変えずに、残し続けたい。「日本秘湯を守る会」から厳選した温泉宿おすすめ10選

黒川温泉

“もうホテルもきらきらした旅館もたくさんだ、炭焼き小屋にでも泊めてもらって、キコリのおじさんとにぎりめしでもほうばってみたいと思うこともしばしば”

“どんな山の中でもいい、静かになれるところで自分に人間を問いつめてみたいと思って杖をひいたのが奥鬼怒の渓谷の温泉宿だった。ランプの明かりを頼りにいろり端で主人と語りあかしたあの日が今でも忘れられない”

「秘湯」という言葉を生み出した、創業1953年の株式会社朝日旅行会の創業者であった故岩木一二三氏が残した言葉である。(※1)

1970年の大阪万博をきっかけとして、日本中に旅行ブームが起き、温泉地や観光地の宿泊施設はホテルと名を変え、鉄筋コンクリートの大型化を競い合った高度経済成長の真っ盛りのなか、岩木氏はどこかその時代の旅の姿に違和感を覚えていた。

「今の状況は、本来の旅の姿ではない。人間性を置き忘れている。旅の本質を見失っている。何時の日か人間性の回復を求め、郷愁の念に駆られ山の小さな温泉宿に心の故郷を求め、本当の旅人が戻ってくる。旅らしい旅が求められる時代が来る。」

そうした岩木氏の考えのもと、バスも通わぬ交通の不便な小さな山の宿で、温泉のよさを守り、自然環境の保全に努める前向きな取り組みを行う温泉宿が集まり、中でも共同で宣伝・相互誘客をしようという考えに賛同した宿33軒の会員から成る『日本秘湯を守る会』が創設された。1975年のことだ。

日本秘湯を守る会は、その時々の時代に起こる流行り、流れを見つめながらも「忘れてはならないもの、変えてはならないもの」を問い求めて守るべきものを選択し、日本の秘湯、生まれに関わらず日本人の心の中にある、日本のふるさとの原風景を語り伝え、守り続けてきた。

彼らの尽力もあり、2021年の今、日本には多くの秘湯が残っている。前置きが長くなったが、今回はそんな「日本秘湯を守る会」の会員である温泉宿から、筆者が実際に入ったことのある10軒を厳選して紹介する。筆者も無類の温泉好きで、秘湯をこよなく愛す。ぜひ次の旅の参考に。

北海道・東北エリア

北海道や東北は、はっきり言っておすすめの温泉がありすぎる。冬は雪深い景色のなか、夏は心地いい風を感じながら、景観も美しいばかりか、成分の濃さを感じられるごつごつしたタイルや蛇口を備える宿も多い。厳選して7つ紹介する。

① 丸駒温泉旅館

引用元:丸駒温泉旅館

この旅館の名物、湖か温泉か境がわからない天然の露天風呂。ある時は立ったまま風呂に入り、ある時はゆったり腰をかけて入る。湖とつながっているため、天候や季節によって深さが変わる日本でもめずらしい特徴をもつ温泉だ。支笏湖を眺めることができる露天風呂は他にも。こちらはお尻に湯の成分がついてしまうほど濃厚な赤褐色の温泉。これまた違った気分をあじわえて極楽。

新千歳空港からも近く、アクセスもしやすい。北海道に着いてすぐ行くか、帰り際に行くか。札幌と丸駒温泉をめぐるだけでも充分に満喫できるだろう。日帰り入浴もあるが、朝や夜の露天風呂の深さの違いを楽しみたいなら、宿泊することをおすすめする。

住所 北海道千歳市幌美内7番地
電話番号 0123-25-2341
公式HP https://www.marukoma.co.jp/
泉質 ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩・硫酸塩泉
(旧泉質名:含土類・石膏-食塩泉)(中性低張性高温泉)
利用形態 源泉かけ流し

② 桝形屋

開湯450年の姥湯温泉。冬季は大雪で道路が閉鎖されてしまうため、営業していない。それくらい秘境にある温泉宿だ。それもそのはず、吾妻連峰の北側、標高1300mの奥深い谷間に位置する。周りは、奇岩怪岩がそびえ立つ絶壁に三方囲まれており、原生林に包まれ、時折カモシカが姿を見せるといった仙境の中に宿はある。春の新緑は然り、秋の紅葉は見事なものだ。絶景を見ながら、毎分300リットルの白濁した湯がじゃばじゃば注がれる。温度も高めで、これぞ待ってました!と叫びたくなる秘湯中の秘湯だ。

営業は、4月末から11月上旬。内湯は宿泊者のみだが、露天風呂のみ日帰り温泉もやっている。事前に宿のHPを確認して行くことをおすすめする。

住所 ​​山形県米沢市大沢姥湯1
電話番号 090-7797-5934
公式HP http://www.ubayuonsen.com/index.html
泉質 単純酸性硫黄温泉
利用形態 源泉かけ流し

③ 名湯秘湯うなぎ湯の宿 琢ひで

鳴子温泉郷のひとつ、中山平温泉の宿。とにかくトロッとろ、ぬるぬるの湯が特徴。「うなぎの湯」と名がついているのが納得できるほど、浴槽やその周辺までもぬるぬるしている。300余年の歴史ある名湯で、化粧水のようにとろりとした肌触りは「美肌の湯」として多くの女性を虜にしている。

宿にある露天風呂は全部で3つで、内湯含めると8つの湯船がある。3つの自家源泉をもち、アルカリ泉、硫黄泉、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉の4つの要素が、美肌の湯と言われる理由だ。鳴子温泉でとろとろというと、同じく中山平温泉の公衆浴場「しんとろの湯」が有名だが、そこと比べるとここは穴場かもしれない。

くれぐれも入浴するときは、足元に気をつけて。特に小さな子供やご高齢の方と入るときは、注意してほしい。

住所 ​​宮城県大崎市鳴子温泉字星沼20-9
電話番号 0229-87-2216
公式HP https://www.takuhide.co.jp/
泉質 含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩泉・硫酸塩泉
利用形態 源泉かけ流し

④ 旅館大黒屋

甲子温泉と呼ばれる旅館大黒屋。ここは、縦5m・横15m・深さ最大1.2mの大きな「大岩風呂」が名物。温泉は足元からじんわりと自噴するタイプなので、ゆっくり長く浸かりたい。肌質を選ばない単純泉は、やわらかくやさしい湯ざわりが特徴だ。子宝の湯とも言われ、湯船の中の大きな石「子宝石」をなでると、子宝に恵まれるとか。

「大岩風呂」は混浴だが、宿泊者向けには女性専用タイムも設けられている。日帰り入浴では女性は混浴に挑む形となるが、同じ泉質で女性専用の「櫻の湯」もあるのでご安心を。

また、こちらの宿では、もうひとつの泉質を楽しめる。内風呂と露天のある「恵比寿の湯」は、カルシウム・ナトリウムが入った硫酸塩泉の湯。こちらもぜひ入っておきたい。

150年の歴史を持つ名湯だが、平成21年にお風呂場はそのままに、宿泊棟が建て替えられている。そのため、旅館の中は新しくきれいな作りとなっている。

住所 ​​福島県西白河郡西郷村真船字寺平1
電話番号 0248-36-2301
公式HP http://www.kashionsen.jp/
泉質 単純温泉(弱アルカリ性低張性高温泉)
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉(弱アルカリ性低張性高温泉)
利用形態 源泉かけ流し

⑤ 大丸あすなろ荘

南会津の山奥にひそむ、二岐温泉。ここは清流に寄り添うように露天風呂が川べりにある。上記写真は男性専用の渓流露天風呂だが、女性専用の子宝露天風呂もそれに引けを取らない自然の趣がある。春には野鳥がさえずり、夏には蝉の泣き声と共に心地よい風を感じられ、秋には美しい紅葉に包まれ、冬は静かに降り積もる白銀の世界で、力強く湧く温泉を堪能できる。

男女別の内湯の岩風呂は、自噴泉で洞窟のような作りになっていて、こちらもかなりおすすめ。小石が水流でころころ転がって削り取られた大きな丸い穴が、湯舟の底に3つある。これはポットホールと言われ、全国でもとてもめずらしい。何だかご利益がありそう。そんな気分にさせてくれる。

住所 ​​福島県岩瀬郡天栄村湯本字下二俣5
電話番号 0248-84-2311
公式HP https://www.motoyudaimaruasunarosou.com/
泉質 カルシウム-硫酸塩泉
利用形態 源泉かけ流し

⑥ 水戸屋旅館

引用元:水戸屋旅館

磐梯朝日国立公園に位置する、土湯の幕川温泉。吾妻山の中腹、標高約1300mの山間部に位置し、自然溢れる秘湯の宿だ。ここは、最上階にある開放感満点の展望露天風呂が名物。樹齢800年の桧をくり抜いて作られたひょうたん型の浴槽には、湯の花舞ううっすらと白く濁った湯がたっぷりと注がれている。最上階というだけあり、ブナの原生林が生い茂る山々の絶景を見ながらの温泉は格別。春夏秋冬それぞれの季節に来たい。混浴風呂だが、女性専用タイムもあるので女性はその時間を狙って。

露天風呂はもうひとつ。宿の裏側の渓流沿いに白濁とした硫黄泉「さえりの湯」がある。こちらも混浴だが、脱衣所が男女共同なので、まず女性が挑むのは難しいかもしれない。他にも、男女別の内湯と露天風呂を併設している。

宿には、こんこんと湧き出る2本の源泉があり、白濁の湯とグリーンの褐色の湯をかけ流しでいただける。美肌に良いとされるメタケイ酸が豊富で、お肌もつるつるに。知る人ぞ知る名湯だが、あまり混雑もないので、土湯温泉めぐりをする際にはぜひ立ち寄ってみてほしい。

住所 福島県福島市土湯温泉町字鷲倉山1-3
電話番号 0242-64-3316
公式HP https://mitoya-makukawa.com/
泉質 単純温泉、単純硫黄温泉
利用形態 源泉かけ流し

⑦ 好山荘

赤湯温泉唯一の一軒宿。周りはブナの原生林が生い茂り、標高1200mの土湯峠にぽつんと佇む。冬季は閉鎖しており、4月下旬〜11月下旬の期間限定営業だ。温泉は、裏庭に自噴する鉄の成分が入った湯を無造作に引っ張ってきている内湯と、宿の主人お手製の露天風呂の2つある。

内湯は、ざらざらこってり濃厚な赤褐色のにごり湯。ひとたび温泉に入れば、これが源泉かけ流しの本物の湯かと納得する。庭先にある露天風呂は、野天風呂好きにたまらない風情がある作りで、こちらは内湯とは対照的な白濁湯。赤い炭酸泉と白の硫黄泉の2種類をいただけるとは、何とも贅沢。紅白の湯は何だか縁起も良さそう。

旅館は、自炊棟があり湯治場のような作り。鄙びた空間がこれまた温泉マニアにはたまらないのだ。ちなみに内湯の成分表には単純泉と書いてあるが、含有している成分の濃度はすごいものがある。

住所 福島県福島市土湯温泉町字鷲倉1
電話番号 0242-64-3217
HP https://www.hitou.or.jp/provider/detail?providerId=608
泉質 単純温泉、単純硫黄温泉(硫化水素型)
利用形態 源泉かけ流し

北関東・信越エリア

北関東と信越エリアにも、名湯は多く点在する。日本秘湯を守る会でも数件登録されている。なかでも、東京からもアクセスのしやすい2軒の宿を紹介する。

⑧ 法師温泉長寿館

上信越高原国立公園内にある秘湯の湯。この宿の名物は、明治時代の面影を残す鹿鳴館風の建物にある大浴場「法師乃湯」だ。見るだけでも価値がありそうな空間で入る温泉は、まるで昔にタイムスリップしたかのよう。源泉は浴槽直下にあり、50年〜60年前に降った雨雪が時を経て温泉と化して、浴槽の下に敷き詰めた玉石の間からぽこぽこと自然湧出している。混浴なので、女性はなかなか挑むのは難しいが、宿に泊まれば女性専用タイムに入ることができる。

温泉は、他にも。総檜造りの開放感ある内湯と露天がある「玉城乃湯」、女性専用の「長寿乃湯」がある。長寿乃湯も法師乃湯と同じく、足元から湧く温泉だ。日帰り湯をするなら、女性はこちらに入るといいかもしれない。

建物は全館木造で、国の有形文化財にも登録されている。本館、別館、薫山荘、法隆殿と見どころ満載。囲炉裏や豪勢な木の火鉢がある玄関口と、どこを撮っても絵になる宿だ。

住所 群馬県利根郡みなかみ町永井650番地
電話番号 0278-66-0005
公式HP http://www.hoshi-onsen.com/index.html
泉質 カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉、単純温泉
利用形態 源泉かけ流し、給湯口源泉・浴槽循環(玉城乃湯のみ)

⑨ 貝掛温泉

「目の温泉」と言われる、貝掛温泉。苗場スキー場から程近く、最寄駅も東京から上越新幹線で約90分の越後湯沢とあって、アクセスがいい。

温泉は、ややぬるめ。ゆったり長風呂をしている人が多い印象だ。庄屋造りの風情ある建物で、内風呂の浴槽もカランも昔ながらを感じさせる。内湯からそのまま行ける露天風呂は、岩に囲まれた少しあつめの湯。内湯と露天を交互に入るのが気持ちいい。

鎌倉時代より開湯700年の歴史をもつが、建物は時を経て古きを残しつつ現代風な作りとなっていて、どこかおしゃれ。写真を撮る人もちらほら。夏はフジロックフェスティバルの参加者が、冬は周りの山々に訪れるスキー客で賑わう。

日本に3つしかない「目の温泉」の内のひとつ。ぜひ、ぬる湯の湯口から手のひらで湯をすくい、目にも温泉を浸してみて。

住所 新潟県南魚沼郡湯沢町三俣686
電話番号 025-788-9911
公式HP https://kaikake.jp/
泉質 ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉
利用形態 源泉かけ流し、源泉を加温した浴槽もあり

九州エリア

九州エリアは、日本秘湯の会に登録されている宿は少ない印象だが、なかでも筆者が実際に宿泊した1軒を紹介する。熊本で最も人気と言っていいほど、多くの観光客が訪れる黒川温泉にある至れり尽せりの宿だ。

⑩ 旅館 山河

引用元:旅館 山河

黒川温泉の温泉街から少しはずれにある一軒宿。森の中に溶け込むように佇むこの宿では、露天風呂をはじめ多彩な7つの温泉を楽しめる。自家源泉を2本もち、それぞれ違った湯を堪能できる。

露天風呂は、混浴露天・女性用露天・貸切露天の計3つ。やわらかな木々に包まれ、小川のせせらぎを聞きながらゆったりと自然を満喫できるロケーション。湯は、黒川温泉とばかりあってうっすら濁りのある硫黄泉。注がれる湯口を見ても、成分の深みを感じられる。

日帰り湯は露天風呂のみだが、宿泊された際は、ぜひ3つの貸切湯をめぐってほしい。半露天風呂も切り石の風呂も桧の貸切風呂も、それぞれ個性豊かで風情があり、素晴らしいのひとことに尽きる。人目を気にせず、黒川の湯を独占できるのも贅沢。

内湯は、かすかな硫黄の香りと茶褐色の湯の花が舞う混合泉。露天風呂とは違った泉質を楽しめるうえ、女性は桧風呂、男性は岩風呂とこだわり抜いて作られた湯小屋がこれまたいい。

ちなみに、露天風呂や内湯などの温泉は、フロントや部屋のある建物の外にある。浴衣を着て下駄を履き、カランコロン。まるで湯めぐりをしているような感覚をあじわえる。ぜひ日帰りではなく、宿泊を。足湯があったり、食事も豪勢だったりと、泊まるには申し分のないおもてなしを受けられる。

住所 熊本県阿蘇郡南小国町大字満願寺6961-1
電話番号 0967-44-0906
公式HP https://www.sanga-ryokan.com/
泉質 単純硫黄温泉、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩・硫酸塩温泉
利用形態 源泉かけ流し

最後に

時代を超えて守り続けられてきた日本の秘湯。持続可能性という言葉を耳にする機会が増えた現在、地球環境はもちろんのこと、私たちが本当に次世代にまで残していきたいものは何なのか。「忘れてはならないもの、変えてはならないもの」は何なのか。長く伝え守られてきた「秘湯」にゆっくりと浸かり、日本の原風景に身を浸しながら、考えてみるのも良いかもしれない。

(※1)坂巻温泉旅館 日本秘湯を守る会 秘湯をさがして
【参照サイト】日本秘湯を守る会
【関連ページ】仕事後、仕事前、休憩時間にひとっ風呂!都内近郊の温泉施設おすすめ9選+番外編

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明田川蘭

大の旅好き&温泉好き。一人で海外へ、一人で車を走らせて日本の名湯へ。アフリカ大陸と北極南極以外に降り立ち、行った国は30を越え、巡った温泉地は100を超える。沖縄観光メディアの編集者やホテルメディアの立ち上げ経験あり。「旅は人の心を豊かにする」と本気で思い、記事を執筆している。

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