日本ではメディアでもSNSでも「インバウンド」の言葉が踊っている。「こっちだって海外に出かけたい!」と心の中で思いながらも、あらためて為替レートをみると、この年末年始にフライトチケットを取ることにはちょっと躊躇してしまう。でも2025年こそ海外へ行きたい….。
一方、観光にも持続可能性や訪れる場所への配慮が求められるようになった昨今では、旅行のあり方や目指す目的地も大きく変化してきているのをご存じだろうか。特に最近ニュースで話題になっている「オーバーツーリズム(観光公害)」の課題に直面するヨーロッパに注目し、環境保護と観光の両立に成功している注目の観光地10選を紹介する。
選定背景と持続可能な観光の重要性
今回取り上げるのは、ヨーロッパの旅行と文化に特化した専門webサイトである「ヨーロピアンベストディスティネーションズ(European Best Destinations)」が選定する「ヨーロッパのサステナブルな観光地10選」。
この10箇所の観光地はいずれも地域環境への配慮と地域社会の発展を両立させた先進的な観光地となっており、再生可能エネルギーの活用や地域経済の活性化に取り組み、豊かな自然景観と文化遺産を守りながら、観光客を受け入れている。
その観光地の多くは、手つかずの自然が残る人里離れた地域に隠れていて、息を呑むような自然の美しさだけでなく、訪れる私たちに環境と調和してつながる貴重な機会も与えてくれるだろう。
注目のサステナブルな観光地10選
1. アゾレス諸島(ポルトガル)
大西洋に浮かぶ9つの島からなる緑の楽園。大西洋の中央部に位置する火山群島であるアゾレス諸島はポルトガル領の自治地域で、ポルトガル本土からは1600キロほど離れている。この島々は、世界でも有数のホエールウォッチングのスポットサンミゲル島やサンタマリア島など、それぞれの島で緑豊かな茶畑、温泉、ホエールウォッチングなど、自然との調和を重視した観光を展開している。
アゾレス諸島では現在、環境保全と生物多様性の保護、水質や大気質の維持・改善、先住文化の保全に注力しており、たとえば、ピコ島にあるポルトガル最高峰のピコ山では、その迫力ある火山性の景観を末永く楽しんでもらえるようにと、観光客の入山者数制限を実施している。
2. フェロー諸島(ノルウェー)
アイスランドとノルウェーの間に位置する18の火山島。この島では観光業界全体と航空会社が協力して環境負荷の低減に取り組んでいる。手つかずの自然が残るフェロー諸島は、自然愛好家、バードウォッチャー、そして本物の自然とのつながりを求めるハイカーにとっての楽園となっている。ミュキネス島の「パフィン(ウミスズメ科の海鳥)の楽園」では野鳥観察が楽しめる。
3. アイスランド
火山や氷河など、ダイナミックな自然が魅力。オフシーズンの訪問や長期滞在を推奨し、環境認証を受けた宿泊施設の利用が推奨されている。またアイスランドを訪れる際には、「Icelandic Pledge(アイスランドの誓い)」に署名することが勧められている。この誓約書には旅行に出発する前にオンラインで署名することができ、旅行者は滞在中に自然を尊重することを約束する必要がある。
4. ロフォーテン諸島(ノルウェー)
2020年に持続可能な観光地として認定されたロフォーテン諸島。「ロフォーテン」という名前は、オオヤマネコの足跡に似たそのユニークな地理的形状に由来している。北極圏からわずか200キロメートル圏内に位置し、白砂のビーチと透明な海、伝統的な漁村が点在。オスロからボーデ経由でスヴォルヴァルまで行くルートが一般的だ。ここでは9月から3月までオーロラを見ることができ、夏は太陽が沈まない白夜の季節となる。
5. ウィットダム(オランダ)
アムステルダムから自転車で12キロメートルの距離にある自然保護区。オランダ最大の湖であるアイセル湖に面し、4月から6月が観光のベストシーズン。アムステルダム行きの電車と自転車のレンタルを予約しておけば、自然と静けさが待つウィットダムで本当に環境に優しい休暇を過ごすことができる。
6. ツィラータール(オーストリア)
チロル地方に位置する通年型の観光地。環境に配慮したスキーリゾート「ツィラータールアリーナ」では100%カーボンニュートラル電力を使用し、スキー、ハイキング、マウンテンバイクなど、季節に応じたアクティビティを提供している。
7. ゴゾ島(マルタ)
ヨーロッパ初のカーボンフリー島を目指す先進的な取り組みを実施。観光開発を通じて地域住民の環境意識が向上し、黄金のビーチやラグーンなど、自然の魅力も豊かだ。島内の多くの宿泊施設は、再生エネルギーなどのさまざまな対策を通じて環境への影響を減らすことに取り組んでおり、また地元産の新鮮な農産物を提供するオーガニック農場が島内に複数ある。
8. スケリッグ・マイケル諸島(アイルランド)
1,500年前の修道院跡が残る歴史的な島。「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」のロケ地としても知られ、環境保護のために入島制限を設けているため、特に混雑する春と夏の間は、事前に旅行を予約することが不可欠となっている。
9. タトラ山脈(ポーランド)
ポーランドとスロバキアの国境に位置し、リンクスやクマなどの野生動物が生息。1,300種以上の植物が自生する豊かな生態系を国立公園として保護している。タトラ山脈は冬のスキー場として有名。春、夏、秋にも豊富なアウトドア アクティビティを楽しめる。
10. スカイ島(スコットランド)
再生可能エネルギーへの移行を進める島。長期滞在を推奨し、ゼロウェイスト監査を通じて持続可能な観光を実現。そしてスカイ島は持続可能な旅を奨励するために設計された専用プラットフォーム、staywithusonskye.co.uk を立ち上げ長期滞在割引を提供しているほか、島の再生可能エネルギーへの移行を導くゼロ廃棄物監査など、島全体で持続可能性を目指すさまざまな取り組みを紹介している。
楽しさと共に、未来につながる旅の選択を
これらの観光地に共通するのは、「持続可能性」と「体験の質」を重視する姿勢だ。観光客数の制限や環境負荷の低減に取り組みながら、その土地ならではの文化や自然を深く体験できる機会を提供している。
豊かな自然、悠久の歴史、そして地域の人々の暮らし。それらを守りながら体験できる旅は、きっと通常の観光では得られない深い感動と満足をもたらすはずだ。
旅行者一人ひとりの選択が、観光地の未来を左右し、環境に配慮した旅を選ぶことは、私たちの子孫にも同じ感動を残すことにつながる。次の旅先を選ぶときには、これらのサステナブルな観光地を候補に加えてみてはどうだろうか。そこにはきっと、新しい旅の喜びが待っている。
2025年のあなたの旅が、もっともっと楽しく、そして豊かなものになりますように。
【参照サイト】Best Sustainable Destinations in Europe|European Best Destinations
【関連記事】“できるだけサステナブルに飛行機に乗りたい” CO2排出量を抑えて空を飛ぶには?
【関連記事】ヨーロッパで改めて注目されるクリーンでスローな鉄道の旅。Rail Tourism Awards 2023の受賞者は?
最新記事 by Livhub 編集部 (全て見る)
- 何百年、何千年先も守りたい景色がある。世界遺産「三保松原」松葉かき体験ツアー - 2025年1月20日
- 再エネシフトが地域財源の確保につながる。兵庫・神鍋高原からはじまる「1% for Local」 - 2025年1月17日
- 宿泊しながら地球にやさしく。GOOD NATURE HOTEL KYOTOで脱炭素スタンプラリー - 2025年1月16日
- 日本一神社が密集する「神の島」壱岐島へ、ペットと共に。島の暮らしを伝える古民家再生宿 - 2025年1月14日
- 空港には、有名ブランドより地元で愛されるお店を。ポートランドの地域に利益を還元する取り組み - 2025年1月10日