世界旅行ツーリズム協議会によると、観光産業は少なくとも世界の炭素排出量の8%を占めており、化石燃料による世界全体の炭素排出量は2023年に過去最高を記録したという(※1)。
そんななか、2024年11月11日から22日までアゼルバイジャンのバクーで開催された国連気候変動枠組条約第29回締約国会議「COP29」では、COP史上初めて観光について議論する日が設けられ、各国の気候変動目標を支える観光政策の位置づけを議論する第1回閣僚会合が開催された。
議論の結果、52カ国が観光をより気候変動に配慮したものにする国連宣言「sustainable tourism declaration」に署名するに至り、署名した国々は、気候変動に関する計画を策定する際に観光に関する対策に取り組む必要性を認識して対応していくことになる。
アカデミック、政策立案者、民間セクターの専門家が集まり行われた会議においては、観光セクターの気候変動に対する行動意欲を高めるための方法について話し合いが行われた。まずはエビデンスに基づいた行動を促進するためにも、世界レベルで課題の規模感の理解促進、国レベルでの気候変動に対する目標の合致、ビジネスレベルでの変化を起こすための説明責任の確保、消費者が十分な情報を得た上で持続可能な選択をするための製品ラベリングといったことを行ううえでも、CO2排出量計測の必要性が議論された。
一方で、専門家等は、技術による改善の限界や、革新的なビジネスモデルの必要性、行動変容の重要性といった課題点を強調した。
このように、COPの場で持続可能な観光に関する議論が行われ、52カ国が持続可能な観光に向けた宣言をしたことは、非常に重要で意味のある出来事である。ただ一方で、2021年11月4日にCOP26において発表され、現在では900以上の署名者となった観光における気候変動対策に関するグラスゴー宣言後の現状と考えると安堵していられる状況でもない。
グラスゴー宣言は、宣言後10年間で観光業界のCO2排出量を50%削減し、2050年までの可能な限り早い段階で「ネット・ゼロエミッション」を達成するための強力な行動をコミットすることを目的とする宣言だ。しかし、2021年の取り組みを開始して以降も、旅行業界の排出量が減少したという大きな証拠は見られておらず、署名者は署名後12ヶ月以内に、排出量を削減するための具体的な行動をまとめた「気候変動行動計画」の作成と提出が求められているが、持続可能な観光ジャーナル(Journal of Sustainable Tourism ※2)に掲載される予定の論文によると、署名した組織の大半は計画をまだ公表していないという。また、署名数も観光関連事業者の母数を考えるとまだまだ不足している状況だ。
気候変動は「待ったなし」の状況で、課題は山積している。どうすればよりよい状況に導いていけるのか、関係各者でセクターを超えての連携や協力と対策が求められている。
※1 Stanford University / Global carbon emissions from fossil fuels reached record high in 2023
※2 Journal of Sustainable Tourism
【参照記事】Tourism Makes History at COP29 as 50 Countries Back Climate Action Declaration for Sector
【参照記事】More than 50 countries sign UN sustainable tourism declaration
【参照記事】Travel Pledged to Help Cut Carbon Emissions. How Has It Done?
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拓馬
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