古くは修験道の場として栄えた「金峰山(きんぷさん)」。甲府市と長野県川上村にまたがる標高2,599mの山で、山頂の巨岩「五丈岩」が特徴的だ。その威風堂々とした姿から、多くの人にとっての信仰の対象となっていた。
金峰山には、かつては表参道として使われてた「御嶽道(みたけみち)」と呼ばれる古道が存在する。この道は山伏や修験者たちが、山麓の金櫻神社から山頂の本宮を目指すために使われていた。道中には「片手廻し岩」と呼ばれる20mを超える巨岩や、かつて水晶が見つかった「水晶峠」といった見所があり、振り返れば富士山の姿も望める。
しかし、山頂へのアクセスが容易な他の登山ルートが開通したことで、この古道を訪れる登山客が減ってしまっていた。そこで、「かつては表参道として親しまれてきた、この素晴らしい登山道をもっと多くの人に楽しんでほしい」との思いから、登山アプリ「YAMAP(ヤマップ)」を運営する株式会社ヤマップが中心となり、プロジェクトが立ち上がった。
忘れられつつあった古道が復活
この「金峰山古道復活プロジェクト」は、山梨県甲府市、イーデザイン損害保険株式会社、山梨県在住の登山家らが連携した官民一体型の取り組みだ。
2023年12月から2024年1月にかけてクラウドファンディングも実施しており、632万円もの資金が集まった。529人もの支援者から「古道が復活したら必ず登ります」などの応援コメントが寄せられ、プロジェクトへの期待の高さがうかがえる。
不足分はイーデザイン損保が資金援助し、2024年8月から工事が開始。林道整備と駐車場整備が行われ、10月18日より新しい登山口として金峰山古道が復活した。
安全な登山と、地域活性化に貢献
これまでも、長距離移動の多い登山前後の事故リスクに着目し、登山者の安全に資する活動を継続的に実施してきた、イーデザイン損保やYAMAP。今回のプロジェクトでは、道を整備することで事故をなくすリスクも軽減される。登山者が安全かつ快適に登山を楽しむことができるのだ。
単に登山者にとっての朗報だけでなく、地域活性化にも貢献。甲府市にとっては、市のシンボルである金峰山へ甲府市から登れるルートが開通することで、地域の誇りの醸成や経済効果も期待できる。また、企業と地域が連携して地域課題を解決する新たなモデルケースとしても注目されている。
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かつては“表参道”として親しまれていた、祈りの道。先人たちは一歩一歩と道をかみしめ、山々の壮大な景色を眺めながら何を想い、祈りを捧げていたのだろう。
私たちが遠く離れた場所や、高い山の頂上へと辿りつくことができるのは、遥か昔の人たちが開拓してくれた道のおかげだ。忘れられつつあった古道の復活は、地域の歴史や文化を再認識し、新たな価値を創造するきっかけをもたらしてくれるだろう。
【参照サイト】日本百名山「金峰山」の忘れられつつある“古道” が10/18より復活|YAMAP公式HP
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