富山県南砺市(なんとし)は、2024年11月に発足20年を迎える自治体だ。山間部の世界遺産「五箇山の合掌造り集落」には、国内外からたくさんの人が訪れている。田んぼにポツポツと民家が点在する散居村(さんきょそん)も約7000戸残っていて、これは国内最大級の規模だ。
日本の原風景が広がる南砺市だが、SDGs未来都市に選定されたように先進的な取り組みでも知られている。豊かな森から生まれた木質ペレットによる再生可能エネルギーの利用、市民活動や次世代育成をサポートする「南砺幸せ未来基金」など、持続可能なまちづくりのために数多くの施策を導入しているのだ。
そして、南砺市観光協会が2022年に始めた「南砺だからまるごと酒旅」もまた、斬新なプロジェクトである。「朝も昼も夜も酒にひたる」をテーマに、宿や飲食店を自由に組み合わせられる2泊3日のツアーだ。施設によって提供される酒が異なり、どんな酒が飲めるかはまるごと酒旅のホームページでチェックできる。
南砺に根づく7つの蔵
画像引用:7つの蔵|南砺だからまるごと酒旅
南砺市には、日本酒の3蔵だけでなくブルワリーやワイナリーも存在する。
まるごと酒旅に名を連ねる日本酒の蔵は、いずれも19世紀終わり頃の創業だ。五箇山の三笑楽(さんしょうらく)酒造では、昔ながらの山廃仕込みを続けている。骨太な味わいは、山菜や名産の五箇山豆腐にぴったり。若駒酒造場は地元産の米を使い、庄川(しょうがわ)上流の伏流水で醸している。さわやかな酸味が特徴で、食中酒に最適だ。成政酒造では古酒を販売していて、海外のコンクールでも評価が高い。もちろん新酒も豊富で、川魚に合わせるのがおすすめだそう。
画像引用:7つの蔵|南砺だからまるごと酒旅
ブルワリーは、クラフトビールブーム以前から営業している城端麦酒(じょうはなビール)と、2023年に産声を上げたばかりのナットブリューの新旧2蔵が揃う。城端麦酒の「麦やビール」や「曳山ブラック」は、全国的な知名度を誇る商品だ。ナットブリューではタップルームを併設しており、古民家をリノベーションした空間でビールを楽しめる。
画像引用:7つの蔵|南砺だからまるごと酒旅
フランス語で「美しいワイナリー」を意味するドメーヌ・ボーには、18ヘクタールもの広大なぶどう畑が。2017年創業とまだ若いワイナリーにも関わらず、首都圏のデパートで取り扱いが開始されるなど注目が集まっている。T&T TOYAMAは本格的なジャパニーズウイスキーボトラーズを目指すプロジェクトで、現在は熟成庫や樽を作っている段階だ。第1号のウイスキーが発売されるまでは、プロジェクトの共同代表・稲垣貴彦氏が手がける三郎丸蒸留所のウイスキーを提供するという。
画像引用:7つの蔵|南砺だからまるごと酒旅
個性あふれる11の宿
7つの蔵と同様に、11軒の宿もまた個性豊かだ。合掌かずらは、築300年を超える合掌造りをリノベーションしたゲストハウス。古民家の宿おかべでは、ジビエや新鮮な川魚を堪能できる。予約困難な1日3組限定のオーベルジュ・薪の音も、ラインナップに加わった。
そのほかにも源泉を所有していたり、手作りのどぶろくをふるまってくれたりと、どの宿も魅力にあふれている。連泊が不可なのは、さまざまな宿や酒を楽しんでほしいという思いによるものだ。
画像引用:モデルコース 3|南砺だからまるごと酒旅
ランチは大衆食堂からフレンチまで、その多様さに驚かされる。たとえば春乃色食堂は、米蔵を改装した建物で100年以上営業を続けている地元密着型のお店だ。こちらで提供される酒はワンカップというのも、なんともユニークではないか。また、秘密のサロンのような佇まいのgonmaもすてき。蔵を改装した店内には、城端麦酒のタップがずらり。地元の山菜や野菜、根菜の旨さをとことん知ることができる洒脱なプレートはぜひ味わいたい。
画像引用:モデルコース 1|南砺だからまるごと酒旅
画像引用:モデルコース 2|南砺だからまるごと酒旅
まるごと酒旅の旅行プラン。特典も豊富
画像引用:モデルコース 2|南砺だからまるごと酒旅
まるごと酒旅の旅行プランは、1日目の宿・2日目のランチ・タップルーム訪問などのオプション・2日目の宿という流れで組み立てていく。迷ってしまったときは、ホームページで紹介されているモデルコースや、予算別のコースから選ぶとよいだろう。プランが決まったら見積もりを依頼すると、南砺市観光協会より空き状況と料金総額が記載されたメールが届く。最終的なプランの決定後、クレジットカードでオンライン決済した時点で予約完了となる。
自由度の高いオーダーメイドツアーだが、個人旅行との違いはまるごと酒旅ならではの特典だ。営業前のお店を貸し切ってハッピーアワーを楽しめるほか、開店まもなく完売することもある人気メニューの取り置きといったオプションが用意されている。移動のタクシーも、特別料金での利用が可能だ。
酒蔵見学は成政酒造(季節により中止の場合あり)・城端麦酒・ドメーヌボーの3蔵で受け付けていて、城端麦酒は無料なのもうれしい。どの蔵も事前予約制のため、プラン決定前に南砺市観光協会へ見学希望の旨を伝えておこう。
南砺の酒を、まさに「まるごと」満喫できる2泊3日の旅。ローカルな食や地元の人々との会話からも、その風土を存分に感じてみてほしい。
【参照サイト】南砺だからまるごと酒旅|朝も昼も夜も…2泊3日
【関連ページ】里山にひっそりと佇む小さなお宿10選 – おすすめのオーベルジュ、古民家等
Hiroko ASATO
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