※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。
また、あっという間に1週間が過ぎ去ってしまった。30代になり、時間が経つのはどんどん早くなっていく。毎日だいたい同じ時間に起き、仕事をこなし、業務時間が終わる頃には生産的なことをしたいと考えるエネルギーはすっかり消え去り、YouTubeを見たりモバイルゲームをしたりしながら過ごす。
そんなことをしているうちに、2022年も残り3か月となった。夏までは「あと半年で今年終わるの!?」なんて驚いていたばかりなのに。仕事がある平日は、「今日も最高の日だった」「今日も良かった」といった気持ちで眠りにつくことはほとんどない。あとから振り返ってみると、こんな日々も幸せなのだろうけど、毎日を悔いなく生きるのはやはり難しい気がする。
今回は、そんな筆者が近ごろ最も元気をもらった本を紹介する。ニュージーランドの湖畔で暮らす執筆家・四角大輔さんが10年ぶりに書き下ろしたビジネス書『超ミニマル主義』だ。
モノと情報が溢れている現代で、身の回りをミニマル化して劇的に効率を上げて時短を実現し、楽でシンプルな働き方を手に入れるための教科書だと紹介される本書。これが刺さったのは、まさに著者の四角さんが「30歳」と「40歳」の頃の苦悩を思い出しながら、過去の自分への手紙のように書いた本だったからだ。
「もっと自由に生きたいと思っても、やっぱり人生の大半の時間は仕事が占めているので、まずは仕事を愛せる状態に改善することが大切だと思ったんです。今回は、僕がレコード会社に勤めていたときにヒットを生み出し続けられたサバイバル術や、フリーランスになってからの縛られない働き方について、かなり具体的な技法まで書きました」と四角さん。ノウハウが9割を占めるため、本自体にわりと厚みもある。
IDEAS FOR GOODでは、ニュージーランドから一時帰国中の著者・四角さんのメッセージを伝えながらも、本書から筆者が受け取ったヒントを主観的に抽出して書いていく。記事を読み終えたあなたが、「これならできるかも」というアクションに一つでも出会えたら幸いだ。
生産性を底上げする「超ミニマル主義」の極意
超ミニマル主義を考えるときにキーとなるのが、以下の8か条だ。四角さん自身が毎日のように心がけているアクションから絞って書いたものだという。
- 最も⼤切なことに集中するために、他のすべてを⼿放す
- ⾝軽さ、⾃由度の⾼さ、遊び⼼が、潜在能⼒を最⼤化する
- 最短時間で最⼤効果、最⼩労⼒で最⼤パフォーマンスを
- 仕事を愛し、楽しんで働くことで最⾼のアウトプットを
- 心を軽くするために、体の負担と環境負荷を最⼩化する
- 上質な成果を出し続け、持続的に働くために暮らしを整える
- 時間に極端なメリハリをつけて初めて、⼈⽣は豊かになる
- 仕事は究極の遊びであり、働き⽅は⽣き⽅である
本書では、この独特なミニマリズムを実践する一つの方法として、仕事にかかわる「背負っているモノ・コトのなかで特に重いと感じているもの」を特定し、点数化してみるメソッドが挙げられていた。
たとえば、自分がやる必要のないタスクや、気の進まないクライアントとの人間関係、上司や後輩に嫌われたくないという気持ち、長時間働かなくては目標を達成できない、という思い込み──。それらを一つひとつ特定し、抽象的な感覚ではなく「1〜10の数字」として捉え、「10」に近いものから手放していく。そうやって得たリソースすべてを、本当に大切なことに全投下することで、自分のポテンシャルを最大限に引き出すのだ。
モノやコトを手放すことは、心の負担を軽くすることにつながる。超ミニマル主義の目的は仕事の効率化ではなく、自分を幸せに、持続的に働ける状態にすることだ。業界随一のヒットメーカーから収入1/10への激減までを経験した四角さんは、「登山家」としての自分の経験からこう語った。
「誰かと競い合って『山頂=上』だけを目指すような働き方をしていると、山頂にたどり着いた瞬間、倒れるように燃え尽きてしまう。今の時代に必要なのは、一度山に登って、そのまま山脈を歩き続けるイメージ。小さなアップダウンはあるけれど、高原を気持ち良く前進していく。そうやってサステナブルに働くには、やっぱり心と体の安定が大事です」
「彫刻家」は、手放すときの責任を考える
本書には、「サイフ」や「カバン」、「ウェア」「書類」「名刺」「仕事机」といった物質から、「情報」「データ」「スケジュール」「労働時間」「ストレス」といった非物質までを最小限にする方法が書かれていた。要らないものは、ひたすら手放す手法だ。
ここで少し、立ち止まって考えたいことがあった。それが「ものを手放すことで出る、大量のごみの存在」だ。引っ越しのときなどに多くのものを捨てた人は、目にしたことがあるかもしれない。ごみ袋はパンパンになり、確かにスッキリはするが、なんだか少し罪悪感がある。
ミニマリズムの先駆者といえる四角さんは、どう考えているのだろう。率直に聞いてみた。
「僕の場合、情報やデータといった非物質については、迷わず消去します。でも物質(モノ)の場合は、それが何だとしても、地球の資源を使ってできたものなので『命』です。部屋の中のすべてのモノを、『この子』と呼んで愛しています。
所有している『子=物質(モノ)』を手放す時、リサイクルショップやメルカリで新たな『里親』に送り出したり、可能な限り分解してパーツごとにリサイクルに出しています。一度手にした『子』の命を無駄にしない形で再び循環させるのは、とても難しい。だからこそ、安易にモノを手に入れようとは思わないんです。
新しく何かを買うときは『その子について10分以上語れるか』『その子の面倒を一生見られるか』を基準にして、それをクリアするものだけを迎え入れるようにしています。そうして真剣なモノ選びをしていると、無駄な買い物を一切しなくなるし、気分を高めパフォーマンスを上げてくれる子だけを選ぶようになっていくんです」
四角さんは、自身を「彫刻家」だと形容していた。原木の中に眠る『完成品』を、できる限りありのままに、完璧に削り出すためにはどうすればいいか。そういったマインドで、本書を仕上げていったという。
同時に、今回の本を書くなかで最後まで苦戦したのが「端的かつ美しくするため」の削る作業だったという。仕事で一点に全力を注ぎ、最大限のインパクトを与えるためには、その周辺の無駄を削ぎ落としていくことが欠かせない。しかし何を、どのように手放すのかは自分なりに責任の持てる方法を考えたいところだ。
ストレスなく働くための3つのヒント
本には働くときの時間の区切り方から、仕事環境の整え方まで多くのヒントが書かれているが、ここでは筆者が読んで感銘を受け、すぐに実行したアクションを3つ書いていく。
01. 1日は「夕方」から始まっている
1日の始まりといえば、誰もが朝と答えるだろう。しかし本書では、「前日の夕方どう過ごしたか」と「睡眠の質」がすでに翌日のパフォーマンスを決めていると書かれている。
極端な例だが、18時まで働いたあとに暴飲暴食したり、ゲームで目を酷使したり、頭のなかで過去の発言の反省会をして寝不足になったりしたら翌日の仕事の質が下がることは自明である。
なので、一つ目のヒントは、仕事が終わって夕方2~3時間のあいだに、セルフケアタイムを取り入れよう、というものだ。散歩やヨガ、ジム、映画など、「仕事を完全に忘れられる」ものならなんでも良い(筆者は夕方からゆっくり湯船に浸かった)。こうした日々の癒しのルーティーンが、ストレス軽減にも大きく寄与するという(※1)。
02. 勝手に流れてくる情報に、ハックされない
アンデシュ・ハンセン著の『スマホ脳』という本でも紹介されていたが、私たちの脳は思った以上に「受け取った情報を処理するのにいっぱいいっぱい」である。SNSの「いいね」の通知やメッセージ、メルマガなど、何か特別なことをしなくても多くの情報が流れてくるいま。私たちの集中力は、途切れ続けている。
以前から筆者はSNSの通知をすべて切っていたが、今回の超ミニマル主義に触れたことがきっかけで、仕事用メールに届いていたGoogleアラート(気になるワードに関するニュースを自動で収集してくれるツール)をすべて切った。自分のタイミングでないときに情報が流れてきても、大して読まずに「ごみ箱」行きになっていたためだ。集中できる時間を作り出し、そのときに一気に情報を読むことにした。
03. 「未来の自分との重要アポ」を最優先に
エクスペディアの2022年3月の調査によると、日本の有給休暇取得率は60パーセント。ここ数年で最高だというが、本当は誰しも100パーセント取得したい気持ちはある。しかし仕事が忙しいと忘れてしまったり、休んだことで仕事が増えて、逆に負荷がかかったりすることもあるのではないだろうか。
本書のメソッドの「未来を軽くする」の項目には、何よりも前倒しで確定すべき予定は「自分との重要アポ=休息・休暇・自分の時間」だと書かれている。こうやって未来の楽しみを持つことっで、仕事のモチベーションを維持できるだけでなく、スケジュールに余白が生まれるので、大きなチャンスが舞い込んできたときに即対応できるようになるという。
多くの「自分にしかできない」というタスクは思い込みである、という考えを意識しつつ、筆者も有給休暇を申請し、仕事用カレンダーに嬉々として「休み」と書いた。
自分から湧き出た声に素直に生きること
これまで『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』や『人生やらなくていいリスト』といったベストセラーを執筆してきた四角さん。会社員を辞めて移り住んだニュージーランドでは、湖畔の家で「持続可能なミニマル生活」を送っている。
レコード会社は音楽シーンを牽引し、退社後は新しい生き方の先駆者と呼ばれ、新型コロナのパンデミックを経てますます注目される彼の自由な働き方について、本人が「トレンドを掴もうと考えたことはない」と語っていたことが、印象的だった。
「僕はただ、湧いてきた心の声に従って生きてきただけ。実は、小学校の頃から『生きてて一番気持ちいい瞬間は何か?』と自分に問いかけ続けてきたんです。野球をやっていたので、バットでボールの芯を捉える瞬間とか、釣りをしていて魚がかかった瞬間とか。そういった、心の声が教えてくれる『最高の瞬間』を追求し続ける形で人生をデザインし続け、働き続けてきただけです。
4年がかりで『超ミニマル主義』を書いていて、実は不思議な境地に至ったんです。『心の声』とは僕個人の欲求ではなく、人間なら誰もが求める本質的な喜びだったり、人々が無意識に求めていることが僕を通して聞こえている現象じゃないかと。そしてこの本は、強い意志を持って世に出たがっていて、彫刻のごとく完璧に削り出してほしい、という声がずっと聞こえていたんです」
モノを生き物のように扱ったり、人と同じように「気持ち」を慮ったりするのは、日本人や、各国の先住民の独特な感覚かもしれない。そういった感情を素直に受け止め、「登山家」「彫刻家」「執筆家」としてすぐに実行し続けた結果、四角さんの生き方はいま多くの人に影響を与えている。
本記事で紹介したヒントはあくまで一部であり、人によっては全く違うポイントが響くこともあるだろう。そして筆者自身が取り上げたアクションも、習慣にはならない可能性もある。だからこそ、何度でも読み返したい。
もしあなたが仕事が忙しくて心も体も疲れている状態なら、仕事も心も体も“軽く”する工夫こそが、そこから抜け出すきっかけの一つになるかもしれない。
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。
※1 『世界のエリートがやっている 最高の休息法』久賀谷亮
【参照サイト】『超ミニマル主義』
【参照サイト】Daisuke YOSUMI 四角大輔Official HP
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