豊かな人生を彩る新たな旅「ウェルネスツーリズム」とは?その定義と注目事例

「あなたにとって、旅とは?」

この問いに、多くの人々が「非日常のひととき」「特別な瞬間」「贅沢な時間」と答えた時代は変わりつつあります。

人生において+αの存在であった旅はいま、「より自分らしく、より輝かしく生きるための自己実現につながるアクション」として、新たな展開をみせているのです。

その最たるものが、こころと身体の健康を促し豊かな人生を彩る新たな旅の形「ウェルネスツーリズム」といえるでしょう。

ウェルネスツーリズムとは?

ウェルネスツーリズムとは、豊かな人生(ウェルビーイング)を送るために必要な「こころと身体の健康」を促す新たな旅の形のこと。旅先でのスパやヨガ、瞑想、フィットネス、ヘルシー食、レクリエーション、地域交流などによってリフレッシュできるのはもちろん、何かに没頭したり熱中したりすることで、本来の自分を取り戻すきっかけをつかめる「自己発見」の旅として、現在注目を集めています。

数十万年かけて大陸間を移動しながら世界を築いていった人類の遺伝子には、「新しい土地への憧れ・好奇心」が組み込まれているといいます。新型コロナウイルスの蔓延による移動制限を経て、誰もが旅の価値を改めて再認識した今、新たな発見や感動をもたらし本能的な欲求を満たしてくれる「ウェルネスな旅」が求められているのは、必然といえるでしょう。

ウェルネスツーリズムのルーツ

ウェルネスツーリズムの起源は「巡礼」と「温浴」にあるとされています。

「巡礼」とは、魂の癒しを得るために聖地や聖域を訪れる、文明が築いた最古の旅。数か月から数年をかけて聖地へ向かう巡礼者を癒すために道中に作られた宿泊所(Hospitale)から、病院(Hospital)やホテル(Hotel)が派生していったと考えられています。

日本では、お伊勢参りや熊野詣、四国八十八ケ所巡礼が、聖地巡礼と近しいものとして挙げられるでしょう。

一方、温泉大国で暮らす日本人にとってなじみ深い「温浴」も、ウェルネスツーリズムの起源といえる文化の一つです。古代ローマの戦士達の傷や病気の治療がはじまりとされる温泉入浴(Spa)は、医学的効果の検証とともに心身の健康に寄与する文化として発展しました。

日本では、湯治が『古事記』『日本書紀』にも登場しており、祈祷や名所めぐりとあわせて湯治を楽しむ娯楽文化が庶民に浸透し、現在に至るまで多くの人々を癒し続けています。

ウェルネスツーリズムとヘルスツーリズム

ウェルネスツーリズムと比較される旅の形として「ヘルスツーリズム」が挙げられます。

ヘルスツーリズムとは、健康回復のためにメニューを中心とする旅のこと。「身体の健康」に焦点を当てたプログラムで構成され、疫病予防や病気の早期発見・治療などの治療的な側面が強いのが特徴です。

一方、ウェルネスツーリズムは、生きがいや自己実現・自己発見、生活の質(QOL)の向上に重きを置いており、身体の健康を通して「こころの健康」の見直しや改善を行うことを重視しています。

ウェルネスツーリズムの根幹には「身体の健康=こころの健康」という考え方があるため、両者は完全に切り離せるものではありません。心身の健康が重要課題とされている現代において、両者は今後密接に関係し合いながらさらなる進化を遂げていくことでしょう。

ウェルネスツーリズムで得られるもの

ウェルネスツーリズムには、以下のような効果が期待できます。

・ストレスの軽減:日常から物理的に離れた場所に身を置くことで、日々の生活による心理的負担から解放される

・心身のリフレッシュ:外的刺激のない空間で過ごすことにより睡眠の質が向上する

・原点回帰と活力の産生:自然や地域文化に触れることで五感が研ぎ澄まされ、本来の免疫力・生命力を取り戻すことができる

・新たな自己発見:その土地ならではの食や人、文化との触れ合いが、自分のなかに眠っていた興味関心や趣味趣向の発見につながる

・旅仲間との出会い:新たな仲間との出会いが、これまで知ることのなかった価値観や人生観への気づきにつながる

こころの健康は身体の状態と密接に関わり合っており、保持増進のためには十分な休養や質の良い睡眠、ストレスの軽減が欠かせません。

心身の健康をサポートすることで精神的幸福をもたらすウェルネスツーリズムは、自分らしく生きることへの幸せを感じる感覚を取り戻し、明日への活力を見いだす手助けをしてくれる旅ともいえるでしょう。

日本のウェルネスツーリズム事例

ウェルネスツーリズムは、ホテルのプランの一つとして、あるいはツアープログラムとしてなど、さまざまな形で提供されています。ここでは、アフターコロナで観光業が活気づく今、注目されている5つの日本のウェルネスツーリズム事例を5つのぞいてみましょう。

公益社団法人やまなし観光推進機構|やまなしウェルネスツーリズム

「ココロとからだ きれいになれる場所…」

都心からわずか1~2時間ほどの距離でありながら、豊かな自然や新鮮な農産物、歴史ある名湯に恵まれた地域、山梨県。

山梨では県をあげてウェルネスツーリズムに取り組んでおり、里山の自然を生かした公園でのアクティビティや健康効果が実証された名湯を愉しめる温浴施設など、自然環境や地域資源を生かしたさまざまな「美・健康・癒し」を叶える旅を提案しています。

JR東日本|ウェルネスホテル「ReLabo」

Image via ReLabo公式HP

JR東日本は、青森県にてウェルネスホテルをベースに地方創生に取り組んでいます。

このプロジェクトの中心となるのが、2024年7月11日に開業する地域医療グループが運営するホテル「ReLabo」。

当施設では、約60年にわたる医療やウェルネスに関する研究に基づき考案された専門家によるウェルネスカウンセリングや、ヨガ・温泉・メディテーション・スパ・食事・クリニック等を宿泊客一人ひとりの課題に合わせて組み合わせたウェルネスプログラムが提供される予定です。

雪ニセコ|SETSU NISEKO

「SETSU NISEKO」は、「ウェルネスで、世界をつなぐ」をビジョンに掲げる株式会社Aestaによる「ウェルネスツーリズム・リトリート総まとめ 2024.ver」に選出された、北海道ニセコにあるウェルネスホテル。

ミネラルたっぷりの温泉や伝統療法を取り入れたスパ、禅の瞬間を見つけるヨガやストレッチなど、真のウェルネスを体験できるサンクチュアリが旅人に最高の贅沢と癒しを与えてくれます。

株式会社With Midwife|別府市リゾート産後ケア

2024年1月、日本初の顧問助産師サービスや性教育などの事業を展開する株式会社With Midwifeは、温泉施設に滞在する子育て家庭を助産師がサポートする「別府市助産師産後ケア」を実施。

応募者のなかから選ばれた家族に対し、温浴施設での助産師による心身の健康チェックや子育て相談、宿泊前後のオンライン面談、宿泊中の子どもの預かりなどのサービスが行われました。

核家族化が進んだ今、産後ケアが十分に受けられず、母子ともに心身に不安を抱えながら過ごすケースが増えています。こちらは単発での開催でしたが、家族と新たな命の健康を「旅」という形で支えるプログラムの需要は、今後更に高まっていくのではないでしょうか。

ポーラ・オルビスホールディングス|美肌ウェルネスツーリズム

2024年2月22日~25日、化粧品事業を展開するポーラ・オルビスホールディングスは「わくわくしながら美しくなる旅」と題し、美肌効果が確認された温泉での「美肌湯治」を中心とするウェルネスプログラムを海外観光客向けに実施しました。

コンテンツ内容は、肌分析や美容アドバイス、新鮮な温泉水を使用したボディクリーム作りなど。長年化粧品研究を続けてきた企業だからこそ提供できる美肌に特化したプログラムに対し、ほぼすべての旅行者が参加後アンケートにて「満足」と回答したそうです。

「心身の健康×旅」ウェルネスツーリズムがもたらす豊かさ

これまで、私たちが旅によって経験する“非日常”は、「特別」「贅沢」に値するものでした。

しかし、多くの人々が物質的な豊かさ以上にこころの豊かさを求めるようになったいま、ウイルスの蔓延によって行動が著しく制限されたことで、旅の価値として「リフレッシュによる心身の健康促進」「自己実現による生きがいの再発見」といった点が見直されつつあります。

私たちには、健やかに過ごし、自分らしく生きる権利があります。自分にとっての本当の「幸せ」を見つけるべく、ウェルネスな旅に出かけてみてはいかがでしょうか?

【参照サイト】公益社団法人やまなし観光推進機構|やまなしウェルネスツーリズム公式HP
【参照サイト】ReLabo公式HP
【参照サイト】SETSU NISEKO公式HP
【参照サイト】別府市リゾート産後ケア公式HP
【参照サイト】POLA ORBIS HOLDINGS 温泉x肌サイエンス
【参照サイト】「地域連携による青森駅周辺の魅力あるまちづくりを推進~地域医療グループによるウエルネスホテルをベースに新たな地方創生に取り組みます~」
【参照サイト】株式会社Aesta「ウェルネスツーリズム・リトリート総まとめ 2024.ver
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