民泊新法が可決され、ますます盛り上がりを見せている日本の民泊市場において、今後のマーケットの鍵を握るキーパーソンにお話をお伺いするインタビュー特集「民泊キーパーソン」。記念すべき第一回は、公認民泊だけを手がける民泊プラットフォーマーの先駆けとして有名な「STAY JAPAN」を運営する株式会社百戦錬磨の代表、上山康博氏にお話をお伺いしました。2012年の会社設立以降、一貫して民泊事業に取り組んできた同氏が、現在の違法なヤミ民泊の世界や新法施行後の民泊市場、今後の事業についてどのような見通しを持っているのか、詳しく教えていただきました。
2007年8月までKLab株式会社取締役事業本部長を経て、2007年9月、楽天トラベル株式会社執行役員(新規事業担当)就任。2012年同社を退職後 2012年6月株式会社百戦錬磨を設立、同社代表取締役社長に就任。首都大学東京 非常勤講師、内閣官房 歴史的資源を活用した観光まちづくり専門家会議 構成員、日本インバウンド連合会(JIF)幹事長を兼任。
インタビュー
事業について
Q:最初に、百戦錬磨について簡単に教えてください。
弊社では、「STAY JAPAN」という特区民泊や簡易宿所などの公認民泊だけを扱っている民泊仲介プラットフォームを運営しています。また、プラットフォームを通じた民泊物件への集客だけではなく物件自体の運営や受託などのプロパティマネジメントも行っています。部屋売りだけではなくプラン化もしており、さらにウェブサイトだけではなくオフライン経由での集客もしているので、イメージとしてはホテル・旅館以外の物件を取り扱う旅行会社の全ての機能を持っているという感じです。あくまで合法民泊にこだわり、民泊に関わる上流から下流まで全てを垂直統合的に手がけています。
Q:合法のみとのことですが、物件数は順調に増えていますか?
順調に増えています。現在は特区民泊と簡易宿所の両方の物件を扱っていますが、弊社では特に特区民泊については思い入れを持ってやってきました。現在大阪では特区民泊の申請が想定以上に増えており、許可待ちの状態とも聞いています。また、民泊新法が施行されれば物件数はますます増えると考えています。Q:物件の運営はどのような形でされているのでしょうか?
運営代行という形もありますが、現時点では賃貸借方式のほうが多いですね。やはり一定のリスクをとらなければ商売にならないということもありますので。物件を借り受けるときのコストも自社で受け持っています。ただし、冒頭でお伝えした通り我々の本業はあくまでプラットフォーマーであり、民泊仲介事業者です。民泊新法以降、仲介事業者としてのポジションをさらに強化、確立していくことを考えると、現段階から自ら住宅宿泊事業者や住宅管理事業者もやっておこうというのが我々の考えです。そのため、未来永劫自社としてのプロパティマネジメントを増やしていくことはありませんが、ある一定のところまではやろうと考えています。民泊新法について
Q:民泊新法について、貴社のお考えをお聞かせください。
現在の民泊はほとんどが違法な「ヤミ民泊」ですが、このヤミ民泊を扱っている民泊プラットフォーマーや住宅宿泊管理業者が登録制となることがヤミ民泊を淘汰させる大事なポイントだと考えています。施行タイミングは来年の1月か4月なのかいつなのかはまだ未確定ですが、大体の方向性についてはガイドラインも含めて年内には示されると思いますので、そのタイミングでどうなるかが分かるのではないでしょうか。
私の考えとしては、民泊仲介サイトがヤミ民泊を掲載している状態のまま民泊仲介事業者としての登録申請をすることを国は認めてはいけないと考えています。民泊仲介事業者として登録をする以上は、まずヤミ民泊物件の掲載を全て抹消し、綺麗な身になってから登録申請をする。そしてそれ以降は合法な物件しか掲載しないというのが筋だと思います。国は何としてでもそれをやらなければいけないでしょう。
ルールを守るぶんには、皆どんどんと民泊をすればよいと思います。ルールに基づく競争によって供給の質が上がり、お客様が喜び、地域がよくなっていけばよい。民泊の一番の問題は、一言で言えば「近所迷惑」です。この近所迷惑という外部不経済をどのようにクリアするかは民泊事業者の社会的ミッションであり、そこまでやらなければ企業としての社会的存在意義はないと考えています。儲かるからといって違法でも何でもよいというものではありません。
弊社としては、民泊新法後にやるべきことはたくさんあります。新法が施行されればフェアな民泊市場がようやく構築されます。あくまで合法にこだわり5年間にわたって取り組んできた成果が大きく実るとよいなと考えています。また、すでに東京都大田区や大阪府などで行われている特区民泊は365日営業できますので新法とは全く違う経済的視点で事業が行えます。特区民泊での実績は当社がナンバーワンと考えていますのでぜひ事業者の方と協業したいです。
Q:全国で新しいホテルの建設が進んでいるなか、新法で民泊が合法化されたとしても、売上の確保は難しいのではという見方もあります。
大前提として、現在約50,000件あるヤミ民泊をゼロにするということが大事です。そうすれば、現在ヤミ民泊が稼いでいると思われる1兆円というマーケットが顕在化します。そのマーケットを既存のホテル・旅館はもちろんですが、特区民泊や簡易宿所、新法民泊といった合法的な民泊でどう分け合っていくかが重要です。ヤミ民泊がゼロになれば、ホテルの建設が進んだとしてもまだまだ宿泊施設の供給は足りません。その市場を皆がルールに沿ってコツコツと開拓していけばよいのではないでしょうか。そこで勝つのは、シンプルにお客様が支持してくれる個人や企業だと思います。そしてしっかりと納税をすればよいのです。Q:ヤミ民泊の時代は終わりということですね。
はい、ヤミ民泊のバブルは終わります。ここからはまっとうな市場の話にシフトする。その意味では、民泊だけに限らず日本の「宿泊」の形がどのように変わっていくのか、これまで主にホテルと旅館しかなかった宿泊の市場どうなっていくのか、それを真剣に考えるスタートの年となるでしょう。新法が施行されればよりバラエティに富んだ魅力的な宿泊手段が提供される可能性が高くなりますので、ホテル、旅館はこれまで以上に本質的な意味で頑張らないといけなくなるかもしれませんが、ユーザーにとってはよい選択肢が増えるわけですから、宿泊市場全体で見ればよい方向に進むと思います。Q:新法施行後、都心部と地方部ではどのような動きが起こるとお考えですか?
まず、民泊新法のルールを真っ当にやっていくと、一般的に考えてより増えていくのは「家主滞在型」の民泊だと思います。年間180日という制限を考えると、「家主不在型」の民泊事業として成り立たせるのは難しいと思いますので。となると、今まで都心部を中心に違法に行われていた不在型ヤミ民泊の時代は終わり、都心部で出てくる物件は第一種住居地域の空き家などになるでしょう。 また、新法施行後に物件が増えるのは、地方ではないかと思います。そもそも日本における「民泊」とは農泊のことで、グリーンツーリズムの世界では30年以上にわたって「民泊」が行われていました。新法が施行されれば、ヤミ民泊によって悪化した「民泊」のイメージがふたたび本来のほのぼのとした草や土の香りが感じられる「民泊」という言葉に戻っていくのではないでしょうか。この動きは「地方創生」や「インバウンドを地方へ」という国の指針にも沿ったものです。そういうこともあり、当社では以前から農泊をやってきました。Q:そうはいっても地方民泊はまだまだ厳しいという声も聞きます。地方民泊を推進するうえでのネックは何でしょうか?
一番のネックは、皆が儲からないと思っていることではないでしょうか。しかし、そもそも地方では元から旅館の稼働率は3割程度、よくても5割程度です。都心部でヤミ民泊が流行したのは稼働率が7、8割まで行ったからですが、「地方が儲からない」というのはヤミ民泊の発想で考えているからであって、地方ではもともとそれほど稼働率はないのです。しかし、地方には未活用の空き家などがたくさんあるわけですから、それであればたとえ3割の稼働率だとしても、十分にやる価値はあると思います。Q:具体的に成長性を注目しているエリアはありますか?
大前提としては、地方部でかつ宿泊施設が少ないところです。また、現在は国と民間が協働して全国の空き家情報を一元化する取り組みも始まっており、空き家情報を宿泊にマッチングさせる仕組みができていくと思います。空き家情報を横断的にプロットすれば見えてくることがあるのではないでしょうか。また、昨今はビッグデータの活用もできます。今ではどの国の人がどの地域で何泊するかなどがデータで分かる観光予報プラットフォームがあり、当社も以前から支援をしてきました。観光予報プラットフォームの需要予測と、空き家データベースという供給データとを掛け算することで、より可能性がある地方が分かります。新法施行後の事業戦略について
Q:新法施行後、OTAも民泊物件を取り扱うようになる。また、民泊プラットフォーマーも旅館の掲載をスタートしている。民泊プラットフォームと既存OTAとの差がなくなっていくなかで、どのような戦略を描いていますか?
弊社としては「オルタナティブロッジング」という考え方を持っており、今までのホテルや旅館とは少し異なるスタイルの宿泊体験を提供したいと考えています。「STAY JAPAN」は宿泊全体の中におけるセレクトショップという立ち位置です。また、プラットフォーマーとしては今既にある需要に対して利便性を取り計らうだけではなく、新たな需要を作っていきたいと考えています。「これなら泊まりたい」という面白い物件を自ら作っていくつもりです。Q:セレクトショップとのことですが、既存のOTAと差別化するポイントは?
弊社も仕組みとしてはOTAです。OTAの事業のポイントは、たくさんの在庫を持っており、それがバリエーションに富んでいるということです。それを効率的にマッチングしていくのがOTAですので、そういう意味では大きく言えば何でもありとなるのですが、弊社では、例えばSTAY JAPANのファーストページやセカンドページで自分たちの意思で押し出す物件があってもよいのではないかと思っています。OTAとしては完全にオープンにすべきという議論もありますが、自社の特徴を出すためには、自社で編集をし、ユーザーが求めるところにいかに近づけるかが一番大事だと考えています。
また、既存のOTAとの違いとしては、先ほど述べたように面白い物件は自分たちで作るという点です。今既にある物件をエージェンシーとして掲載するだけでもよいのですが、OTAとして勝つためには面白い物件をどれだけ持てるかが重要です。しかし、現状ではその基準を満たす物件があまりありませんので、ないなら自分たちで作ろうという発想です。よく言われることではありますが、たとえばグーグルが本気でOTAの役割を担おうとすれば、全世界のOTAは途端に立ちいかなくなるでしょう。彼らには市場の総取りができるので、いつOTAが死滅するかも分かりません。弊社もSTAY JAPANというOTAをやっていますが、その世界観を考えれば、効率化を重視した空中戦を突き詰めるだけでは生きていけません。しかしながら、自ら面白いモノを作るという地上戦は効率が悪いので、インターネットの世界の人々はあまりやろうとしませんが、OTAとしての効率化の果てにはグーグルがいるということを考えれば、生き残るためにあえてその地上戦に取り組んだほうが、今からの時代はよいという気がしています。
Q:インバウンドゲストだけではなく、国内のゲストも狙っていきますか?
先ほども述べた通り、そもそも「民泊」という言葉は日本人向けのグリーンツーリズムのことを指していました。30年ぐらい前から地域の人々が教育旅行として若い人々の民泊を受け入れて、楽しくやっていたのです。しかし、今では受け入れ先の人々も高齢化しており、かつてあった昔ながらの民泊は後継者不足危機に瀕しています。これをもう少し現代版にリニューアルすることで、日本ならではの需要を創り出せると考えています。
現状の課題はそうした地方の民泊はスケールしないと皆が考えていることですが、そこにしっかりと利益が出る仕組みを持ち込んでいけば、地方部で民泊を担う若い人たちも増えていき、結果として海外の人も受け入れる土壌ができていく流れになるのではないでしょうか。
Q:オリンピックイヤーである2020年以降の見通しは?
2020年についてはよく話題に上がりますが、市場の伸びとはあまり関係がありません。ヤミ民泊が消えるという前提で考えれば、合法的な民泊物件は急速には増えないと思いますので、日本中でホテルは増えているとしても現状が過剰な増え方だとは捉えていません。2020年五輪はあくまでイベントの話であり、世界から一時的に注目された後にそこからどのように観光需要を上げていくかが観光政策です。普通に考えれば2020年以降もさらに伸びていくでしょう。特に、現在では訪日外国人が2,400万人になりましたが、その多くがVISAの緩和によって来ていただいたアジア圏の方々です。世界最大の観光市場であるヨーロッパの人々はまだあまり日本に来ていません。ヨーロッパの人々が来る可能性があるとすれば、2019年のラグビーワールドカップでしょう。ラグビーはヨーロッパ発祥のスポーツですから。そのタイミングで大事なのは、ヨーロッパ型のバケーションレンタル的な民泊を提供することです。ヨーロッパから来る観光客は、交通費もかけていますので一泊では帰りません。また、お金をかけてやってきたぶん安いところにも泊まらないでしょう。そう考えると、どちらかといえばラグジュアリーな物件がよいとは思いますが、彼らは日本の文化や日本らしい価値観に評価をしてくれますので、その受け皿として日本の地方には期待したいところです。民泊ホストに向けたメッセージ
Q:新法施行後、民泊ホストとして成功する上で大事なことは?
自身が住宅宿泊事業者として民泊に取り組むうえで一番大事なことは、最初に「誰を相手にするのか」というターゲットを明確に決めることです。「この言語が得意だから」という理由でも、趣味でもいいでしょう。まずはどのようなゲストを招きたいのかを考えます。ターゲットさえ決めれば、次はその人たちに何を提供すれば快適なのかを考えることができます。家主不在型、滞在型に限らず、ターゲットをできる限り具体的にすることが大事です。
また、日本の地方に行くと、どこに行っても「ご飯が美味しい」「空気が綺麗」といった謳い文句を聞きますが、それではどこも同じで差別化ができませんので、その点を伝えても意味がありません。「こんな人は来てもつまらない」「これをしたいなら来ないほうがいい」というデメリットも伝えつつ、「こういう人にはとてもよい」というより「とんがった」表現をすることが重要です。これはターゲットさえ明確であれば自然とできることです。そちらのほうが、ゲストの視点から考えた際にその場所を選ぼうという気持ちが起こるものです。
Q:STAY JAPANはどのように活用できますか?
弊社は日本の会社ですので、日本の諸事情に最も精通したプラットフォーマーであることは間違いありません。例えば保険もそうですし、民泊ホストとしてゲストをもてなす際の一番の問題は言葉の壁ですが、弊社ではそこもしっかりとケアをします。また、JALやANA、JRといった日本の交通プラットフォーマーとも全て連携をしている点もメリットになると思います。これは他社でもできていない取り組みです。現在、JALおよびANAとは航空券を選ぶ際に当社の物件も選んでパッケージ商品にできる「ダイナミックパッケージ」を実現しています。また、JRでも、JRレイルパスと弊社の物件を連携して販売をしています。このような交通プラットフォーマーとの連携はユーザーにとってもよい流れですし、将来的には海外の航空会社との連携もしていく予定です。さらに、今後は地方の観光・旅行系団体とも多く提携をしていく予定で、弊社ならではの地上戦でより多くのゲストを皆様の物件に集客する仕組みを構築していくつもりです。
Q:最後に、ホストの方々にメッセージを頂けますでしょうか?
民泊新法が施行されれば、いよいよ民泊の市場が日の目を見ることになります。ヤミ民泊がなくなれば良い意味で物件の供給バランスは崩れますので、合法民泊には大きく利益を出すチャンスが訪れるはずです。違法な民泊をしていた方はこれまでのやり方を改めて、ルールに基づいた民泊をぜひ弊社と一緒にやりましょう。合法な民泊は、地域の方に感謝してもらえ、地域の人々と一緒にビジネスをすることができますので、これまでとは違ったやりがいも生まれます。ぜひ皆さんと一緒にゲストが喜ぶよい滞在を提供していきたいと考えています。Q:ありがとうございました。
ありがとうございました。インタビュー後記
今回は百戦錬磨の代表を務める上山康博氏にお話をお伺いしました。これまで一貫して公認民泊にこだわり事業を展開してきた上山氏のお話からは、民泊新法の施行が日本のこれからの民泊市場にとって大きな転換点となることを改めて強く認識させられました。
民泊市場が健全な形で発展するためには、市場が生み出す外部不経済を事業者が責任を持って解決することが重要であり、そのためにはルールを守ることが大前提という同氏の話は、当たり前の話ではありますが非常に大事な点だと感じます。
また、同じルール下の戦いであれば、旅館もホテルも民泊も関係なく、最後に勝つのは利用者を喜ばせ、評価をしてもらえた個人や企業だという話にも説得力がありました。民泊事業者として重視すべき点は、突き詰めれば規制の強化という形で自らの首を絞めることにならないよう「ルールをしっかりと守ること」、そしてそのルールの中で「顧客満足度を最大化するための努力を行うこと」、この2つに集約されるのだと思います。
遅くとも来年の6月までには民泊新法が施行されますので、来年は本当の意味で日本の民泊元年となります。来たる元年に向けてどのように事業を創り上げていくべきか、上山氏のお話が改めて今後の戦略や取り組みを考えるきっかけになれば幸いです。
百戦錬磨の概要
会社名 | 株式会社百戦錬磨 |
所在地 |
仙台オフィス:宮城県仙台市青葉区本町2-17-17 田畑ビル3F 東京オフィス:東京都千代田区外神田2-18-20 ナカウラ第5ビル 3F 大阪オフィス:大阪府大阪市西区靭本町2-4-6 プレジール靭公園内 SJ OSAKA CENTRAL303 |
サービス名 | STAY JAPAN |
サービス内容 | 民泊プラットフォーム |
URL | http://www.hyakuren.org/ |
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