私たちはなぜ旅を求めるのだろう。
これまで絶えることのなかった観光の波がコロナ禍で突然ストップし、そこから再びゆっくりと動き出したこの一年。これまでの旅を振り返り、これからの旅について考えた人も多いのではないだろうか。
そんな一年が終盤を迎える中、Booking.comが2024年の旅行トレンド予測を発表した。
2024年の旅のあり方について、Booking.comの上級副社長兼最高マーケティング責任者、アルジャン・ダイク氏は次のように述べている。
「2024年の旅行予測は、旅行は人生から逃れるための手段ではなく、最高の人生を送るための触媒であるという考えを反映しています。（中略）Booking.comは人生にインスピレーションを与え、変化させ、豊かにする旅行の力を信じ、2024年以降も、旅行者一人ひとりの心に響くような特別な体験を提供することに全力を尽くします」
旅はこれから「逃避」でなく、「より良い人生を生きるための触媒」となる。その真意とは何なのだろうか。彼らが33の国と地域の27,000人以上の旅行者に調査を依頼し、その結果を独自の洞察と組み合わせて発表した、2024年の旅トレンドの7つのポイントを見てみよう。
1. なりたい自分になりきり、自分をアップデートする旅（(Alter) Ego Enthusiasts）
Photo by Tyler Nix on Unsplash
2024年はより多くの人々が旅を通して新しい自分、最高の自分になりきることで生きている実感を味わい、それを自己実現や自己成長につなげていくだろうとBooking.comは言う。
旅先では基本的に普段の自分を知らない人ばかりだからこそ、さまざまな抑圧から解放され、理想の自分になりきることができる。旅は誰もが人生の主人公であることを思い出し、自分の新たな一面を発見するきっかけとなるのだ。
Booking.comの調査によると、実際に68％の旅行者が「旅中は最高バージョンの自分に変身できる」と感じており、78％が「旅中はこれまで以上に生きていると感じる」と答えたという。そして、なりたい自分になりきるために旅中に乗る車さえ普段よりも派手にアップグレードする旅行者もいる。
もちろん、旅は一時的な逃避だけでは終わらない。旅から戻った後も、日常生活を旅中の自分に近づけたいと考えている旅行者は68%いるといい、旅に出ることで最高の自分に出会い、そこから実生活の自分もアップデートさせていきたいと望んでいる。2024年の旅は、そうして人々がより良い自分を再現し、進化する舞台へと変化していくだろう。
2. クールケイショナーが増える（Cool-cationers）
Photo by Devon Hawkins on Unsplash
2024年は水辺での体験をメインテーマとした旅行（Cool-Vacation）が増加すると予想されている。
気候変動により世界中で広がる猛暑や熱波。その影響を日常的に受けている人々ほど、休暇では涼しい場所に赴き、体力を回復してリフレッシュしたいと考えている。また旅行者の75％が水の近くにいるとリラックスできると答えており、水は私たち人間にとって癒しの源だ。
そこで2024年は「水辺×リトリート」も注目トピックとなるだろう。世界的にまだまだ健康志向が高まっており、健康リトリートや自分自身とのつながりを深めるための旅を求める人が増えている。
ワイルドスイミング、フローティングヨガ、水音浴、スノー・メディテーション（雪瞑想）、アイスセラピーリトリート、水中ホテル、マーマニアなど、「水」がテーマとなった新感覚のウェルネス旅行がブームになるかもしれない。
3. 未知の旅の驚きに身を委ねる（Surrender Seekers）
Photo by NEOM on Unsplash
そして2024年、人々はありきたりな旅ではなく、日常とはかけ離れた未知の世界に踏み込んでいく冒険の旅を求めていくとBooking.comは言う。
旅行者の半数以上は目的地に到着するまで全てが分からないサプライズ旅行を予約したいと考えているといい、56%が人里離れた道を冒険する旅、34%が見知らぬ人と一緒に旅する体験を望んでいるという。
だからこそ綿密に旅の計画を立てるのではなく、偶然の出会いを楽しみ、風の向くままに旅行できるよう、あえて状況や気分に応じて変更できる緩やかな旅計画を立てたいと考える人が増えている。
こうしたニーズに合わせてBooking.comはAI旅行プランナーをローンチするなど、旅行業界全体がテクノロジーを活用し、キャンセル、プラン変更、チケット購入などが気軽にでき、柔軟に旅のプラン変更ができるサービスを提供し始めている。
４．ローカルで食の歴史や伝統を味わい、新しい味に出会うガストロ・ツーリズム（Culinary Excavators）
Photo by Lisheng Chang on Unsplash
食は言わずもがな旅のメイントピックの一つだ。中でも2024年は食のルーツをより深く掘り下げて、新鮮で新しい味を発掘する旅が盛り上がりそうだ。
2024年は、81%もの旅行者が先住民の伝統料理を試してみたいと回答しており、ユニークな歴史、地理、農業が生み出す旅先の奥深い食文化を発見し、五感を目覚めさせるガストロ・ツーリズムが注目されている。
その歴史文化的な価値を過小評価され、忘れられかけている世界の食文化を観光によって掘り起こし、そのストーリーが旅の感動とともに拡散されることで、世界中の先住民コミュニティに誇りと収入がもたらされる。そんなポジティブな循環が広がっていくかもしれない。
ローカルの歴史的な食文化が注目される一方で、最先端テクノロジーもまた、食の楽しみを再構築している。最近ではVRやARを介した没入型の「フィジタル（フィジカル＋デジタル）ダイニング」や、3Dプリントで作ったヴィーガンステーキやキノコのフォアグラなど、革新的なプラントベースの食事も注目されている。旅先で新しい味に出会うきっかけが、ますます増えていきそうだ。
5. 人との繋がりと自己発見をもたらす新しいリトリート（Reboot Retreaters）
Photo by Bambi Corro on Unsplash
世界が不安定さを増し、絶え間ない忙しさから気づけば自分を忘れてしまいそうになる時代。人々は自分自身を癒して活力を取り戻し、生活を立て直して再び理想の人生に向けて歩き出すべく旅に出る。
2024年は睡眠コンシェルジュと最先端テクノロジーにより、とことん質の高い睡眠だけに集中する旅、スリープ・ツーリズムも話題となりそうだ。
また自給自足が中心の農耕社会や先住民コミュニティの無駄を省いたライフスタイルを体験することで、人間としての基本に還り、自然とのより良いバランスを学び、旅から戻った後の日常を再構築したいと考える人も増えている。
さらに旅は周囲とより深くつながるためのきっかけ、自己発見を促すツールとして変化していく。旅行者の24%は旅を通してパートナーとの絆を強化したいと考えているほか、39%は新たな出会いの場としてマッチングツアーなどに興味を示しており、35%は失恋の傷を癒すきっかけとして旅を求めているという。
反対に一人旅で自分自身と深くつながり、自分を癒し、自己発見につなげたいと考える人も多い。特に日々子育てに奮闘している世代は、58%があえて子供のいない旅行を計画し、旅を通した自己成長を優先させたいと考えているようだ。
6. 予算と贅沢のバランスがとれたアラカルト旅（A La Carte Affluencers）
Photo by Soop kim on Unsplash
物価上昇による生活費の高騰を始め、世界的な経済危機に拍車がかかった2023年。調査によると、2024年に旅のコストを削減すると答えた人は43％。旅行者の半数が生活圏よりも物価の安い目的地を選ぶと回答したという。また、47％があえて長期休暇を外したオフピークの旅行を計画している。
そんな中でも旅でリッチな気分を味わいたい、裕福に見せたいと考える人は多い。そこで2024年は限られた予算の中でも、節約ハックを利用しながら所々でアラカルトに贅沢を取り入れ、コストと贅沢のバランスがとれた旅をする人が増えるだろう。AIを活用して最適なサービスや特典を見つけ出し、コストをかけずに旅をアップグレードする人も出てくるかもしれない。
また家から近い場所で豪華なホテルにステイし休暇を過ごす、ステイケーションも引き続き人気を集めそうだ。旅行者の約半数は、予算内であればホテルや飛行機、電車をアップグレードすることもいとわないという。
7. 自然を思いやるマインドフルでサステナブルな旅（Mindful Aesthetes）
Photo by Dikaseva on Unsplash
そして2024年、ホテルなどの宿泊施設をはじめとして、旅はデザインと快適さ、環境・社会への配慮を兼ね備えた、より持続可能なスタイルへと変革していく。短期間の旅行だけでなく、生き方としてサステナビリティに配慮し、より意識的で責任ある選択をしていきたいと考える旅行者は増えている。
そんなニーズに応えて、独創的で見た目にも美しく、かつ自然環境を中心に据えた機能やデザインで、革新的に環境や社会の課題解決にアプローチする宿泊施設や観光アクティビティの選択肢が広がってきている。
Livhubで紹介しているサステナブルなホテルの数々もそのうちの一つだ。
環境保護活動家の夫婦が運営するスコットランドのファームハウスで、自分と自然を再生する旅
マレーシアの熱帯の島に息づくポストラグジュアリーなリゾートホテル「The Datai Langkawi」の誓い
宿泊施設だけでなく、観光アクティビティにもサステナブルな選択肢を求める声は大きい。2024は人里離れた場所で地元の人々とつながるローカルな体験や、観光客のアクセスが制限されている秘境などでの特別な体験に注目が集まりそうだ。
自然保護活動などが組み込まれた旅行ツアーを通して自然や地域に貢献する代わりに、観光客のアクセスが制限されている保護区などに独占的にアクセスできるといった旅のかたちも注目されている。
・
旅は、私たちのライフスタイルそのものだ。旅中に感じた自然や歴史文化への敬愛、思いやり、そしてそこに存在する美学を持ち帰り、咀嚼して、世界との深いつながりを胸に自分をアップデートし、実生活をより良い方向に再構築していく。
世界に存在する全てがつながり、人生をより良くするための触媒として影響し合い広がり続ける。だからこそ、その一部となる環境や社会に対しても、より思いやりを持ち配慮した旅ができる。旅はそんな奥深く温かみを持ったかたちへ変化しようとしている。
2024年、あなたはどんな旅を見つけるだろうか。
（※）この度トレンド予測はBooking.comが33カ国27,000人の旅行者を対象に調査を行い、英国、イタリア、ドイツ、スペイン、米国、ラテンアメリカの市場動向などをもとにトップ7が挙げられている。
【参照サイト】Out of Autopilot and Into Our Best Life: Booking.com Shares its Seven Predictions for Travel in 2024
【参照サイト】Travel Predictions 2024
【参照サイト】Booking.com Launches New AI Trip Planner to Enhance Travel Planning Experience
Arisa Kawano
最新記事 by Arisa Kawano (全て見る)
- タイの伝統カキ養殖をデザインとエコツーリズムで蘇らせるAngsila Oyster Scaffolding Pavilion - 2024年1月17日
- 旅行は逃避でなく、より良い人生を送るためのツール。Booking.comが予測する「2024年の旅」とは？ - 2023年12月4日
- 世界で進むアニマルツーリズム規制の流れ。動物や自然を尊重したエシカルな観光のあり方とは？ - 2023年11月20日
- 環境保護活動家の夫婦が運営するスコットランドのファームハウスで、自分と自然を再生する旅 - 2023年11月16日
- ヨーロッパで改めて注目されるクリーンでスローな鉄道の旅。Rail Tourism Awards 2023の受賞者は？ - 2023年10月26日
