大人がとことん楽しむ姿を子供に見せる。アフロ姿でごみ拾い、静岡・清水「チームつながり」

 大人がとことん楽しんでいる姿を次世代の若者や子供たちに見せながら「笑顔あふれるまちづくり」ができたらー。
静岡・清水でごみ拾いを通じて、そんな活動の輪が広がりつつある。アフロのかつらなどをかぶった大人たちの活動がSNSなどで拡散し、地元はもとより、コロナ禍前には遠くは大阪や愛知、東京から駆けつける人も。主催者は新しい移住者なども気軽に仲間になれるきっかけの場になったら、と今後の展開に期待を込める。
 「これから、第215回ウオーキングごみ拾いを開催します」
 ゴールデンウイークの中盤、5月3日早朝、三保松原(静岡県静岡市)にある「清水三保海浜公園」は爽やかな風が吹き抜ける好天に恵まれた。同所は、世界文化遺産・富士山の構成資産。大切な自然を守り、後世につなげようと、集まった親子や学生ら約60人がトングやごみ袋を手に、砂浜に打ち上げられたものや投棄されたごみを手際よく回収していった。集めてみれば、ペットボトルだけで93本、それ以外にも漁網やビニールごみ、大きなものでは廃タイヤまで45リットルビニール袋15袋分が集まった。

数十分のごみ拾いでも多くのペットボトルなどのごみが集まった

アフロヘアの大人たち

 様子をよく見ると、参加している大人たちの頭はカラフルなアフロヘアのかつらや動物の被り物などさまざま。三保やJR清水駅周辺のごみ拾い活動を通じて、街の活性化を図る市民団体「チームつながり」代表の伊藤高義さんは、「大人が笑顔になれば、子供も笑顔につながる」という基本方針の下、アフロのかつらをかぶることを思いついたという。
 ごみ拾い中も、伊藤さんが率先して大人、子供関係なく声がけしていくと、そこから笑い声が起き、会話が弾む。正味30分ほどの作業ではあるが、駿河湾越しに頂く富士山の勇壮な姿を見つつ、参加者は終始楽しみながらごみ拾いに臨んでいた。

チームつながり代表の伊藤高義さん(中央)ら

ごみ拾いには集まらず

 〝大人も子供も楽しめる〟ごみ拾い活動のきっかけは2009年12月までさかのぼる。
 伊藤さんはもともと、地元、静岡・清水の街に活気がないことを気にかけていた。そこで、現在の活動コンセプトでもある「大人が笑顔になれば、子供も笑顔につながる」ことを実践しようと計画。まずは〝大人から笑顔に〟ということで、友人らと清水の街で定期的に飲み会を開催することに。しかし、「金はかかるし、飲まない人は楽しめない。で、早々に行き詰まった」。
 そんなタイミングで、伊藤さんは、かつて、芸人として活躍し、現在はてんつくマンとして映画監督や社会活動を行う軌保博光氏、JR新宿駅東口を1人でごみ拾いしていた荒川祐二氏と出会う。そこで、ごみ拾いの社会的意義を強く感じ、地元でのごみ拾いを思いつく。
 そして迎えたごみ拾い活動初日。
 飲み会を開催していた時は多くのメンバーが参加していたはずなのに、清水駅での初めてのごみ拾い活動には誰一人集まらず。
 それでも伊藤さんは諦めず、継続するうちに参加者が1人増え、また1人と輪が広がっていった。

初期のJR清水駅周辺でのごみ拾い活動の様子

世界遺産登録に情熱

 活動の輪が一気に広がるきっかけがあった。
 2013年5月3日に、第一回の三保の海岸清掃を行うことを決めていた。しかし、直前の1日、世界文化遺産の候補となっていた富士山に関し、ユネスコの諮問機関であるイコモス(IInternational Council on Monuments and Sites=ICOMOS:国際記念物遺跡会議)が、富士山から距離が遠いことなどを挙げて、三保松原を構成資産から除外する方針を表明。清水、三保のすばらしさを後世に残していきたいと望んできた伊藤さんにとってはまさに青天の霹靂(へきれき)。正直、怒りの感情も湧きあがった。それでも、わずかな望みをつなごうと、5月4日以降、たった一人で毎朝6時から、どんなに天候が悪くとも三保の清掃に取り組んだ。
 そうした伊藤さんの強い思いが届いたのか、同年6月22日、イコモスの裁定は覆り、三保も構成資産として加わることに。このことで伊藤さんは、一層、三保、そして美しい清水の街を守っていく決意を固める。

子供も大人と関わる大切さ

 とはいえ、活動で肩に力が入るようなことはなく、あくまで自然体だ。開始当初は、「変人扱い」されていた変装をしての取り組みも、今では、活動の姿を見ると高校生など若い世代も自らあいさつしてくれるようにまで変化した。伊藤さんの長男は最近、「お父さんが色々な人と関わっていることがうらやましい」と話し、伊藤さんは「素直にうれしかった」と話す。「子供が親だけでなく、色々な大人に出会うことはとても大切なことだと思う」。
 もっとも、ごみ拾い活動から新型コロナウイルス禍を感じることも。伊藤さんは社会人ながら現在、静岡大学に通う学生でもあるが、取り組みに参加する同級生である男子学生は「コロナ前よりも正直、ごみの量が減りました。一見喜ばしいのですが、要は商店街などの人流がないことの裏返しなのです」と話す。コロナ禍からの回復で「ごみも増えればよい」ということを言いたい訳ではないが、不本意ながら、ごみの量から街の活気がさらに失われていることを知ることになったのだ。

静岡移住者も参加歓迎

 伊藤さんは、「市民団体といってつっぱっていても発信や活動の信頼度には限界がある。誰でも参加しやすい市民団体になるためにも行政と連携し、サポートいただくことは心強い」とした上で、「同じ三保でも外浜と内浜で県と市などで管轄が異なる現実もあり、三保半島全体を盛り上げるためのパイプ役になれたら」とも。
 実際、内浜のクリーンアップが県も市も関わる形で実施され、ここでも伊藤さんたちの存在が大きく貢献したようだ。
 チームつながりの活動は常にSNSなどで発信していることもあってか、「コロナ禍前には、大阪や東京などからわざわざお越しいただいていました。早くコロナが落ち着いて色々な地域から清水に来てもらいたいです。地元の人たちに限定することなく、『来る者拒まず』で自由に参加してもらっています」。これは、静岡に移住するなど新たに生活を始める人にも心強い。いきなりアフロ姿になる必要はないが、楽しんでごみ拾いする大人たちの輪に入るのにそう時間はかからなそうだ。

三保のごみ拾いが終わって参加者全員で決めポーズ

【参照サイト】チームつながり

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Shin

千葉県出身、埼玉、神奈川育ち。多くの起業家や地方取材、執筆経験があり、ハイブリッドライフや全国各所でのワーケーションに興味津々も、実現にはほど遠く。当面は、各地で1人でも多くの方々と出会い、ネットワークを広げることが目標!