忙しい毎日を過ごしていると、自分が所有している全てのものを置いて、着の身着のままどこかへ飛び出したくなることが時にある。
好きなものを食べ、心地よいベットで寝て、買いたいものもある程度は買って日々生きているはずなのに、どこか満たされない。もっともっと何かが欲しくなる。人の欲望はどんどんと進化していくものなのだろう。
そんな肥大化しすぎてしまった欲を収縮し、動物としての人間が根源的に持つ欲求を再認識したうえで、それらをひとつひとつ丁寧に満たしていける体験がある。
目的地は、無人島
写真提供:無人島プロジェクト
「無人島プロジェクト」は、電気も水道もない無人島で年齢も肩書きもないただ一人の人間として「生きる」を感じにいくことのできる体験を提供するプロジェクトだ。
友達や家族などと共に無人島生活を体験できるプランや、2泊3日、初めましての30名程の人々と共に火おこしや釣りなど食べる、遊ぶ、寝るを楽しめるツアーなど個人向けの内容から、無人島での研修や社内行事をサポートする法人向けのプラン。自然体験をさせたい、子どもたちに考える力を身につけさせたい教育機関向けの修学旅行や教育体験のサポートなど、多岐に渡る無人島体験を提供している。
今回は、そんな無人島プロジェクトの創業者、梶 海斗(かじかいと)さんにお話を伺った。
1988年生まれ。同志社大学卒業後、(株)リクルートHRマーケティング入社(現・株式会社リクルート)入社。求人事業の企画営業を担当の後、販売代理店SVとして営業育成業務に従事する。2016年、《株式会社ジョブライブ》を設立し代表取締役に就任。無人島活用事業、採用支援事業、Web事業等、幅広く事業を展開。注力する無人島活用事業では、日本全国の無人島を活用し「生きるを学ぶ」旅行ツアーや研修プログラムを実施するほか、全国の無人島をアウトドア拠点として利活用するなどの取り組みをしている。2020年、初の著書『無人島冒険図鑑』を出版。2021年、ガイアの夜明け出演。
焼き付いて離れなくなった始めての無人島体験
「無人島に初めて行ったのは19歳、大学2年生の時でした。当時は京都に住んでいたので海に行くこと自体が非日常で、無人島として有名な場所もなかったですし、そもそも行けるのかというところから始まりました」
「バイト仲間を誘って、まず離島を目指して、そこで出会った漁師さんに『無人島に行きたいんですけど連れて行ってもらえませんか?』と頼んだ結果、連れて行っていただけることになったんです」
「当時その島に上陸する人が少なかったというのもあるとは思うんですけど、僕らが着くと久々の食糧だ!と言わんばかりに20-30匹の蚊が同時に襲いかかってきて(笑)それには仰天しました(笑)」
「あと食糧にするのに魚を釣ったんですけど、それが見たこともないような毒々しい緑色をしていて、果たしてこれは食べられるのかと魚と睨めっこしたのもすごく良く覚えています。(笑)1泊2日だったのですが、その経験が忘れられなくて、そこから定期的に無人島に行くようになりました」
写真提供:無人島プロジェクト
猿の島とカルチャーショック
「今までに様々な無人島に行ってきましたが、印象に残っている国内の無人島は宮崎県にある幸島ですね。猿だけが無人島に70-80頭くらい住んでいるんですよ。猿の世界にたまたま人が迷い込んだというような感覚になる島で、不思議な気持ちになりましたね。これは本当に世界中を探してもあまりない環境なんじゃないかなと思います」
「国外でいうと、フィリピンでインフラの整備されていない離島に住む人々と一緒に無人島に滞在するという経験をしました。彼らの住む離島には電気が基本的になくて、もちろん冷蔵庫とかもない。学校がない区域だと、お父さんから、どうやって家族を食べさせていくか、どう台風から家を守るかといった自然社会の中でどう生きていくのかということを教わりながら、大人になっていくんだそうです」
「島でとれる植物にはドリアンや椰子の実などがあったのですが、椰子の外殻は着火剤になったり、何かを擦るためのたわしになったりするんですよね。自分とは全く違った環境で育った人と一緒に無人島に滞在するというのは、非常に貴重な体験でした」
これから何が起きるんだろう…「予測できない」魅力
無人島に初めて出会った19歳から15年弱の年月が経過し、長年無人島に関わる中で、梶さんが感じる無人島の魅力とはどんなものなのだろうか?
「無人島にも色々あって、神奈川県の猿島のように電気も水道もある場所もあれば、全くインフラも何もない場所もあります。その後者のほうの無人島の魅力でいくと『予測できないことが多い』ということが一番だと思っています」
写真提供:無人島プロジェクト
「今って、どこの旅先に行くとしても、予想できることが多いと思うんです。カンボジアに行くとしたら、ガイドブックで見たあの遺跡を見に行くとか。京都に行くなら、金閣寺に行くとか。でも無人島って、そこに何があるのか、行った先でどんなことが起きるのか予想というかイメージがしづらい」
「これから何が起きるんだろう…とドキドキしながら行ってみたら、島に向かう船に乗った時から、こんなに小さい船だと水飛沫を結構浴びるんだなとびっくりしたり、滞在中も、思ったより潮の干満って激しいんだなと気づいたり。視覚だけでなく、五感全部で、予測できないことに直面していく。そんな冒険の匂いがするところが魅力だなと思います」
「あとは仲間で行く場合は、無人島は制約を作ったり約束事をしやすい環境だなと思います。無人島プロジェクトが提供するプランの中に、ベーシックキャンプと我々が呼んでいる、2泊3日、初めましての30名程の人々と共に火おこしや釣りなど食べる、遊ぶ、寝るを楽しめるものがあるんですが、そのキャンプでは集合した時に『敬語を禁止する』というルールから始めるんです」
「参加者は10代から40代位までと幅広いんですけど、日常の肩書きや社会的なステータスなどを置いて、一人の人間として仲間と共同生活を楽しむ中で、生きることの意味とか、仲間と助け合うことの大切さを体感して欲しいなという思いがあるので、そうしたルールを設定しています」
「普段であれば受け入れにくそうなルールも何故か無人島ならいいかって、すっと受け入れられちゃうんですよね。『無人島に何か一つ持っていくとしたら何を選ぶ?』というあの有名な問いが頭の中にあるからなのか。決め事とかマインドセットを設定したり、同じ条件で臨むっていうことをなぜかしたくなってしまう環境であるというのは面白いところです」
様々なバックグラウンドを持つ多様な30人が、敬語禁止ルールのもと予測できない事態が次々に起こる無人島で二夜を共にする。それぞれが一人一人の得意不得意を抱えながら、自分なりの役割を見つけて「共に生きる」を実践していく。
写真提供:無人島プロジェクト
釣りをして魚を取ってきてくれる人もいれば、ずっと火の番をしてくれる人もいるし、物理的に生活に必要なわけではなくとも、その場をすごく盛り上げてくれる人もいる。
「無人島は何かを生み出さないといられない環境ですね。いろんな体験を消費してまわるのではなくて、体験をその場でつくっていくような。能動的じゃないと楽しくない場所です。待っていても何も起きないですし、そもそもご飯も食べられない」
「無人島に滞在するには、火を起こさないといけないし、魚をとってこないといけないし、魚とってる間に火が消えるしどうしようみたいな(笑) 生きるだけですごく忙しいんですよね。生きることにフォーカスできる場所だなと思います」
写真提供:無人島プロジェクト
人と出会い、人と話し、自分に気づく
「無人島に行くということ自体もそうなんですけど、特にベーシックキャンプは全く知らない人たちと3日間すごすので、普段の日常の連なりとは、環境・人どちらをとっても全く異なった状況に身を置くことができます」
「いつだったか、参加者の誰かが『ベーシックキャンプはすごくコスパの良い価値観破壊だ』と言っていました。2泊3日で42,800円というのは遊びの費用としてすごく安いかと言われるとそれなりにすると思うけど、人生の転機になりうる体験だと考えると、すごく価値のあることなんじゃないかなと思います」
「実際キャンプをきっかけにして、今の環境ではない環境に行くためのふんぎりをつける人は多いです。仕事を変えるとか、住む場所を変えるとか、離婚するとか、結婚するとか。もともとぼんやりと自分の中に思いはありながらもキャンプに参加して、いろんな価値観を持った、それぞれの人生を生きてきた人たちと焚き火囲みながら話しているなかで、価値観が変わったり、やっぱりこっちの道に行きたいんだなと気づいたりするだと思います」
写真提供:無人島プロジェクト
前向きな変化への一歩をここから
これからどんなことがしたいですか?と最後に梶さんに聞いてみるとこんな答えが返ってきた。
「日本には6400の無人島があるんです。そのなかで活用できていない島も多くあるので、そうした島の魅力や資源を見出して、地域と一緒に活用していくということは今後取り組みたいことですね」
「あと僕は、色んな人がやりたいことをやれるようになる前向きな人生の一歩を応援するようなことがしたくて、いまの無人島プロジェクトの仕事をしているので、無人島以外でもそうしたことが出来るような仕組みや体験をつくっていけたらいいなと思っています」
「新しい環境を求めている人や、日常が似た毎日になってしまっていて、ちょっと閉塞感があるなと感じる人、ちょっと違う価値観を自分に加えたいなと思っている人は特に、無人島プロジェクトのツアーにぜひ参加してみて欲しいです」
ー
最後に「ああ〜生きてるなあ〜」と感じたのはいつだっただろう。
頭ばっかり忙しくて、心や五感が暇になりがちな現代の生活。
小さな画面の中を見つめながら、どこか別の場所に行きたいと思うなら、デジタルから一度離れて、どっぷり島まで「生きる」をしにいくのも一つの手なのかもしれない。
「ああ〜生きてるなあ〜最高だなあ〜」と身体中が話し出す時間がきっと、あなたをそこで待っている。
【参照サイト】無人島プロジェクト
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飯塚彩子
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