6月13日に開催された「賃貸住宅フェア2018 in東京」にて、楽天LIFULL STAY株式会社の太田宗克社長、株式会社百戦錬磨の上山康博社長、HomeAwayの木村奈津子日本支社長の3者によるトークセッションが行われました。メインテーマは「新法施行後の民泊市場」。今後の民泊需要やインバウンドの伸び率等について意見が交わされました。今回は日本国内の民泊キーマン3者による、当日のトーク内容をお届けします。
民泊新法は民泊市場にどのような影響を与えるのか
まず上山氏は「民泊新法は、住宅を使って宿泊(業)して良いですよというのが趣旨で、365日やりたければ『旅館業』でやってくださいというメッセージ」だと新法の解釈を述べました。そのうえで、特区民泊について「住宅をベースに宿泊(業)できるというのは『特区』のわかりやすいところ。都会でもっと特区が広がると、不動産の利回りが上がる」とメリットを説明しました。
これに木村氏は同意し「特区民泊は大阪や大田区だけでなく、ほかに新潟や北九州も特区として広がっているので今後増えることに期待したい」と続けました。さらに上山氏は、民泊新法について「遊休資産の活用と、民泊や農泊の原点に基づいたルールだと思うので、単純に儲けるだけでなく、使ってないのであればそこで収入や仕事を得て、社会の接点を得るということができるのでは」と新法施行を好意的に捉えている様子でした(関連記事:合法民泊予約サイト「STAY JAPAN」運営の百戦錬磨、住宅宿泊事業法(民泊新法)施行に関する見解を発表)。
地方の民泊にインバウンド需要はあるのか
現在、大都市圏に限らず、地方を訪れるインバウンド宿泊者は増加しています。木村氏は、インバウンド宿泊者数の伸び率が首都圏は38%、地方は81%であるとデータとともに、その理由を2つ挙げました。1つは、旅行者の6割がリピーターであること。多くの旅行者は、1度目の旅行は有名な観光地や都市に赴くものの、2度目以降は日本ならではの自然や文化を求めて地方都市を訪れます。
もう1つは、LCCを含め、地方部に行く飛行機がアジアに多いこと。木村氏はなかでも、福岡は135%と群を抜いて高い成長率であり、次いで、沖縄、北海道は90%台だと話しました。福岡には香港や東アジアからの飛行機が多く就航しており、福岡はそれらの土地から近くて安く行ける場所です。これは、日本人が週末に韓国へ行く感覚に近いと話していました。
また、太田氏は、楽天LIFULL STAYが福井県鯖江市や岩手県釜石市と協定を結び行っている取り組みをとおして、地方の人々が民泊の運営に関心が高いことを実感し、「地域ぐるみで広く『面』を作っていきたい。外国人は日本の自然に興味があるので、これもコンテンツになり得るが、受け皿がない。面で捉えていくことで、コンテンツ自体の魅力が上がり、人も集まる」と、同社の今後の展開への意欲を示しました。
二毛作民泊、短期貸しの民泊はなぜ推奨されているのか
マンスリーと民泊による「二毛作民泊」について、太田氏は「マンスリーのいい事業者でも2割、3割は埋まらない。かといって、民泊で1か月以上は埋められない」ことから、楽天LIFULL STAYでは民泊サイトとマンスリーサイトをシステム連携し、例えば2週間空いた場合にシームレスに運営を変更し、空室を埋めていると話しました。
続いて、新法施行後の日本人客のニーズについて話題がうつりました。木村氏は、日本人には休暇中の地方の別荘レンタルをはじめとする「プレミアム民泊」が人気だと話しました。民泊新法の営業は年間180日までと定められていますが、長期休みや夏祭りなどのイベントに合わせて営業する方法もあり、これについて木村氏は「家賃は変えづらいが、宿泊料金は万単位で変わる。普段は1万円だけど、お祭りシーズンは6万から10万円で貸しだせる例もある」と話しました。
宿泊施設の価格設定のコツとは
ホストが価格設定する際のコツとして、太田氏は「データが重要なので、一番は運用代行に任せること。我々の場合は楽天トラベルの約15年のデータがある。個人で行うとしたら、宿泊サイトの他の物件をよく見ること。ただ価格調整は需要予測であるため、データがないと難しい」と話しました。
次に上山氏は「一般公開している観光用のプラットフォームで、どの地方にどれだけの人が訪れたか、その際の宿泊単価などのデータを見る。そういうのを参考にすると大体の目安がわかる」と独自に情報収集する方法を提示しました。そして木村氏は「自分の物件に近い物件をデイリーで見ていくこと。民泊とホテルの価格変動は近いので、HomeAwayでは、Expediaのホテルの需給バランスを見て民泊の価格を決める」と話しました。
今後のインバウンドと民泊需要について
AirbnbとBooking.comが新法施行直前に、未届け物件の一斉削除を行い話題となりました。宿泊先を失ったユーザーもいたことから、一部では「Airbnbショック」と呼ばれています。
これについて上山氏は「新法によってヤミ民泊が退場するということは、その分、需要がたくさんあるということ。合法で供給すれば一定の経済になる。特にプラットフォーマーよりは宿泊施設オーナーにとっては上げ潮もいいところ。前年対比が二桁単位で成長している分野は民泊のほかにない。国策として(民泊推進が)絶対に変わることはない」と力説し、「今の機会を活かすほかない」と民泊オーナーへ呼びかけました。
この意見に太田氏は同意したうえで、今後のインバウンドがもたらす可能性について言及しました。「2020年のオリンピックがピークではなく、インバウンドはこれからずっと伸びる。理由はビザの緩和。台湾、中国、韓国、香港をメインとするアジア諸国で、1人あたりのGDPが伸びている。訪日外国人の多くは中国人だが、中国の全人口の0.3%しか来ていない。この先1%になるだけで3倍になるポテンシャルがある」と話しました。
そして上山氏は補足として「ビザ緩和に加え、日本の施策は、距離が遠いといわれる欧米の人に来てもらうこと。世界旅行者13億人のうち約半分弱はヨーロッパ人だが、日本に来てるのは数%。既存の市場がすでにあるので、これからますます増える」と話しました。
ラグビーワールドカップ2019へ向けて
現在、インバウンド施策の中心としてもっとも注目されているのは、来年日本で開催される「ラグビーワールドカップ2019」です。開催地は、北海道札幌市、岩手県釜石市、埼玉県熊谷市、東京都、神奈川県横浜市、静岡県、愛知県豊田市、大阪府東大阪市、兵庫県神戸市、福岡県福岡市、熊本県熊本市、大分県の12か所です。インバウンドが多く訪れることが見込まれるため、日本の国策としてもラグビーワールドカップへ向けた取り組みが行われています。
上山氏は「ラグビーで40万人のヨーロッパ人とオセアニア人の訪日が見込まれる。かつ、開催地は地方。ラグビーは試合の間が1週間ほどあくので、そこを民泊や農泊、バケーションレンタルにあてることができる。フランスやドイツなど、民泊や農泊、バケーションレンタルが当たり前の人たちが日本に来る。ヨーロッパとはあまりに違う文化や日常が体験でき、十分価値がある。1泊で帰る人はいないから連泊になる、だからこういったレジデンスを活用する。来年は重要な年になる可能性が高い」と見解を述べました。
続いて木村氏は、欧米企業であるHomeAwayでも取り組みが進んでいることを話し「オーストラリア、ニュージーランドはラグビーが非常に強いので、弊社でプロモーション等の話しもしている。欧米のニーズを調査すると、文化や自然、歴史に対する興味が強い。そのため地方の豊かな自然や文化資産が多いところは欧米の方々のニーズにヒットするのでは」と話しました。
まとめ
民泊新法施行2日前に開催された今回のトークセッションでは、楽天LIFULL STAYが二毛作民泊、百戦錬磨が農泊、HomeAwayがバケーションレンタルと、各社それぞれの強みを活かした民泊事業への意欲的な姿勢を実感できました。新法施行直後の今は、民泊市場の大きな転換点であるとともに、本来あるべき健全な民泊に原点回帰するタイミングだといえます。
6月15日に開催された「住宅宿泊事業法施行を祝う会」では全国の自治体へルール緩和を訴えるとともに今後の民泊の可能性について話す場面があり、また、観光庁が公表した「観光白書」においてもインバウンド施策としての民泊や農泊が掲げられており、これらは観光業における重要課題と位置付けられています。現状、事業者にとって民泊運営は簡単でありませんが、これから合法民泊が広がることで、地域の理解を得やすい、運営しやすい市場に転換していくことも考えられます。民泊をはじめとする宿泊施設がどのように展開し、各企業がインバウンド市場に対してどのような施策を講じていくか、今後も目が離せません。
※文中の各データおよび数値はトーク内容に基づいて掲載しています。
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(Livhub編集部)
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