ヨーロッパで改めて注目されるクリーンでスローな鉄道の旅。Rail Tourism Awards 2023の受賞者は?

Rail Revival

陸続きで異なる国の都市と都市がシームレスにつながるヨーロッパ。移り変わる風景や文化を、ゆったりと眺め味わう列車の旅の醍醐味が存分に味わえる場所だ。

パンデミックが明けて人々の足が再び外へ向き始めている今、航空券の価格上昇や、気候変動への意識の高まりから、ヨーロッパでは改めて鉄道の旅に注目が集まっている。

例えばロンドン – パリ間の移動では、飛行機は電車の14倍も多くのCO2を排出するといわれる。空を飛び一瞬で移動するより、クリーンな交通手段を使い、移動時間さえ旅の一つの楽しみとして、まだ知らぬ地域の魅力や文化体験を自分の目で見つけるスローな旅を求める声が高まっているのだ。

そんな中、10月3日「Rail Tourism Awards(レイル・ツーリズム・アワード)」の2023年の受賞者が発表された。

2021年から欧州旅行委員会(ETC)とEurail(ユーレイル)が開催する「Rail Tourism Awards」は、ヨーロッパを鉄道で旅するスリル、自由、そして持続可能性を紹介する優れた旅キャンペーンを讃える賞だ。

ヨーロッパのまだ知られていない地域の認知度を高めながら、飛行機に比べてCO2排出が少ない鉄道での旅を推進し、人々に持続可能な旅の体験を広めていくことなどを目指して開催されている。

3回目の開催となる今回は、鉄道事業者や観光団体、マーケティング代理店など、ヨーロッパの旅行業界の多様な団体がエントリー。過去最高となる31件のエントリーの中から、3組の受賞者と佳作1組が選ばれた。

表彰式典の開催地、オーストリアの観光国務長官であるスザンヌ・クラウス・ウィンクラー氏は「持続可能な旅行を望むゲストは増えている。Rail Tourism Awardsは既存モビリティのオファーとその利点を宣伝するための最高のプラットフォームだ。」と述べている。

2023年の受賞者は、スイス観光局、オクシタニー地域観光レジャー局、ウィーン観光局、そして佳作にスペイン国鉄 Renfe(レンフェ)とTurismo de Galicia(ツーリズモ・デ・ガリシア)。

「Grand Train Tour of Switzerland: The Ride of a Lifetime(壮大なスイス鉄道の旅: 一生に一度の乗車体験)」:スイス観光局

最優秀鉄道観光キャンペーンを受賞したのは、スイス観光局がスイスの息を呑むような風景と優れた鉄道インフラをユーモアのある魅力的な映像で伝えた「Grand Train Tour of Switzerland: The Ride of a Lifetime(壮大なスイス鉄道の旅: 一生に一度の乗車体験)」だ。

この短編映画は、広告の撮影を始めようとしたところ、うっかり違う電車に乗ってしまったフェデラーとノアが、スイスの山々を曲がりくねって進む列車の旅の魅力を乗客とともに味わうストーリーとなっている。

スイスは鉄道インフラに世界クラスの投資をしてきた国でもある。スイス鉄道での旅の美しさと、設備の整ったスイス鉄道の魅力を快活なストーリーテリングとクリエイティブな映像で表現したキャンペーン映像はYouTubeで8,200万界再生された。

「Occitanie Rail Tour(オクシタニー鉄道ツアー)」:オクシタニー地域観光レジャー局

次に南フランスのオクシタニー地域観光レジャー局の「Occitanie Rail Tour(オクシタニー鉄道ツアー)」は、ベスト地域キャンペーン賞を受賞。観光客が車を使わずに、壮大な自然の風景や本格的な文化体験をシームレスに味わえるオクシタニー鉄道ツアーの魅力を存分にアピールした。

ピレネー山脈とセヴェンヌ山脈の間に広がる穏やかな自然や、悠久の歴史が織りなす文化的な魅力を持つオクシタニー地域では、連続2~6日間、1日10ユーロで周辺を無制限に移動できるレイルツアー・パスが利用できる。今回のアワードでは、持続可能な交通手段を見つけるのが難しいといわれる旅の最後の区間「ラストマイル」の解決策として、鉄道の旅を提案するキャンペーン内容が賞賛された。

また、テレビやソーシャルメディア広告のほか、サイクリングアプリとのコラボレーション、オーダーメイドのミシュランガイドなど、さまざまなチャネルを組み合わせ、幅広い旅行者とつながる革新的、かつ包括的なマルチメディア・アプローチも受賞につながった。

「Vienna by Train – Uniting Cities(鉄道で行くウィーン – 都市をつなぐ)」:ウィーン観光局

そして最優秀越境キャンペーンを受賞したのは、「Vienna by Train – Uniting Cities(鉄道で行くウィーン – 都市をつなぐ)」と名付けられたオーストリア、ウィーン観光局のユニークなキャンペーンだ。

ウィーンは国境を超えて都市をつなぐヨーロッパの鉄道ハブ拠点となることを掲げ、2022年、100人の訪問客ごとに1人のウィーン人をヨーロッパの他の都市に派遣したという。

今回の受賞キャンペーンでは、鉄道によるウィーンの旅が各国の都市間の連帯を促し、豊かな文化的出会いを育みながら、地元企業を支えて住民の生活の質を向上させ、地域社会に新たな命を吹き込むことをオーストリア人のユーモアセンスを交えてプロモートした。

審査員はキャンペーンの創意工夫、想像力、機知などを賞賛。1億4,300 万のインプレッションを集めたことや、ツァイト、南ドイツ新聞、ラ・レプブリカなどの主要メディアにも注目されたことも評価した。

「Trenes turísticos en Galicia (Galicia region tourist trains):ガリシア地方の観光列車」:レンフェ / ツーリスモ・デ・ガルシア

最後に、スペイン国鉄 Renfe(レンフェ)とTurismo de Galicia(ツーリズモ・デ・ガリシア)による「Trenes turísticos en Galicia (Galicia region tourist trains):ガリシア地方の観光列車」が佳作を受賞した。

このキャンペーンでは14の観光鉄道路線を回りながら、魅力あふれるガリシア地方のユニークな美食、風景、歴史をなどゆっくりと味わうスローな鉄道での旅体験を提案している。より本格的な体験と地域の隠れた魅力を発見する機会にあふれていること、そして持続可能な観光を促進するスロートラベルに対するガリシア人の熱意が支持された。

特に審査員は、旅行者と地元住民との共生関係に感銘を受けたという。このキャンペーンは独立系のビジネスや観光スポットの発展、地域の伝統や工芸品を保存にも貢献している。ガリシア地方の観光列車は、座席占有率90%と過去1年間で大きく成長し、これまで観光客の少なかった地域にも大きな影響をもたらした。

各都市、各地域でさまざまな観光ツアーが展開され、今後も、より魅力が増しそうな鉄道の旅。2023年には、ヨーロッパの寝台列車ネットワークも拡大予定だ。

列車に乗り景色を味わいながら、ゆっくりとした時の流れを感じ、まだ知らぬ地で人と出会い、歴史や文化を味わい愉しむ。それが自分とその地域を育むことにつながったら、どんなに豊かな旅となるだろう。

地球にとっても、都市や地域にとっても、人にとっても持続可能な旅のあり方を探して、今ホットなヨーロッパでの鉄道の旅をチェックしてみてはいかがだろう。

【参照サイト】Rail Tourism Awards
【参照サイト】EUROPE’S RAIL TOURISM CHAMPIONS UNVEILED AT WORLD PASSENGER FESTIVAL 2023
【参照サイト】Euro News/This viral advert has won an award for showing off the best of Europe’s rail network
【参照サイト】Occitanie Rail Tour The fabulous trip by train
【参照サイト】Turismo de Galicia.

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Arisa Kawano

旅は国内も海外も街歩き派。レトロモダンな雰囲気の場所・モノコトに心惹かれがちです。フランスとカナダ滞在を経て、多様なライフスタイルに触れライターに。つい足が向くのは海沿い、テラスのある店、昔ながらの路地、蚤の市など。"バル飯"や"アペロ"が口福ワードです。