人と人の想いを共有し、未来へつなぐ旅。「サステナブルな旅AWARD」2023年受賞商品決定

阿蘇

せっかくの旅行だから、ガイドブックや旅行サイトで必ず紹介されているような観光地やレストランへ行くのではなく、地元に寄り添うような、その土地に住む人が本当に胸をはっておすすめするスポットや食にありつきたい。

そう願うトラベラーも少なくないだろう。

旅先には、その土地に住む人の暮らしや文化、慣習というものがある。世界中どこ行っても同じだ。だからこそ「その土地のローカルを知りたい」というトラベラーと、「街を守りたい」という願う住人の想いを、上手く共存させていく方法を考える必要がある。

サステナブルな旅の浸透

サステナブルな旅とは、単に旅行を楽しむだけではなく、観光により旅行先の地域資源を持続的に保ちながら、そこに暮らす人々の生活も豊かになるように考えられた旅のことだ。

海外では特に欧州を中心に、「旅においてもサステナブルな選択をしたい」といった意向が高まっており、持続可能な観光の取組みを行っているかどうかが旅行者のプラン選択の基準になるほどだ。日本はというと、どうだろうか?読者それぞれのなかにその答えはあるだろう。

そうした背景も踏まえ、持続可能な観光を日本にも浸透させることを目的として、観光庁主催で「サステナブルな旅AWARD」が発足された。本アワードをきっかけに持続可能な旅行商品が増加し、旅行者にとって魅力的な旅行の選択肢が広がることを目指している。

この度、サステナブルな旅AWARDの各賞が決定し、10月27日に大阪で開催された「ツーリズムEXPOジャパン2023」で表彰式が行われた。

受賞したサステナブルな7つの旅

日本国内の旅行業者から寄せられたサステナブルな旅行商品について、持続可能な観光に対してさまざまな視点からの知見を持つ有識者が審査を行い、優秀な商品を選定した。 大賞1点、準大賞2点、特別賞4点を紹介する。

1)【大賞】牧野ガイドと道なき道をいく草原体験

受賞者:阿蘇温泉観光旅館協同組合
商品名:特別な許可を得て草原体験!噴煙を上げる阿蘇中岳火口と「千年の草原」E-MTBライド

こちらのツアーは、約1万3千年前、縄文時代から存在し、長年放牧や野焼きなど人々が手を入れることで守り受け継いできた熊本県阿蘇市にある「千年の草原」が舞台。人間にもさまざまな恵を与えてくれる草原だが、現在過疎化や人手不足により消滅の危機にさらされているという。この草原を守り続け、次の千年に守り伝えていくために生まれたのが本ツアー。ツアーには、一定の研修を受けたガイド「牧野ガイド」が同行し、普段は立ち入れない草原を安全・安心に保全・活用していくためのガイドラインを遵守しながら案内してくれる。また、参加代金の一部は草原の保全料として、野焼き等の草原の保全活動に還元している。

【選考ポイント】
「大賞」を獲得した阿蘇温泉観光旅館協同組合の「特別な許可を得て草原体験! 噴煙を上げる阿蘇中岳火口と『千年の草原』E-MTBライド」が特に優れている点は、ツアー実施のための仕組みが地域社会のなかに組み込まれていることです。牧野(草原)は阿蘇の大きな魅力ですが、一般人の立入は禁止です。人口減や産業構造の変化等から牧野は減少を続けています。そこで、牧野を観光的に活用することで社会課題を解決しようというのがこの企画です。特別に立ち入りが許される牧野ガイド認定の仕組み、活動ガイドラインの策定、牧野保全料をツアー価格に組み込むことでの安定した資金還流の仕組み等が次々と実現しています。旅行者は人数制限された牧野をゆっくりと楽しみ、地元は新しい収入源の確保につながり、牧野の環境も保全されるという「三方良し」の循環モデルの創出です。(審査員長 小林英俊先生より)

2)【準大賞】自ら責任ある旅行者として地域に貢献する旅

受賞者:Tricolage株式会社
商品名:Connecting to Yatsugatake

「忙しない都会から少し離れて大地の恵みをゆっくり感じたい」「サステナブルに旅行がしたい」と感じている人たちに向けた、旅全体を通して持続可能な土地“Yatsugatake”を体験し、自ら責任ある旅行者として地域に寄与できる旅。パーマカルチャー農業体験、ナチュールワイナリー見学、ヨガランチ、文化乗馬体験などの特別アクティビティにより、八ヶ岳の生活に触れることができる。

【選考ポイント】
サステナブルツーリズム分野において日本で初めて国際認証を取得した旅行会社がサステナブルな意識を軸に旅行者と地域をつなぐ企画です。旅行スタート時に旅行者には「責任ある旅行者ガイドライン」誓約書へのサインをお願いし、終了時に宿泊費の一部を3つの寄付先候補(選択肢)から選んでもらいます。宿泊も国際認証を受けた宿泊施設で、趣旨に賛同する地域住民が体験プログラムに参画しています。

3)【準大賞】漁村の震災復興と守りつなぐ海山体験

受賞者:株式会社かまいしDMC
商品名:漁村集落の小さなお宿交流と漁民が守りつなぐ海山体験

廃園した元保育所の園舎をリノベーションし、地域みんなで見守る地域型民泊としてスタートした「御箱崎の宿」。津波で民宿を流された女将を中心に、町内住民が協力して収穫する新鮮な海の幸と地元の郷土料理で地産地消をかなえ、サステナブルかつ高質なおもてなしとあたたかな交流に出合える。このツアーで楽しめる、陸域の「千畳敷トレッキング」、海域の「漁業見学体験」は、いずれも三陸復興国立公園内で体験でき、守るべき希少な環境資源であるとともに、漁民自身が大切に守り続けている文化そのものであり、観光を通じて地域へ貢献している。

【選考ポイント】
サステナビリティをテーマに地域が一体感を持って震災からの新しい魅力づくりに取り組んでいます。元保育所をリノベーションして地域の皆が見守る地域型民宿としてスタートさせ、ここを拠点に地元民が地域の自然・文化をガイドする体験プログラムを開発しています。漁村のサステナブルかつ高質なおもてなしが滞在者とのあたたかな交流を生み出し、アクセスの不便さを凌ぐ魅力となっています。

4)【特別賞】江戸の匠・職人を見て、伝統文化の今を知る

受賞者:クラブツーリズム株式会社
商品名:台東区の歴史・文化・魅力を再発見!“江戸の匠・職人”を撮る~第 3 弾~

こちらのツアーは2021年よりスタートし、今年度で3作目となるシリーズ企画。普段は撮影できない「職人の姿」を撮影する機会を提供する高付加価値型のツアーだ。職人撮影の機会提供だけでなく、仕事へのこだわりや店の歴史など「職人の生の声」を聴く場面を設け、伝統文化や技術の継承への理解を深めることができる。また、ツアーには浅草寺周辺や上野公園周辺といった有名観光地以外の場所にある工房を行程内に組み込んでおり、台東区の課題であるオーバーツーリズムの問題にも配慮している。

【選考ポイント】
地域に密着し自社の持つノウハウや強みを活用して地域に残る魅力的な匠・職人の文化を再編集しています。多くの旅行者から注目されることで自信や誇りが生まれ、後継者探しにもつながると期待されています。旅行会社の新しい役割を考える好事例です。

5)【特別賞】箱根八里の歴史を紐解き、原点を感じる旅

受賞者:株式会社やまぼうし
商品名:日本遺産・箱根八里で古の旅路の追体験

こちらのツアーでは、箱根八里の歴史を紐解きながら、かつて幕府のあった江戸へと向かう途中、大名をはじめ多くの旅人たちが旅の疲れを癒したこの地の魅力を再発見することができる。単なる歴史探訪ツアーではなく、深い知識とネットワークを持つ地元ガイドの案内で箱根のキーパーソンを訪ねながら、伝統工芸品に触れる体験をする他、宿場町である箱根が長い年月にわたり大切に培ってきた地域の歴史・文化・自然を通じて箱根の原点を感じることができる。

【選考ポイント】
自社の人的ネットワークを活用して現地の人との交流を図り、サステナビリティの観点から箱根の歴史・文化を深く理解する企画です。この会社はガイド研修を手伝うなど箱根観光全体のサステナビリティレベルを上げるためにも貢献しています。

6)【特別賞】古民家に泊まり、雪国里山の暮らしを知る

受賞者:株式会社 HOME HOME NIIGATA
商品名:2泊3日十日町棚田トレッキング

こちらのツアーでは、ブナ林トレッキング、古民家宿泊、伝統料理作りなどが体験できる。ツアー開催を通して、棚田の耕作者の収入増加、地域内の雇用創出、里山の環境保全、地域コミュニティの維持と持続可能な観光の実現を目指しており、ツアー収益の一部は地域の棚田基金や集落へ寄付する。

【選考ポイント】
棚田の文化的背景を丁寧に伝えることでインバウンド客にもその価値理解を促しています。棚田をアイコンに雪国の里山の暮しを歩いて理解してもらうことで、地域コミュニティの維持と持続可能な観光の実現を目指しています。

7)【特別賞】自転車×廃線後の鉄路を行く旅

受賞者:濃飛乗合自動車株式会社
商品名:気ままなバス旅「レールマウンテンバイクGattan Go!!」プラン

「レールマウンテンバイクGattan Go!!」は、自転車と廃線後の鉄路を組み合わせた新感覚のアクティビティ。“渓谷コース”と“まちなかコース”があり、この企画では参加者の希望に合わせてコースや時間を選べるようになっている。JR高山駅の高山バスセンターから飛騨市神岡町の最寄りバス停間の路線バスと、バス停からレールマウンテンバイク乗り場間のタクシー、そしてレールマウンテンバイクGattan Go!!の利用券をセットした着地型旅行プランだ。

【選考ポイント】
廃線を利用したレールマウンテンバイクは景色の良い山間部を楽しめて人気ですが、自家用車利用以外には足の便が無い。路線バスと乗合タクシーを組合せた個人向け商品が新たな需要を掘り起こし、バス路線の維持や宿泊客増にも貢献しています。

自分が楽しいと思えるサステナブルな旅を

サステナブルな旅とは?と今一度考える。持続可能な観光を浸透させる目的として創設された「サステナブルな旅AWARD」の受賞者にも、さまざまな旅のスタイルがある。

農業を通じて、大地を感じ、人の営みを知る。
自分の悩みなんてちっぽけに思えるくらいの大自然に触れる。
地域によって異なる文化や慣習に出合い、刺激を受ける。

人それぞれ好みや感じ方が違うように、旅もまずは自分が興味のあるものを選ぶべきだと思う。でなければ楽しめない。

ただせっかく旅行に出たのなら、住む人も旅をする側も一緒に笑顔になるような触れ合い方、過ごし方をしてみよう。もちろん自然環境への配慮も忘れずに。人と人の想いが通いあい、未来へつなぐ旅へ。

【参照サイト】サステナブルな旅アワード
【関連ページ】「その土地ならではの魅力を味わい尽くす新しい旅の形」平野紗季子さん×塩谷舞さんトークセッション

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明田川蘭

大の旅好き&温泉好き。一人で海外へ、一人で車を走らせて日本の名湯へ。アフリカ大陸と北極南極以外に降り立ち、行った国は30を越え、巡った温泉地は100を超える。沖縄観光メディアの編集者やホテルメディアの立ち上げ経験あり。「旅は人の心を豊かにする」と本気で思い、記事を執筆している。