「サステナブルな旅」とは、どんな旅のことを言うのだろうか。
いま世界全体で取り組んでいるSDGsには、旅行や観光への取り組みも含まれている。旅行先の地域文化や環境保全を最優先に考え、旅行地に住む人々の生活をも豊かにする、そんな旅をサステナブルな(=持続可能な)旅と呼ぶ。
世界最大級の旅行コミュニティプラットフォーム「Airbnb」は、世界で定められたSDGs週間に、サステナブルな体験ができるリスティングを取り上げた。
自然あふれる地で、古きを感じられたり、伝統文化や農業体験ができたり。今回は、そうした取り組みを行う全国の宿泊施設を10個紹介する。
① 森吉山麓ゲストハウス「ORIYAMAKE」 (秋田県)
東北地方・北海道で厳しいしきたりを守りながら、集団で狩猟を行う者を指す「マタギ」という言葉がある。人は、山や動植物と共存して、自然に寄り添いながら生きている。現代では、後継者不足でマタギの数も激減しているが、そういったマタギ文化を今もなお大切に守る一軒宿がある。
花の百名山・森吉山の麓、北秋田市の根森田集落にひっそり佇む「ORIYAMAKE」。先祖代々の土地を活かしながら、築70年の古民家を改装し、ちょっぴり人見知りな夫婦が営んでいる。マタギ文化が持つ意味「山との共生」、そして「人と人との繋がり」を体現すべく、それらを丁寧に体験できる場所を目指している。
宿では、比内地鶏の解体体験や野兎のわな猟といった、マタギ文化を感じられる体験メニューが用意されている。他にも、山菜採りや薪割りと焼き芋づくり、冬にはアニマルトラッキングなど。宿に泊まったら、ぜひ満点の星空鑑賞のオプションもつけてほしい。宿泊料金に1人プラス2,000円で、秋田の地酒3種の飲み比べとマタギ特製の熊煮込みを楽しみながら、星空を堪能できる。地のものをいただき、自然に身を委ねる。決して都会ではあじわえない体験がここには待っている。
入ってすぐには、囲炉裏のあるリビングが。ここでは、きりたんぽづくりやコーヒー豆を焙煎するといった体験も楽しめる。暖をとるだけではなく、魚を焼いたり、餅を焼いたり。囲炉裏を囲んで、秋田の文化を感じられるのもこの宿ならでは。
宿泊は1日1組限定、2泊3日から。お部屋は8畳2間の和室で、最大6名まで宿泊可能。山奥ながらWi-Fiを完備しているため、長期滞在でのリモートワークやノマドワーカーにもおすすめだ。
<施設情報>
森吉山麓ゲストハウス ORIYAMAKE
住所 秋田県北秋田市根森田仲ノ又131
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② 農家古民家「ji-kka」(福島県)
福島県は、桃と梨と林檎を作っている農家に併設するお宿。築100年の古民家を、シックでモダンな内装にリノベーション。陶器のギャラリーを併設するなど、農家でありながらアートを感じられる場所となっている。
山野草好きのホストが、長年かけて手造りした美しい庭には、あの「ほぼ日」の糸井重里さんの呼びかけで建てられたツリーハウスを設ける。ツリーハウスに登ると、新鮮な果物や草木が生い茂る、農家ならではの自然を眺めることができる。庭にはハンモックも設置され、畑には時折りヤギさんが顔を見せる。子供が笑顔になる仕掛けが随所に散りばめられいる。
宿泊は、2部屋限定。机やタンスなど古き良きモノはそのままに、ごろんと休めるよう畳がはられた和室と、昔を思い出させてくれる縁側。まるでギャラリーのような内装で、どこをとっても絵になる。
近隣には、秘湯愛好家もうならせる高湯温泉をはじめ、飯坂温泉、土湯温泉など数々のすばらしい温泉場がある。こちらの宿を拠点に温泉めぐりをするのもいい。
そして、福島は知る人ぞ知る酒どころ。日本酒好きが絶賛する酒蔵めぐりもおすすめだ。盆地特有の寒暖差が生み出すおいしい果物をはじめ、自然の恵を存分にあじわおう。
<施設情報>
ji-kka
住所 予約後に表示される
予約ページ
③ ゲストハウス&カフェ「ちゃぶだい」 (埼玉県)
蔵造りの街並みが観光客を魅了する、埼玉県川越にあるゲストハウスちゃぶだい。小江戸と呼ばれるこの地で、築100年を超える古民家を改修し、ちゃぶ台を囲んで人々が集い語らう場所に生まれ変わった。
外来の人も使えるパブリックラウンジでは、昼間はサンドイッチを中心とした、地域の食材をいただけるカフェとして、夜間はシンプルなスタイルのバーとして、さまざまな人が訪れる。小上がりや庭のウッドデッキを設け、旅人やご近所の方、街行く人などが思い思いの時間を過ごす。
お部屋は、ドミトリーと個室の2タイプ。女性専用ドミトリーも設ける。シャワーやトイレ、洗面所、キッチンの水回りは共用。庭に面した宿泊者専用のゲストラウンジでは、簡単な食事を作ることも、フリードリンクを楽しむこともできる。
ちゃぶだいのダイニングは、街のすべて。宿に着いたら早速街をお散歩。路地裏の雑貨屋さんに訪れたり、映画鑑賞したり。お腹が空いたら、食べ歩きをすることも。夜は銭湯で汗を流して、近くの居酒屋でローカルをあじわう。ちょっと早めに切り上げて、宿のバーで訪れている人と語らいを楽しむのも良いだろう。
宿は、23時以降は完全消灯となる。築100年以上の木造古民家は音が響きやすい。みんなで楽しく、みんなに心地よい滞在をしてほしいということから、消灯時間を設けている。
街の玄関口として、さまざまなヒト・モノ・コトがつながり、あたたかさを感じられる宿だ。
<施設情報>
ゲストハウスちゃぶだい
住所 埼玉県川越市三久保町1−14
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④ Sanson Terrace 「山村テラス」(長野県)
森へと続く丘の上に、DIYされた小さな小屋がある。電気は太陽光発電でまかない、水は湧き水と沢の水を引いている。電気もガスもない、オフグリッドな暮らしができるのは、長野県の佐久穂町大日向集落から少し山側へ入った一軒宿「山村テラス」だ。
とにかく周りは、山・山・山。テラスからは茂来山の絶景を眺めることができ、春夏秋冬それぞれの季節の景色をこれでもかと堪能できる。敷地内には、畑やハンモックの森が設けられ、隣接する栗林を散策することも可能だ。
本棟は、14畳のリビングと4畳のロフト、ウッドデッキで構成されており、別棟に洗面所とトイレがある。ライフラインが一切通ってないので、食事はカセットコンロかBBQで賄う。とにかく人間の知恵と最低限のモノで暮らしを完成させる。生きるためにできることは何か?を考えさせられる宿だ。
寒い冬場には、白銀の世界に包まれることも。暖房は、薪ストーブと円筒型石油ストーブのみ。お風呂もないので、近くの温泉をいただこう。車で30分圏内にいくつか施設がある。
茂来山へ登山したり、抜井川で遊んだり、自転車をレンタルして村の中を散歩したり、遺跡のような神社を訪れたり。滞在は基本的に2泊以上とされている。そのままの田舎暮らしを体験したい方は、ぜひ訪れることをおすすめする。
<施設情報>
山村テラス
住所 長野県佐久穂町
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⑤ 一棟貸しコテージ「石積みの家」(長野県)
ここは日本だろうか?まるでヨーロッパの田舎町に迷い込んだような小さなコテージがある。長野県は美ヶ原の麓の山里にある「石積みの家」は、日本でもめずしい草屋根と自然石でできた本物の石造りの建物だ。なんとコテージが完成するまで12年もの月日がかかったのだとか。
敷地内には、同じく石造りの母屋と草屋根の小さな丸い石積みの小屋を設ける。コテージ下の畑では、無農薬で野菜やハーブを作っている。
コテージに入ると、吹き抜けになったリビングルームが広がる。アーチ型の窓に面した大きなテーブルやソファ、薪ストーブなどセンスの良い家具か配置され、工芸家さんの作品が飾られている。ロフトは6平米ちょっとの小さな空間だが、草屋根と壁の断熱で温度差の少ない心地いい空間となっている。ここでお布団を敷いて寝ることも可能だ。
他にも、8平米ほどフローリングのお部屋がある。床から天井まで石で敷き詰められた壁が特徴。水晶の入った石も混ざりあり、瞑想におすすめなのだとか。
食事は、自炊形式で。石のアーチ窓を設けたおしゃれな作りだ。ひと通りの道具類が揃っているので、家族やグループで思い思いの食卓を囲んで。
四季折々の自然を感じられる小さなコテージは、1日1組様限定。日常の喧騒から離れ、癒しの空間を満喫してみてはいかがだろうか。
<施設情報>
石積みの家
住所 長野県上田市武石鳥屋160−1
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⑥ TAKIGAHARA HOUSE-Life with Farm(石川県)
築80年の石蔵を改装した「TAKIGAHARA HOUSE」は、鞍掛山の麓に佇む1日1組限定の宿泊施設だ。採石と農村、滝ヶ原町の文化を象徴する建物として、人口わずか170人の石川県滝ヶ原町に誕生した。
「Life with Farm. 畑のある暮らし」を掲げ、自然と畑に囲まれたTAKIGAHARA HOUSEに滞在し、土に触れたり、山散策をしたり。日々の喧噪を忘れ、野に良くする健やかな心を育むことができる。施設では、ホストと一緒に野菜とブルーベリーのお世話をする農業体験も可能だ。
敷地内には、滝ヶ原産のそば粉を使ったガレットや近隣で採れた旬の野菜をいただけるカフェや、予約制となるが、小さな土蔵を改装したバーラウンジも併設している。地元の人をはじめ、県内外、国外、老若男女問わずさまざまな人が集う場となっている。
滞在する建物は、かつて米を貯蔵するための蔵として使われてきた建物をリノベーション。古き良きを残しつつ、現代のセンスが光る空間を再現している。キッチンやリビング、寝室を設け、農場の中の宿泊施設を独り占めできる。シングルベッド4台、最大4名まで宿泊可能だ。
コワーキングスペースも併設しているので、ワーケーションにおすすめ。隣町まで足を伸ばして温泉に浸かるもよし、北陸の味覚を堪能するもよし、思い思いの滞在をしよう。
<施設情報>
TAKIGAHARA HOUSE-Life with Farm
住所 石川県小松市滝ケ原町ヲ-66
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⑦ B&B On y va (オニヴァ) & Experience(徳島県)
宿は、江戸時代末期に建てられた元造り酒屋を改装した、築150年の建物だ。1日1組限定で、100平米を超える空間を独占できる。1階がリビングルーム、2階が寝室となる。
チェックイン後には、山の中の小さな農園へと案内してくれる。焚き火を囲み椅子に腰掛けると、農園で採れたハーブと山の湧水で注がれた温かいお茶でもてなされる。時間が許せば、小高い山の上で夕陽を拝むことも。ハンモックに揺られたり、ウッドデッキに寝転んで空を見上げたり。それだけで幸せと感じられる滞在が用意されている。
そして、この宿では “森のサウナ” を体験できる(別途料金)。名前の通り、森の中に本格的なサウナ施設をDIYで建てたという。薪の火でサウナストーンを熱々にし、水をかけて蒸気を発生させる。杉とヒノキの香りで癒されながら、汗をじんわりとかく。暑くなったら、サウナの横にある大小2つの自然のプールへ。沢の水に思いっきり浸かりクールダウンといった、自然と一体化できるサウナの入り方を満喫できる。
夕食は、4泊以内であれば「オニヴァの長谷川シェフによるフレンチディナー」か、「松葉庵/麟角の松村シェフによる和食の松花堂弁当」を選べる。朝食には、パンとコーヒーが提供される。自炊せずとも、おいしい料理をいただけるのはうれしい。なお、5泊以上の長期滞在ならキッチンを使うことも可能だ。
<施設情報>
B&B On y va (オニヴァ) & Experience
住所 徳島県名西郡神山町
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⑧ 古民家「懐和の里」(徳島県)
いろいろな体験ができる、徳島県石井町の民宿古民家「懐和の里」。建物は、なんと江戸末期の文化元年(1804年)、築220年を超える藍屋敷だ。寝床となる母屋は、当時を少しでも忍ばれるよう歴史ある客間と庭園をそのままに保存している。
藍の隆盛期の客間で、数寄屋風書院造りの6帖と8帖の二間が滞在場所。天井・欄間には屋久杉を、床・建具には漆塗りと精緻な釘隠しを使っている。夏場は吊蚊帳を使い、昔懐かしい雰囲気をあじわうことができる。宿泊は、素泊まりのみ。
こちらの宿では、隣接の畑でできた野菜や果物を、自由に採って食べることができる。収穫したらそのまま調理といった、農家さながらの体験が叶う。春にはじゃが芋やとうもろこし、甘夏、夏にはミョウガやピーマン、茄子、トマト、スイカやメロンの果物も豊富になる。秋には、イチジクやザクロなどの果物が。冬の大根もおいしい。
そしてなんと言っても、こちらの宿の贅沢は、いろいろな体験メニューが用意されていること。石井町で古くから伝承される「藍染」文化に触れたいなら、阿波藍製造所で全工程の見学を。製造所とは異なる場所では藍染体験も可能だ。さまざまな農作物の収穫や植え込み体験をすることもできる。
期間限定となるが、鳴門金時蒸留所での焼酎仕込体験も見逃せない。鳴門金時とは、徳島で有名な高価なサツマイモで、それを使用した香り高い焼芋焼酎作りに携われる。日常では決してあじわえない経験を通じて、伝統を学べるのがこの宿の醍醐味だ。
<施設情報>
懐和の里
住所 徳島県名西郡石井町
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⑨ クジラ別館 尾道(広島県)
広島県尾道市は、映画の街として知られ、古来より多くの文化人に愛されてきた港町だ。迷路のような路地や坂道を抜けると、大正〜昭和初期の意匠を凝らした木造の別荘建築が現れる。1日1組限定・一棟貸しの宿「クジラ別館」では、当時の趣を残しつつ、現代のクリエーターたちが新たな息を吹き込んで誕生した。
こちらの宿では、世界初のアイディアを買う宿としても運営している。ビジネスモデルや物語のプロット、没になった企画書などを宿に提出することで、宿泊料金を1名様につき3,000円割引するといったユニークな「アイディア割プラン」がある。
オーナーである、森ガキ侑大氏は、大学在学中にドキュメンタリー映像制作を始める。現在は、クリエイター集団クジラを創設し、TVCM・Webムービー、TVドラマ、長編映画を手がけるディレクターとしても活躍している。
そんなオーナーが営むクジラ別館は、映画のロケ地や、クリエイターの集まる空間としても活用されており、尾道の人や文化に触れながら、さまざまなクリエイティブが生まれている。
滞在先の古民家は2階建て。1階には、8畳の居間や4畳半、3畳の和室空間が広がり、台所や浴室、洗面所もある。2階は、8畳と2畳の和室から成る。一棟貸しのなので、家族や友人グループなど、人の目を気にせずのびのびとした滞在をしたい方におすすめだ。
<施設情報>
クジラ別館
住所 広島県尾道市東久保町12−11
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⑩ HABUMAN OKINAWA (沖縄県)
沖縄本島北部「やんばる」と呼ばれるエリアの一角、国頭村安波にある一棟貸し宿。やんばるエリアは、2021年世界自然遺産に登録され、絶滅危惧種のヤンバルクイナが生息する手つかずの自然が広がる。
そんな山々を囲むHABUMAN OKINAWAは、築66年の沖縄古民家で、沖縄の伝統を残しつつ新しいデザインを取り入れてリノベーションされた。2020年10月オープン。周辺は、海あり、川あり、滝あり。徒歩圏内にある安波川は、手長エビやカニ、川魚がとれるほどきれいで、子どもたちが喜ぶスポットとなっている。河原では宿泊者限定で、テントサウナのサービスも。クールダウンは川で、といった自然の中のサウナをあじわえる。
沖縄は海のイメージだが、やんばるは川遊びや滝遊びも充実している。もちろん、車を少し走らせれば、美しい沖縄の海も望める。
平屋作りの古民家は、フローリングのリビングとキッチン、琉球畳の寝室で構成される。室内に置いてある沖縄の本を縁側やソファで読んだり、三線を試し弾きしてみたり。芝生が敷かれた庭では、BBQをすることも可能だ。
夜になると静けさは増し、目をつむると聞こえてきそうなヤンバルクイナや虫の声。ここには沖縄の安波でしかあじわえない自然があり、ローカルな雰囲気が漂う。ぜひ、沖縄で暮らすような滞在をしてみてはいかがだろう。
<施設情報>
HABUMAN OKINAWA
住所 沖縄県国頭村安波359
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最後に
サステナブルな旅とは、ただ観光したり、地域の特産物をいただいたりするのではない。自然に身を委ね、地域に寄り添い、それらを通じて感じられる「これからの未来」について考える旅と言えるのではないか。
さまざまな時代背景の中、旅のあり方や旅に対する価値観は大きく変わってきた。しかし一方で、変わらない伝統や文化もある。あらゆる地に足を踏み入れ、多くの自然を感じ、その地のヒト・モノ・コトに触れる。
あなたもサステナブルな旅を通して、これからの未来を考えてみてはいかがだろう。
【参照サイト】Airbnb
明田川蘭
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