大自然とのつながりを体感し、訪れた地域の人々を深く知る「先住民ツーリズム」とは?

「先住民ツーリズム」が注目された背景

先住民ツーリズムは、先住民の独自文化の保護や継承という意味だけでなく、経済的な貢献も大きく、総人口の4.3%が先住民族のカナダでは観光産業の柱の一つになっています。また、旅行者の心理が変化し、訪れる地域との関わりを求める旅行が好まれるようになったことで、先住民族ツーリズムが注目されるようになりました。

こちらの記事では先住民ツーリズムについて解説するとともに、事例をご紹介します。

「先住民ツーリズム」とは?

先住民ツーリズムとは、先住民族が自らの文化、歴史、伝統、そして生活様式を共有し、それらを通じて観光体験を提供することです。この観光の形態は、単に観光地を訪れること以上の意味を持ち、文化的な理解と尊重、教育、持続可能な開発を促進する重要な役割を担っています。また、先住民族にとっては、彼らの文化を守り、伝える手段としても重要です。このツーリズム形態は、世界中で多くの先住民族により実現されています。

類似の観光形態としてエスニックツーリズムがあります。
エスニックツーリズムは、少数民族や特定の民族集団の独自文化や伝統、生活様式に焦点を当てた観光形態です。エスニックツーリズムは対象とする民族がその土地の先住民とは限らない点で異なります。例えば、旅行者と同じ社会に暮らす少数民族や隣国からの移民を対象とすることもあります。

以降では海外、国内合わせて4つの事例をご紹介します。

1、カナダ デーン山地の空の下でオーロラ鑑賞

オーロラ、ナイアガラフォールズ、メープル街道、カナディアンロッキーなど、世界の人々を魅了する雄大な景観はカナダの大きな魅力です。今日では持続可能な開発や自然環境の大切さに改めて関心が寄せられるようになり、1万4千年の長きにわたってそのようなカナダの大地と共存し、大自然を生き抜くための知恵と技を発達させてきた先住民族が提供する様々なツアーが注目を浴びています。

現在のカナダには先住民が案内するツアーをはじめ、博物館や美術館、先住民のレストランなど、先住民文化に触れる多様な場が用意されています。

ノースウエスト準州イエローナイフ郊外にあるB. Dene Adventuresでは、オーロラ鑑賞と豊かな先住民文化体験を提供しています。

オーロラツアーでは、オーロラの物語、デネ族の歴史と伝説、伝統的な太鼓の演奏、地元のグレートスレーブ湖の魚や作りたてのバノック(大きく平らな速成パンの一つ)などの伝統的な食べ物の試食など、デネ族の人々と夜を過ごすことができます。
また、ツアー参加者の安全のため、経験豊富なデネ族の監視員主導のもとクマや野生動物の監視を行っています。

2、アメリカ合衆国 ダコタ州の国立公園と先住民の道を巡る9日間の旅

アメリカ大陸で何千年にもわたって繁栄してきた先住民の文化があり、各種展示、再現型歴史博物館、イベント、史跡、部族の人々との触れ合いを通して、さまざまな部族が育んできた文化を学ぶことができます。最近では、ネイティブ アメリカンのコミュニティが独自の方法で自分たちの文化を紹介する旅行が増えてきました。

ツアー会社Trafalgarが新たに提供するこちらのツアーでは、ノースダコタ州とサウスダコタ州を周ります。バッドランズ国立公園やセオドアルーズベルト国立公園の荒々しい岩山の美しい風景やバイソンの生息域、1890年のウーンデッドニーでの虐殺(アメリカの騎兵隊によって約350人のインディアンが虐殺された事件)の記念碑などの史跡を訪れます。

先住民族の観光担当者と協力して考案されたこのプログラムの最大のポイントは、オグラララコタ族とその仲間の部族の4つのインディアン居留地です。そのうちいくつかは初めてツアーグループを迎え入れます。ラコタ族の長老から星に関する知識や、MHA(マンダン族、ヒダツァ族、アリカラ族)ネーションの文化的なダンスなど、先住民族コミュニティから直接学べる機会があります。

ツアーは10月を予定しており、ブラックヒルズで伝統的なパウワウ(アメリカ合衆国サウスダコタ州のラピッドシティで開催される先住民族の文化イベント)への参加も含まれています。

3、オーストラリア タスマニア州のアボリジナル・ガイドツアー ウカリナ・ウォーク

image via: AUSTRALIA.COM

オーストラリアの先住民はアボリジ二民族とトレス海峡(オーストラリア最北端のケープ岬とパプアニューギニアの間)にある島の民族からなり、この大陸には少なくとも4万年以上前から住んでいるそうです。ヨーロッパから人々が渡来するまで、アボリジ二はそれぞれ異なった言語、信仰、習俗から成る複雑な文化の中で、精妙な自然界と調和して生きていました。

ルトゥルウィタ(Lutruwita、タスマニア州、オーストラリア大陸の南東海上に位置するタスマニア島と周辺のキング島、ファーノー諸島などの島々からなる)には先住民の文化が色濃く残っています。アボリジナル・ガイド付きのツアー、ウカリナ・ウォーク(wukalina Walk)ではその文化を精神面、身体面ともに体験できる内容となっています。

タスマニア島東部に位置するガイドの故郷を横断するコースには、ベイ・オブ・ファイアー、ウィリアム山国立公園などの名所やブッシュタッカー(野生食)、伝統的な食事が含まれています。

グループは最大10人までと限定され、アボリジニとトレス海峡諸島のガイドの案内で歩きながら、何千世代にもわたる祖先とのつながりを持つ生きた経験を持つ彼らから陸と海の国について学ぶことができます。

4、日本 森と生きるアイヌの精神に触れる旅 tour 1 森の時間(森歩きコース)

日本では北海道の先住民アイヌ民族の文化や歴史に触れるツアーがあります。

阿寒アイヌ工芸協同組合が実施、運営するAnytime, Ainutime!は「森」、「湖」、「ものづくり」の3つの要素で構成されたアイヌ文化を、アイヌ自ら(阿寒湖アイヌコタンで暮らしている住民を含む)が伝えていくことをテーマとしたツアーです。

阿寒摩周国立公園の恵まれた自然を満喫しながら、また、アイヌに古くから伝わる工芸技術やアイヌの暮らしの知恵を体験しながら、彼らの文化に触れていくことになるでしょう。
「森の時間」ツアーは、阿寒湖のほとり、イオルの森をアイヌの案内役と共に歩き、アイヌの楽器ムックリを演奏体験するツアーです。そこには自然に対する敬意を伝え、自然と共存していく、アイヌならではの術が詰まっています。

先住民ツーリズムにおいて配慮すべきこと

先住民ツーリズムに旅立つ際には、訪れる場所の少数民族や先住民族を含む全ての人々と、その社会・文化的な伝統に対する配慮が必要になります。

具体的には、以下のような心構えや行動が必要です。

・事前調査: 訪れる地域や先住民族について事前に学び、基本的なマナーや禁忌を理解する。

・適切な服装: 先住民族の文化や気候に適した服装を選び、過度に派手な服装や露出の多い服装は避ける。

・文化への敬意を持つ: 先住民の文化、伝統、信仰を尊重し、観光行動中にこれらを侵害しないようにする。

・現地ガイドの利用: 先住民ガイドや現地ガイドを利用することで、正確な情報を得ると同時に地域経済を支える。

・写真撮影の許可を得る: 写真やビデオを撮影する前に必ず許可を得ること。特に宗教的な儀式や個人的な場面では注意が必要。

・環境への配慮: 自然環境を保護するため、ゴミを持ち帰り、自然の資源を過度に利用しない。

・現地製品の購入: もし先住民が製作した工芸品などがあれば、可能な範囲でそれらを購入することで地域経済を支援することを心がける。

・責任ある観光行動: 観光活動が先住民族の生活や環境に与える影響を考え、責任ある行動を心がける。

・コミュニケーションの配慮: 言語やコミュニケーション方法に配慮し、尊敬の念をもって交流する。

・地元のルールに従う: 各地域の規則やガイドラインを守り、先住民族のコミュニティの安全と調和を保つ。

以上、訪れる地域の文化と人々への敬意を常に心に携えながら、先住民ツーリズムを楽しみましょう。

世界を広げる先住民の文化に触れる旅

先住民族の人々はこの世界をどのように捉え、考えているでしょうか?彼らの精神性、文化、歴史、自然と繋がり、共存する方法を知ることで、より良い明日、世界が拓くヒントが見つかるかもしれません。

【参照サイト】CANADA Electronic Travel Authorization カナダの先住民族とは?歴史や問題点を解説
【参照サイト】Destination Canada 知りたいカナダ カナダの先住民観光
【参照サイト】B. Dene Adventures Aurora Viewing Under the Dene Skies
【参照サイト】GoUSA アメリカ先住民の文化を体験できる場所
【参照サイト】NATIONAL GEOGRAPHIC 5 ways to experience Indigenous tourism in the US
【参照サイト】TRAFALGAR National Parks and Native Trails of the Dakotas
with Black Hills Pow Wow
【参照サイト】オーストラリア発見 先住民アボリジニ
【参照サイト】AUSTRALIA.COM オーストラリアのユニークなアボリジナル・ガイド付きウォーキングツアー
【参照サイト】wukalina Walk
【参照サイト】 Anytime, Ainutime! tour 1 森の時間(森歩きコース)森と生きるアイヌの精神に触れる旅(貴方だけのプライベートツアー)
【参照サイト】UNWTO 世界観光倫理憲章

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いしづか かずと

Livhubの編集・ライティング・企画を担当。訪れた場所の風景と自分自身の両方を豊かにする旅を探している。神奈川と長野をいったりきたりしながら、二拠点生活中。今気になっているのは環境再生やリジェネラティブツーリズム。環境再生医初級。