地域と街を体験拠点に。4.4万円で全国住み放題プラットフォーム「ADDress(アドレス)」の今とこれから <後編>

ADDress

2019年1月のサービスローンチからコロナ禍を経て、予想外の変化をみせたADDressのサービス。前編ではその現状とコロナ禍による変化について焦点を当てた。後編では、地方自治体との取り組みに加えて、今後ADDressが提供したい価値についても話を伺った。

話し手プロフィール:株式会社アドレス 拠点開発 兼 家守事業部長・後藤 伸啓氏

1983年生まれ。兵庫県西宮市出身。2010年当時勤めていた会社の転勤により東京へ。当時黎明期だったシェアハウスに入居し、住人兼管理人として様々なイベントを企画、運営。その頃シェアハウスの同居人として現在ADDressの代表を務める佐別当隆志氏と出会い、時を経て2019年ADDressへ参画。クラウドファンディングの責任者として累計5000万円以上の資金を集めた後、拠点開発事業部と家守事業部の責任者に就任。1年で100拠点以上の物件立ち上げ、100名以上の家守採用を実施し、全国47都道府県へ物件進出を達成。

ADDressの予約画面イメージ

ADDressの予約画面イメージ

地方自治体や企業との連携で地域課題の解決を

Livhub
最近は自治体からのラブコールも多いと聞いています。そのあたりについてはどうですか?

後藤さん
そうですね。山梨県は全国で空き家率ナンバーワンの県で、住宅の20%以上が空き家と言われています。山梨ではADDressを空き家対策の認定事業者として認めていただきました。

そこでは6社が認定事業者として山梨県から認められ、その認定事業者に空き家を貸し出すオーナーさんには、その空き家の改修費を山梨県が補助率4分の3で上限500万円までを出してくれるという制度を今年度実施します。オーナーさんからその制度への空き家の応募が複数寄せられていてあり、その精査を進めています。

あとはTSUTAYA(ツタヤ)の図書館が有名な佐賀県武雄市の事例もあります。ここで多拠点生活を推進するような補助制度を策定していただき、本事業を活用した家が2021年2月にオープンしました。

そうした形でいろいろな自治体とそのエリアの課題解決のための提携が進んでいます。

Livhub
そのような前例ができればほかの自治体もならってくれる可能性もありますよね。

後藤さん
多拠点生活のサービスなので、移動に関してもいずれは定額で提供したいという思いがあって、交通事業者との提携も結構進んでいて、ANAホールディングスはADDress会員対象に月3万円で往復2回搭乗できる国内航空券の定額制チケットを提供してくれています。

Livhub
それはユーザーにとっては大きいですね。

後藤さん
トヨタレンタカーが神奈川県内のADDress物件利用時に利用できる割引プランのほか、香川県の事業者が1週間11,000円で借りられる車やバイクの「ADDressプラン」を提供してくれています。今後も全国で、交通系との連携を図っていきたいと思っています。

Livhub
住まいのインフラと移動のインフラとの両面を定額で利用できるのは大きいですね。それにより人の移動が促進されて、各地域での「人口のシェア」のようなことが起こる引き金になる予感がします。とてもワクワクしますね。

後藤さん
ありがとうございます。

ADDressのコミュニティが提供する新しい価値

Livhub
そのほか今後ADDressとして目指す方向や展開について伺えますか?

後藤さん
物件のエリアとか場所とか物件数とか、その家のスペックとか、そういうのもすごく大事ではありますが、ADDressはやはりソフト面の価値を感じていただける会員が非常に多い印象があります。なのでコミュニティの部分とか、地域のつながりとか、そういうものを大事にしていきたいです。

鎌倉B邸のキッチン

鎌倉B邸のキッチン

なので多拠点生活という舞台をADDressがつくって、そこで会員や家守(やもり)が理想とするような暮らしができたりとか、交流ができたりというところをより深く目指していきたい。最近会員に実施したアンケートで「ADDressを通じて仲良くなった人がいるか」という問いがありました。

家守(やもり):ADDressの家での生活をサポートするコミュニティマネージャー。家の管理をしながら、会員とコミュニケーションを取り、地域の方や会員同士の交流の架け橋となるADDressには欠かせない存在。
栃木県益子A邸での交流の様子

栃木県益子A邸での交流の様子

そのアンケート結果で、8割以上の人が「仲良くなった人がいる」と回答し、その5割以上の人が「5人以上仲良くなった人がいる」と回答していました。

そういった感じでコミュニティの要素もユーザーから求められているので、全国分散型の共同体をつくり、ADDressの拠点生活を通じてお金や場所ではない新しい豊かさを提供できたらと思っています。

地域とのつながりがより深く感じられるとか、温かくて何度も会いたくなるような家守がいるとか、このエリアでしか感じられないローカルな体験ができるとか、地域と連携してそういう魅力的な物件をどんどん増やしていきたいですね。

Livhub
単に施設を提供するプラットフォームじゃなくて、コミュニティや体験を提供するプラットフォームだということですね。

後藤さん
そこが大事にしていきたいところだし、ほかのサービスとの差別化になる部分だと思っています。

Livhub
すごく素敵な展開ですね。今の話のポイントとしてユーザーのハブになるのが家守だというお話があったんですが、もう一つお聞きしたいのは家守についてです。家守になる方の主な属性や傾向はありますか?

後藤さん
家守も多種多様ですね。学生の家守もいれば、80代の南房総の横山さんという現役のフォトグラファーの家守もいます。そういう名物家守みたいな方も結構たくさん出てきていて、横山さんに会いたいから南房総に足を運ぶという会員もいます。

Livhub
家守のキャラクターもユーザーが訪れる一つの理由になるわけですね。

後藤さん
そうなんです。あとは学生で授業が全部オンラインになり、学校に行かなくてもよくなってしまい、キャンパスで友達も作れないし、どうしようかなと考えて入会する人も多いです。こういう人は会員にも家守にもいるのですが、全国を多拠点生活しながらリモートで授業を受けて、地域で仕事を手伝ったり、お金がなくなったらUber Eats(ウーバーイーツ)などでアルバイトをして稼いだり、またお金がたまったらほかの地域に行くとか、そういう新しいライフスタイルを実践している学生さんもいます。

Livhub
面白いですね。

後藤さん
何か特定の目的があって家守になる方は多いですね。地域に根ざした暮らしがしたいとか、地域との関わりを持ちつつ、東京の仕事もリモートで持っているような。それぞれがユニークで、特定の傾向というのはあまりないかもしれません。

Livhub
なるほど。今少しお話を伺ったところでは、一つの傾向としてつかみにくいですね。ありがとうございました。もし、また次回以降の機会があれば、ADDress内の名物家守の方やADDressのユーザーに焦点を当てたお話を聞かせてください。

後記

多拠点生活やアドレスホッパーなどの新しいライフスタイルを後押しした仕組みの一つであり、そしてコロナ禍以降の新しい生活様式にもフィットするサービスであるADDress。このプラットフォームをベースにしたコミュニティが、今後どのように広がっていくのか、Livhubでも今後注目していきたいと思います。

(Livhub編集部 石塚和人)