サッカーの何がおもしろいの?付き合いで見に行ったイギリスの試合を経て感じたこと

ブライトンのスタジアム

サッカーほど点が入らないスポーツも、なかなか存在しないと思う。

小さい頃習っていたテニスは、一度ラリーが始まればどちらかに必ず点が入る。
兄の影響でよく観戦していたバスケットボールは、1試合40分で100点近く点が入ることもある。

それに比べてサッカーはどうだろう?
数点入ることはとても稀で、0対0で試合が終わることもしばしば。

90分(時には120分)広大なコートを22人で走り回った結果、0対0。
なぜこんなにも点が入らないスポーツが人気なのか、サッカー素人の私には理解ができなかった。

それでも、世界中を魅了するのがサッカーである。
ガーナの田舎街でも、タイのローカル電車でも、サッカーの話題を出せば話が盛り上がるのを見てきた。

今回は素人の私が、サッカー好きのパートナーに付き合って、世界一周の旅の道中にアルゼンチン・ブラジル・イギリスでサッカーを観て回った記録を共有したい。

ブーイングと暴言祭り…激しい応援の【アルゼンチンのボカ・ジュニアーズ】

ボカジュニアの試合
まず初めに訪れたのはアルゼンチンのサルタ。
今回観戦するのはブエノスアイレスのチーム「ボカ・ジュニアーズ」の親善試合だ。

親善試合な上に、アウェイ戦。そこまで激しい試合にはならないだろうと思い、ゴール裏に席をとってみた。(ゴール裏には通常、最も熱心なファンたちが集まる。チケットの価格も安い。)

スタジアムに入る前に、まず入念なボディチェックがあった。
男性と女性はそれぞれ別の列に並び、警官に腰回りや背中を中心にチェックされる。
危険物をコートに投げ込まないように、カメラなど硬いものなどの持ち込みは厳しく制限されている。言い換えれば、普段からそれほど激しい応援がされていると言うことだ。

ゴール裏に向かい、コンクリートの階段状になっている席(というよりは段差)に腰を下ろす。周りには溢れんばかりの人、人、人。アウェイ戦だというのに、ブエノスアイレスなどの遠方からも駆けつけたサポーターでいっぱいだった。

試合が始まると、全員が一斉に立ち上がった。
いつの間にか器楽隊も入場し、応援歌を喉が張り裂けそうな音量で歌い始める。一斉にジャンプをしながら応援をするから、まるで地震のようにスタジアムが揺れていた。

試合が進むにつれて応援席も盛り上がり、様々な怒号や叫び声が聞こえる。少しだけスペイン語を勉強した私の耳に、馴染みのある単語が入ってきた。

「Pollo!」(スペイン語で「チキン」の意味)
「Chiquito!」(スペイン語で「小さい」の意味)
「Puta!」(スペイン語で酷い罵倒をする時の言葉)

どうやら、ゴールを決めようとしてミスをした相手チームの選手を罵っているらしい。

アルゼンチンの試合観戦で私が最も驚いたのはこの「ブーイング」のカルチャーだ。

相手チームがイエローカードをもらうようなプレイをした時。
相手チームが怪我でグラウンドに倒れこんで試合を止めている時。
味方チームがひどいプレイをした時。
審判が納得できないような判断をした時。

これ以外にも様々な場面でブーイングが起こる。よく聞く「Boo」というサウンドだけではなく、ひどい罵詈雑言を投げかけるのがアルゼンチン流のようだ。(個人的には、怪我で倒れている相手チームの選手にブーイングをするのはどうかと思う。ただ、わざと倒れこんで試合を止めようとしている場合もあるらしいので、ブーイングはよくあることらしい。)

試合自体はちょっとつまらない展開だったけど、サポーターの熱心さと情熱がとても感じられる体験だった。

スタジアムに鳴り響く轟音…エネルギー溢れる【ブラジルのサンパウロFC】

サンパウロFCのスタジアム
次にやってきたのはブラジルのサンパウロ。サンパウロ州には40近くもサッカーチームがあるが、その中でも有名なサンパウロFCの試合を観にいく。

ブラジル人の知り合い経由で招待席のチケットが手に入ったため、屋根付きの良い席で観戦できることになった。

旅をしながらサッカーを観戦する際に困ることは、試合に何を着ていくか、ということだ。できる限り最低限の荷物で旅したい私にとって、毎回ユニフォームを購入するのは最適解ではない。頭を悩ませていたところ、今回は知り合いがブラジルのナショナルチームのものを譲ってくれた。

「サンパウロFCの試合にブラジルのナショナルユニフォームを着ていく…これ以上ブラジル人っぽいことはないよ!楽しんできてね!」

知り合いの言葉どおり、派手な蛍光黄色のユニフォームを身に纏ってワクワクしながらスタジアムに向かう。スタジアムが近づくにつれ目に入ってきたのは赤、黒、白のカラーを身に纏った人たちだ。少し嫌な予感がしてきたが、スタジアムの席に着くとその予感が的中した。

巨大なスタジアムを見渡す限り、ほとんどの人がサンパウロFCのユニフォームを着用している。誇張なしに、99%の人が黒か赤か白を身に纏っていた。そんな中で蛍光黄色のユニフォームを着る私。あまりのアウェイ感に耐えられず黒色のタンクトップ一枚になった。

試合の前半戦は、0対0で終了。
そのまま引き分けで終わるかと思った後半のアディショナルタイム、サンパウロFCがゴールを決めて一気に会場が盛り上がる。観客たちはプラスチック状の椅子を思い切り叩き、大きな音を鳴らす。アルゼンチンの時よりもはるかに大きなスタジアムに応援の声と演奏が鳴り響いた。気を抜くと飲み込まれていきそうな熱狂の渦。まるで嵐の日の海沿いに立っているかのような気持ちだった。

試合は結局1対1の引き分けで終了。ブラジル人の底なし沼のようなエネルギーを感じた試合だった。

敬意と愛の溢れるサッカー【イギリスのブライトン】

ブライトンのスタジアム
ブラジルの次にやってきたのは、真冬のイギリス。アジア杯を終えてイギリスに帰ってきた三笘薫選手を応援するために、海沿いの街ブライトンに足を運んだ。

ブライトンが設立されたのは1901年。今でこそプレミアリーグ(日本で言うJリーグの1部のこと。世界最高峰のサッカーリーグ)の常連として知られているが、第4部への降格やホームスタジアムの売却も経験してきた苦労の多いチームだ。三笘選手をはじめ多くのアジア人やオセアニア人が活躍しており、日本人にも人気のあるチームだ。

ブライトンの駅に着くと、ふっと軽やかな空気が流れるのを感じた。海沿いの街ということは、東京で例えれば鎌倉や逗子のような位置付けだろうか。ロンドンと比べてのんびりとした雰囲気が漂う。

スタジアムはこじんまりとしたサイズだが、青と白のカラーの洗練されたデザインが印象的だった。チームのトレードマークにもなっているカモメが空を飛んだり、スタジアムで羽休めをしている姿がとても可愛らしい。

試合開始1時間前。SNS上でチーム公式アカウントからスターティングメンバーとベンチメンバーが発表される。残念ながら三笘選手の名前はなかった。

今回の席はゴール裏ではなく、ピッチを真横から見られる座席。前からなんと4列目。このスタジアムはサッカーのためだけに作られているので、日本の国立競技場などとは異なり陸上用のトラックがない。そのため、ほぼ目の前で選手のプレイを見ることができる。

スタジアムにいる人々を見渡してみると、ブラジルやアルゼンチンと比べて着用している服はみんなバラバラ。冬のイギリスは極寒なので、皆コートやダウンを着ているためだ。その代わり、チームデザインのマフラーや帽子を身に纏っているのがヨーロッパらしかった。

試合前、選手が入場すると一斉に観客たちが起立した。どうやら選手へのリスペクトを示すための行為のようだ。試合中に選手が交代する際にも全員がサッと立ち上がり、ピッチを去る選手に拍手を送っていた。

試合中、ブライトンの選手がとあるプレイでミスをした時に、後ろのサポーターが暴言を吐いた。するとすかさず、前方の席に座っていた小学校低学年くらいの男の子が「Calm Down Mate!(落ち着いてよ!)」と叫んでいた。席の位置も関係あるとは思うが、ブラジルやアルゼンチンの激しい体験と比較すると非常に気高さや高貴さが感じられる試合観戦だった。

涙を流すブライトンファン歴50年のおじいちゃん

ブライトンのパブ
試合後、ロンドンに帰る前にブライトンの駅前のパブに寄ってみた。
パブの中には試合を観戦し終えたファンの方々も数多くいて、その中で一人のおじいちゃんと話すことができた。

「君はブライトンをいつから応援しているんだい?私はブライトンを応援し続けてもう50年間になるよ。」

「ブライトンは過去には4部リーグに落ちたり、経営面も傾いてしまってホームスタジアムもなくなったこともあった。でも今は…ごめんね、なんだか泣けてきてしまったよ。このチームは私の人生そのものなんだ。」

「君はプレイヤーのサインをマフラーにもらったのか?いいかい、家に帰ったら額に入れて大切に、大切に飾るんだよ。それはかけがえのない宝物だから。」

おじいちゃんの言葉の節々から、ブライトンへの愛が感じられてなんだか私も泣きそうになってしまった。

頑張って働いたお金を使って、誰かを応援しにいくこと。
誰かが戦った結果の勝敗を自分のことのように喜び、悲しむこと。
世界中にある様々なチームの、無数のサポーターたちが抱える愛と情熱を想像し、胸が熱くなる。

点はあまり入らないスポーツだけれど、私はサッカーのことが少しだけ好きになった。

本記事ライターは、世界中のローカルなヒトと体験に浸る世界一周旅中。
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Ray

世界のヒトを深く知れば、きっとちょっぴり世界に優しくなれるはず。そんな考えから、世界中のローカルなヒトと体験に浸る旅に出発。デンマークや逗子葉山でワークとライフのバランスを探った経験あり。ヒトと同じくらいネコが好き。