「寝つけない、起きれない」
「眠っても疲れが取れない」
「睡眠時間は十分なはずなのに……」
身に覚えのある方も多いのではないでしょうか?
睡眠関連疾患用の医療機器を製造販売するレスメド株式会社が2024年に行った睡眠に関する調査によれば、「毎日熟睡できている」と回答したのは世界でたった13%。
日本人にいたっては「睡眠の質に満足していないと回答した割合」「平均睡眠時間」「1週間あたりの睡眠不足日数」ともに世界ワースト1位であったことが明らかになっています。
ストレスや生活習慣の乱れからくる睡眠障害を訴える方が増えている現代において、「睡眠の質向上」は避けては通れない重要な課題。
AI技術を駆使して睡眠改善をはかるスリープテック市場が盛り上がりを見せるなか、この難題を“旅”で解決する新たな形として注目されているのが「スリープツーリズム」です。
「ウェルネスツーリズム」や「ヘルスツーリズム」といった“健康×旅”の形が定着しつつある今、新たなトレンドとなっている「スリープツーリズム」とは、いったいどのような旅なのでしょうか?
スリープツーリズムとは
スリープツーリズムとは「睡眠のための旅」のこと。
良質な睡眠を得るための室内環境や、睡眠導入を促す適度な運動プログラム、ストレスから心身を開放し心地よく眠りにつくためのアクティビティなどを含む旅行プランを指します。
スリープツーリズムが注目されはじめたのは2022年頃。
「パークハイアット」をはじめとする欧米の人気ホテルグループが、睡眠に特化した部屋や宿泊プランを提供するようになったのをきっかけに、新たな旅の形として世界中で認知されるようになりました。
世界最大級の宿泊予約サイト「Booking.com」が、33の国と地域、計2万7,000名以上の旅行者を対象に行った「2024年の旅行に関する調査」では、注目すべき旅の形の一つとして、スリープツーリズムを含む「よりよい明日へとつながる旅」が選出されています。
さらに、同調査では「2024年は深い眠りを得ることを目的とした旅をしたい」と回答した世界の旅行者が58%、日本の旅行者では51%となっており、“眠り×旅”への期待値の高まりがうかがえます。
スリープツーリズムの効果
疲労回復や体内時計正常化、免疫機能向上など、人間が生きていくうえで重要な役割を果たしてくれる毎日の睡眠。睡眠に特化した旅「スリープツーリズム」では、良質な睡眠による身体的な変化以外にも、以下をはじめとするさまざまな効果が得られるとされています。
- ストレス解消・心身のリフレッシュ
- 仕事のパフォーマンス向上
- 睡眠障害・睡眠関連疾患の発見
- 理想的な睡眠環境の再認識
- 美肌・美髪・体質改善
そしてなにより、忙しく過ぎていく日常と切り離された旅時間のなかで、睡眠の重要性を再確認できることが、スリープツーリズム最大のメリット。極上の時間を味わわせてくれるだけでなく、睡眠改善を通して日常を変えるきっかけを与えてくれるのです。
さまざまなアプローチによるスリープツーリズム
良質な睡眠を求める人々が増加し続けている今、各宿泊施設や旅行会社によって、さまざまなアプローチによるスリープツーリズムが展開されています。
【プラン一例】
- 室温や照明、香り、寝具にこだわった客室
- 疲労緩和や睡眠改善に効果的な食材を取り入れた食事
- リラクゼーション効果の高いエクササイズ
- AIによる睡眠データ解析
ぐっすり眠ることを目的とするなら「睡眠環境に特化したプラン」体質改善とあわせて睡眠を見直すなら「食事にこだわったプラン」眠りを科学的視点でのぞくなら「データ解析付きプラン」など、自身の悩みや課題にあったプランを選ぶことで、日々の睡眠を理想的な形に近づけるための最短ルートを見つけられるはずです。
【国内事例3選】日本で広がるスリープツーリズム
欧米で生まれた「スリープツーリズム」は日本にも着実に浸透しており、睡眠に特化したプランを提供する宿泊施設や、スリープツーリズムを想定した商品開発に取り組む企業が増えています。
ここでは、3つの国内事例から、スリープツーリズムの魅力に迫ります。
【東京都文京区】美しい日本庭園に囲まれた都会のオアシスで体験する「Sleep well ステイ」
広大な日本庭園を有し「都会のオアシス」とも称される「ホテル椿山荘東京」で体験できるのは、客室でゆったり過ごしながら自分の睡眠の質を知ることができる「Sleep well ステイ」。
脳波測定デバイスを使用して、宿泊前の自宅と宿泊中のホテルでの睡眠脳波を計測・解析することで、「深い眠りの割合」「途中で目が覚めていた時間の割合」「眠るまでにかかった時間」といった自身の睡眠データを取得できます。
さらに、医師からのアドバイスを受けられるため、一時的な快眠だけでなく、この滞在をきっかけに長期的に良質な睡眠が得られる可能性も。医学的側面からのアプローチで本格的な睡眠の質改善をはかりたい方に最適なプランといえるでしょう。
【愛知県幸田町】山の中にひっそり佇む離れ宿で過ごす「スリープツーリズムプラン」
桜や紫陽花の名所を有する自然豊かな街・愛知県幸田町にある「風の谷の庵」は、森の隠れ家を思わせる知る人ぞ知る癒しの宿。
静かなプライベート時間を味わえる全室露天風呂付きの離れ客室が魅力のこちらの施設では、快眠を目的とする「スリープツーリズムプラン」を提供しています。
エアウィーヴのマットレス、自分に合った枕のチョイス、快眠効果があるとされる素材を取り入れた夕食など、とことん睡眠にこだわった滞在が叶うこちらのプラン。
自分のペースでゆったり過ごすのもよいですが、宿から提案される“睡眠の質向上につながる食後から就寝前までの入浴法”や“快眠に最適な滞在スケジュール”に従って過ごすのもおすすめです。
館内には、ミネラルを多分に含んだ薬宝玉石の上でヒーリングとデトックスを楽しめる岩盤浴や、著名な作家によるアートを眺めながら心穏やかに過ごせるギャラリーも。
ときがゆったりと流れる田舎の癒し宿で、理想の眠りに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
【静岡県静岡市】茶と睡眠のブランドによる「睡眠体験&宿泊事業者向け睡眠関連商品」
国産茶生産量第1位の静岡で食品の製造販売や飲食店経営を行う「株式会社kobachi」では、茶産業×睡眠で業界を盛り上げることをミッションに、アロマ効果を期待できるお茶のうまみ成分「テアニン」にフォーカスした茶と睡眠のブランド「téleep (テリープ)」を展開。
茶畑で眠るスリープツーリズムの企画・運営や、夕食後に食べる睡眠サポートアイスクリームの開発などを手がけています。
2024年3月に、地元団体と共同で実験的に行われたスリープツーリズムプログラムでは、茶御膳ランチや茶畑でのお昼寝、睡眠を深掘りするワークショップを含む「睡眠と茶を体感する7つの体験」を実施。
2024年7月からは、上級睡眠健康指導士によるスリープルーム監修や、宿泊型プランの実証実験も予定されています。
tea(お茶)とsleep(睡眠)を掛け合わせた「téleep」の挑戦は始まったばかり。
お茶の魅力が詰まった極上の睡眠体験に期待が膨らみます。
「スリープツーリズム」で叶える睡眠改善と健康増進
活動時間にフォーカスしがちな忙しい現代人にとって、日常のなかで睡眠の質を意識することは、決して容易ではありません。
「スリープツーリズム」は、そんな私たちが睡眠の真価を再確認し、睡眠改善による健康的な生活に目を向けるきっかけを与えてくれる旅。
「眠るために旅をする」
これが当たり前の未来は、それほど遠くないのかもしれません。
【参照サイト】ホテル椿山荘東京公式HP
【参照サイト】風の谷の庵公式HP
【参照サイト】株式会社kobachi公式HP
【参照サイト】Forbes Japan「疲れた旅行者のための「スリープ・ツーリズム」、米国で人気上昇中」
【参照サイト】日本経済新聞「スリープツーリズム」上陸 睡眠に商機、世界市場96兆円」
【参照サイト】Vivid Creations「世界では「スリープツーリズム」が一大ブーム!独自調査事例【10選】」
【参照サイト】レスメド株式会社「3月15日は「世界睡眠デー」 ResMed(レスメド)「レスメド 世界睡眠調査2024」を発表 」
【参照サイト】PR TIMES「ブッキング・ドットコム、2024年の7つの旅行トレンド予測を発表」
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古川友理
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