あるくあるく、つながらないで、ただ歩く

いま、何時何分だろうか

歩き始めてしばらく時間が経って、11:00に食べたクロワッサンが消化されたのか、なんだかお腹がすいてきた

普段から時計をつけないから、スマホがないと時間すら分からない

「もう15:00じゃない?」
「そんなに経った?まだ14:30くらいじゃない?」

疲れてきた足をなんとか前後させていた我々のまえに、ピンク色の桃のマークのレストラン

「バーミヤンいく?」
「ここまできてバーミヤン?食べたいの?」
「うん、バーミヤンが食べたい」

吸い込まれるように店内に入り、暑さに耐えかね二人して冷やし坦々麺を頼む

待ち合わせをしていた駅で会い、改札を出てから、2人でスマホを機内モードに変えてカバンの奥底にぐっと入れた

あっちの出口は出たことがあるという理由から、あっちではない出口になんとなく向かう

「とりあえず地図でも見るか」

普段なら存在すら気づかずに通りすぎそうな駅前にある古い地図を見て、水と緑が多そうな庭園を見つけた。そこに向かうことを決めるも、地図が、読めない

「いまどこ?」
「これどっち向き?」
「庭園に行くにはどっちに進めばいいんだ?」

地図上にある交番の地図記号に目が止まり、聞いてみようかと近づいていくと、交番の前にも地図があった。こちらのほうが比較的新しそうだ

聞く前に、こっちも見てみようと、地図を見る。がしかし、さっぱり分からない。気づくと友人が警察官に話しかけていた

「あの、日本なんとか庭園ってどっちですか?」
「え?日本?ん?」

何のことかさっぱり分からない様子の警察官を手招きし、地図の前に再び立ち、ここに行きたいんですと再度聞く

「日立中央研究所庭園ね。これは北口じゃないかな。反対の出口。北口を出て左です」
「行ったことありますか?」
「いや、ないですね」

なるほど、出口が違ったか。くるりと向きを変えて、再び駅を通り抜ける

ふといい香りがした

「珈琲屋さんだ。いい匂い〜。ケーキも美味しそう」
「入る?」
「いや、まだ歩きたい」

少し食べたい気持ちを2人して我慢して、左へ進んでいく。まっすぐ左に向かっていると後ろから誰かに呼び止められた

「あの、そっちはバス専用道路ですので、あっちの道を行ってください。こう見えて結構バスがたくさん通って危ないんです」
「そうだったんですね!ありがとうございます。ちなみに庭園に行きたいんですが、知っていますか?」
「あのーええと詳しいことはなんとも確かではないので、お伝えすべきかどうかなんですが」
「間違っていても全然大丈夫なので教えてください!」
「あっちのほうにたしか大きなのがあると聞いたことがあります」

警備員さんの首元には、暑さ対策か、てぬぐいが巻かれ、文房具用の銀色のクリップで留められていた

教えてもらった道を歩くも、目の前に現れたのは研究所。入館証がないと入れそうもない。回っていけば庭園があるかもしれない、そう言って再び歩き出す

「スマホがあればここですぐに、そもそも入れるのかどうか調べるよね」

結局庭園の入口は見つからず、なんともなしに歩いていると、ふと自転車がゆらゆらと緑の葉が揺れる小道を通っていくのが見えた

「あそこに良い感じの道がある!通りたい!」

小道に着くと、そこにはススキのような、しかし青々として背の高い植物が風に揺れていた

「ざわわ、ざわわ、ざわわ。なんか、さとうきび畑みたい」

風は私たちの右から左に吹いている

「見て、草が踊ってるみたい」
「音楽みたいだね、海にも見える」

左右上下前後にぐるんぐるんざざざと揺れる草原を見ながら見えないものを想像する

「あ」

ふと振り返るとバーンと青い夏の空が抜けるように高くそこにあった

疲れたので道端にあったベンチのような場所に腰を下ろして話をする

想像をテーマにした美術展の話、思いがある創作物の話、環境問題

「そろそろ歩きますか」
「おなかが空いたね」

と立ち上がり、食べ物と飲み物を求めて再び歩き出す

駅から出発して気づけばそこは住宅街、まわりには飲食店のひとつも見えない

いつもならすぐにスマホを取り出して、GoogleMapを立ち上げ「ランチ」「カフェ」と検索するところ

今日は、高いマンションを目指して、人通りのありそうな方角に向かってなんとなく足を進める。気づくと研究所のところまで戻ってこれていた

「戻ってこれるもんだね」

ピンクの桃のマークのレストランで、冷やし坦々麺を食べ終え、デザートに杏仁豆腐を食べながら

「そろそろ帰らなきゃかな、何時だろう」
「スマホ見ますか?」

3時間ぶりにスマホを見る。時刻は15:46。あぶないあぶない16:00には出ないとだったので、あながち頼れる体内時計をひとり誉めた

「スマホがあれば、あの草が揺れる綺麗な景色を、きっと動画に撮ってたと思う」
「記憶の中だけで、思い出せるものがあるっていいね」
「うん、あの草のうねり、頭の中にちゃんと焼き付いてる」

「またやりたいね」
「またやろう」

私たちは寝ても覚めてもずっとスマホを介してネットを介して何かとつながっている

それは便利で、でも、なんだかずっと紐で繋がれているような感じでもあるね

スマホがない時間は、その紐が外れたようで、自由だったね

そんな話を一緒にただただ歩いた友人と帰り際にした

人に尋ねる。よい景色に気づく。そこを全身で感じて体で記憶する

12:00だからではなく、お腹で、お腹が空いた、何か食べたいと気づく

事前に調べるのでもなく、導かれるようにそこにある店に入る

歩いたのは観光地でもなんでもない住宅地。それでもこのスマホのない3時間は旅のようだった。旅とは

また、ただただ、歩こう。今度はスマホを家に置いて

The following two tabs change content below.

飯塚彩子

“いつも”の場所にずっといると”いつも”の大切さを時に忘れてしまう。25年間住み慣れた東京を離れ、シンガポール、インドネシア、中国に住み訪れたことで、住・旅・働・学・遊などで自分の居場所をずらすことの力を知ったLivhub編集部メンバー。企画・編集・執筆などを担当。