることができる、何とも得難い宿泊体験がここには待っている。また、ジオパークの凄みや面白みを学べる展示室「Geo Room “Discover”」やラウンジも併設している。
客室内は、“なるべくシンプルに、本当に必要なものだけを”と、刺激の少ないシャンプーや、島根産の竹の歯ブラシ、地域の人に愛されたお茶うけ、島の土で練られた陶器など、厳選したアメニティや備品が置かれている。ひとたび滞在すれば、「私たちは自然の一部で、自然の恵みをいただきながら生きている」と実感できるだろう。
イカ、ホンダワラ、岩牡蠣、隠岐牛、こじょうゆ味噌、ふくぎ茶、崎みかん…ホテル内の「Entô Dining」のメニューを開くと、豊かな海と噴火により生まれた肥沃な大地が育んだ、隠岐の恵みがずらり。Entôでは食にもこだわり、地のものや旬のものを取り入れている。
季節ごとに旬の食材を取り入れたコース料理で、何度滞在しても新しい発見がある、島ならではの食体験を愉しめる。「ないもの」はみんなで作ればいい。土地が限られる小さな島だからこそ、人の手で島の恵みを生み出す。そんな風土が息づく島の生産者も、Entô Diningに欠かせない一員だ。
Entôは、漢字で「遠島」。「遥か彼方、遠く離れた島」「島流し」の意味ももつ。
コンビニも映画館もない。けれど、だからこそ人はまっさらな自分に戻れる。次なる希望に出会い、新しい物語を始める。飛行機でどこへでも簡単に行ける時代に、“遠さ”がもたらす価値を世界中の縁のある方々へ。そんな思いが「Entô」の名には込められている。
都市型のラグジュアリーとは一線を画す“ないことの豊かさ”を体感できるEntôで、自分にとっての大切なもの、「次なる問い」に耳を傾けてみてはいかがだろうか。
Entô(エントウ)
住所 島根県隠岐郡海士町福井1375-1
電話 08514-2-1000
【参照サイト】Entô(エントウ)
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明田川蘭
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