世界で進むアニマルツーリズム規制の流れ。動物や自然を尊重したエシカルな観光のあり方とは?

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動物園、水族館、サファリ、サーカス。タイでゾウ乗り、エジプトでラクダ移動など、旅先で何らかの方法で動物とふれあう「アニマルツーリズム」は、多くの人が経験したことがある旅中の体験の一つだろう。悠然とした動物たちの姿は目にするだけで迫力があり、そのエネルギーに思わず圧倒される。そして壮大なパフォーマンスは私たちの心に感動を与え、動物たちとのふれあいは多くの癒しをくれる。

国際的な非営利動物福祉団体World Animal Protectionによると、毎年1億1000万人が世界中の野生動物に関わる観光スポットを訪れているという。(※1)

しかし、そうした観光の楽しみの裏で動物たちに起こっていることに目を向けている人はまだまだ少ないのではないだろうか。

2015年のオックスフォード大学の野生生物保護研究ユニットの調査によると、観光のために苦しんでいる動物は世界で55万頭にものぼる。(※2)

例えば、タイやベトナムなどの東南アジアで有名なゾウ乗り体験は、その裏にゾウが小さな檻に閉じ込められたり、ロープや鎖で縛られたり、人間の思い通りに動かすために調教として鞭や木の棒などで痛めつけられたりしている可能性がある。また、観光利用のために小さな子供のゾウが母親から引き離されてしまうこともある。

コアラやキリンとのふれあい体験、チンパンジーやトラの赤ちゃんとの写真撮影、イルカやシャチのショーなど、あらゆる動物観光アクティビティにも同じことがいえるだろう。

たとえ肉体的な危害が加えられずとも、小さな柵の中で自由に動き回ることができない状態や、ショーパフォーマンス、人間との写真撮影や交流などは、動物に不自然な行動を強いることになり、心理的苦痛を引き起こす可能性がある。

そうした現状の中、海外では動物福祉や倫理的な観点から動物を観光のために利用することを問題視する声が日に日に大きくなっており、動物に悪影響のある観光に制限がかかろうとしている。

イギリス政府は2023年、観光で利用される動物の保護を目的として、政府が特定の野生動物観光の販売や宣伝を禁止することが可能となる新しい法律を可決した。同年12月に施行されるこの法律は、動物と観光客との強制的な写真撮影や、残酷な訓練、薬の投与、監禁といった非倫理的な動物観光が規制の対象となる可能性が高い。

またイギリス最大の旅行協会ABTAやオランダの旅行協会ANVRは、会員の旅行会社やサプライヤーなどに向けて、観光業における基本的な動物福祉の要件や、動物観光において容認されない行為などが明確に示された動物福祉ガイドラインを提供している。

そのほか旅行業界に携わる企業も、野生動物を対象とした観光プログラムの取り扱いを見直し始めている。例えば、オーストラリアの旅行会社Intrepid Travelは、2014年に旅行会社としては初めてゾウ乗りを禁止。AirbnbやBooking.com、The Travel Corporationは捕獲された野生動物によるエンターテイメント観光などを積極的に削除し始めているほか、トリップアドバイザーなどでは動物観光のチケット販売を取り止める動きもあるという。

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Photo by Frederico Ribeiro on Shutterstock.com

アジア圏でも動物福祉に配慮した観光の取り組みとして、動物虐待をなくすことを目的とした慈善団体アニマルズ・アジアがベトナム・ヨクドン国立公園と提携し、2018年から倫理的なゾウ観光のプログラムを開始している。このプログラムでは観光客が一定の距離を保ち、ゾウの生活を尊重しながら静かに観察するため、ゾウは公園内を自由に歩き回ったり、餌を食べたり、休んだり、眠ったりすることができるという。

日本ではまだまだ、アニマルツーリズムがもたらす動物への負の影響について取り上げられることは少ない。しかし海外では新型コロナのパンデミックが収束し、一旦停止した観光の波が再び大きく動き出したことで、改めて地球環境や野生の生態系に配慮したサステナブルでエシカルな観光のあり方が模索されはじめているところだ。

旅の恩恵を受け、自然のインスピレーションに生かされている者として、私たちはまず、動物観光のエンターテイメントの裏で起きている事実について理解を深めることが重要だろう。そして動物福祉に配慮した倫理的な観光とは何なのか、個々の動物の特性を自然のままに尊重しながら楽しむ観光のあるべき姿について一つひとつ考えていきたい。

(※1)World Animal Protection/The Real Responsible Traveller
(※2)Euronews/Elephant rides and circus shows: New UK law clamps down on ‘cruel’ animal tourism abroad

【参照サイト】Elephant rides and circus shows: New UK law clamps down on ‘cruel’ animal tourism abroad
【参照サイト】THREE THINGS TO CONSIDER BEFORE SELLING ANIMAL EXPERIENCES
【参照サイト】Animals Asia Foundation
【参照サイト】The ABTA Animal Welfare Guidelines basic welfare requirements and unacceptable practices
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Arisa Kawano

旅は国内も海外も街歩き派。レトロモダンな雰囲気の場所・モノコトに心惹かれがちです。フランスとカナダ滞在を経て、多様なライフスタイルに触れライターに。つい足が向くのは海沿い、テラスのある店、昔ながらの路地、蚤の市など。"バル飯"や"アペロ"が口福ワードです。