冬の気候が顔をのぞかせる11月、メキシコにやってきた。
メキシコ滞在の一番の目的は、11月1日から3日にかけて行われる「死者の祭り」に参加すること。死者の祭りとは、簡単に言うとメキシコ流のお盆のことを指す。
お盆といっても日本のそれとは全く異なる。その名の通り、街中がお祭りムードに包まれる。
昼夜を問わず派手な仮装やメイクをした人々が街を練り歩き、花火やパレード、演奏にダンスと盛りだくさんのイベントなのだ。日本のお盆と祭り、そしてハロウィンが全部一緒になったようなイメージが近いかもしれない。映画「リメンバーミー」が記憶に新しい人も多いだろう。
私はパートナーと共にオアハカという街を訪れた。メキシコの中でも先住民の割合が多く、伝統的な方法で死者の祭りを祝うのがこの街の特徴だ。
ガイコツと、祭壇と、マリーゴールドと
町中を歩くと、至る所にガイコツの置物やポスターを見かけた。メキシコ先住民の風習で、故人の頭蓋骨を祭壇に飾る習慣があるらしく、その名残だそうだ。大きなストリートの近くでは、地元の女性たちが「ガイコツメイク屋台」を出店している。1600円〜3000円ほど払えば、顔面にガイコツメイクを施してもらうことができる。
そして至る所にある「オフレンダ」と呼ばれる祭壇。おもちゃや伝統料理、そしてテキーラなど様々な食べ物や故人が好きだったものをお供えするのが伝統だそうだ。そして、どの祭壇にもマリーゴールドがこれでもかというほど飾り付けられている。死者がマリーゴールドの匂いに誘われて帰ってくると信じられているらしい。
「これはパーティーだ!」お墓でひたすらどんちゃん騒ぎ
メキシコでは亡くなった人たちを迎え入れるためにお墓を飾りつけるのだという。どんな風習か気になったので、昼間から近くの墓地に行ってみることにした。
まず墓地に行くまでの道のりには、これでもかというほど屋台が並んでいる。そして溢れんばかりの人、人、人。まるで日本の夏祭りのようだ。道行く人をよく見てみると、マリーゴールドの花を両手に持っている人が多くいた。お墓の飾り付けをするために使うのだろう。彼らの背中を追いながら、人混みをかき分けて墓地に入っていく。
墓地は、眩しいオレンジ色と賑やかなラテン音楽に包まれた何とも楽しい空間だった。
それぞれの家族が思い思いに工夫を凝らし、お墓を飾り付けている。お花や飲食物だけではなく、電飾や人形、ろうそくなども使用して、故人を迎え入れる準備をしていた。
底抜けに明るいラテン音楽が耳に入り、とあるお墓の前で足が止まる。お墓に目を向けると音楽隊が生演奏をしていた。演奏の様子をじっと見ていると、一人のおじさんが近づいてきた。
私はスペイン語はほとんど話せないが、どうやら「ビールを飲まないか?」と言っているらしい。
誘われるままにお墓に近づいてみると、そこにはたくさんのビールとメスカル(メキシコのお酒。スモーキーなテキーラみたいな味がする。)が並んでいた。もらったビールをごくりと飲む。軽やかな喉越し。
アルコールで顔を赤くしたおじさんと、その友人や親族たち数人が墓を囲みながら、音楽隊に合わせて大声で歌を歌っていた。どんな歌詞なのかはさっぱりわからないが、歌いながら時折笑ったり乾杯したりしていて、とても楽しそうだった。
怒涛の勢いでスペイン語を浴びせられたり、知らない歌を歌わせられたり、ビールをたくさん飲まされたり…なんだかずっとおじさんたちのペースに持って行かれていたけど、心はほかほかしていた。
隣に来たフランス人の観光客が、おじさんの言っていることを翻訳してくれた。
「死者の祭りはパーティーなんだ!悲しみは存在しない。あるのはパーティーだ!酒を飲もう、歌を歌おう!」
楽しいはずのお祭りで、泣いてしまった
夕日が沈み、あたりがだんだんと暗くなり始める頃。私たちはまた別の墓地へと向かった。オアハカでは、夜に家族と共に墓地に集まって時間を過ごすのが習慣だと言う。
墓地の入り口前には、マリーゴールドの花びらで作った長い長い道が伸びていた。道を歩いていると、「もしかして、今この瞬間も誰か目に見えない存在が隣にいるのかも」と不思議な気持ちになった。
最大級と言われるその墓地に足を踏み入れると、幻想的な風景が広がっていた。
歌ったり、踊ったり、食事をしたり、お酒を飲んだり…色とりどりに飾り付けられたお墓の前で、家族たちが思い思いに時間を過ごしていた。
賑やかな雰囲気の中で、一人おじいさんがポツンとお墓の前に座っていた。
ふと気になってお墓に目をやると、そこにはおじいさんと同じくらいの年齢の女性の写真が飾ってあった。
おじいさんは、寂しいような、懐かしいような、なんとも言えない優しい表情をしていた。その表情が、私の胸をギュッとさせた。彼の背中をさすってあげたいような気持ちに包まれた。
また、他にも一際目立って飾り付けをしているお墓があった。お墓をよく見てみると、小さな子どもの写真があった。家族は本当に一生懸命、おもちゃや電飾、ろうそくをたくさんたくさん飾りつけていた。それを見て、鼻の奥がツーンとした。
気づけば、なんだか気持ちがいっぱいになって、涙が溢れていた。これはお祭りなのだけど、パーティーなのだけど。悲しくないはずなのだけど。メキシコの人たちが故人を思う気持ちがあまりにも温かくて、優しくて、涙が止まらなかった。
コロナの影響も相まって、最近お墓参りに行けていない。帰国したらご飯とお酒を持ってお墓に行って、亡くなった家族の話を聴くことを家族と一緒にしたいと思う。
日本から遠く離れたメキシコで、家族愛が高まった話。
ー
本記事ライターは、世界中のローカルなヒトと体験に浸る世界一周旅中。
パートナーと運営するYoutubeアカウントも是非
>>プラネットピーポージャーニー🌍世界一周ローカル体験&人間観察の旅
【関連記事】葬式はお祭り!? ガーナの新鮮な死生観
Ray
最新記事 by Ray (全て見る)
- 全裸で暮らす?イタリアでヌーディストの家にホームステイしてみた話 - 2024年8月13日
- お金持ちもそうでない人も揃って空腹と渇きを味わう。イスラム教の絶食期間「ラマダーン」体験記 in ウズベキスタン - 2024年7月11日
- 心も時間も物もシェア、ギブ。謎に包まれた国「イラン」は優しさと親切に溢れていた - 2024年6月24日
- インド・リシュケシュでの初心者ヨガ体験記 - 2024年5月27日
- 異世界のようでどこか懐かしい秘境、ブータン - 2024年5月16日