竹富島の夜と朝に見えた景色「わたしたちは、ここで暮らしている」

竹富島 町並み

沖縄県竹富島に降り立ち、町を散策しようと自転車を借りた。天気はあいにくの曇り。それでも観光客の数は多く、家族連れや友達同士、カップルなど多くの人々が連れ立って、水牛車に乗ったり自転車に乗ったりして町はガヤガヤとにぎわっている。

しばらくして夕刻が近づくと、さっきまで町中にいた観光客の姿が少なくなり、ほとんど人を見かけなくなった。最終のフェリーの時間が迫っている。日帰りで竹富島を訪れる人たちは石垣島に夕飯を食べに戻っていくのだろう。

・・・。

静かだ。さっきまでの喧騒が嘘のように、島は静けさに包まれている。チリンチリン、小さな音がして振り返ると、小さな女の子が自転車に乗って楽しそうに一人走っていた。家の前の道なのだろうか、同じ道をぐるぐるとまわっている。笑顔が素敵だなと思いながら別の道に行き、少ししてから同じ場所に戻ると、まだ女の子は自転車に乗っていた。もう一度会いたいなと思っていたから、見かけることができてふふふと一人心の中で喜ぶ。

竹富島-夕方

17:00を過ぎると島のほとんどのお店が閉まり始めた。そんななかで一つだけ開いているお店を見つけ、なかに入る。店内には観光客向けと思われるお土産に加えて、塩や洗剤など島の人用とみられる生活用品が置かれている。「あっちに行って!あっちに行って!」ふと女の子の声がした。すると、店に出ていた店員さんが、「ばあちゃん今仕事中だから、はいはい〜」と引き戸を開けて女の子に声をかけた。お店の隣に住むお孫さんが学校から帰ってきて、飼い犬に話しかける声だったようだ。「親が仕事中なんですよ〜。目の前ですけどね、終わったら帰ってくると思います」

わたしたちは、ここで暮らしている

観光客として観光地を訪れると忘れそうになるけれど、ここ竹富島にも住民たちの暮らしが、ある。

この場所で、生まれ育ち日々を過ごしている人たちがいる。

今回滞在中にお話を聞く機会に恵まれた竹富島のいち島民であり、竹富島地域自然資産財団の理事長でもある上勢頭(うえせど)さんはこんな風に話していた。

上勢頭さん

「一番大変だった時は、人だらけ。公民館におっても、人だらけ。え?ここどこ?国際通りみたいだなあって。ばあちゃんが家から出たら、わあああって驚くくらい。お客さんが少ない時は、おばあたちも『おーおー来たのか、よく来たねー、ちょっとよってけ、黒砂糖とお茶飲んでいきな〜』なんて言ったりしてたけどねえ」

「コロナで人数も減ったから続いてるけど、コロナ前までは30分に1本石垣島から船が来て、町の中は観光案内する水牛で水牛渋滞してたさ」

竹富島 水牛車

「いっぱい来てほしい。昔から竹富では来た人が幸せを持ってきてくれるのさ。だけどマナーは守ってほしい。自転車はここに止めちゃだめだよってところには置かないでね。でないと車も入れないし。ごみもたくさん増えてる。自転車乗ってると、風が強いとカゴから落ちたりね。マスクもよく落ちてますよ。僕の車にはマスクを拾うトングが積んであるよ」

 竹富島 ごみ

竹富島にはごみ処理場がない。石垣島から持ち込まれたごみは再度石垣島を経由して西表島で処理される。

竹富島は、他のオーバーツーリズムと呼ばれる、観光客が過剰に増え、観光地の地域住民の生活や自然環境に悪影響を与える問題が起きている観光地とも少し異なる。沖縄本島の繁華街 国際通りは観光客が多く訪れる場所、とはいえその通り沿いに住む人は多くないだろう。しかし竹富島は、生活の場と観光の場が完全に重なって、全く同じところにある。観光客がお目当てとして訪れる赤い瓦屋根の家々が並ぶ集落には、住民が住んでいる。

ならば観光客だらけにならないように、極力行かないほうがいいのかと言うと、そういうわけにもいかない。なぜなら、観光を生業とし、わたしたちのような観光客が使うお金で生活している住民が多くいるからだ。

だからこそ、オーバーツーリズムの問題が起きている観光地発のコミュニケーションはすごく難しい。観光客に来てほしいし、自分が好きで大切につないできた島の魅力を伝えたい。だけど、本当はもっと集落景観や文化など、自分たちが必死に守り続けてきているものの大事さに共感して、町に寄り添いながら滞在してほしい。そうでないならば、言いにくいけれど、来ないでほしい。来島人数も自分たちの生活が守られるほどに制限したい。実際に口にはしなかったけれど、それが彼らの本音のように感じた。

星の見えない夜に見たもの

静かになった竹富島の夜。夕飯を宿で食べて20:00ごろ星空ツアーに。星空ガイドのもっちーさんこと望月さんの案内のもと空を見上げるも、その日はあいにくの曇り空で星は見えず。しかし共に自転車を走らせ、到着した海辺であることに気づく。

「竹富島も含む西表島石垣国立公園は国際ダークスカイ協会が始めた、光害(ひかりがい)の影響のない、暗く美しい夜空を保護・保存するための優れた取り組みを称える制度『星空保護区認定制度』に日本国内で認定されている3つの地域のうちの一つです。星空を守るため、例えば町の街灯は上に灯りがもれないように下向きに付けられ、自動販売機の灯りも何時に消すというルールがあるわけではないですが、22:00までには町民の方が自主的に消してくださるところが増えています」

街灯 竹富島

夜の竹富島集落

「暗いように思うかもしれませんが、月が出ている日は月明かりで影ができて、本も読めます。お月さんの力を感じます」

曇りでほとんど月は顔を出していなかったが、街灯ひとつない海辺でもっちーさんに言われて手元のパンフレットを読んでみたら、大きな文字は読むことができた。満月がしっかり顔を出していれば、確かに本も読めるかもしれない。

電気のない世界は「何も見えない」暗闇かと思っていた。しかし、実際に人工的な光が遠くにしか存在しない場所で感じたのは “暗さ” ではなく “明るさ” だった。一切電気の存在しなかった時代の人々は、こんなにやわらかな明かりのなかで夜を過ごしていたのかと思うと、彼らを羨ましくも感じた。そんな夜のなかから、きっと美しい和歌や暗闇の中で美しく光る漆器などの文化も生まれてきたのだろう。

守りたい。けど…

竹富島の朝は夜に引き続き静かだ。ゆっくりとした時の流れに沿うように、昨日借りた自転車は宿に置いたまま歩いて散歩をすることにした。まだ観光客の姿のない静かな集落から音楽が聞こえる。沖縄民謡か何かかなと音がする方に近づいていくと、水牛車観光の案内所から流れていたのは、Official髭男dismの熱闘甲子園のテーマソング「宿命」だった。その出合いからも島の日常を感じる。

温かい島に行くのだからとひっぱりだしてきたビーチサンダルをつっかけて2月の竹富島を歩く。スニーカーを履いていた昨日は気づかなかったけれど、集落はすべて白砂の道。歩くとざっざっと音が鳴り、足裏に心地よい砂の感触が伝わる。その感覚を楽しみながらゆっくりと歩いていると、さっさっと音が聞こえてきた。音の正体は、箒。お家のまわりをぐるっと一周、おばあちゃんが箒で掃いている。

竹富島-朝掃除

「観光客のために掃いて整えていると思う方もいらっしゃいますが、実はそれが主目的ではないんです。竹富村民は太平洋戦争の時期に、強制疎開によって多くの人がマラリアの犠牲となりました。そうした歴史もあり、また島には今も病院はなく診療所しかないこともあって、町を美しく保つことが自分達の命を守ることにもつながるという意識があるのです。なので、毎朝それぞれが、それぞれの家の前を箒で掃き、綺麗にしあげの箒目(ほうきめ)までつけるということを続けています。竹富町の家の敷地面積は広いので、一周掃くのもかなり時間がかかります」

竹富島の環境保全などの活動を行う竹富島地域自然財団の水野さんが、そんな風に教えてくださった。地面の白砂も自然とそこにあるのではなく、町の景観の美しさを保つため、年に2回海から運んで来て全ての道に撒くのだという。

白砂に加え、琉球赤瓦の屋根と、石垣、その3つが竹富島の町並みの特徴。しかし、こうした昔のままの町並みを保全していくのは想像以上に大変だ。水野さんがその大変さの一部を教えてくださった。

竹富島 町並み

白砂、琉球赤瓦屋根、石垣から成る沖縄の原風景のような竹富集落の景観

「昔ながらの石垣の高さは170cm。石垣に当たって風が上にいくと、家に直接当たらずに屋根の上にちょうど抜けて暴風対策になるように高さも設計されています。この石垣は珊瑚石を昔から伝えられている手法を用いてパズルのように手で積み上げていくもので、セメントなども使っていません。そのため積むのは一苦労で、竹富島に家を作る場合、石垣と赤瓦の屋根など守るべき規定が多くあるのだけど、それに則って作ろうとすると石垣だけでもかなりの額が必要になります」

「瓦の修繕など一部には国からの補助金を当てられる部分もありますが、竹富島のこの美しい町並みや自然、そして文化を守っていくにはお金や手間どれをとってもまだまだ大変な状況にあるのが事実です。それでも、おじいやおばあから受け継いで育んできた美しい島を100年先にも残していくために、2019年から竹富島地域自然財団が主体となって『入島料』を募りはじめました。石垣島の離島ターミナルや、竹富東港かりゆし館、島内の民宿などで『入島料』を納入いただくことで、島を訪れる皆さんの力を借りながら竹富島の環境保全活動を行っています」

入島料券売機の前の看板には、こんな風に書かれていた。

どこまでもつづく藍い海、色とりどりの魚や植物たち。
この島にしかない風景が有ります。
この当たり前の風景を、私たちは未来へつなげたい。
竹富島の自然と伝統的な暮らしを守るため
どうか、ご協力をお願いします。

300円を券売機に入れ入島券を手にする。ふと光を感じて顔を上げると、滞在中ずっと曇っていた空に急に晴れ間が見え始めた。

(急がなきゃ)

とっさにそう思い、自転車に飛び乗って走り出した。

島の日常がこの先もずっと守られますように

太陽の方角を目指していくと、「アイヤル浜」と書かれた看板が見えた。この浜からならきっと少しでも朝日が見えるはず。久しぶりに乗った電動ではない自転車のペダルを必死に漕いで、ガタガタ道を進んでいく。視界がぱーっと開けた場所に出たと思ったらまた熱帯の草木が生い茂る細い道へ。ふと視界を何かがふわっと遮った。「!」 びっくりしてブレーキを踏むと、そこには綺麗な海のような色をした蝶々がはたはたと踊るように飛んでいた。

竹富島 蝶々

「綺麗…」

思わず口に出してつぶやき、自転車を降りてゆっくり歩いた。偶然一羽の蝶に出会えたのかと思ったら、その道はふわりふわりとたくさんの蝶が飛ぶ、蝶々の楽園だった。彼らに導かれるままに道を進むと、そこには白砂の美しいアイヤル浜が広がっていた。

アイヤル浜

雲が多く、藍い海ではなかったけれど、朝の強い陽の光を浴びた誰もいない海岸は、つややかに煌めいていた。

アイヤル浜 貝殻

砂浜には綺麗な貝殻に並んで、見知らぬ言語が書かれたごみや粉々になったプラスチックごみが落ちていた。どうかこの場所があの青い蝶々が住み続けられる楽園であり続けますように。どうかこの島が島民の人たちにとって居心地のよいふるさとであり続けますように。さっき払った入島料のことも思い出しながらごみを拾って、浜の入り口に置いてあった海洋ごみステーションに捨てた。浜にはまだまだ拾いきれない無数のごみが落ちていた。

海洋ごみステーション

漂着ごみ専用のごみ箱

砂浜を後にして集落に戻ると、石垣島からの朝一のフェリーが到着したのか、レンタサイクル屋さんで多くの観光客が自転車を借りていた。きっと今はもう水牛車観光の案内所でOfficial髭男dismの音楽はかかっていないし、女の子は自転車に乗っていないし、おばあちゃんは箒で家の前を掃いていない。

一夜を明かしたことで見えた竹富島の日常は、私だけが見ることのできた宝物のように記憶のなかで今も輝いている。この輝きが、島の人たちの豊かな暮らしが、これからも守られますように。遠く離れた場所から願ってやまない。

【参照サイト】竹富島観光協会
【参照サイト】竹富島地域自然資産財団
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飯塚彩子

“いつも”の場所にずっといると“いつも”の大切さを時に忘れてしまう。25年間住み慣れた東京を離れ、シンガポール、インドネシア、中国に住み訪れたことで、住・旅・働・学・遊などで自分の居場所をずらすことの力を知ったLivhub編集部メンバー。企画・編集・執筆などを担当。