沖縄・那覇から発信する“肩の力を抜いたエシカルな宿泊体験” 「THE KITCHEN HOSTEL AO」

Hostel AO

ゆいレール県庁前駅から徒歩5分、沖縄県那覇市の中心街から少し裏に回った通りにあるのが、今回紹介するTHE KITCHEN HOSTEL AO(ザ キッチンホステル アオ)。

宿泊する旅人はもちろん、働くスタッフや沖縄の自然環境にも配慮したエシカルな取り組みを行っているホステルだ。

AO 外観

沖縄県は、2019年に「沖縄県SDGs推進本部」を設置し、2021年にはSDGs未来都市(持続可能な社会を実現するポテンシャルが高い都市)に選定されており、経済・社会・環境を中心に持続可能な観光を実現しようと取り組んでいる。

県内有数の観光地である那覇市に宿を構えるTHE KITCHEN HOSTEL AOは、約2年前、リニューアルオープンを機に、SDGsを意識し環境負荷を抑えたホステルを本格的にスタートした。その裏には、ある立役者の存在があるという。

「当時マネージャーだった上原の一声から、エシカルなホステル運営が始まりました。彼女自身、もともとエシカルな暮らしや活動をしていたんです」そう教えてくれたのは、THE KITCHEN HOSTEL AO 現マネージャーの嘉数さん。

ホステルに取り入れるエシカルな取り組みは上原さん発案のもと、スタッフ全員で相談しながら、ホステルに馴染むようなカタチで取り入れられている。本記事では、筆者が実際に宿泊をし嘉数さんにお話を伺つつ見て聞いたTHE KITCHEN HOSTEL AOのエシカルな取り組みなどを紹介します。

THE KITCHEN HOSTEL AOのエシカルな取り組み

1. 電動キックボードのレンタル

近年、沖縄県内の宿泊施設を中心に少しずつ普及し始めている電動キックボード。THE KITCHEN HOSTEL AOは、那覇市にある宿泊施設の中でも早い2021年から、電動キックボードを導入した新しいエコツーリズムを提案している。

AO 電動キックボード

「当ホステルでは、現在20台の電動キックボードを用意しており、原付免許を持っている人はどなたでもご利用いただけます。スタッフが乗り方や使い方を事前に教えるので、初めての方でも安心して楽しんでいただけると思います。

私も、他のスタッフと一緒に電動キックボードでホステル周辺を走ることがあります。そうすると、普段車だと目につかない場所に可愛いお店があるのを見つけたりして。街の新しいところを発見できるのが電動キックボードの面白いところですね。那覇は細い道が多いので、キックボードは、那覇の街を散策するにはうってつけの移動手段だと思います(嘉数さん)」

導入当初は、あまり認知度が高くなかったという電動キックボード。いまでは宿泊客以外の人たちも、宿で電動キックボードが借りられるということを調べて、THE KITCHEN HOSTEL AOを訪れるほど注目を集めているという。

「お客様から、よくおすすめのスポットを聞かれることがあります。那覇の街をぶらりと散策するのもいいですが、海に行きたい人には波の上ビーチ、少し遠出をしたい人には首里城などをおすすめしています。私のおすすめは瀬長島。飛行機の迫力ある離発着を見られて、島には可愛いお店も多いので散策にぴったりです(嘉数さん)」。

電動キックボードの料金は1時間400円から。THE KITCHEN HOSTEL AOを起点に、那覇の街並みや文化を身近に感じる散策に出てみてはどうだろうか。

2. カラフルなおやつやグラノーラのバルクコーナー

THE KITCHEN HOSTEL AOに一歩足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが、カラフルなバルクコーナー。バルクは、パッケージ容器なしのプラスチックフリーな環境に優しい販売方法として知られている。

AO バルク

「バルクは特に力を入れている取り組みですね。県内の宿泊施設の中でも、バルクを導入しているのはかなり珍しいと思います。お客様から見えるところに置きたいねとスタッフ同士で話していたので、ホステルに入って最初に目につく場所に置くことにしました(嘉数さん)」

バルクコーナーには、栄養価の高いスーパーフルーツや栄養を最大限に引き出した発芽ナッツなど、オーガニック素材を使った身体に優しいフードが用意されていて、Sサイズ(500円)とMサイズ(1000円)の専用カップを選んで、好きなものを好きな量入れることができる。バルクは「1種類ずつのグラム計算」が一般的だが、THE KITCHEN HOSTEL AOのバルクは「カップのサイズ内で複数の種類を混ぜていい」という、利用者にとってわかりやすく、ワクワクする仕組みで提供されている。

現在はバルクで購入できるものには11種類あり、中身は定期的に見直されている。どれも人気のある選りすぐりだ。嘉数さんのおすすめは「野菜チップス」。かぼちゃ、サツマイモ、インゲン、ニンジンなど種類豊富なチップスは、ザクザクッとした食感と、噛めば噛むほど感じる、野菜の甘味と風味の高さに驚く。ついつい好きなものばかりで栄養が偏りがちな旅で、美味しく手軽に野菜を食べれる、旅のおやつにもってこいだ。

「当ホステルを訪れたことでバルクというごみの出ない販売・購入方法を知っていただけると嬉しいなと思います(嘉数さん)」

3. 無料給水スポットmymizu(マイミズ)

マイボトルを持ち歩いているが、水がなくなったらコンビニや自動販売機でペットボトルの水を買って補充するという経験はないだろうか。そんなマイボトルを持ち歩く人のために開発されたのがmymizu(マイミズ)だ。登録店舗では、給水目的で訪れた人に無料でお水を提供している。

「外出先で気軽に給水できれば、ペットボトルを買わずに済み、プラスチックごみを減らせるのでは」と、THE KITCHEN HOSTEL AOは2021年から、mymizuの登録店舗になった。1階のカフェ利用者だけでなく、宿泊客も自身の水筒にお水を補充する人が多い。

ここで一回給水するだけで、ペットボトル1本を削減することになる。沖縄特有の亜熱帯の気候では、給水するタイミングはもっと多くなるだろう。まさに、利用者も嬉しく環境にも優しい取り組みだ。

4. 飲むだけで沖縄の海洋環境に貢献できる35COFFEEを提供するカフェを併設

沖縄といえば美しい海を連想する人も多いのではないだろうか。沖縄の白い海やコバルトブルーに輝く海は、サンゴのおかげだと言われている。そんな沖縄のサンゴが地球温暖化の影響を受けているのをご存じだろうか。島の宝であるサンゴを保護しようと、県内でも様々な取り組みがある。

沖縄の風化したサンゴで焙煎したコーヒー、35COFFEEの「サンゴ再生活動」はその一つ。35シリーズの売上3.5%を使い、ベビーサンゴを移植するという活動だ。ベビーサンゴは移植後18ヶ月もすると立派なサンゴとなり、そこに魚が集まり、やがて海の生態系の一部となる。

THE KITCHEN HOSTEL AOの1階にある「AO CAFE」では、その35COFFEEをメニューに取り入れ、売上の一部を海の環境保護に寄付している。

さらに、AO CAFEでは、35シリーズの一つである「35COFFEEのハイビスカスティー」も提供している。甘酸っぱく爽やかな酸味があり、すっきりとした後味で暑い沖縄にピッタリの一杯。これらの35シリーズは風化したサンゴで焙煎している。沖縄のサンゴは県の漁業法で県外持ち出しが禁止されているため、沖縄でしか作れないドリンクというのも嬉しいポイント。

AOハイビスカスティー

またAO CAFEでは、ドリンク提供時に「パイナップル葉繊維ストロー」を採用している。沖縄本島北部のやんばるは、1億年前の生態系が遺る”奇跡の森”と呼ばれ、その一つである東村は日本でも有数のパイナップル生産地。

パイナップルの実は需要がある一方、葉は飼料にならず、水分量も多いため燃やしにくい。繊維質のため肥料としても使いづらく畑に大量に廃棄されるだけだった。その葉の部分から繊維を抽出する際に出る残渣とPLA(とうろこしのでんぷん)を配合して誕生したのが、パイナップル葉繊維ストローだ。

無着色・無漂白のため、若干黄色がかったストローは、100%天然成分でできている。その使い心地は抜群で、紙ストローのように時間経過とともにふやけない耐久性を持ち合わせている。

このように、AO CAFEでは、飲むだけで沖縄の海洋環境に貢献できる35COFFEEや、使うだけで、パイナップルの葉が畑の土に還る循環に貢献できるパイナップル葉繊維ストローなどを取り入れている。つまり、AO CAFEを利用して美味しいドリンクを堪能するだけで、沖縄の各地域での取り組みと繋がり、自然環境の循環に貢献することになるのだ。

5. スタッフが働きやすい環境をととのえる

THE KITCHEN HOSTEL AOのスタッフには、働くママが多いという。スタッフみんなが働きやすいように心がけていることを聞くとこう回答があった。

「『家族第一で考えてね』とスタッフには常に伝えています。私の経験ではありますが、母親になってから、周りに迷惑がかかるのではという理由で『子供の都合で仕事を休むみたい』と上司に言いづらいと感じたことが過去に何度かありました。しかし、子供が体調不良のときや、学校のイベントがあるときなど、休めないとどうしようもなかったり、後悔することも多くあります。だからこそ、仕事を休みやすい状態を作りたいという思いが一番にあるんです(嘉数さん)」

実際にホステルに宿泊していたときのことを振り返ると、「気をつけていってらっしゃい」「おかえりなさい」とスタッフが声をかけをしてくれたことを思い出す。初めて訪れる場所なのに、不思議と落ち着く温かい雰囲気があるアットホームな空間は、スタッフの方々の働きやすい環境作りや、それに伴うスタッフ同士の仲の良さなどが、生み出しているものなのだろうなと感じた。

6. いつか自分のお店を持ちたい地域の人のために。レンタルキッチン貸し出しサービス

THE KITCHEN HOSTEL AOがサポートしているのは、ホステルで働くスタッフだけではない。地域で頑張る人を支える取り組みにも注力している。その一つがレンタルキッチンだ。「いつか自分のお店を持ちたい、でも最初から店舗を持つのは大変」という人に対して何か手助けができないかと考え、ホステル1階スペースの貸し出しを始めた。

すでに沖縄にはホステルのレンタルキッチンを経て独立した店が、何店舗もある。那覇市の中でも立地がいい上にリーズナブルな値段で借りられるということもあり、すでに何組もレンタル待ちがいるという。「次はどんなお店が入るかな」と、宿泊者にとっても一つの楽しみになるいい仕組みだ。

これからのTHE KITCHEN HOSTEL AOについて嘉数さんに聞いてみると「今後もアットホームで、『入ってみたいな』と思えるような場所にしたいです」と笑顔で答えてくれた。

THE KITCHEN HOSTEL AOに実際に宿泊して感じたことは、このホステルの在り方がとても「自然体」であるということ。宿泊者、カフェの利用者、働くスタッフ、ホステルがある那覇市の観光、沖縄の自然環境、すべてに対して考え抜いた取り組みがされているのに、どこか肩の力が抜けていているのだ。「やらなければならない」と固くならずに、前向きに「できることをやっている」という感じがする。旅の疲れを癒せるのはもちろん、心も満たされる宿泊となった。

最後に嘉数さんが「那覇市の安里の方に、次は家族など複数人で楽しめるような宿を計画しています」と教えてくれた。一人でも複数人でも、エシカルな選択ができる宿が、これからも沖縄に増えていくことを願う。

ぜひ次回の沖縄旅行では、THE KITCHEN HOSTEL AOに宿泊してみては?

The kitchen hostel ao
住所:沖縄県那覇市久茂地1-4-1
HP:https://www.kitchenhostel.com/
予約ページ:楽天トラベル

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nanami

沖縄県出身。幼いころから多国籍な友人に囲まれ、言語や海外文化に強い興味を持つ。大学2年次に南米ペルーへ留学。“当たり前”という凝り固まった価値観を崩す出会いや出来事を多く経験した。また、海洋プラスチックへの問題意識からサステナブルなライフスタイルを実践中。“サステナブルな旅”は、自然環境だけでなく、自分自身と向き合い、自然と溶け合う中で自分を取り戻す旅であると感じている。