未来へとつながる旅をしたい。
ただ何となく人気だからと、誰もが知る観光地へ行くのではなく、お寺に泊まって日本の文化に触れたり、電気もガスも通らない施設で自然の恵みだけで滞在する体験をしたり。
または「若い頃はいっぱい行ったのよ」と思い出に浸るばかりで、もう旅をすることを諦めてしまった、おじいちゃんやおばあちゃんとバリアフリーの旅をするのもよいだろう。
感動を体いっぱいに取りこみ、旅を通じて、これまで経験したことのない学びや発見を得る。
そんな深い感動の旅を、してみたい。
「感動地」にふさわしい地域や企業が受賞するアワード
ただの観光地ではない “感動地” にふさわしい地域や企業を表彰する「ジャパントラベルアワード」。
2021年に発足し、今年で3年目。この度、2024年の受賞者が発表された。
運営は、グローバルや多様性社会の視点でのブランディング、コンテンツ制作、マーケティングを得意とする、株式会社しいたけクリエイティブ。観光からより良い社会をつくることを目的とし、観光における DEI(Diversity, Equity, Inclusion = 多様性、公平性、包括性)、サステナビリティ、インバウンドへの取組みを審査基準としている。
今年は、過去最多となる163件のエントリーから18の地域や企業がファイナリストに選ばれ、審査員による現地審査を経て、グランプリ・部門賞・特別賞が発表された。
「JAPAN TRAVEL AWARDS 2024」を受賞した、地域や企業
2024年、ジャパントラベルアワードで受賞した、11の地域や企業を紹介する。
【グランプリ】ゼログラヴィティ清水ヴィラ(鹿児島県瀬戸内町)
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「ゼログラヴィティ清水ヴィラ」は、車いすの方が安心してマリンアクティビティを楽しめる専門施設。宿泊施設もあり、自社船、プール、全てがバリアフリー設計となっている。宿は、鹿児島県にある奄美大島の自然豊かな南部(瀬戸内町清水)に位置。奄美空港からは車で100分ほど。清水ビーチまでは徒歩10秒という立地で、目の前に海が広がっていて、様々な海遊びをするのにとっても便利だ。
今回グランプリに輝いた理由は、障害の有無にかかわらず、誰もが大切な人と一緒にマリンスポーツを楽しめる工夫や努力が、当アワードの価値観と共鳴したこと。審査員の心にも深く響き、高い評価を受けた。
【アクセシブル部門】なにわ一水(島根県松江市)
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宍道湖畔沿いに立つ「なにわ一水」は、さまざまなバリアフリーに注力する1918年創業の老舗旅館。今回、アクセシブル部門と宿泊施設部門で、W受賞している。
こちらのホテルでは、「すべての方に快適な滞在をお届けしたい」という想いから、パブリックスペースや客室、温浴施設など館内の随所にバリアフリー対応をしつらえている。温泉旅館のユニバーサルデザイン化への取り組みが評価され、ユニバーサルデザインの国際表彰「IAUD国際デザイン賞2020」では旅館・ホテルとして初の金賞も受賞している。
そして今回の受賞では、車椅子ユーザーや視覚障害者向けだけでなく、食のバリアフリーにも取り組むなど、改善を重ね続ける姿勢が評価された。
【LGBTQ+部門】ホテルパームロイヤルNAHA国際通り(沖縄県那覇市)
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壺屋やちむん通り、牧志公設市場、牧志駅まで徒歩4分圏内という好アクセスな場所に建つ「ホテルパームロイヤルNAHA国際通り」。こちらのホテルでは、全ての人に優しく自分らしく暮らせる島「ダイバーシティアイランド沖縄」の実現を目指しており、2014年より全国のホテルに先駆けLGBTQフレンドリーホテルとして宣言。館内外にレインボーフラッグを掲げ、2016年にはホテルとして九州沖縄初のジェンダーフリートイレを設置している。
毎年行われる様々なLGBTQの啓発イベントに協賛しており、沖縄県性多様性検討委員会をはじめ委員那覇市男女共同参画会議副委員長などLGBTQに関わる委員会、組織の中核としてダイバーシティーアイランド沖縄の実現に向けて持続可能な取り組みを行っている。
この度の受賞では、LGBTQ+フレンドリーなホテルだと明確に可視化、また、イベント開催や協賛活動を通して地域のLGBTQ+コミュニティを継続的にサポートする姿が評価された。多くの観光事業者の模範となることが期待されている。
【サステナブル部門】沖縄ダイビングサービス Lagoon(沖縄県恩納村)
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沖縄ダイビングサービス Lagoonは、海洋保護・保全またはダイビング業界の持続可能性へ積極的に取り組んでいるPADIダイブセンターやリゾートに授与される「PADI Eco Center™」を、日本で初めて取得した施設だ。シュノーケルやダイビングなどを通じて、恩納村の魅力や沖縄の自然の美しさを伝えるべく、自然・人・動物・環境に優しいエシカルツアーを開催している。
この度、サンゴ苗作り体験やサンゴ植付け観察シュノーケルなどのサンゴプログラムが、ジャパントラベルアワードを受賞した。珊瑚について学んだ後は、自分で作ったサンゴ苗を海に植え付け。サステナブルな活動に興味があってもなくても楽しめて、環境保護に貢献できる。レスポンシブル・ツーリズムの教科書のような魅力的な体験が評価された。
【インバウンド部門】行学院 覚林坊(山梨県身延町)
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覚林坊は、日蓮宗総本山である身延山久遠寺の塔頭寺院にある宿坊。ここでは和の空間が広がる20の客室をもち、精進料理をアレンジした美味しい懐石料理や宿坊ならではのアクティビティなど、日本の伝統・文化を体験できるとあって、多くの外国人に人気だ。宿では、伝統的な婚礼に用いられる着物を使った本格的な着物体験や、書家の先生の丁寧な指導のもと、自身の名前や家族の名前を写す写経体験、僧侶による家内安全や傷病平癒を祈る読経体験など、さまざまなアクティビティが用意されている。
今回の受賞では、宿坊体験を本質的な形で提供しつつも、外国人フレンドリーな形へと昇華させた創造力。そして、多言語対応、多様な文化体験、ハラルを含む多様な食体験で、外国人旅行者が心から楽しめる体験の構築が評価された。
【文化部門】海女小屋体験施設さとうみ庵(三重県志摩市)
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海女小屋とは、海女さんが漁で疲れた体を休めたり、火を焚いて体を温めたりする小屋のこと。漁へ行くための準備や着替えも海女小屋で行う。さとうみ庵には、それぞれタイプが異なる3棟の海女小屋がある。ここでは海女小屋体験ができ、現役や現役を退いた海女さんから海女漁や海の話を聞きながら、伊勢志摩の海で獲れた新鮮な魚介類を堪能できる。3棟合わせて最大77名まで収容可能な小屋からは、海を見ることができ、食事をしながら波の音や風景を楽しめる。
今回の受賞では、海女さんとの交流というユニークな観光体験を旅行者に提供しながらも、季節や天候に左右されがちな海女さんの副収入に繋がるという側面から、地域の誇る文化遺産の保護に大きく貢献していることが評価された。
【ファミリー部門】森の国 Valley(愛媛県松野町)
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森の生態系が息づく渓谷の里「森の国 Valley」。ここでは生態系の循環を尊重し、できるだけ自然本来の力だけで、持続可能で人間らしい営みづくりをしている。施設としては、四万十川源流の滑床渓谷に佇むロッジ型の宿泊施設「水際のロッジ」や、さまざまなキャンププログラムが行われる「水際のCamp-us」、農業体験や目黒川沿いのサウナが体験できる「Meguro Farm & Village」がある。
ありのままの大自然に囲まれて、心と身体がゆっくりと自然に調和していく。そうした神秘的で穏やかな時間は、人々に多くの発見や学びを与える。今回の受賞では、日々の暮らしや自然との共生について考えるきっかけを、工夫を凝らしながら大人にも子供にも提供していることが評価された。
【観光開発部門】戸隠ユニバーサルツーリズムデスク(長野県長野市)
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古道や神社、そして大自然が魅力の戸隠。戸隠観光協会では、車椅子利用者や何らかのお手伝いが必要な方、すべての人々が安心して訪れることができる観光地を目指して、ユニバーサルツーリズムデスクを開設している。
アウトドア用車椅子やJINRIKI(車椅子けん引装置)を使えば、これまであきらめていたトレッキングやキャンプ、スキーも楽しむことができる。また、戸隠ユニバーサルツーリズムデスクには、戸隠の自然と歴史に詳しく、自身も車椅子利用者であるユニバーサルフィールドコンシェルジュがおり、観光のアドバイスやお手伝いができるトラベルサポーターも手配できる。
今回、アウトドア用車椅子などの貸出をすることで自然や歴史を壊すことなく、障害を抱える旅行者が家族や友人と同様に楽しめるようにしたこと等が評価された。
【トランスフォーマティブ・トラベル部門】田歌舎(京都府南丹市)
古き良き日本の原風景の色濃く残る、山里・京都美山にある「田歌舎」。農業・狩猟・採集・牧畜・建築などの自給的な暮らしを営みながら、宿泊・レストラン・アウトドア/自然体験、ジビエ獣肉販売を行っている。食事で提供される野菜類は、化学肥料を一切用いず「循環農法」とも呼ばれる、地域循環や自社循環で生み出す堆肥を用いて育てたもの。お肉は、狩猟を行って得たものだ。
ここでは、自給自足を目指す集団のライフスタイルや自然や動物との共存について、真正面から向き合い、食を通じて食べ物のありがたみを感じたり、自然がもつパワーに感動したりすることができる。今回の受賞では、表面的でない持続可能性について深く学び、考えるきっかけを旅行者へ与えていることが評価された。
【トランスフォーマティブ・トラベル部門】INOW(徳島県上勝町)
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人口1,400人ほどの四国一小さな町、上勝町にある「INOW(いのう)」。上勝町は、葉っぱビジネス「いろどり」や「ゼロ・ウェイスト」というごみをゼロにすることを目標としてごみの細分別、再資源化に取り組む活動を行っている。そうした街でINOWは、日本初のゼロ・ウェイストの取り組みの背景や住民の暮らしぶりを、多角的に外国人旅行者に伝える滞在型ラーニングプログラムを提供している。茶摘み体験や堆肥作り、季節の食材を使った料理など、自然豊かな地域ならではのさまざまなプログラムも体験可能だ。
今回のアワードでは、地元住民や企業との交流を通じて旅行者に知恵を共有する、まさに変革的で教育的な体験であることが評価された。
【宿泊施設部門】なにわ一水(島根県松江市)
宍道湖の畔に静かにたたずむ、温泉旅館「なにわ一水」。今回、アクセシブル部門と宿泊施設部門においてW受賞した。ここでは、時とともに移りゆく湖の景色を眺める、静かな休日を過ごせる。館内には温泉やスパがあり、柔らかな湯ざわりの松江しんじ湖温泉を楽しめる。そして、地元山陰の素材をふんだんに使った会席料理もいただける。ゲストに優しい宿であるために、パブリックスペースや客室、温浴施設など館内の随所には、バリアフリー対応をしつらえている。
この度、宍道湖を見渡すロケーション、豪華な客室、そして卓越したバリアフリー対応に注がれた努力と情熱が評価された。進化を続ける老舗旅館は、宿泊施設のおもてなしのあるべき姿を示しており、全ての宿泊施設のお手本となるにふさわしい宿と言える。
最後に
今回受賞された宿や施設はどれも、日本の未来につながる取り組みを行っているところばかりだ。農業や狩猟を通じて食のありがたみを感じたり、サンゴの植え付けを行うことで、海の生態系について学ぶことができたり。
心が深く動くような感動がおこる旅は、その体験を通じて、これから訪れる未来を考えるきっかけを作ってくれるかもしれない。ぜひあなたも、これまで経験したことのない学びや発見を得る旅へ、出かけてみてはいかがだろう?
【参照サイト】Japan Travel Awards 2024
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明田川蘭
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