心も時間も物もシェア、ギブ。謎に包まれた国「イラン」は優しさと親切に溢れていた

「世界一周してみて、どの国が1番良かった?」
かつて世界一周旅行を経験した友人に聞いてみたことがある。

「イランだね!間違いなく。あんなに優しく親切な国は見たことがないよ」

イランといえばアメリカと仲が悪く、謎に包まれた国のイメージ。予想外の答えに私は驚いてしまった。

本当にそうなのかな?どんな人たちが住んでいるのかな?どれくらい親切なのかな?
溢れる疑問を胸に、私はパートナーと共にイランへ向かった。

ホストの優しさ

私たちを迎え入れてくれたのは、イランの首都テヘランに住むホストのヘイダーと彼の家族。

「いらっしゃい!君たちが来るのを待っていたよ。一緒にご飯を食べよう」

私たちが彼らの家に着いたのは15時ごろだったのにも関わらず、昼食を一緒に食べるのを待ってくれていた。美味しそうなスパイスの匂いがリビングに漂う。

「フライトで疲れたと思うから、たくさん食べてゆっくり休んでね」
「イランは外国人が旅するには少し大変な国かもしれない。何か質問があったり、助けが必要だったりしたら、いつでも言ってね。本当にいつでも!できる限り力になるから」

実を言うと私は、空港から家にたどり着くまでかなり緊張して身体がこわばっていた。

そもそも、イランでは多くのアメリカ系サービス(Google, Uber, Airbnb, Booking.com, Instagram, Facebookなど)が軒並み使えない。日本ではメジャーな連絡手段であるLINEすらもサーバーへの接続が遅すぎて使い物にならない。その上、政府の都合でインターネット自体が遮断されることもしばしば起こると聞いていた。

おまけにクレジットカードも使えず、海外用キャッシュカードもイランのATMでは使用できないため、多額の現金(アメリカドル)を常に持ち歩かなければならない。

「家族から緊急の連絡が来てるのに気づかなかったらどうしよう」
「強盗に遭ってお金が全部なくなったらどうしよう」
「もし知らぬ間に軍事攻撃があって国境が封鎖されていたらどうしよう」

私の頭の中にはこんな心配事が四六時中ぐるぐると回っていた。アメリカ系サービスから離れて旅をするのは、スマホやインターネット、そしてキャッシュレスに慣れ親しんだ世代の私にとって初めての体験だった。

だが、彼の言葉のおかげで緊張していた身体から力が抜けた気がした。

私も、誰かをもてなす時には「困っていたらいつでも助けてあげたい」と思っている。でも、今までこんな風にはっきりと言葉にして伝えられていただろうか。私が今までもてなしてきた人たちに、私の意志は伝わっていただろうか。
こんな風にサラッと誰かを言葉で癒せるような人に私もなりたい…そう思えた瞬間だった。

そして、会話の中で私たちの次の目的地がヤズドであることを伝えたところ、

「次はヤズドに行くんだって?そしたらバスチケットを取らなくちゃ。一緒にバスターミナルに行ってチケットを買おう。その前に両替もしよう。今日は僕は仕事は休みだからいくらでも時間を使えるよ」

と言ってくれたのだ。

せっかくの貴重な休みなのに…私たちのために時間を使ってくれる心遣いに、私たちは心から「ありがとう」と返した。

バスターミナルに行ってみて分かったが、アラビア語の知識なしでチケットを買うのはかなり難易度が高い。文字は数字も含めて全てアラビア語表記で、英語などの併記はなし。彼なしでチケットを買うのはさぞ大変だっただろう。

チケット

「大丈夫。きっと君たちだけでも買えたはずだけど、僕がいたから少しだけ速くなっただけだよ」
と笑いながら答えてくれた。

ヘイダーの穏やかで温かい優しさを、シャワーのようにたくさん浴びた1日だった。

30分で私を驚かせた8歳のレイハネ

へイダーの家には、とても可愛らしい8歳の双子の男の子と女の子がいた。女の子の名前はレイハネ。彼女は最近英語を習い始めたばかりで、私はペルシア語を話せない。つまり、彼女と私がコミュニケーションを取るには英語を話すしかない。とはいっても彼女の英語は超初級レベル。つまり挨拶と自己紹介程度しか話せない。

それでも、私は彼女の振る舞いの一つ一つから「優しさ」を感じた。

私たちは、テヘランでの移動手段に主に電車を使っていた。イランの電車には日本と同じく女性専用車両がある。レイハネは、私を引き連れて女性専用車両に連れて行ってくれた。

レイハネの「こっちだよ」と訴えかける表情や、手の取り方、椅子への案内の仕方、どれも一つ一つが丁寧で優しさに溢れていた。お父さんやお母さんの優しい振る舞いをよく見ているのだろう。

イランの電車では、様々な製品を売るセールスマンがよく乗ってくる。香水やバッグ、靴下やベルトなどをセールストークと共に人々に見せて回る。女性専用車両では特にこのセールスが多いようだ。毎日通勤する人にとっては少し鬱陶しいかもしれないが、たまに電車に乗る人にとっては新鮮で楽しい体験だろう。レイハネも、香水の試供品の香りを楽しそうに嗅ぎ比べていた。

もしかしたら彼女は、普段あまり一緒に出かける機会のない母親の代わりに、私と一緒にこの楽しい車両に乗りたかったのかもしれない。そう思うと心がポッと温かくなった。

彼女は車内で楽しそうにするだけではなく、私がふらつかないように手すりをしっかり持たせてくれたり、目についたものをアラビア語で何と呼ぶか教えてくれたり、あと何駅で降りるか何度も教えてくれたりした。

文字にしてしまえば何気なく見えるかもしれない。しかも電車に乗っていた時間は合わせてもたった30分ほどだ。でも、たった30分で、言語の通じない相手に「とっても優しいんだな」と思わせる彼女の力を、私は心の底から尊敬した。

山ほどの贈り物をくれたタクシードライバー

イランについて2日目、バスターミナルに向かうため私たちはヘイダーの家を離れ、タクシーに乗った。アプリを使って配車したタクシー。ドライバーは英語はほとんど話せないようだった。

挨拶もほどほどに車が走り続けること数分。ドライバーの彼はふいに私のパートナーに袋入りのポテトチップスを差し出してきた。

「開けてほしいのかな?」

パートナーが袋を開ける仕草を見せると、ドライバーは「うん」と頷いた。
袋を開け、ドライバーに差し出したところ彼は「いらない」首を振り、パートナーを指差した。
私たちにポテトチップスをくれると言っているようだ。

「ありがとう」と伝え、私とパートナーは2,3枚のポテトチップスを取り、彼に袋を渡そうとした。すると、彼はまた首を横に振った。
どうやら彼はポテトチップスを丸ごとくれると言っているようだ。

「マジ?」と思わず日本語で口にしたところ、彼は「うんうん」と頷いた。(日本語が通じなくても驚いていることは伝わったようだ)

もらったポテトチップス

ありがたくポテトチップスを食べていると、彼は次にタバコの箱を私のパートナーに差し出してきた。
「これ、持っていけ!」と彼は言っているように見えた。
パートナーも私もまた驚いてしまった。しかし、私たちは2人ともタバコを吸わない。

「ごめんね、僕たちはタバコを吸わないんだ。あなたが自分のために使ったら良いよ」
と伝えたところ、彼は「それなら」と言った様子でポケットからガムを取り出した。
ガムと言っても1つではなく、10個近く入った未開封のパッケージのものだ。

「これ、全部くれるってこと?」
とパートナーが尋ねると、ドライバーはまた「うんうん」と頷いた。

再び「ありがとう」と伝えると、彼はさらにあるものを取り出してきた。

助手席シートのバックポケットから取り出したのは分厚い本。中を開くとそこにはアラビア語が並んでいる。何が書いてあるかはさっぱりわからなかった。でも、本の中にボールペンで書き込みがあったり、ページに折り目がつけられていたり、表紙も年季が入っていたことから、相当読み込んだ本であることだけはわかった。

本をくれたドライバー

彼はおもむろにスマートフォンを使ってGoogle翻訳を使い出した。しばらく経って見せられた画面にはこんなメッセージが表示されていた。

「これはイランの有名な詩人の詩集。妻にこれをプレゼントしたらいい」

私もパートナーもこれにはびっくりした。「全然読めないよ!」と伝えても、彼は持っていけの一点張りだった。そして彼はこんなことを口にした。

「イスラムピーポー、シェア、シェア、シェア」

イスラム教には富を独占せず共有する考えがあると聞いたことがある。
でも、今日はなんでもない日なのに。私たちはただの観光客なのに。たった15分の乗車時間なのに。
ポテトチップス、ガム、タバコ、本までもらうなんて、想像していなかった。

「イランのおもてなしと優しさは世界で一番すごいと思うよ」
友人が教えてくれた言葉が、ふと頭の中によみがえった。

【参照サイト】プラネットピーポージャーニー🌍世界一周ローカル体験&人間観察の旅
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Ray

世界のヒトを深く知れば、きっとちょっぴり世界に優しくなれるはず。そんな考えから、世界中のローカルなヒトと体験に浸る旅に出発。デンマークや逗子葉山でワークとライフのバランスを探った経験あり。ヒトと同じくらいネコが好き。