「ようこそ!さあ家の中に入って。早く早く!」
ローマ郊外のとあるマンションの一室。下半身を扉で隠しながら私とパートナーを出迎えてくれたのは、素っ裸のおじさんだった。
文字通り素っ裸。その身に纏っていたものは眼鏡だけだった。
「君たちも荷物を置いたら服を脱いでいいよ」
私たちは重たいバックパックを部屋に置き、いそいそと服を脱ぎはじめた。
なぜ初対面の人の家でいきなり服を脱いでいるのか?それにはもちろん理由がある。
彼の名前はジャン。
彼は今日から数日間、彼の家に私たちを泊めさせてくれる「ホスト」なのだ。
私とパートナーは2人でかれこれ1年ほど世界を周遊しているのだが、どの国でも「Couchsurfing(カウチサーフィン)」というサービスを使っている。
Couchsurfingとは、文化交流を目的とした旅人(ゲスト)と現地人(ホスト)のマッチングアプリのようなサービスのこと。Couchsurfingを使うと、旅行者は無料で現地の人の家に泊まることができる。友達の家に泊まる感覚で、その土地の人たちと交流することができるのが魅力の一つだ。
利用方法はとても簡単。まず、Couchsurfingのウェブサイトやアプリに登録し、自分のプロフィールを作成する。その後、行きたい場所を検索し、その地域に住むホスト(泊めてくれる人)を探す。ホストのプロフィールを見て、泊まりたいと思ったらメッセージを送り、泊まれるかどうか確認する。ホストがOKを出してくれたら、泊まる日程を決めて、いざ出発だ。
今回、私たちをホストとして出迎えてくれたのがヌーディストのジャン(仮名)だった。
彼のプロフィールにはヌーディストとしての思いが熱く書かれていた。
「私は家に入ったら基本的に全裸で過ごします。ゲストにも、この家の中ではヌーディストになってもらいます」
この一言を読んで、私たちはリクエストを送るのを躊躇しなかったわけではない。でも、ヨーロッパの一大観光地ローマで、とんでもなく高いホテル代を2週間払い続けることを考えると、チャレンジして見ようという勇気が優った。(彼のレビュー欄にはポジティブなコメントが山ほどあったことも、決断理由の一つだ)
さて、実際裸になってみると案外気持ちがいい。
その当時のローマの気温は35度前後。猛暑の中、裸でいるのは快適だった。
そして何より、家の中には「ヌーディストに理解のある人」しかいないと言う環境が良かった。
当たり前だが、私も自分の裸をジロジロと見てきたり、褒め言葉であっても何か身体に関して言ってくるような人の前では裸になりたくない。
ジャンはもう30年以上ヌーディストとして自分のスタイルを貫いている。彼の視線や発言から不快ないやらしさを感じることは一切なかった。
最初は私よりも躊躇していたパートナーも「慣れてしまえば案外快適だね」と言っていた。
ヌーディストビーチにも行ってみた
ある日、ジャンが私たちに「ヌーディストビーチに行ってみないか」と声をかけてくれた。
ヌーディストカルチャーが特に盛んなヨーロッパ。数多くのヌーディストビーチがあるのは知っていたが、これまで一度も訪れたことはなかった。せっかくなら体験してみようと思い、行ってみることにした。
ジリジリと音が出そうなほど強い日差しの中、水着を着て砂浜を歩き3人でヌーディストビーチに向かう。
しばらく歩くと、ちらほらと上半身が裸の女性の数が増えてきた。あれ?ここがヌーディストビーチかな?
さらに歩くと、膝の高さくらいまでの横断幕が目に入る。どうやらここからがヌーディストビーチエリアになるらしい。
Photo by Camille Minouflet on Unsplash
私の想像していたヌーディストビーチは「高い塀か何かで仕切られたプライベートな空間」だったのだが、現実は全く違っていた。ヌーディストビーチと普通のビーチの境目は曖昧で、人の行き来も自由だ。「私空間」と言うよりはむしろ「公共空間」だった。
「僕は10代の頃、初めてヌーディストビーチに来たんだ。その時の動機は正直言うと不純だった。でも徐々に『どうして人間は他の動物とは違ってありのままの裸の姿でいないんだろう』とか『自然のままの自分を受け入れるとはどういうことか』を考えるようになったんだ」
ジャンが自分の思いを語ってくれた。
ヌーディズムは自然との関わりを強調してナチュリズムと呼ばれることもある。
ジャン自身も、なるべく養殖の魚介類には手を出さず、卵なども平飼いの鶏のものを好んで買うのだそうだ。
ありのままの自分、飾らない自分を受け入れること。自然の一部として生きること。
生まれて初めてのヌーディストホームステイは、私にまた一つ知らない世界を見せてくれた。
【参照サイト】プラネットピーポージャーニー🌍世界一周ローカル体験&人間観察の旅
【参照サイト】Couchsurfing
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