「事業多角化の裏にある戦略とは?」株式会社SQUEEZE・舘林 真一氏

民泊市場の隆盛に伴い数多くのスタートアップ企業が生まれるなか、5億円以上の資金調達をするなど常に業界を牽引する存在として注目を浴びている株式会社SQUEEZE。他社に先駆けていち早く「民泊運用代行サービス mister suite」の提供を開始した同社は、新たに代行会社向けSaaSシステムの「suitebook」、そして今年9月には大阪にアパートメントホテル「Minn your second home(以下、Minn)」をリリースするなど、多角的な事業展開を進めている。ITとクラウドソーシングを活用した高品質な民泊運用代行サービスを強みに業界をリードしてきた同社が、なぜ事業を多角化しているのか。その狙いと裏にある戦略、そして新法施行後の民泊市場に向けた今後の事業展開について、代表取締役の舘林氏にお話を伺った。

話し手プロフィール:株式会社SQUEEZE 代表取締役CEO 舘林 真一氏

東海大学政治経済学部卒業後、ゴールドマンサックス証券シンガポール支社に勤務。その後、トリップアドバイザー株式会社シンガポール支社にてディスプレイ広告の運用を担当。2014年9月、株式会社SQUEEZEを創業し代表取締役CEOに就任。

インタビュー

事業の多角化とその裏にある戦略とは?

Q:はじめに御社の事業内容について教えてください。

mister suiteの清掃スタッフ

弊社では3年前に業界に先駆けて始めた民泊運用代行サービスの「mister suite」、運用代行のために自社開発したPMS(Property Management System)をシステムとして切り出し、主に代行会社向けにSaaSモデルで貸し出す「suitebook」、そして「Minn」というホテル事業の3つを柱として事業を展開しています。

mister suiteが通常の代行会社と異なる点としては、個人の清掃スタッフや在宅ワーカーを上手く活用している点が挙げられます。弊社は民泊を通じた地域の活性化を目指しており、例えば清掃は物件の近所に住んでいる主婦の方に、24時間対応の問い合わせサポートは時差を利用して海外にいる駐在員の奥様方に在宅で対応してもらうなど、クラウドでスタッフ管理をしている点が特徴です。また、運用の透明性も重視しており、mister suiteの管理画面では物件の売上や清掃レポートなど全ての運用状況をオーナーがリアルタイムで確認できるようになっています。mister suiteの運用支援物件数は累計1,000件を突破しており、予約数も4~5万件ほどに到達しています。

mister suiteを始めた当初は競合サービスもほとんどありませんでしたが、最近では代行会社の数も増えてきて、中には50~100件の物件を運用する会社なども出てきました。そこで、次はそうした代行会社向けに自社で開発していたPMSをSaaSモデルで提供していこうと始まったのがsuitebookです。これは清掃の管理やレポーティング、自動メール返信によるゲスト対応などができる管理システムで、来年の新法施行後を見越してマンスリーの管理も一緒にできる仕組みにしています。suitebookでは現在約2,600物件を管理しています。

そして、2017年の9月に大阪で始めたのが「Minn」というホテル事業です。Minnは42室のアパートメントホテルで、弊社がコンセプト設計から家具・内装まで全てプロデュースし、mister suiteの仕組みを利用しながらマスターリース形式で運用をしています。事業のポイントは、通常のホテル事業者が運用しないようなアセットクラス、具体的には50室以下のホテルにターゲットを絞り、民泊に近いオペレーションで人件費を最小限まで削減したモデルを目指しているという点です。そのために、Minnでは「ペーパーレス」「キャッシュレス」「キーレス」の3つを実現しようと考えています。

Minn 外観

私はもともと前職でトリップアドバイザーにいたのですが、日本の宿泊業界はこの3つが全て実現できておらず、旅館のフロントは紙だらけでした。また、支払いも未だに現地払いがメインです。しかし、民泊では事前決済が当たり前なので、Minnでも全て事前決済を導入予定です。また、鍵についても弊社が総代理店になっているigloohomeのスマートロックを利用し、鍵は使わずに番号のみで開けられるようになっています。

Q:代行サービスから事業を多角化されていますが、その戦略と狙いは?

当初、mister suiteではオーナー様からお預かりした数多くの物件を運用し、手数料を頂くことでビジネスを展開してきましたが、民泊運用代行サービスが増えてきたので、次は自社のために構築したシステムとその運用ノウハウを活かして代行会社をサポートしていきたいという想いがあり、suitebookを始めました。また、代行会社にシステムを提供することで、より多くの民泊物件データが収集できるという点も狙いの一つです。そして、それらのノウハウやデータを参考に、ここはリスクを取ってでも自社で投資すべきと判断した物件についてはサブリースで借り受けたり、Minnのように自社で丸ごと手がけて運用する、という切り分けをしています。

Q:suitebookを通じて全国の民泊物件のリアルデータが収集されれば、代行会社にもホストにも大きなメリットが生まれますよね。

suitebook の管理画面

そうですね。PMSの場合は予約料金やクリーニング料金など実際のゲスト宿泊情報が収集できますので、将来的にはそれらのデータを基に清掃会社や代行会社を全国でネットワーク化し、サポートできる体制を作りたいと考えています。suitebookに集まったデータやレビューを基に、不動産投資家と代行会社のマッチングをすることもできると考えています。「この運用会社はこれだけいい運用をしている」「この清掃会社はこれだけいいレビューがついている」とオーナーに紹介することもできますし、運用代行会社と清掃代行会社をマッチングすることもできます。こうした情報をオープンにしていくことができれば面白いなと考えています。

Q:ホテル事業のMinnは今後も数を増やしていくのでしょうか?

Minn の内観

今後、Minnの数を増やしていきたいなと考えています。現在の予定では来年に3棟ほど、大阪と東京で20~30室程度のホテルを計画しています。理想的な形は、現在mister suiteでもやっている清掃やゲスト対応のクラウド管理と、Minnのフロント業務を組み合わせることです。現行の法律ではホテルにはフロントを設置する必要があり、例えば大阪市では旅館業を取得したら基本は24時間スタッフを置いてくれと言われます。

しかし、チェックイン・チェックアウトやパスポート確認などのフロント業務はIoTの活用により最小限にできるので、フロントスタッフは空いた時間を使って弊社が運営する他の民泊物件のコンシェルジュをやることも可能です。例えば大阪のMinnにいるフロントのスタッフが、深夜帯などの暇な時間を使って東京の物件にやってくるゲストのメッセージ対応をすることもできます。このような世界観を作れたらよいですね。

Q:引き続き代行サービスのmister suiteも提供していくのでしょうか?

やはり代行あってのsuitebookとMinnだと思いますし、mister suiteの仕組み自体がクラウドによる清掃管理などオペレーターと物件をマッチングして全国展開できる仕組みになっているので、しっかりと伸ばしていきたいと考えています。代行は弊社の軸のようなもので、民泊運営ノウハウを磨き続けるという意味でも重要です。

民泊運用を成功に導くポイントとは?

Q:民泊運用を成功させる上で大事なことを3つに絞るとしたら何ですか?

運用前の「ロケーションと物件選定」、運用中は「ゲストサービスの充実」、そして「集客を増やすチャネルコントロール」の3つですね。

運用面の前に一番大事なのはロケーションです。あとは、ベッド数など間取りの作り方も重要です。弊社ではなるべく宿泊単価が高い1泊10,000円~15,000円以上で貸し出せる物件にフォーカスして運用しています。

また、運用について言えばゲスト対応は間違いなく重要です。これはどの会社も言っていることだと思いますが、24時間どれほど密にゲスト対応ができるかによってレビューが変わってくるため、弊社もゲスト対応には常に力を入れています。

そして集客チャネルのコントロールについては、弊社では「手間いらず」というサイトコントローラーと提携しているので、簡易宿所特区民泊などであれば基本的にホテル予約サイトに全て掲載できる仕組みができています。ホテル予約サイトにも掲載して集客チャネルを最大限まで増やすことで予約を大幅に増加させることができます。Minnの場合は「Airbnb」や「AsiaYo」、「Agoda」、「Flipkey」などに加えて「じゃらん」や「楽天」、「マイナビトラベル」などにも掲載しており、既に民泊仲介サイト経由の予約比率は全体の10%程度しかありません。

新法施行後の民泊市場に対する見通し

Q:新法施行後の民泊市場についてどのような見立てをお持ちですか?

もう少し具体的に詰まってきた段階で判断したいとは思いますが、施行後の初動としては、これまでマンスリーやサービスアパートメントなどの短期賃貸を手がけていた企業が参入してくると考えています。これまでは法令上1ヶ月以上でしか貸し出せなかったところが、その隙間を民泊で埋められるようになるわけですから、そうした企業にとって新法はとにかく喜ばしいことだと言えます。この動きに対してはsuitebookも戦略的に対応していく予定です。

また、新法が成立したことで180日という日数制限があるなかでどのように参入すべきかという点について最近は大手企業の皆様からも多くのご相談を頂いています。ニーズは会社によって本当に様々で、そもそも空き家活用なので180日運用できれば十分という方もいますし、鉄道系の会社から沿線活用の一環で沿線周辺の空き家物件を少しでも民泊に活用したいというご相談をいただくこともあります。

弊社としては、実証実験もしながら「180日+α」で何ができるかを全力で考えていますが、そもそも特区民泊や旅館業の許認可を取得している物件にフォーカスして物件数を増やしていることもあり、ベストは365日間、1泊から予約がとれる旅館業だと考えています。ただし、旅館業の取得によりフロントに人を配置しなければならないとなるとそれはそれで収益性に課題があるため、民泊新法だけではなく旅館業法改正の動きにも注目しています。

Q:大手の参入も増えるなか、スタートアップとしてどんな戦略を描いていますか?

大手企業とは色々な組み方があると思っています。弊社はスターマイカ社とも資本業務提携していますし、先日もパソナ社と阿波おどりのイベント民泊で協力させていただきました。弊社の強みは民泊のオペレーションノウハウ、特にコストをチューニングする部分です。売上については物件のセッティングさえしっかりとできればゲストが集客できるバリューチェーンは整っているので、結局のところ民泊事業に参入した企業がやらなければいけないことはコストやオペレーションのチューニングであり、そこはまさに我々が得意とする部分です。

弊社では今年新たにビジネスソリューション事業部を立ち上げ、大企業などに対して民泊事業の立ち上げを支援しています。どこまでを自社でやるべきで、どこまでをアウトソースすればよいかなど、大企業が民泊市場に最適な形で参入できるようコンサルティングを手がけています。企業によってニーズや民泊に対する捉え方が大きく異なるのは面白いですね。

Q:金融機関との取り組みはありますか?

現在弊社ではMinnのモデルを地方の旅館などにも適用できないかと考えており、例えば北海道の美瑛にある施設では、マーケティングやオペレーション設計など頭を使う業務や多言語ゲスト対応などは東京からコントロールし、現地ではレストラン経営やゲストのおもてなし、スタッフ研修など、そこでしかできないことに注力してもらうというオンラインとオフラインを組み合わせたO2Oモデルでの宿泊施設運用サポートを行っています。

地方ではマーケティングやオペレーション設計、多言語対応できる人材などを確保するのは難しいため、これはとても優れたモデルだと考えておりまして、金融機関からも強い興味を頂いています。

今、多くの金融機関が地方の旅館などに設備投資やリフォーム・修繕のための融資をしていますが、銀行としても融資を回収するためには旅館の収支を改善する必要がありますので、そうした旅館のサポート案件は銀行からの紹介でどんどんと広がっています。

また、金融機関としては簡易宿所や民泊への投融資にあたって利回り判断などをするためのデータが必要となります。弊社はsuitebookなどでそのデータを収集していますので、金融機関と連携してデータ提供することで収益の目利きができる状況を作っていきたいですね。

SQUEEZE社のエントランス

インタビュー後記

今回は株式会社SQUEEZEの舘林氏にお話をお伺いしました。舘林氏のお話からは、民泊市場の変化に応じて柔軟に自社のポジショニングを変えていく戦略性と先見性の高さを強く実感しました。

まだ民泊市場が立ち上がりフェーズで競合も少ない時期には民泊運用代行サービスに特化することで一気にシェアを高め、運用ノウハウを蓄積しながらシステム開発を進める。そして徐々に市場が成長し、代行サービスの増加により競争が激化してきたタイミングで次はポジショニングを変え、よりスケーラビリティがある代行会社向けのSaaSシステム提供というビジネスに軸足を移す。さらにシステム提供を通じて収集した大量のデータに基づき、収益性が高いと判断したエリアや物件に対しては自らリスクをとって民泊運用を手がける。

これらの事業ポートフォリオによりリスクを分散しながら市場の変化に応じて最適なオプションを選択できる体制を構築している同社の事業の作り方は、これから民泊市場に参入しようと考えている事業者や投資家にとっても参考になる点が数多くあるのではないかと思います。

既に民泊新法施行後の市場も見据え、旅館業取得によるホテル事業や大手企業との連携、マンスリーとのハイブリッド運用にも対応したPMSなど様々な打ち手を打っている同社が、今後どのような形でマーケットメイクをしていくのか。引き続き株式会社SQUEEZEのこれからに注目です。

株式会社SQUEEZEの概要

会社名 株式会社SQUEEZE
所在地 東京都港区北青山3-3-7 第一青山ビル3階
サービス名 ・ホテル・民泊・宿泊事業者向けクラウドソーシングサービス「mister suite
・短期貸し物件の一元管理を可能にするクラウドツール「suitebook
・ホテルと民泊のハイブリット宿泊施設「Minn
・民泊物件データの収集・分析した運用サポートツール「mister suite lab
・スマートキーボックスの販売事業「igloohome
URL https://squeeze-inc.co.jp/

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(Livhub 編集部)

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