夏真っ盛り。海に山にと、週末や夏休みを利用して旅行に出かける人も増える季節。今年は各地で久しぶりに祭りも再開し、楽しみな予定にワクワクとしている人も多いだろう。しかし、毎年夏は暑すぎやしないだろうか。浴衣を着て、マスクをして、一日中外を歩いたりなんてしたら、倒れてしまいそうなほどの暑さだ。
日本列島では7月1日、群馬県桐生市や山梨県甲州市など、全国6地点で40度を観測した。また日本だけでなく、世界各地で暑さが猛威を振るっている。イギリスでは7月19日、観測史上初めて40度を超え、その他欧州各地でも記録的な暑さを観測、また異常気温の影響から山火事の発生も相次いでいる。(※1)
そうした状況を踏まえ、米国では環境や社会問題の解決を目指す米国の科学者団体・憂慮する科学者同盟が主導で、夏を「Danger Season(危険な季節)」と呼ぶ動きが始まっているほどだ。(※2)
熱波だけに限らず、こうした「気候変動」は私たちの日常生活のいたるところに影響を及ぼしている。
そうした状況をなんとかせねばと、現在、より危機的状況になったことで「気候危機」と呼ばれる、以前から続く様々な気候変動がもたらす悪影響を防止するための国際的な枠組みを設定した条約「気候変動枠組条約(UNFCCC)」が1992年に作成され、日本を含む197の国と地域が署名している。
条約には締約国の一般的な義務が定められており、具体的な義務については「COP」と呼ばれる締約国会議で締結される条約で定める仕組みとなっている。COP3である京都議定書や、COP21であるパリ協定の名前は聞いたことがある人も多いのではないだろうか。
昨年2021年11月に英国グラスゴーで開催されたCOP26では、グラスゴー気候合意(Glasgow Climate Pact)といった文書が採択された。
本合意の中には様々な内容が記載されているが、注目すべき点としては、産業革命前と比較して2100年の世界平均気温の上昇を1.5度以内に抑える努力を追求していくことが盛り込まれたことが挙げられる。そのためには、世界全体のCO2排出量を2010年比で2030年までに45%削減し、2050年には実質ゼロにすることが求められている。(※3)
また同じくCOP26では、観光における気候変動対策に関する「グラスゴー宣言」といったものも採択された。2019年に世界で2番目に成長した産業である観光業は、世界の温室効果ガス排出量の8-11%を占めるという現実がある。この宣言では、次の10年間で観光業界の二酸化炭素(CO2)排出量を50%削減し、2050年までの可能な限り早い段階で「ネット・ゼロエミッション」を達成することを目指す。同宣言には、これまでに世界で500団体以上が署名している。
日本からは、北海道ニセコ町、一般社団法人JARTA、春陽荘の3団体が署名しており、締約団体は署名後12カ月以内に気候変動対策計画を策定、または既存の計画を更新し、それを実施する必要がある。
この宣言への署名は、デスティネーション(国・都道府県・市町村・DMO)、ビジネス(宿泊施設提供者、ツアーオペレーター、旅行代理店など)、支援組織(NGO、協会、学術機関)など、すべての観光関係者(法的地位を有する団体)が対象となっている。
詳細は、UNWTOの公式サイトで確認ができる。
様々な団体がグラスゴー宣言への署名を行うなか、ホテルなどの宿泊施設で構成され、リジェネラティブなホスピタリティを推進する公益団体であるRegenerative Travel(リジェネラティブ・トラベル)も、宣言への署名を行ったと発表した。
Regenerative Travelは、エディンバラ大学のリサーチャーChloe King氏と協力し、気候変動に直面する中で自然を保護し再生するために、どのように事業を行うべきか世界中の旅行事業者の調査を行い、ホワイトペーパー(課題解決に関するソリューションを提案する報告書)にまとめた。その目的は、観光事業者が効果的に環境問題に対処する能力を高めることだ。
ホワイトペーパーの内容は英語ではあるが、Regenerative Travelの公式サイトからダウンロード可能だ。
このように、気候危機を打開するための動きが各所で行われているものの、昨今、世界的なエネルギー危機にあり、再生可能エネルギーではまかないきれずに、環境負荷の大きい石炭に逆戻りする事態も起こっている。
このような厳しい状況でも気候変動対策を後退させないよう、より多くのセクターのさらなる取り組みは急務である。
【参照サイト】The Key COP26 Takeaways for Travel and Tourism
【参照サイト】White Paper released on Climate Action through Regeneration
(※1)BBC | イギリスで気温40度を突破、観測史上初 欧州で記録的暑さ続く
(※2)IDEAS FOR GOOD | 今、アメリカで夏が「Danger Season(危険な季節)」と呼ばれる理由
(※3)IDEAS FOR GOOD | グラスゴー気候合意とは・意味
拓馬
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