バリ島の街中を歩いていると、道のあちこちにカラフルな花が落ちているのを見かける。
なんだろうと思い調べてみると、この花は、『チャナン』と呼ばれるものだと分かった。
バリ島では神様があちこちにいると信じられており、そのあちこちには道端も含まれる。
道端には、神様のなかでも“悪霊”がいるため「悪さをしないでくださいね」という願いを込めて、このチャナンをお供物として置くのだという。
チャナンは本当にあちこちに落ちているので、まさかそんなところに?と、つい踏みそうになることもしばしば。しかし、店の前やビーチ、何でもない道端など至る所にチャナンが置かれているのを見ると、神様の存在がバリ島では生活の一部になっていることが不思議で美しく、どこか神秘的にも感じられた。
バリ人にとって祭事は生活の一部
2023年1月、筆者はバリ人の家族が経営する宿に滞在していた。彼らはバリヒンドゥーの宗教を信仰しており、よくバティックやクバヤと呼ばれるインドネシアの正装で、地域の祭事に出かけていた。
宿のお母さんによると、ニュピやガルンガンという大きな祭事のほか、月に何度か地域で小さな祭事が行われているらしい。バリ人にとってこのような宗教行事は重要なもので、仕事より優先度を高くとらえる人も少なくない。
この小さな祭事は、地域の人々が集まる交流の場の役割も果たしている。朝からお母さんたちがお供物を作り、その日は一日潰れることもあるのだとか。筆者の滞在中にも、近所でこの小さな祭事が行われると聞いたので、せっかくの機会に参加させてもらうことにした。
日が暮れる頃、正装を着てお寺へ向かう。お祈りはグループごとに行われており、訪れるとすでにほかのグループのお祈りが始まっていた。順番を待っている人々は、仲の良い知人同士でグループになり、談笑している様子だ。祭事といっても堅苦しいものではなく、町内会のようなアットホームで和やかなものらしい。
自分のお祈りの番がきたら、線香と花を地面に置き、正座して待機する。お祈りで使う花は、よく道端で見かける一般的なチャナンよりも豪華なものだ。これも、祭事に向けて事前に手作りで準備をする。それぞれの花の種類は自分自身の心を表現し、そして花の色は東西南北を守る神様を表している。
お祈りでは、白い花、青い花、複数の花を正しい順番に手でつまみ、線香で清める。線香で清めた花を、女性たちは耳にかけていた。そして、祭司が聖水を人々の頭にかけながら回るので、聖水を頭にかけられた後は右手にもかけてもらい、その聖水を口に含んで終了する。
お祈り自体は数十分で終わるが、地域のお母さんたちがお供物を準備したり、インドネシアの伝統音楽であるガムランの演奏が始まったりなど、お祈り以外にもすべきことは多く、結局2時間くらいかかった。
宗教が結ぶ人と人との絆
「お祈りのときに何を祈れば良いの?」
今までお祈り自体めったにしたことがない筆者は、祭事後のパーティーでお供物を食べながら、宿のお母さんに聞いてみた。日本で手を合わせる場面といえば、仏壇の前や、初詣でお賽銭を投げた後くらいだろう。バリの人たちが目を瞑り、真剣に何かを祈っている様子に正直少し戸惑っていた。
「何でも良いんだよ」とお母さんは答えた。
バリヒンドゥーのお祈りでは、神様に美しいものを捧げたいという気持ちが大切。お祈りの手順やお供物の準備などがかなり凝っているバリヒンドゥーの祭事だが、形式よりも「神様を信仰する気持ち」が重要なんだとか。
バリヒンドゥーの祭事に参加してみて、バリ人にとって宗教は空気や水のように生活に溶け込んでいるものだと感じた。そして、神様という共通の存在を通して、地域や家族の絆がより強くなるのではないかとも。
お供物の準備をしながら、お母さんたちはママ友同士で子どもや家庭の話をする。祭事が終わった後のパーティーでは、親戚や近所の人たちが集まってわいわいと近況を話す。
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「なんだか綺麗な花が落ちているな」としか思っていなかった、道端のチャナン。
今はただの美しい花ではなく、地域や家族を結ぶのに欠かせない尊い存在に見える。
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佐藤 ひより
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