移動手段を考える際、何を優先して決めるだろうか。チケットの安さ、出発・到着時間、駅や空港のロケーション……条件はさまざまだ。陸路と空路の使い分けに関して、日本では一般的に新幹線などの高速鉄道で4時間以上の移動となると、鉄道よりも飛行機の利用者が多くなるという(※1)。
4時間以上の移動は、その日のスケジュールに大きな影響を与え、また身体への負担も大きい。鉄道に比べて大きな環境負荷を生むとわかっていたとしても、やむを得ず飛行機を移動手段に選ぶ人も多いのではないだろうか。
そんな中、オランダのオーガニック植物小売店・Sprinklrは、社員にサステナブルな移動を促す独自の取り組みを始めた。それは「1年間飛行機を使わなかった社員に、2日間の有給休暇を追加で付与する」という制度だ。2024年には、14人の社員のうち11人がこの休暇を取得した。
この制度は、「リンデ・デー」と名付けられている。名前の由来は、普段から低炭素旅行を実践している社員、リンデさんの行動。彼女は長距離移動の際にも飛行機を使わず、時間をかけて陸路で移動することを選んでいる。
リンデさんはその経験から、「陸路の移動を選択することは環境には良いが、個人にとっては時間や手間がかかることが多い」というシンプルな気づきを得た(※2)。そして、その負担を軽減する仕組みがあれば、多くの人が環境に配慮した移動を選びやすくなるのではないかと考えたのだという。Sprinklrは、社員一人ひとりの旅ごとの正確な炭素排出量を計算し、それをオフセットするといった手段ではなく、環境負荷の小さい移動手段を選択するサポートをしているのだ。
Trend Watchingの取材で、同社の共同創業者であるスザンヌ・ヴァン・ストラーテン氏は、「飛行機を利用する人を批判するのではなく、意識的に移動手段を選ぶ人を支援することが大切」
と語る。批判ではなくインセンティブを与えることで、持続可能な選択を後押しするという考え方だ。これこそが、環境への理想と、利便性という現実の間のギャップを埋めるための実践的なアプローチといえるかもしれない。
ヨーロッパの航空業界は、2050年までに旅客数を2倍に増やす計画を立てており、早ければ2026年には炭素予算を使い果たすという(※3)。飛行機の利用を完全になくすことは現実的ではないが、企業が社員の移動手段に配慮し、「飛行機ではない手段を選択をした人が報われる仕組み」を作ることは、持続可能な社会への大きな一歩になるのではないだろうか。
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。
※1 新幹線vs航空、実は疑わしい「4時間の壁」の根拠
※2 A Dutch plant retailer’s employees get two extra days off if they choose not to fly
※3 Aviation industry plans for growth ‘irreconcilable’ with Europe’s climate goals
【参照サイト】A Dutch plant retailer’s employees get two extra days off if they choose not to fly
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