環境問題や社会問題が渦巻く現代において、サステナブルな取り組みを行うことは、この地球を次世代に残していくうえでも、グローバル社会で日本が生き抜いていくうえでも必要不可欠なものとなっており、こうした流れは観光産業においても例にもれず生じています。
本記事においては、サステナブルツーリズムとは何なのか?背景や事例などとともに紹介していきます。
目次
- サステナブルツーリズムとは?
- サステナブルツーリズムが広がりを見せる背景と目的
- サステナブルツーリズムはいつから始まった?
- サステナブルツーリズムとエコツーリズムの違い
- サステナブルツーリズムの国際認証
- サステナブルツーリズムのトレンド
- サステナブルツーリズムの事例
- サステナブルツーリズムの取り組みをはじめるには?
- サステナブルツーリズムのこれから
サステナブルツーリズムとは?
サステナブルツーリズムとは、「持続可能な観光」を指す言葉です。観光がもたらすネガティブな影響を最小化し、ポジティブな影響を最大化することを目指しています。
UN Tourism(前UNWTO:国連世界観光機関)では、持続可能な観光を「訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」と定義しています。
つまりは、訪れる人だけでなくそこに住む人のことも考え、今がよければいいではなく今も未来も考慮し、「環境、経済、社会」三要素すべてを考慮した観光のことを指します。
(出典:サステナブルツーリズム 地球の持続可能性の視点から/著 藤稿亜矢子 P26 図2-1 サステナブルツーリズムに求められる3つの基本要素を元に編集部作成の図)を元に編集部作成
観光は世界で成長速度が速い経済活動の一つで、多くの国や地域にとって重要な収入源の一つとなっています。その一方で自然破壊や地域住民の生活環境の悪化など、発展とともに社会・環境に悪影響を及ぼしてきた産業でもあります。そうした問題を解消し、環境を保全しながら、観光地の社会や文化に悪影響を及ぼさずに、経済的利益をもたらす観光を目指す必要があるのです。
環境、経済、社会の三要素を網羅した観光を行ううえで、UNWTOは下記12の原則を提示しています。
経済の存続、地域の繁栄、雇用の質、社会の平等、観光客の満足、地域の管理、コミュニティの福祉、文化の繁栄、自然界の完全性、生物多様性、資源の効率、環境汚染の回避
サステナブルツーリズムにおいては、観光を提供する事業者や経済のことだけでなく、その土地の環境や生物なども含む観光に関わるすべてのステークホルダーへの考慮が求められています。
サステナブルツーリズムが広がりを見せる背景と目的
サステナブルツーリズムが提唱された背景には、マスツーリズムの弊害があります。マスツーリズムとは、観光の大衆化を指す言葉です。
マスツーリズムは低価格のツアー旅行や観光地の経済発展を実現した一方で、自然環境や文化の破壊も引き起こしました。また、ごみ・交通渋滞・騒音などによる地域住民への影響は「オーバーツーリズム」と呼ばれ、社会問題化しています。
これらの課題に対処するために、観光の活性化と環境や住民の暮らしを守ることの両立が求められるようになりました。SDGsの広がりも、サステナブルツーリズムを加速させたと言えるでしょう。
サステナブルツーリズムはいつから始まった?
1992年に開催された「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」で、持続可能な開発を実現するための行動計画「アジェンダ21」が発表されました。アジェンダ21に基づき、現UN Tourism(国連世界観光機関)・世界旅行ツーリズム協議会・地球会議が1995年に共同で表明したのが「観光産業のためのアジェンダ21」です。この中で、サステナブルツーリズムの概念とともに実践すべき取り組みなどが提示されました。
日本では2018年に「持続可能な観光推進本部」が観光庁に設置され、本格的な取り組みが始まっています。
サステナブルツーリズムとエコツーリズムの違い
サステナブルツーリズムと混同されやすいものに、エコツーリズムがあります。サステナブルツーリズムとエコツーリズムは、双方とも自然環境や持続可能性に配慮しており、目指す方向は変わりません。違いは、エコツーリズムが自然と文化を観光資源として、自然地域で行われるのに対し、サステナブルツーリズムはそれらに限らない点です。サステナブルツーリズムは、全ての観光が持続可能なものになるべきという考えから誕生しており、どんな観光地でも、環境・社会・経済の三要素すべてに考慮した持続可能な取り組みを実施すればサステナブルツーリズムになり得ます。
サステナブルツーリズムの国際認証
UNEP(国連環境計画)とUNWTO(国連世界観光機関)の支援で誕生したGSTC(世界持続可能観光協議会)は、2007年に設立された非政府組織です。GSTCでは、持続可能な旅行と観光のための国際基準を設定・管理しており、持続可能な観光の認証機関に対する国際的な認定も行っています。国際認証の基準は、大きく分けると下記の4つから構成されています。
1.持続可能な経営
2.社会経済のサステナビリティ
3.文化的サステナビリティ
4.環境のサステナビリティ
日本でも、観光庁が国際認証の基準に準拠した「日本版持続可能な観光ガイドライン」を公表しています。
サステナブルツーリズムのトレンド
ここでは、世界と日本のサステナブルツーリズムをめぐるトレンドについてご紹介します。下記はGoogleトレンドによる2004年から2024年にかけての世界の「sustainable tourism」検索および、日本の「サステナブルツーリズム」検索数の推移になります。
世界 – sustainable tourism
Image via GoogleTrends
世界全体における「sustainable tourism」の検索数は、2004年頃から加速する観光産業の発展と共に伸びはじめます。その後一度落ち着きをみせたのち、新型コロナウィルスに伴う観光の見直しや再開に伴い、再度検索ボリュームが増加しています。
Booking.comが、34の国と地域の31,000名以上の旅行者を対象におこなった調査では、旅行者の83%が「サステナブルな旅行は重要である」と回答。また、75%が「今後12ヶ月間以内に、よりサステナブルな旅行をしたい」と回答しています。欧州を中心に、サステナブルな取り組みは、消費者に選ばれるうえで必須の要素となりつつあります。
日本 – サステナブルツーリズム
Image via GoogleTrends
日本においては、観光庁が持続可能な観光推進本部を発足した2018年中旬頃を境に「サステナブルツーリズム」の検索数が一時的に増加。その後、2021年10月に日本政府観光局(JNTO)が行った定例会見にて、サステナブルツーリズムの取り組み強化方針が発表されたことや、世界的なサステナブルツーリズム認証団体「グリーン・デスティネーション」が選出した「世界の持続可能な観光地トップ100選」に、日本から最多の12地域が選出されたことなども踏まえ、検索ボリュームが増加しています。
サステナブルツーリズムの事例
サステナブルツーリズムに取り組んでいる、国内の自治体での事例を3点紹介します。
1.北海道ニセコ町
ニセコ町は、「パウダースノーの聖地」として知られる国内屈指のスノーリゾート。冬以外も、カヌーやラフティング、トレッキングなどさまざまなアクティビティを体験できます。ニセコ町の取り組みは世界的に評価され、国際機関「グリーン・デスティネイションズ」による「持続可能な観光地 TOP100選」にも選ばれました。Livhubでニセコ町の取り組みについて取材した「北海道ニセコの自然に恋をした、わたしの目線から見える町の魅力」こちらの記事もご参照ください。
2.岐阜県白川村
「白川郷」と呼ばれる白川村の合掌造り集落は、1995年にユネスコの世界遺産に登録されました。ところが、約1,600人の村に年間200万人を超える観光客が訪れるようになったことで、オーバーツーリズムに陥ります。そうした問題への対策として、冬期に行われる人気のライトアップイベントを、完全事前予約制としたり、集落で暮らす住民に配慮して見学時間を8時〜17時に限定するなどしてきました。また住民に配慮したオーバーツーリズム対策に限らず、合掌造りの屋根を作るための「茅刈り」を観光に組み込むなど、観光客が地域住民に寄り添うことができるような体験を提供する取り組みも行われています。2020年には、コロナ禍にも関わらず「持続可能な観光地 TOP100選」に選ばれています。
3.徳島県上勝町
徳島県は、SDGsに注力していることで知られる自治体です。内閣府の「SDGs未来都市」に選定された上勝町の「ゼロ・ウェイストセンター」は、ゴミステーションやホテルからなる複合施設。町民が持ち込んだ不用品を無料で持ち帰れる、リユースショップも併設されています。ホテルの客室には、使い捨てのアメニティを置いていません。コーヒー豆や茶葉は、必要な分だけをフロントで量って渡しています。周辺は自然豊かで、フライフィッシング・レイクカヤック・トレイルランニングなど多彩なアクティビティを体験可能です。
サステナブルツーリズムの取り組みをはじめるには?
実際に取り組みを進めるにあたってどうすればよいのか?と疑問に思う方も多いかと思います。下記に参考となる情報を取りまとめます。
観光庁が取りまとめている先進事例集も適宜参照ください。
地域・自治体・DMO
・日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)を活用
持続可能な観光地マネジメントを行うための支援ツールである「JSTS-D」を用いて、推奨する指標導入のステップに沿って進めていきます。(詳しくはガイドラインのP17-21を参照)
最初は仲間作りから。実施を決めたら関係者にその旨を共有し協力を促しつつ、現状を整理・共有する目的で観光地のプロフィールを作成します。その後推進体制づくりを行い、ガイドラインの各項目を参照しつつ地域の目的や状況に応じて、地域にとって特に重要だと考える取り組み項目を決定します。
そのうえで、項目に関連するデータや事例などを調査・収集しつつ取り組み内容を確定、実行。実行後は分析し、継続的に改善をおこなっていくという流れです。左記完了後は、、取組の進捗などを踏まえ、実施項目数を増やしながら地域の持続可能性を向上していきます。
上記に取り組んでいることを対外的に示したい場合、申請のうえ使用許諾が得られれば、取り組みを明示するロゴマークを観光パンフレット、ホームページ等で使用することが可能です。具体的な申請方法については観光庁のHPよりご確認を。
手探りで自分達のみで進めていくのが心配という場合、観光庁が公表している先進事例集を参照しつつ、状況や取り組みたい内容が近しい自治体やDMO担当者に連絡のうえ話を聞いてみるのも一手です。
サステナブルツーリズムのこれから
日本においてサステナブルツーリズムの取り組みは始まったばかり。旅や観光の提供側である事業者や自治体などの正しい取り組みの強化と、一般生活者に対する認知向上およびニーズ醸成の双方からアプローチしていくことで観光業が持続可能な産業になっていくよう我々メディアも含めた全てのステークホルダーによる活動強化が必要とされている。
サステナブルツーリズムに関するおすすめ記事一覧
サステナブルツーリズムとは
サステナブルツーリズムをしたい個人向け
- サステナブルな旅の魅力(英国サステナブルトラベル専門家取材記事)
- サステナブルな宿・ホテル(日本全国、都道府県別)
- できるだけサステナブルに飛行機に乗る方法
- オーバーツーリズムを考える(竹富島の夜と朝に見えた景色「わたしたちは、ここで暮らしている)
- 生物多様性と旅を考える(そこにしかない一生ものの体験をしに、日本の南の島まで。WWFに聞いた生物多様性を体感する旅)
【参照文献】サステナブルツーリズム 地球の持続可能性の視点から/藤稿 亜矢子著
【参照サイト】GSTC/What is Sustainable Tourism?
【参照サイト】UNWTO(国連世界観光機関)/持続可能な観光の定義
【参照サイト】UNWTO(国連世界観光機関)/観光と持続可能な開発目標
【参照サイト】JTB総合研究所/サステナブルツーリズム
【参照サイト】国土交通省/第1回 持続可能な観光指標に関する検討会議事次第
【参照サイト】観光庁/観光庁に「持続可能な観光推進本部」を設置しました
【参照サイト】トラベルボイス/日本政府観光局、「サステナブル観光」を強化、欧州が重視するSDGsの取り組みがカギ、バーチャルツアー+越境ECも
【参照サイト】GSTC/グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)について
【参照サイト】ニセコ町/持続可能な観光 (サステナブル・ツーリズム)
【参照サイト】SUSTAINABLE BRANDS JAPAN/世界遺産・白川郷はなぜ「世界の持続可能な観光地100」に選ばれたのか
【参照サイト】白川郷観光協会
【参照サイト】上勝町ゼロ・ウェイストセンター
【参照サイト】やまとごころ/【サステナブル・ツーリズム】コロナ禍でも稼働率7割 徳島山間のゴミステーションに隣接するHOTEL WHYが宿泊者に歯ブラシ持参を求めるわけ
【関連記事】Livhubのサステナビリティに関する記事一覧
飯塚彩子
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