ブータン王国が長期滞在者に観光税の優遇措置を開始。その背景にあるものとは?

世界最高峰ヒマラヤの山麓に、現代の生活に疲弊した人々が羨望のまなざしを向ける天空の秘境がある。

ブータン王国はコロナ禍に伴う外国人旅行客の制限を2022年9月に解禁。それに伴い一人一泊65米ドルだった観光税を200米ドルに値上げした。観光税は、正式には「持続可能な開発料金」(SDF)と呼ばれる。

1971年に国連に加盟するまで、固有の文化や社会を守る目的で鎖国政策をとってきたブータン。そういった背景もあり、膨大な数の人々が足を踏み入れ自然環境や文化が破壊されることがあってはならないとの考えが根本にある。

しかし2023年に入ってもブータンを訪れる旅行者の数が新型コロナウイルス感染症のパンデミック以前の水準を大きく下回っている状況を踏まえ、観光による経済成長の加速を一番の目的に4日間を超える滞在者の優遇処置が2024年末まで限定で新たに導入された。

4泊分の観光税を支払った者は、もう4日間は無料となる。そして12日間滞在した者は、そこから1カ月、無料で滞在できるようになった。なおこの優遇措置はドルで支払う旅人のみに適応される。

観光税を導入することで、しっかりと一定額のお金を払い責任ある旅人として行動しながら土地の文化や生活を自発的に学ぶする人を招き、長期滞在者への優遇措置を導入することで、現地の住民の視座に近づいて土地の魅力を味わう心持ちのある旅人を招く効果が期待される。

観光税、持続可能な開発料金は手付かずの自然景観の維持や観光客の排出したCO2排出量のオフセットを行う目的などで使用されている。

この制度は全ての国が真似できるものではなく、希少な観光資源を有するブータン王国ならではの取り組みだ。

現代人はなぜブータン王国に憧れるのだろうか。世界中の国々が経済指標に血眼になって競争をするなか、GDP(国内総生産)やGNP(国民総生産)と似て非なる「GNH (国民総幸福量)」を基に国家運営を行っている。この指標は1972年に、ときのジグミ・シンゲ・ワンチュク国王が提唱したもの。

1970年代といえば日本は高度経済成長の絶頂期で、寝る間も惜しんで人々は仕事漬けの日々を送っていた。しかし今、「経済的な豊かさだけでは、人は幸せになれない」ということを現代に生きる私たちの多くが痛感している。

では、どうやったら人は幸せになれるのだろうか。その答えに辿り着くためのヒントは、ブータン王国への長期滞在で見つかるのかもしれない。

【参照サイト】Bhutan reducing its daily tourist tax for visitors who stay longer
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拓馬

昔からつい遠くに趣いてしまう癖があり、気がついたら海外でノマド(遊牧民)に。インターネットという大自然の恩恵に浴し、世の中を斜に眺めながらの独り言。リアルの大地とデジタルという名の大空のはざまにさすらい、いまだ見ぬ世界への旅路を今日もゆく。