「ワーケーションは進化している」
2021年11月14日から7日間、長野県千曲市、信州千曲観光局、長野県と連携し、株式会社 ふろしきやが主催したワーケーションツアー「学び深まる秋の温泉ワーケーション」にて、主催者である、株式会社ふろしきやの田村 英彦さんがおっしゃっていた言葉だ。
実際に参加をしたLivhub編集部としても、同様の体感があった。
「ワーケーションは進化している」
学び深まる秋の温泉ワーケーション
7日間のワーケーションは下記のスケジュールで行われた。工程には、 観光列車内でのトレインワーケーションやお寺での瞑想体験、荒砥城での城ワーク。社会課題をテーマに専門家・参加者と学びを深める 「信州周遊フィールドワーク&アイデアソン」などが用意されており、目的に応じて参加日程・形態を選択できるよう設計されている。
今回我々が参加したのは行程も終盤に差し掛かった5日目に開催された「インプット&ワークショップ」のパート。会場となった長野県千曲市役所の一室には30名程の参加者が集まっていた。正直、会場に入った最初の印象は「ワーク」。白熱灯の灯る、ブラインドが下がり太陽光が遮断された真っ白な会議室に、スーツ姿の方も目立つ。しかし、その印象は会が進むごとに変化を見せた。
学ぶ(ワークスタイル・モビリティ・フード)
まずはモデレーターである、ふろしきや田村さんの声がけにより、参加者の自己紹介が行われた。日本マイクロソフトからスマートシティ等の担当者、長野と東京で二拠点居住をしている夫婦、長野県諏訪市や飯綱町、富山県から視察もかねて参加した方々、広告制作会社に勤めている方など様々な人が、「ワーケーションを体験してみたい」「自分の地域でもワーケーションを実装したい」といった理由で、産官民から参加していた。
今回のインプット&ワークショップでは、ソーシャルグッドなアイデアを考えるといったお題が用意されていた。良質なアウトプットをするには、良質なインプットを。ということで、アイデア出しを行う前に、専門家から話を聞く時間が設けられた。テーマは、ワークスタイル・モビリティ・フードの3つ。それぞれ20-30分じっくりと時間をかけて、頭に情報を入れていく。それぞれ少しずつ、話の内容を共有する。
ワークスタイルの専門家は、官民共創未来コンソーシアム理事の箕浦 龍一さん。
ワーケーションとは何なのか?ワークというのは価値創造である。であれば、ワーケーションは、旅先でデスクワークをすることだけではなく、旅をしながら価値創造活動を行うことなのではないか。日本人の中には、仕事に「行く」という感覚がある。しかし本来、仕事は「行く」のではなく、「する」もののはず。評価基準を残業時間など「行く」ことから図るのではなく、仕事の成果「する」にシフトしていくべき。といった働くということに対しての捉え方、考え方を見つめ直すきっかけになるようなお話があった。
モビリティの専門家は、日本マイクロソフトの清水 宏之さん。
様々な移動手段がある中で、近年はカーシェア、シェアバイクなどシェア型のサービスが増えており運行形態も多様化してきている。MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、情報通信技術を活用し、バスや電車、タクシー、飛行機など、すべての交通手段による移動を、ひとつのサービスで完結させるといった仕組みもでてきている。例えば「whim」というフィンランドのサービスは、月額利用料を支払えば、公共交通に乗り放題でタクシーも5kmまで乗れるといったもの。自動車の数を減らし、都市部のCo2の排出を削減する狙いで行政が導入した施策。千曲市でもワーケーション参加者を対象にMaaSの実証実験が始まっているといったお話があった。
フードの専門家は、信州地域デザインセンターの倉根 明徳さん。
長野県には主に鹿を中心とした野生鳥獣被害の問題が長らく存在している。年間の被害損額は7-8億円にも及ぶ。現状ハンターにより駆除された鹿のうち8割が廃棄されている。食べれば美味しい鹿肉を、廃棄ではなく流通させて美味しく頂くためのアイデアが必要。また長野県に通る、しなの鉄道沿線エリアには美味しいレストランやワイナリーもあるが、タクシーを使わないと行けない場所にあることが多く、移動の問題を解決し、回遊性の向上ができればもっと軽井沢だけでなく信州全域を楽しんでもらえるのではといった長野県の食にまつわる課題感などのお話があった。
アイデアの種を言葉に
専門家の方々の話を聞いたのち、今、頭に浮かぶ「プロジェクトの種」や「こんな社会になったらいいな」「こんなプロジェクトあったらいいのでは」などのアイデアの種を、自由に言語化していく個人ワークの時間がとられた。参加者の方のメモを覗くと、「すべての企業・組織にワーケーションの参加費用全額支給制度」「気楽に夜飲みに行ける。夜モビリティ活用」などインプットから着想されたであろう種が紙面上に蒔かれている。
その後、紙面に書いた自分のテーマと近しい人、ないしは混ぜ合わさったら面白そうなテーマの人と数名で複数のチームを作り、アイディエーションの時間が始まる。自然とインプットのテーマであったワーケーション、モビリティ、フードの3テーマで分かれたうちの、ワーケーションチームに編集部も加わり、議論に参加した。
チームには、長野県庁の方、広告代理店勤務の新卒の方、千曲市のワーケーション参加4回目の方、長野県飯綱町の会社員の方など、産官民から人が集まっていて、この機会でもなければ、なかなか混じり合わないであろうつながりが生まれていた。
まずは、チームでそれぞれが書いた内容を共有し合う。「裏側に誘致が透けて見えるのでなく、自分が面白いと思わないとワーケーションには来ない。地元の人とのつながりや、第二のふるさとのような、なんかわからないけど、頭じゃなくて体が何度も来たくなるような何かが必要」「会社という垣根を超えて、偶発的につながって、活かしあって仕事が生まれたらいいのに」「ワーケーションの定義を見つめ直してはどうか。学びができる機会と捉えれば、学生も子供も誰でもワーケーションしていいはず」など、それぞれが「ワーケーション」に対して感じていることなどが、インプットを踏まえてさらに引き出され、言葉となって共有された。
しかし、そこからなかなか議論が発展しない。どこかまだ見える枠の中で話をしている感覚があった。そう感じていたところで、二度目のインプットタイムが取られた。次のテーマは、「ゼロカーボン」と「ダイバーシティー&インクルージョン」。
学ぶ(ゼロカーボン・ダイバーシティー&インクルージョン)
ゼロカーボンの専門家は、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の早瀬 慶さん。
カーボンニュートラル、ゼロカーボン、COP26など耳にする機会があると思うが、一言で言うと何なのかというと、「このまま進んでしまうと、気候変動っていうものが地球を滅ぼしてしまう」ということ。このまま地球が滅んでしまっては困る。国際社会に目を向けると、意外と知られていないが、投資家や金融機関も気候変動に対応していない企業に対しての格付けを下げると言い始めている。あらゆるステークホルダーが脱炭素変革にむけて急速に動き出している。ベンツを製造販売するダイムラー社も、つい先日エンジンの製造停止を公表した。課題を解決するには、企業だけで考えてもだめ、産官学民が連携して考え実行していく必要があると話があった。
ダイバーシティー&インクルージョンの専門家は、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの小林 奈穂さん。
多様性という言葉で昨今多く語られるのは、性別や国籍、マイノリティなどのこと。もちろんその視点も大事だが、そもそも私たちはみな多様なはず。属性、環境要因、内的要因などが組み合わさって個性が作られている。属性で括らずに、その人個人を見ていくのが多様性なのではないか。多様であるほうが、予測不能な変化への対応力も増すはず。多様な人が、個人として社会などとつながりをもてるという意味で、ワーケーションはいいなと感じる。ワーケーションに参加する人たちの中にも多様性がある、と話があった。
どちらのテーマも、おそらく多くの参加者にとって、言葉は知っているし最近よく耳にはするけれど、普段の生活からは少し遠いところにある事のように思う。しかし、自分にどちらかというと普段から身近で、興味があって考えているテーマ:今回の我々のチームでいうとワーケーションの中に、ある種、非日常のような別の視点が入ってくることでいっきに話が活性化しはじめた。
アイデアを共有し、咲かせる
「ワーケーションって多様性を体感できますよね。自分の会社とか組織の中にいると違いって見えづらいですけど、違う人が集まっているこういう場に来ることで、非日常とか、自分とは違う、異なる人や考え方が入ってきて。一人一人参加者みんなに15分くらい話してもらって学び合いたいくらい」「自分たち組織の中でどうしようって考えてたけど、外に答えはあるのかもなと思いました」「日本の中で異文化交流をしているような感じですね」「学びの機会にもなる」「僕は隣町から今日参加しましたけど、隣町でも全然ワーケーションになります!遠くに行く必要はないのかも。」「いやあ、とにかく楽しいです!この時間が、なんだろう、楽しい!」
多様性という自分事として捉えるのがどこか難しいようなテーマだったものが、目の前に「ある」ということにみんなどこか興奮しているような、そんな空気感があった。
「異文化交流や、学び合い、多様性を体感するような機会としても、ワーケーションが誰でもできる身近なものになったらいいね」
具体的なアイデアの部分よりも、多様な私たちが、多様なまま、多様であることを楽しみ、喜び、その楽しい体験をみんなができる世界を、見たい世界として想像できたことが、何よりの収穫だったように思う。
最後に各チームが考えた内容を共有して、会はお開きとなった。
ワーケーションは進化していく
2年前に信州千曲観光局の担当になった山崎 哲也さんが、ふろしきやの田村さんとともに始めた千曲市でのワーケーション。
「ワーケーションというのがあるらしいけれど、千曲市でもできないかな」「仕事する場所ないけど、電車とか棚田とか、寺とかいまある場所を活用してできないかな」との考えから、トレインワーケーションや寺ワークなど、「旅しながら色んな場所で仕事をしてみませんか?」という提案から千曲市のワーケーションは始まった。
そこに興味をもち、「そのワーケーションにMaaSを組み合わせられないか?」と声をかけ、気づけば運営チームメンバーに加わっていた日本マイクロソフトの清水さん。清水さんからつながって、「ゼロカーボンとワーケーション組み合わせよう!」と声がかかり、参加することになったEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の早瀬さん。
少しずつ、こんな楽しいものがあったらいいな、こんなことに困っていてね、じゃあこれはどう?そんなそれぞれのアイデアや想いをその都度乗せて、千曲市でのワーケーションは今の形に2年という年月をかけながら進化してきた。そして、きっとこれからもまた、多様な人の想いを乗せながら形を変えていくような気がしている。
「ワーケーションは進化している」
そして
「ワーケーションは進化していく」
今回の経験を通して、ワーケーションというものへの見方がまた編集部の中でも一段と変わった。日本という国がいい方向に向かっていくための、いい方向行きの乗り物のようにワーケーションが見えた。これからも、ワーケーションの進化過程から目が離せない。
【参照サイト】長野県 信州リゾートテレワーク
【参照サイト】学び深まる秋の温泉ワーケーション
【参照サイト】長野県千曲市
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