自然、文化を味わう旅「アドベンチャーツーリズム」の可能性。大正大学・岩浅有記准教授インタビュー

旅に出たい。観光名所の人混みよりも、自然やその地域ならではの文化や体験を求めて。

今年はそんな世間的な意識の高まりからか、自然を満喫しながら体を動かし、異文化経験も得られるアドベンチャーツーリズムの日本での展開に注目が集まる。

今秋、北海道でアドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)が主催するアドベンチャーツーリズムに関する世界サミット「ATWS2023」も開催される予定で、国内観光業界としても絶好のチャンスを迎えている。

アドベンチャーツーリズムに詳しく、元環境省職員であり、現在は大正大学准教授を務める岩浅有記さんに、今後のアドベンチャーツーリズムのあり方、課題、未来像などを中心に話を聞いた。

話者プロフィール: 岩浅有記さん


大正大学 地域構想研究所 准教授
1979年徳島県阿南市生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、2003年環境省入省。トキの野生復帰、グリーンインフラ政策、国立公園満喫プロジェクト、奄美・沖縄の世界自然遺産等に携わる。2021年3月に環境省を退職し、4月より現職。特に奄美・沖縄をはじめ、全国各地のアドベンチャーツーリズムの取組のほか、国内5地域の世界自然遺産のネットワーキングにも力を注いでいる。

──アドベンチャーツーリズムの価値や意義は

 「かつて、世界自然遺産に奄美と沖縄を登録する際に、(観光客が殺到して環境破壊などにつながる)オーバーツーリズムが非常に懸念されるという意見がありましたが、新型コロナウイルス禍前だったため、『バランスが大事』というところでとどまっていました。当時、環境省の担当者として沖縄の観光行政を所管する内閣府の沖縄総合事務局の担当者と『観光と環境を連動させていかなきゃいけないよね』という話をして、モデル事業をやってみようという流れになりました。野鳥の聖地でありマングローブも素晴らしい沖縄の金武町でモデル事業を実施する流れになりました」

 「ただ、沖縄の場合、自然文化そのものが観光資本でもあるのですが、人が来すぎるとオーバーツーリズムとなり、地域コミュニティーにとっては迷惑で、環境破壊にもつながるということで、こうなるとアドベンチャーツーリズムの概念に抵触します。来訪者を減らすと経済効果が下がってしまうので単価を上げていく必要があります。また、地域の、例えば古民家をリノベーションした宿であったり、地域、自然に詳しいガイド、ファシリテーターといったつなぎ役、コーディネーター的な部分も地元の住民で行うことで、地域にお金が落ちることを狙います。他のツーリズムと比べ、外部資本より域内経済を活用することになり、地域での歩留まりも高くなります。この点がアドベンチャーツーリズムの重要な意義になります」

 「世界遺産の課題としては、やはりその希少種の密猟や密輸であるとか(希少種の)交通事故などがあります。結局、すべて人に起因する問題が発生しているので、やはり個々の意識や行動を変えていかなければいけません。観光と自然環境の連動というか、バラバラに進めるのではなく、政策として一体化するということが重要になります」

──改めて、アドベンチャーツーリズムはこれまでどのように進んできたのでしょうか

 「北米でスタートし、世界組織であるATTAの本部がシアトルにありますが1960年から70、80年代ぐらいですかね。粗悪なネイチャーツアーが横行し、自然が荒れてしまったことが源流になっていると聞いています」

──いわゆるサステナブルツーリズムとの違いはどこにあるのでしょうか

 「共通点は多く、サステナブルツーリズムとも連動してきます。オーバーツーリズムにより地域が疲弊し、壊れていく、といった悪循環を、自然や文化が守られ地域が元気になるといった好循環に持っていくという流れが重要です。特に、ヨーロッパは環境意識が非常に高いので、環境が壊れ、悪循環に陥るといったところは、観光の目的地としては選ばれない流れにあります」

 「アドベンチャーツーリズムは、具体的に自然、文化、地域コミュニティーに大事な要素がありますが、その体験を通じ、深く、本物の体験を得るということで、観光ツールの側面だけではなくて地域コミュニティーにとってもメリットがある、そんな関係性がいいのではないかと思っています」

──論文などを拝見すると、日本でアドベンチャーツーリズムが普及する可能性が高いとのことですが

 「ATTAという世界組織の定義ではアドベンチャーツーリズムを『自然、文化、体験の3つの要素のうち、2つ以上が含まれるもの』としています。一方、日本の場合、自然豊かな自然があってこそ豊かな里山であるとか、文化や自然との付き合い方、食文化とかがあり、自然と文化は切り離せないんですね。欧米は、結構そこを切り離して考える傾向が強いのですが、これはキリスト教観によるところもあり、自然というのは人間が管理するという考えで、日本の考え方とは違います。

日本は、『共生』ということで、自然に生かされ、災害も多いがその中でしなやかに付き合っていくという考え方です。私は、世界組織の定義ではなく、自然文化を体験することがアドベンチャーツーリズムの定義と考えます。この一体的、連続的な自然文化や、東洋思想が、まさに今後のインバウンドの観光客にとって売りとなる部分かなと思います」

 「新型コロナ禍も落ち着き、今世界で一番訪問したい国が日本とされていますが、自国と異なり、自然文化の多様性に富み、自分の暮らしている場所と違う世界も体験できるのは魅力です。従来のマスツーリズムは表層的で、時間に追われてベルトコンベヤーのように場所を巡るといったことが多かったと思うのですが、旅のスタイルはかなり変わってきており、せっかくお金と時間かけるのであれば、本物の体験をしたいということになるのではないでしょうか」

──国内で普及する際に問題や課題はありますか 

 「よく言われるのは、ガイドが不足しているという問題です。自然をぱっと見ても観光客にはなかなか伝わらないですし、ましてや文化などはもっとわからないと思うんです。そういった意味でもガイドは必須です。もう一つ、アドベンチャーツーリズム全体をコーディネートするコーディネーターの不足が挙げられます。オーダーメード型といって、その人の興味関心に応じてオーダーメードで旅程を作っていく形がありますが、ガイドはその場所ごとにどんどん変わっていきます。このため、全体を俯瞰し、ガイド間の調整ができるコーディネーターが必須になります」

 「もう一つ、自然保護の観点からいえば、得られた利益の一部がちゃんと自然文化の保護や再生などにつながらなければいけないと強く思っています。ただ、なかなか既存の観光業界の中ではその点が上手く循環していないと思います。自然、文化、地域コミュニティーは観光資本なのです。そこに観光で得られた対価が入ってこないのは問題であるため、基金をしっかり作り、利益の一部が自然、文化、地域コミュニティーの保全や再生に資する仕組み作りを行うことが重要であり、ここは大きな課題だと思っています」

──アドベンチャーツーリズムが拡大することで期待できる点は

 「地域創生の視点が重要です。地域内だけで地域を活性化するというのは限界を迎えていて、人口が減少し、厳しい財政状況にあって、行政もかなり打てる手が少なくなってきています。日本は給料が増えるどころか下がっていて、マイナス成長に直面しているわけですが、その中で唯一、成長産業といわれるのが、地方の場合、特に(アドベンチャーツーリズムのような)新しい観光になります。今こそ、この新しい観光、高付加価値で持続可能な観光の普及が進み、具体的なモデルを作る社会実装を通じて地域経済の活性化や、地域コミュニティーの活性化、自然文化がしっかり再生されるという好循環が進むことが期待されます。

SDGsの『ウェディングケーキモデル』では、ウェディングケーキのように三つの層からなる構造で上から経済、社会、下が環境、とされますが、すべてを貫くのが観光であり、それを通じて3つの層を好循環に持っていけないかと期待しています。地域創生の切り札と言ったらちょっと大げさかもしれませんが、あとはいかにやるか、というところにあるかと思います。

今秋には、世界から観光関係者が集まるATTAのサミットが北海道で行われますが、そうした機会を捉えて世界に発信をしていきたいです。人の動きが回復しつつある中で観光公害の再来が起こるのではないかと耳にすることがあります。日本人ですらまともに観光を楽しめなくなるのではないか、という不安が高まる中で、日本版のアドベンチャーツーリズムの概念は使えると思っています」

岩浅氏の最近の活動拠点(岩浅氏提供)

──日本ではインバウンドが増加しましたが、今もって地域によって観光業が潤わないという話も聞きますが

 「沖縄に関して言えば、コロナ禍以前は観光客が『年間1000万人を超えた』、『ハワイを超えた』と喜んでいたのですが、結局、お金は域外に流れ、地域にとって歩留まりが悪く、県民所得は全く上がりませんでした。例えば、コロナ禍前には、クルーズ船が日本で最も多く沖縄に寄港したのですが、運航会社は中国などのアジア資本がほとんどで、旅行で一番お金が落ちる宿泊や飲食等に関しても全部囲ってしまい、地域に落ちるお金が限られてしまいました」

 「やはり、地域にどれだけ経済的な効果があるのか、データに基づいてしっかり分析しないといけないと思っています。また、地域住民が、幸福度を感じられるかとか、地域コミュニティーの活性化であるとか、自然文化がちゃんと守られていたことを実感するといった部分が達成されないと、継続していけないと考えます」

穏やかな時間が流れる与論島のビーチ(岩浅氏提供)

──これまでもおそらくそうした価値観は根底にあり、沖縄の観光関係者もその思いがあったと思うのですが

 「先進的な関係者は変わろうとしています。沖縄県は観光ビジョンを策定し、課題や今後の方向性がかなり書き込まれており、やはり既存の観光事業者も、生産性の低さや観光従事者の所得の低さから今のやり方のままでいいとは思っていないと感じます。あとは、いかにアクションしていくかだけです」

──観光収入から自然保護へのつながりがうまくいっていないとのことですが、好循環にするにはどういう仕組みづくりが必要でしょうか

 「やはり、行政の関与は確実に必要だと思っています。ただ、生業に関する話なので、どうしていくかは業界の方々で議論いただく必要があると思います。その上で、行政や研究者に現場の実態をしっかり説明してもらい、危機感を共有するというところからはじめていく。では自主的に業界として何ができるのか、自発的に基金を積み立てて、自然や文化の保全や再生に回していく、といったことを考えてもらう必要があるのではないかと思います。

沖縄県内の企業体で基金を作り、世界遺産を応援するプロジェクトはすでに始まっていますが、まだお金はそんなにたまっていないのが状況です。各企業から利益の一部が回り、積み立てしており、次世代の育成のために使いたいといった話も進めています」

──なるほど。あまり海外でもあまり見られないと

 「ないですね。でもこれはある意味でWin-Winなんです。(世界遺産を応援する基金のプロジェクトは)お金を出す企業にとっては広告的な側面もありますが、あくまで短期ではなく、中長期にわたる投資です。現在、50社ぐらいが参加しています」

壮大な自然を満喫できる米・グランドキャニオン(写真は岩浅氏)

──海外のアドベンチャーツーリズムはどういった位置づけなのでしょうか

 「アドベンチャーツーリズムの平均単価は食事抜きで1人6万円といわれていますが、日本ですとそういう意識はまだまだ少ないと思います。南米の事例の場合、ぶどう畑やワインの作り方などを見るごく平均的なツアーの場合で、実際に500ドル程度で販売されています。この点からも分かるように、自分の地域、自然に価値があるということを共有することが大事だと思います。これは別に沖縄に限った話ではなく、『うちのところは何もなくてね』といったように、謙遜のあまり自ら価値を下げる発言をよく聞きます。あまりマーケティングにとらわれずに高付加価値化できる要素が日本はどこでもあると思っています。この部分で意識改革、行動変容が必要かと思います。

沖縄の場合、アドベンチャーツーリズムのガイドやコーディネーターの人材育成事業は行政主導で始まっていて、新しい芽が生まれつつあるという状況です。トップガイドというか、この人のこのガイドを受けるにはそれなりの報酬を支払わないとならない、というような流れにすべきです。単純にオプションツアーといったように、今までの概念でいくと、プラス1万円とかプラス5000円とかそんなレベルの感覚ではありません。この点は変えなくてはならない時期に来ています。少なくとも海外の方はアドベンチャーツーリズムということで付加価値を感じられるならば、500ドルでも600ドルでも払うという方がいらっしゃるわけで、沖縄としても受け入れ側もそういうスタンスでいることが重要になってくると思います」

──インバウンドには期待できますが、日本の給料が上がらない、といった環境下で、日本人は高付加価値だから5万、6万円払うというマインドに果たして進むでしょうか

 「確かに一律では難しいとは思います。若者や子育て世代が高すぎて経験できないじゃないかといった話にはよくなります。ただ、そこは料金体系で改善の余地があり、海外ではもう当たり前なのですが、地元の人や若者には安く設定し、海外から来る人は10倍にする。そういったことが自然に行われています。そうすることで、将来、その場所のファンになっていただくことの方がよっぽど大事だということです。

親から本物の体験をさせてもらうことも大切です。20~30年前に大学生だった世代は、東南アジアなどを回るといったことを散々やってきており、『何かをしに行きたい』とか、探究心から1人旅に行くといったことも積極的でした。本物の体験は重要といえます」

──いわゆるアドベンチャーツーリズムのモデルケースはほかにありますか

 「うまくいっているケースは、北海道に多くあります。国立公園の存在、活用が重要になってくるのではないでしょうか。道東の阿寒摩周国立公園、大雪山国立公園あたりもかなり盛り上がっています。いずれのケースでも、民間企業の機動性の高さを生かしつつ、行政とうまく連動、連携しながら進めている点がポイントです。北海道運輸局や北海道経済産業局、さらに環境省もそうですが、しっかりとサポート体制が取られている印象があります。こうした活発な動きもあり、今秋のATTAサミット会場に選ばれた側面があります。世界中のプロたちに日本のアドベンチャーツーリズムを体験し、持ち帰ってもらい、商品化してもらえれば、相当な起爆剤になりますね」

雄大な自然を体感できる知床連山。北海道は日本流アドベンチャーツーリズムのモデルの1つとなりそうだ

──改めて、環境と観光を両立させることの大切さ、今後、何が求められているかメッセージをお願いします

 「一番は環境問題で、脱炭素や生物多様性の問題などは非常に危機的な状況であり、お題目として『大事だよね』というのは世界中みな分かっていると思います。科学的にも知見が集積してきている。そうした中でアクションを起こすしかないのですが、そのツールの一つとしてのアドベンチャーツーリズムの広がりに期待しています。

環境問題の解決に向けて、誰かにやれと言われて進めるのは楽しくないし継続性がありません。その点、アドベンチャーツーリズムで世界中からお客さんが来て、自然文化、地域コミュニティーを楽しみ、お金を回し、保全再生していくという好循環が進む。つまり、経済、地域社会、自然文化がすべて好循環になることでみんなハッピーになるということがあると思います。人間だけじゃなくて生物も含めてそうです。環境ファーストでいきます、と言っても、それだけでは人は動かない。大事なのはコミュニティファーストだということです。地域を大事にしながら、環境、経済を回していくことが重要になると考えています」

The following two tabs change content below.

Shin

千葉県出身、埼玉、神奈川育ち。多くの起業家や地方取材、執筆経験があり、ハイブリッドライフや全国各所でのワーケーションに興味津々も、実現にはほど遠く。当面は、各地で1人でも多くの方々と出会い、ネットワークを広げることが目標!