その神秘的な絶景から、「まるでウユニ塩湖のようだ」とSNSでも話題になった父母ヶ浜(ちちぶがはま)を擁する香川県三豊市。人口6万弱の街だが、その地には年間約50万人の観光客が訪れる。さらに注目すべきは地域外からの移住者の増加率。2020年度に年間100人弱だった移住者は、1年後の2021年度には300人を超えた。
そんな観光客も移住者も惹きつける三豊市には、外からの資本に頼らず地元企業を中心に11社が集結、協業して創り上げた宿泊施設「URASHIMA VILLAGE(ウラシマビレッジ)」がある。地域企業が集まり宿をつくる。そうしたことが起こる過程も含めた部分に多くの人々を惹きつける魅力があるように思い、URASHIMA VILLAGEの運営会社である瀬戸内ビレッジ株式会社代表の古田秘馬(ふるた ひま)さんにお話を伺った。
地元企業11社のみなさん/オレンジ色の帽子を被っているのが古田さん
自然の時間に身をゆだねる
まずURASHIMA VILLAGEの名前はどういった背景からつけられたのだろうか?
「URASHIMA VILLAGEの目の前には浦島太郎伝説の証となる、浦島神社が建つ丸山島があります。丸山島に渡れるのは、潮の満ち干きの関係で1日2回のみ。チェックインしたからといって、すぐに島に行けるわけではありません。そうした、人間の都合ではどうにもならない、悠久から続く地球が決めている時間に従うことが現代に生きる我々にとても大切だと思い、施設のテーマに据えました」
丸山島
「自然の時間に身をゆだねることが大切だと考えたのは、今を生きる人が失ってしまったものが“時間とリズム”だからです。1分=60秒という定義された時間ではなく、自分のバイオリズムを含めて感じられる時間を手放してしまっていますよね」
「URASHIMA VILLAGEでは、波の音に耳を傾けたり、海や空をぼんやり眺める時間が十分に取れます。そうした時間を取ると、自然に癒されるだけでなく、脳が整理され、想像が膨らむようになると言われています。自然の時間に身をゆだねる豊かな時間が三豊には息づいているんです。『今日は夕焼けがきれいだな』と思うと、どこからともなく街の人が海辺に出てきて夕景を眺めていたりする。日本中に夕景がきれいな場所はたくさんありますが、三豊ではそれを見るために手を休めてたくさんの人が出てきます。そうした何気ない営みを含めて、すごく素敵な時間を過ごせるところだなと感じています」
みんなでやれば、きっと出来る
数年前までは観光客も多くない閑静な街だった三豊市。SNSをきっかけに来訪者が増加したのはよかったが、急に増えた観光客に対して宿泊施設の量が足りず、観光の客足を街の経済発展に活かしきれない状態になった。そうした状況に危機感を持った地元企業を中心に出資をしあって出来たのが、「URASHIMA VILLAGE」なのだ。
「設計やデザイン、食、オペレーションなど、『URASHIMA VILLAGE』はすべて地元のプレイヤーが担っています。『よくそんな素晴らしいタレントが揃いましたね』と驚かれますが、実はどの地域にもそうした優れた企業や人材はいると思うんです。出資主は、地元の建材屋さんやレンタカー会社、バス事業社など、それぞれ地域で実績のある企業ばかりですが、1社でホテルを造り運営するのはハードルが高い。でも、力を合わせればできるだろうと始められたプロジェクトです」
「1社で運営するよりも11社が集まれば成功したときの喜びは何倍にもなり、リスクも分散できる。また、ある意味で『URASHIMA VILLAGE』は11社の企業の取り組みを伝えるショールームのような役割も果たしているとも言えます。こうした地域循環型のモデル、僕らは“身の丈資本主義”と呼んでいますが、大手資本に頼らずとも責任や想い、文化といった精神的なオーナーシップを持ち続けられるかどうかは、とても重要だと思います」
具体的には、宿泊時の地域内外の移動は、出資メンバーである「琴平バス」「平成レンタカー」など交通事業者と連携。食材は、出資メンバーの「スーパー今川」を中心に、近隣の仁尾漁港と連携して地域の新鮮な魚介や野菜などを提供。また、宿で使用するエネルギーは、出資メンバーの「自然電力株式会社」のノウハウを生かした100%自然エネルギーの運営に挑戦している。(※1)
施設内で使われる家具も地元の県産材を用い、地域の大工さんが作っている
「SNSで『ウユニ塩湖のようだ』とSNSでバズったことは、ある種の運もあると思います。ただ、それも土地を愛する人たちが綿々と美しい景色を守り続けてきたからこそ、発見されたのだと思います。かつて埋め立ての話が出たことがあったそうですが、それに乗らずに浜を守った。さらに、地元の人たちは浜のゴミ拾いなどを日々続け、美しい状態を保っているのです。そうやって次の代へと美しい自然のバトンをつなぐことができる地域性は、三豊の大きな力だなと感じますね」
「地域への入り口」がここに
滞在中のおすすめの過ごし方を聞くと、こう教えてくださった。
「施設内では、一番ビーチに近いデッキに造ったサウナを、1度は体験していただきたいですね。太陽光発電した熱を利用したサウナで、檜の香りに癒されながら海を眺めてぼーっとできます。水風呂代わりに目の前の瀬戸内海に入れることも、他ではなかなか体験できないでしょう。もちろん、伝説の無人島に渡るのもお薦めですよ」
海を独り占めできるバレルサウナ
「三豊市には魅力的なお店も増えているので、街を散策するのも楽しいと思います。『RACATI』は、Bean to Bar チョコレートに特産の和三盆を使ったチョコレートが人気です。地元メンバーで、新たに作ったカラオケパブ『ニュー新橋』はかなりカオスな酒場です(笑)」
「父母ヶ浜からほど近い場所に『瀬戸内ワークレジデンス「GATE」』もできました。こちらもコロナ禍にオープンしましたが、連日ほぼ満室と聞いています。会員制の専用スペースで、旅よりもう少し深く、地域の暮らしに一歩踏み出したい人へのサポート体制が備わっています。具体的には、暮らすうえで必要になる『仕事(役割)・住まい・コミュニティ』を提供しています。三豊を一度訪れて楽しかったから再訪したいけれど『URASHIMA VILLAGE』で長期滞在するのは経済的に難しいという人にもオススメです」
引用元:瀬戸内ワークスレジデンス GATE Facebookページ
なるほど。移住者が増えている一因には、瀬戸内ワークレジデンス「GATE」のような「地域への入り口」の存在があったのか。サイトを見ると、カフェやゲストハウスのスタッフ・新商品の開発・インバウンド顧客向けの体験ナビゲートなど多様な求人が掲載されていた。
大事なものは日常のなかに
「三豊はさりげない暮らしのクオリティが高いと感じます。食が豊かで自然が美しく、暮らしやすい環境ですから、無理なエンタテインメントはいりません。日常のなかに大事なものがあり、愛おしいものが生まれる場所なのです」
「URASHIMA VILLAGEやニュー新橋、瀬戸内ワークスレジデンスGATEなど、こんなふうに同時多発的にたくさんのプロジェクトが起きているのも三豊ならではかもしれません。東京などの都市部で同じことをしようとすると、ハードルが上がりますが、三豊には余白がある。だからこそチャレンジもしやすい」
「こうしたことは、他の地域にも言えることではないでしょうか。コロナ禍を機に進んだワークスタイルの二拠点、多拠点化に合わせて、これからますます旅と暮らしの境界線があいまいになっていくのかもしれませんね。」
URASHIMA VILLAGEのお話を伺っていたはずが、気づくと「三豊市」という地域の魅力に心を動かされていた。
「自分達の力でやってみよう」と力強くアイデアを形にしつづける三豊の人々のチャレンジスピリットに心を燃やしに。
「今日は夕焼けが綺麗そうだ」と家から出てきて海辺でぼーっとする三豊の人々に流れる、ゆったりとした自然の時間に身を浸しに。
いざ。三豊まで。
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URASHIMA VILLAGE (ウラシマビレッジ)
公式HP: https://urashimavillage.com/
住所 : 〒769-1104 三豊市詫間町大浜乙171-2
電話: 0875-24-8866
予約: URASHIMA VILLAGE予約ページから
(※1)自然エネルギー100% / 具体的には、施設の屋上に設置する太陽光パネルで全電力の9割程度を賄い、不足分は再生可能エネルギーの証書付き電力*を購入することで100%自然エネルギーを実現しているという。(*非化石証書(再エネ指定)を調達し、「実質100%再エネ」の電気を自然電力から購入)
【参照サイト】香川県三豊市公式HP
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