サステナブルツーリズムとは、「持続可能な観光」を指す言葉です。UNWTO(国連世界観光機関)は、その定義を「訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」としています。つまりは、訪れる人だけでなくそこに住む人のことも考え、今がよければいいではなく今も未来も考慮し、「環境、経済、社会」三要素すべてを考慮した観光のことを指します。
本記事では、サステナブルツーリズムに関して観光庁が取り組んでいる内容及び自治体や法人・事業者が利用できる公的な助成金についてまとめます。
※同編集部執筆のサステナブルツーリズムに関する詳しい記事は「サステナブルツーリズムとは? 環境・経済・社会すべてを考慮した持続可能な観光を」から。
サステナブルツーリズムへの国(観光庁)の取り組み
観光庁がサステナブルツーリズムに関して行っている取り組みには大きく分けて6つあります。下記にてそれぞれ記述します。観光庁HP「『持続可能な観光』の取組」ページにも情報が分かりやすくまとまっていますので、そちらも別途参考にしてみてください。
1. 持続可能な観光ガイドラインの開発
観光庁は、地方自治体や観光地域づくり法人(DMO)をはじめとする法人などが持続可能な “観光地” マネジメントを行えるように、持続可能な観光に関する国際的な基準に準拠した「日本版持続可能な観光ガイドライン」を開発しました。
引用:観光庁HP
日本版持続可能な観光ガイドラインの概要は下記の通りです。
①持続可能なマネジメント
例)デスティネーション戦略や取り組みの公表、リスクや危機管理について地域内での情報共有
②社会経済のサステナビリティ
例)観光消費額や観光業における雇用者数などの経済データの収集、地域特産物の購入やサービス利用の推進
③文化的サステナビリティ
例)文化資産の修復や保全への取り組み、観光を要因とする道路渋滞の調査・対策
④環境のサステナビリティ
例)自然遺産での来訪者管理におけるツアーオペレーターやガイドに向けた行動基準の策定、エネルギー消費量の目標の公表
2. ロゴマークの普及促進
観光庁では、日本版持続可能な観光ガイドラインに取り組んでいることを示すロゴマークの普及を進めています。
引用:観光庁HP
使用許可が出ると、観光パンフレット・ホームページなどでロゴマークを使用できるようになり、対外的なアピールが可能です。申請手続きに必要な提出書類は下記の通りです。
①日本版持続可能な観光ガイドラインに取り組むことを明記した観光計画など
②現役の担当職員がGSTC(世界持続可能観光協議会)トレーニングプログラムを全日程受講したことを示す「修了証」の写し
③ロゴマークの使用方法がわかる図表など
④連絡先(氏名・役職・電話番号など)
詳しくは、観光庁「『日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)』ロゴマークの使用申請及び承諾後の手続きについて」をご確認ください。
3. モデル事業の実施
観光庁では、地方自治体や法人が日本版持続可能な観光ガイドラインを活用した上で持続可能な観光地マネジメントを行えるよう、2020年からモデル事業を開始しました。対象となるのは「持続可能な観光地マネジメントが期待できる自治体など」で、下記のような取り組みが実施されています。
①モデル地区でのGSTC公認トレーニングプログラムの開催
②モデル地区での各種調査(観光客の行動把握調査など)の実施
③持続可能な観光への取り組みを推進するためのアドバイザー派遣
④持続可能な観光地の国際的な認証機関グリーン・デスティネーションズの「世界の持続的な観光地TOP100」へのエントリー支援 など
令和5年度に、4月18日~5月19日の期間にて観光庁が公募した持続可能な観光推進モデル事業の公募要項資料は「観光庁『持続可能な観光推進モデル事業』公募要領」をご確認ください。
4. 先進事例の整理・周知
観光庁では、自治体や企業への情報提供として先進事例の整理・周知を行っています。そのうち5つの事例を抜粋したので、ぜひ参考にしてください。
また、UNWTOと観光庁が共同で収集、作成した先進事例集は「持続可能な観光の実現に向けた先進事例集」から確認可能です。
1.神奈川県鎌倉市
鎌倉市では旅行者の急増により、公共交通機関の混雑・道路に飛び出しての写真撮影・ごみのポイ捨てといった問題が発生していました。そこで、住民の観光への理解促進を目指し、鎌倉市の観光における現状をポジティブ・ネガティブの両面からパネルなどに視覚化。スーパーの出入り口で展示を行い、係員を配置して意見を聞きました。その結果、住民の約70%から「観光への理解が深まった」との回答が得られたといいます。
2.北海道釧路市
釧路市の阿寒湖地域では、ペットボトルごみの削減を目的とし給水スポットの提供とマイボトルの利用促進を行いました。計3か所の給水スポットでは、誰でも無料でマイボトルなどに給水が可能です。さらに、釧路市に拠点を持つ猛禽類医学研究所、魔法瓶メーカー・サーモスとのコラボレーションを実施し、野生動物画家・岡田宗徳氏による猛禽類のイラストをデザインしたボトルを販売しています。
3.茨城県桜川市
桜川市には、大規模な施設や寺社といった特別な観光資源はありません。そんな桜川市が観光客誘致のために行った施策は、「ありふれた地方の素を見せる」ことでした。2003年に始まった「真壁のひなまつり」は、一般の家屋に飾り付けたひな人形を展示するというもの。中にはお茶や甘酒を提供する個人宅もあるなど、住民による「おもてなし」が評判となり、毎年10万人を超える観光客が訪れるようになりました。
4.仁和寺
京都の仁和寺ではおもな収入源の拝観料が減少しており、建造物の修繕などにかかる費用を確保できていませんでした。そのため、使われていなかった境内の家屋を改築して宿坊をオープン。ターゲットは富裕層の外国人観光客で、宿泊料金は1泊100万円です。総工費は1億5000万を超えましたが、そのうち約8割を日本財団の「いろはにほんプロジェクト」からの助成金で賄っています。
5.星野リゾート
星野リゾートでは、「湯船に入る前に身体を洗う」「タオルを湯船に入れない」などの入浴マナーを外国人観光客に知ってもらうため、マナー啓発動画を制作しました。国宝「鳥獣戯画」の動物たちが温泉を体験するストーリーになっており、YouTubeで視聴することができます。
5. アワードの実施
旅行業界におけるサステナビリティへの機運を高め、旅行者にもサステナビリティに配慮された旅行商品を周知することを目的として、観光庁は2023年より「持続可能な観光にかかる旅行商品のアワード」の公募を開始。2023年度分に関しては10月17日に大阪で行われた「ツーリズムEXPOジャパン2023(大阪・関西)」にて大賞・準大賞・特別賞を受賞した旅行業者の表彰式を開催しました。
アワード詳細及び受賞者詳細は、観光庁「サステナブルな旅アワードHP」よりご確認ください。
6. 外国人観光客へのマナー啓発
観光庁は、公共交通機関・神社仏閣・温泉などでのマナーをわかりやすく啓発する多言語の動画を制作しています。自治体や法人で動画をダウンロードしたい場合は、観光庁の外客受入担当参事官室に「データ利用届出書」を電子メールで提出しましょう。動画は、観光庁のYouTubeチャンネルでも観ることができます。
詳細は、観光庁HP「訪日外国人旅行者向けマナー啓発動画」をご確認ください。
サステナブルツーリズムに関する助成金
サステナブルツーリズムに取り組むにあたり、自治体や法人・事業者が利用できる公的な助成金を紹介します。
1. 持続可能な観光の促進に向けた受入環境整備事業(受付終了)
観光庁では、オーバーツーリズムの防止や自然環境・文化保全・活用に資する整備に対して、補助対象経費の2分の1を支援する事業を実施。対象となる整備は下記の11個です。
①トイレの有料化に係る整備
②入域料・協力金徴収のためのオンラインなどによる徴収システムとその徴収に必要な整備
③自然保護のための保護柵、遊歩道などの整備
④景観に配慮した工作物の整備
⑤光害防止のための照明の整備
⑥バイオトイレなどの整備
⑦ペットボトル削減のための給水機などの整備
⑧パークアンドライドのための駐車場の整備
⑨マナー啓発のためのコンテンツ制作、設備整備
⑩混雑平準化・解消のための予約システムの整備
⑪混雑平準化・解消のための混雑状況の可視化に資するシステムの整備
令和5年度公募については受付を終了していますが、今後募集が再開されたり類似の補助金制度が始まる可能性もあるので、 観光庁のホームぺージの公募情報ページを定期的に確認するとよいでしょう。
2. 訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金(受付終了)
訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金は、歴史的資源における宿泊環境の整備や高付加価値化、地域のにぎわいを作る歴史的建造物の改修などに関わる経費の一部を国が補助する制度です。具体的には、寺社や城郭の宿泊施設・カフェなどへの転用、耐震補強、多言語対応タブレットの購入費用などがこれにあたります。すでに募集は終了(2023年8月現在)していますが、今後募集が再開されたり類似の補助金制度が始まる可能性もあるので、観光庁のホームぺージの公募情報ページを定期的に確認するとよいでしょう。
【参照サイト】観光庁/「持続可能な観光」の取組
【参照サイト】観光庁/日本版持続可能な観光ガイドライン
【参照サイト】観光庁/持続可能な観光の実現に向けた先進事例集
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飯塚彩子
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