日常から逃避したい…
私たちはしばしばそのような思いから、旅に出る、という選択をとってきた。しかし、旅先にも、旅先の人々の日常がある。その事を忘れ、自分たちにとっての非日常を満喫することで、無意識に旅先の日常を阻害してきたがゆえ、オーバーツーリズムなどといった問題が観光地には見られるようになった。
「旅先の日常に飛び込もう」をコンセプトに掲げ、現在大阪で2つのホテルを運営するSEKAI HOTEL(セカイホテル)は、ホテルを通じて、観光客と地域、そしてホテルとが“Friendship”でつながることのできる旅を提案している。手がけるのは、中古住宅や長屋、オフィスのリノベーション事業を行っているクジラ株式会社。
これまでの観光は、ガイドブックに掲載されているような、有名観光地に存在する歴史的建造物やランドマークが目的となっており、地場に根付いている農水産業や工芸品がお土産として選ばれていた。こうした「消費する観光」では、本来のその土地の魅力が見い出せない。そう考えたSEKAI HOTELは、地域(観光地)と観光客が「共存する観光」のあり方を、新しい旅の選択肢として入れてみてはと提唱。
「その観光スポットが作られた経緯は?」「そのお土産のルーツは?」と、地域の人柄や文化の紐解いた先にあるコミュニティに価値を見出し、観光客を迎え入れるための“Hospitality”だけではなく、みんながつながれる“Friendship”に重きを置いた観光を提案する。また、この“Friendship”によって生まれる新たな価値を「ORDINARY」と称し、コンテンツ化。駄菓子屋で飴をおまけにしてもらったり、行きつけのお店で裏メニューを提供してもらったりするような、ガイドブックには決して載らないローカルライフな体験を提供する。
そして現在、2022年のオープンに向けて、富山県は高岡市に「SEKAI HOTEL 高岡」の開発を進めている。以前、2020年春オープンを目指してSEKAI HOTEL初のパートナーシップ事業を行うことを発表していたが、コロナ禍で開発が一時休止されていた。
富山県高岡市は、新型コロナの感染が拡大する前は、年間380万人を超える観光客で賑わう街だった。ドラえもん作者である藤子・F・不二雄氏の生誕地としても有名で、国宝「瑞龍寺」や雨晴海岸などがある。また、約400年前に前田利長公が開町の際に7人の腕利きの鋳物師をはじめ、さまざまな職人たちを招いたことをきっかけとして、日本随一のものづくりの街として栄えてきた。
2022年オープン予定のSEKAI HOTEL 高岡は、藤子・F・不二雄氏も通ったといわれる、高岡市で65年超の歴史を誇る老舗本屋「文苑堂」の本社跡地にフロントを構える。技術や歴史が彩る素晴らしい拠点であり、SEKAI HOTELは新たな観光のあり方を見据え、高岡市を支えている富山・高岡独自の風習や文化、また地域住民の日常を「ORDINARY」として提供していくという。
現在運営中のSEKAI HOTEL Fuse(大阪府東大阪市)では、モノづくりの街・商人の街である布施だからこそ、触れることのできる“粋なはからい”を観光体験の中心に据えている。街の至る所で地域事業者や住民と挨拶や会話が交わされ「飴ちゃん持っていき!」というようなコミュニケーションが生まれているほど。
富山・高岡でも、その地域の人たちだけが知る雨晴海岸のベストスポットに行けたり、おろしれんこん汁やとろろ昆布おにぎりなどの家庭料理をいただけたり、鰤の半身返しに代表されるような地域に根付いている習慣に触れたり。その地域住民にとっては当たり前の日常や地域住民との交流が楽しめる「ORDINARY」が待っている。
SEKAI HOTELの創業は2017年とまだ新しい。2022年にオープンするSEKAI HOTEL 高岡では他にもどんな体験ができるか。地域の人と「共存する観光」に期待がふくらむ。
【参照サイト】SEKAI HOTEL(セカイホテル)
明田川蘭
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