住宅宿泊事業法施行から3年、コロナ禍以後のAirbnbの今とこれから

2018年6月15日に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されてから3年が経過した。その間、訪日客数は2018年に3119万人、2019年に前年比2.2%増となる3188万人を記録し、訪日客の受け皿としての民泊需要も拡大傾向にあったが、2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大の懸念から国外からの人の渡航が制限され、その後国内での緊急事態宣言の発令もあり、旅行観光経済は停滞した。日本に「民泊」の言葉が浸透する端緒となった世界最大級の旅行コミュニティプラットフォームであるAirbnbも例外なく影響を受けた。

今回、Livhub編集部では住宅宿泊業界をけん引してきたAirbnbがそうした状況を経て、今なおコロナ禍にある日本でどのような想いで事業に取り組んでいるのか、そして、今後どのように展開していくのか。コロナ禍で注目を集めた分散型旅行やワーケーション、体験の価値、サステナビリティといったテーマも含め、Airbnb Japan株式会社代表取締役の田邉泰之氏にお話を伺った。

聞き手:秋山哲一、瀧田桃子

住宅宿泊事業法の施行からこれまでを振り返って

Airbnb Japan株式会社 代表取締役 田邉泰之氏

Airbnb Japan株式会社 代表取締役 田邉泰之氏

住宅宿泊事業法の施行前からですが日本は人気のある目的地のため、法施行後も引き続きホームシェアリングに携わる方とゲストを受け入れられる物件を増やすことに注力してきました。

コロナ禍において、訪日客の比率は減少したため、コロナ後に備えて、国内の方に活用していただくように取り組んでまいりました。利用者は順調に伸びてきており、今までの訪日客とは違う利用方法で宿泊していただいております。たとえば、東京都内、もしくは近郊の静岡県や千葉県あたりで、一棟をまるごと借り、家族やグループ、友人同士でつながりを求めて集まるケースが増えています。また、長期滞在も増えています。旅すること、働くこと、生活することの境目がなくなってきていることが要因としてあると思います。

一方、コロナ禍でもホストの登録は増えました。コロナ前は増加する訪日客に対してホームシェアリングを提供することを目的としたホストが多くいました。コロナ禍では、新たなライフスタイルとして、地方で生活するなかでホストとしても活動し、国内の方をもてなし、人とつながっていきたいという想いをもってホストになる方が増えています。

先日、Airbnbには「柔軟な検索」の機能も実装されましたが、Airbnbのグローバルのデータでは、たとえば、自分の考える理想的な働き方を求め、滞在する場所も施設も決めずに検討する方が増えていることから、今後、日本でも同様にこうしたAirbnbの活用方法が増えてくるのではとみています。

Airbnbならではの体験・リスティングへの滞在で生まれる価値

ワーケーション(リモートワーク、テレワーク)との親和性

Airbnbには、長期滞在するうえで便利なキッチンや洗濯機があり、ベッドルームとリビングルームが別にあり、仕事をするテーブルもあるリスティングが数多く存在するため、そのようなリスティングを選べば仕事も生活もしやすく、ワーケーションやリモートワーク、テレワークとの親和性も高いといえます。

また、ワーケーションにせっかく行くのであれば、滞在先に楽しみが必要です。1か月くらい長期滞在し、地元の商店街やスーパーマーケット、レストランに行き、地元の方と同じような生活を体験できるのはかなり楽しいことです。

ワーケーションやリモートワーク、テレワークで地域を訪れて体験価値を感じていただくのも、Airbnbを活用していただきたい想いの一つでもあります。特に日本はエリアによってまったく違うライフスタイルをみることができますし、どこに行っても食事はおいしいですし、一か所だけではなく、さまざまな地域に長期滞在する生活は、新しいライフスタイルとして発展していくのではないかと思います。

ユニークで魅力あるリスティングでの体験

私自身もAirbnbを通じていろいろな体験をさせていただきました。なかでも思い出深い体験をお話ししますと、京都の里山に伺ったときのことです。藁葺き屋根の古民家に滞在し、そのときは雪が降っておりましたので、囲炉裏で火を焚いていないと屋根がしけってしまうということで火を焚いて、家の中はもくもくに煙っていたのですが、それだけでもすごく楽しくて。そして、その囲炉裏で食事を作っていただき、床に座って食事をいただいたり、近くの畑に野菜を採りに行ったり、お風呂が五右衛門風呂だったり、初めての経験をたくさんさせていただきました。

また、直近では、房総半島のほうにある、海から歩いて3分くらいの場所にある一軒家を借りてワーケーションをしに行ったときに、いつもと違う場所で仕事をし、生活のリズムを変える体験ができたことがすごくおもしろいと感じました。その家からは海が近いので、朝と夜は散歩をしてみたり、昼もせっかくのワーケーションなので、陽が上がっているうちにできることをということで、2~3時間休憩をとって地元のお店に行って買い物したり、庭でバーベキューもしたりしました。

こうした滞在地域に出向くような動き方をするとなると、必然と働く時間も含めてスケジュールを変えることになります。そして、生活のリズムを変えると決めることで、一日を効率よく使うことができることもわかりました。例えば、サンフランシスコとのやりとりは、現地が夕方なので、朝にする。そのあと、お昼に休みをとって地元を散策して、また夜に仕事をする。そういう試みそのものに、ものすごくおもしろさを感じました。家は庭つきだったので、外に出てテレカン(teleconference、遠隔会議)にも出ましたし、ゴルフ道具を持って行ったので、庭で素振りもしました。大きな声で話しても近所迷惑になることがなく、日なたでテレカンができたのはとても心地いい気持ちでした。一つ残念だったのは、バイクに乗る予定でレンタルバイク屋の近くの家をわざわざ借りたのですが、雨が降っていたことくらいです。

ほかにも先日、以前滞在させてもらったホストの方の家に遊びに行き、マレーシア料理を教えていただく経験をしたのも充実感がありました。コロナ禍もあり、それまでは家にこもって自分の家族と一緒にいることが多かったのですが、ホストの方と話をしながら、料理を教えてもらい、あっという間に素晴らしいマレーシア料理ができあがったとき、ひさびさに人とつながる喜びを感じられました。

また、コロナ前後で私の旅のスタイルが変わったとしても、変わらずホストの皆さんに支えていただいていることも感じられました。房総半島に行ったときもホストの方から頻繁に連絡をとっていただき、「問題ないですか」と声をかけていただいたり、家には地元のお菓子を置いていただいていたり、地元の買い物スポットなどの情報も丁寧に教えていただいたりと、一つひとつの心遣いが温かかったです。

このように、ワーケーションを通じて、自分のやりたいことと仕事と生活をミックスしてみたらすごく楽しかったので、これからもそうしていきたいと思っていますし、どれもとてもよい思い出となっています。

日本での事業展開について

Airbnbの日本法人設立時から全社員で取り組みたかったのは、Airbnbの標語でもある「暮らすように旅をする」ということで、さまざまな方に日本各地のいろいろな生活を体験していただけるよう、地元の方と連携しながらAirbnbを広めていくことです。

これまで訪日客に人気が高い東京、大阪、京都でのホームシェアリングの普及に力を注いできましたが、今後も地域にあったホームシェアリングの普及を目指したいと思っています。単純にマーケティングをして大掛かりにホストを増やすのではなく、地元の方と連携しながら、その地域のペースにあわせて展開する方針です。

また、Airbnbを通して各地に訪れる方は体験を求めており、そもそも地域に訪れたい想いが強い方が多いこともあり、つながりが生まれやすく、つながる体験に価値を感じ、ホストになる方もいます。そして、各地で関係人口を生み出し定住してほしいとのお話も伺いますので、そこに少しでも力添えができたらと思っています。

ホームシェアリングが普及していくと、その周辺領域も広がっていき、新しいビジネスも必要になってくるので、Airbnbパートナーズとは、適宜、議論やアイデア出しを続けています。引き続き、パートナーとは連携しながらホームシェアリングを普及させていきたいと考えています。

Airbnbとサステナビリティについて

Airbnbには、グローバルでは男性女性問わず同じくらいの比率でホストとして活躍されている方がいます。そして、シニアと呼ばれる年齢になったときにもホームシェアリングを通じて経済に参加できる、個人が長く活躍できるプラットフォームであることは、サステナビリティの観点からも魅力だといえます。

そして、日本では、Airbnbで実施している空き家や遊休資産を活用する取り組みがサステナビリティに貢献すると考えています。そこで関係人口が生まれると地域に活力を生むため、「すみずみまで元気な日本」にすることにもつながっていきます。

日本には、まだまだ活かしきれていない「眠った資源」がたくさんありますので、Airbnbを通じてそれを活かせるように助力できたらと考えています。たとえば、直近で提携させていただいた長野県では、古民家の再生が進んできており、建築のプロでなくても地元のコミュニティが協力しながら生まれ変わる事例もみられています。

いずれの国においても、ホームシェアリングが普及していく過程として、ホストがコミュニティをつくり、そのコミュニティが大きくなり、そのエリアでホームシェアリングをする人が増えていくパターンがみられます。Airbnbもこれまでコミュニティづくりの一助を担ってきました。Airbnbがホストのコミュニティをサポートし、そしてそのコミュニティが地域と連携し、地域をどのように発展させていくのかを話し合いながら、地域づくりを進めていく。今後も各地でそうしたコミュニティを一緒につくるお手伝いができたらと考えています。

Livhub読者に向けてメッセージ

「Living Anywhere」は観光市場のトレンドでもあり、Airbnbにはそれを実現できる体制が整っています。私自身Airbnbは大好きな会社ですが、Airbnbの一番の魅力は参加してくださっている数多くのホストの皆様です。ぜひ、いろいろな地域に、ホストに会いに足を運んでいただけたらと思います。また、そうしたゲストを迎え入れる魅力あるホストとしてAirbnbに参画していただけたらうれしく思います。

編集後記

コロナ禍で人と対面する機会が大きく失われたことにより、つながりが希薄化し、貴重となったつながりを求めて、場に集まる。そして、新たなコミュニティが生まれる。Airbnbはその場を提供するプラットフォームとしてありながら、地域と連携し、魅力を高めていく。分散型旅行、ワーケーションなどにも対応し、体験サービスも提供するAirbnbは、良質な旅行体験ができるプラットフォームとして価値の高いものだとあらためて感じた。今後もAirbnbのサービスを支える魅力あるホストのもとにゲストが訪れ、より地域を愛する人が増え、さらに活気を生むことが期待される。

【関連ページ】Airbnb(エアビーアンドビー)
【関連ページ】Airbnbのホストになる!Airbnbに登録する方法
【参照ページ】2020年1月~12月 国・地域別 / 目的別 訪日外客数 (暫定値)
【参照ページ】長野県北安曇郡 Muskoka House(冒頭画像のリスティングのページ)

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Livhub 編集部

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