時を超え、内なる旅へ

旅は、未来への羨望のみならず、過去への内省の行為でもある。

明日はわたしの28歳の誕生日でもあり、待ちに待ったドイツへの旅に出る日。
28歳はじめての日に、20歳/ハタチのときに留学していたドイツ西部の都市・ケルンに降り立つと決めた。
自分の歩んできた軌跡を振り返るために、人生を大きく変えたあの街に帰りたくなったのだ。

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Photo by Lucas Carl on Unsplash

少しノスタルジックな気分で、キャリーバッグに1ヶ月分の服、カメラ、本をぎゅうぎゅうに詰めこむ。旅先での生活を想像しながら、自分のお気に入りのものたちをたぐり寄せるこの時間も旅の醍醐味だ。

わたし専用のキャリー宝箱を転がして空港に向かうさながら、いま聴きたい音楽をスマホで探す。
ヘッドホンを装着すると、あの時、あの場所で聴いていた懐かしいメロディが流れる。
電車にゆられながら、心も旅先へ、揺れ動いていく。

飛行機のアナウンスでふと、目が覚める。
どんな環境でも眠れてしまうのが特技なので、搭乗してからこけっと熟睡していたようだ。
寝ぼけまなこで窓の外に視線をうつすと、メルヘンな家屋、教会が砂つぶのように点在し、街は真っ白な雪に覆われている。つい1週間前まではほぼ常夏のタイにいたため、銀世界の光景に心が躍る。

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Photo by Yunus Gogce on Unsplash

飛行機は無事に空港へ降り立ち、早朝のケルンの街へ足を運ぶ。
ケルンのシンボルともなっているケルン大聖堂は、1248年に建設がはじまってから、そこにいつも、悠々と、荘厳にそびえ立つ。大聖堂前の広場にはまだ人は少なく、静寂な中、しんしんと舞う雪に目を奪われる。
降っては積もる雪のように、さまざまな感情も降り積もっていく。

ケルンはわたしが1年間、交換留学で過ごした思い入れのある街だ。

初めての一人暮らし、
初めての海外での生活、
初めてできた恋人。

国際色豊かな友人たちと夜な夜なボードゲームをしたり、お風呂場でなぜか急に断髪式をみんなで始めたり、スーパーでHariboというドイツのグミやらチョコレートを大量買いして食べ比べをしたり、小さなスクリーンを囲むようにして自分の出身国の映画を観あったり。

ちょっとくだらない、平凡で、穏やかで、思い出してはふっと笑みが溢れるようなたくさんの思い出たち。こうした記憶の中の愛おしい経験たちは、誰にも邪魔されることのない、自分だけの花園だ。

そんな記憶を思い返しながら、8年前のあの日何気に歩いていた道を、再びゆっくり歩んでいく。さっきまで降っていた雪はいつの間にかやみ、石畳の道に薄くかかった雪は太陽の光で溶けながら、きらきらと輝いていた。

ケルンを離れていた8年という歳月の中で、世界を駆け巡るように旅をし、新たな人、文化、風景との出会い、別れを経験した。酸いも甘いも噛み分けて得た愛おしい思い出たちは、わたしが生きている限り、心の片隅にいつでも佇んでいる。時が過ぎても色あせることなく、その温かな輝きを失わずに。

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Photo by Eric Weber on Unsplash

旅は、新しい目的地に向かうだけでない。これまでの人生で出会ったひと、もの、自分の思いや考えの変遷を振り返ることでもある。過去に「ただいま」と帰り、歩を進めるための魂への処方箋。

自分の過去、現在と向き合い、これからの未来をとことんご機嫌に楽しみながら、前進するために。「あのとき、あの選択をしてよかったな」
ふっとそう思えるような今を創っていくために。

そして、日々のなかで、つらくなったり心が折れそうになったら、再びあの場所を、人を、風景を振り返ってみればいいのだと思う。命あるかぎり、自分だけの花園はいつでも、どこにいてもそこにある。

森羅万象、すべての事象は過去から未来へとつながる奇跡の軌跡だ。
ありふれた、穏やかで、儚い、奇跡ともいえる日常を今日も送れますように。

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鷹永愛美

神奈川県横浜市出身。日々旅にして、旅をすみかとするデジタルノマド。わたしはどこから来たのか、わたしは何者か、わたしはどこへ行くのか探究中のスナフキン系女子です。文章やデザインを創りながら、世界の片隅で読書、バイク、チェス、格闘技に明け暮れている今日この頃。旅暮らしの様子はこちらから。